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第二章 マルチ商法の巣窟、新橋
第十一話 済、意識高い系に激怒
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話がつまらない上に飲みではなく食事に誘ってくるため、済はタケシと二人で会うのを避けていた。が一方、パーティー自体は楽しかったため、その後も毎月二、三回ペースで足を運ぶことになった。
会場は多くがニューブリッジだったが、それ以外のレンタルスペースで行われることもあった。一度などは、主催の知り合いが作ったカレーを食べる会という謎の会もあった。値段は普段と変わらず、何故素人の作ったカレーにそこまで金を出さないといけないか理解できなかったが、あまりガメついと思われても面倒なので黙っておいた。他にも、タケシがやけにニューブリッジの店員と親しかったり、ユウスケさんもタケシも店員も皆八丁堀に住んでいたりと、気になる点はあったが、多少の違和感があっても、実害がないうちはあまり気にしないのが済の性分だった。
また、タケシから「大富豪パパと大貧民パパ」を勧められたこともあった。だが中学生の頃自己啓発本にハマり、それからも定期的に本屋の自己啓発棚をチェックしていた済は既に読んだことがあり、
「知ってるよ。十八歳か十九歳の頃に読んだ。ESBIクワドラントだろ?」
と答えたところ、
「えっ、そんな早くに読んでんだ……。」
と驚かれた。ESBIクワドラントとは、従業員をE、自営業者をS、経営者をB、投資家をIとして一枚にまとめた図である。
「大富豪パパと大貧民パパ」では、自分で働く必要があるEとSの世界から、他人に働いてもらうBとIを目指すことが良いと説かれる。これは考え方として間違っているわけではないが、起業と投資に伴うリスクの話がほとんどなされておらず、また従業員や自営業者を下手に見る考え方に繋がりがちなので、済はあまり好きではなかった。済は公平や平等を重んずる価値観の持ち主なのだ。
師匠のユウスケさんとは何度か話し、都市伝説や西京大学で行われている研究についての話で盛り上がった。ただ、他愛もない話では盛り上がれたが、飲食店以外でユウスケさんがやっているビジネスについてはまたそのうち、などといって誤魔化された。これは他の人も同じで、年収一千万以上を稼いでいるという自営業者たちに何をやっているか話を聞いてみても、マーケティング、営業などといったあいまいな説明しかしてもらえなかったのだった。気になってタケルに聞いてみても「本人に聞いてみて!」とだけ言われるだけで、この部分についてはいつもはぐらかされた。
新橋に通うようになってから三ヶ月ほどが経ち、年が明けてしばらく経ったある日、タケシから珍しく飲みの誘いが入った。この頃には慣れた仲になっており、会話もタメ口である。
「ワタルさん、今週水曜から金曜の夜空いてたら飲まない?場所は八丁堀で考えてる。」
「分かった。仕事終わってから向かうので、九時あたりでよろしく。」
「はい、よろしくお願いします(^_^)」
酒が飲めるのであれば二人でも良いかと思い、誘いに応じる。タケシが指定したのは、八丁堀にある安居酒屋だった。「大衆居酒屋 しんちゃん」と大きく書かれた看板を横目に階段を上り、中に入る。タケシは既に中に入って待っていた。
「待ってたよワタルさん!」
「なかなかサシの誘いに乗れなくて申し訳ない、それにしてもサシ飲みの誘いとは珍しいね。」
「たまには飲みにも誘ってみようかなと思って。それと喜んで、たまたまユウスケさんが近くまで来てるらしくて、あと一時間くらいしたら合流してくれるんだよ!」
「ほお、それはそれは。それじゃまあ待ちながら飲みますか。」
前触れもなくいきなり師匠を呼ばれたのに面食らうと同時に、近くまで来てるのに一時間も掛かることに不自然さを覚えながらも、タケシと酒を酌み交わす。タケシはもともと酒が強いほうではない一方、ワタルは酒好きな上、もしかしたらユウスケに奢ってもらえるかもしれないという期待からどんどんビールが進んでいった。タケシが切り出した話は、本格的に将来の目標を聞くものだった。
「俺は将来ユウスケさんみたいに起業して夢を叶えたいと思ってるんだけど、ワタルさんには将来どうなりたいの?」
「そうだね、今はそれなりに給料を貰える環境にいるから、このままエンジニアとしてのキャリアを積みつつ、本当にやりたいことはお金を稼げることでもないから余暇でやるかな。年収六百万あたりを超えたら幸福度にそんなに差がなくなるらしいんだよね。そしたらあとは精神的な負荷の問題かな。そんなにメンタル強いほうでもないしね。起業は選択としてはあるけど、僕はそこまでリスクは取れないな。」
済が年収六百万円の話をしたあたりでタケシの顔色が変わった。
「俺は経営者に仕事を作ってもらってる雇われ人より、経営者のほうが偉いと思っている。それに、自分の世界で収まる生き方よりも、他人に影響を与えられる生き方のほうが正しい生き方だと思う。俺はこのまま、仲間に良い影響を与えられる生き方がしたいと思って経営の勉強をしてる。米盛数夫さんの本とか。」
済の頭の中で、地雷が爆発する音がした。
会場は多くがニューブリッジだったが、それ以外のレンタルスペースで行われることもあった。一度などは、主催の知り合いが作ったカレーを食べる会という謎の会もあった。値段は普段と変わらず、何故素人の作ったカレーにそこまで金を出さないといけないか理解できなかったが、あまりガメついと思われても面倒なので黙っておいた。他にも、タケシがやけにニューブリッジの店員と親しかったり、ユウスケさんもタケシも店員も皆八丁堀に住んでいたりと、気になる点はあったが、多少の違和感があっても、実害がないうちはあまり気にしないのが済の性分だった。
また、タケシから「大富豪パパと大貧民パパ」を勧められたこともあった。だが中学生の頃自己啓発本にハマり、それからも定期的に本屋の自己啓発棚をチェックしていた済は既に読んだことがあり、
「知ってるよ。十八歳か十九歳の頃に読んだ。ESBIクワドラントだろ?」
と答えたところ、
「えっ、そんな早くに読んでんだ……。」
と驚かれた。ESBIクワドラントとは、従業員をE、自営業者をS、経営者をB、投資家をIとして一枚にまとめた図である。
「大富豪パパと大貧民パパ」では、自分で働く必要があるEとSの世界から、他人に働いてもらうBとIを目指すことが良いと説かれる。これは考え方として間違っているわけではないが、起業と投資に伴うリスクの話がほとんどなされておらず、また従業員や自営業者を下手に見る考え方に繋がりがちなので、済はあまり好きではなかった。済は公平や平等を重んずる価値観の持ち主なのだ。
師匠のユウスケさんとは何度か話し、都市伝説や西京大学で行われている研究についての話で盛り上がった。ただ、他愛もない話では盛り上がれたが、飲食店以外でユウスケさんがやっているビジネスについてはまたそのうち、などといって誤魔化された。これは他の人も同じで、年収一千万以上を稼いでいるという自営業者たちに何をやっているか話を聞いてみても、マーケティング、営業などといったあいまいな説明しかしてもらえなかったのだった。気になってタケルに聞いてみても「本人に聞いてみて!」とだけ言われるだけで、この部分についてはいつもはぐらかされた。
新橋に通うようになってから三ヶ月ほどが経ち、年が明けてしばらく経ったある日、タケシから珍しく飲みの誘いが入った。この頃には慣れた仲になっており、会話もタメ口である。
「ワタルさん、今週水曜から金曜の夜空いてたら飲まない?場所は八丁堀で考えてる。」
「分かった。仕事終わってから向かうので、九時あたりでよろしく。」
「はい、よろしくお願いします(^_^)」
酒が飲めるのであれば二人でも良いかと思い、誘いに応じる。タケシが指定したのは、八丁堀にある安居酒屋だった。「大衆居酒屋 しんちゃん」と大きく書かれた看板を横目に階段を上り、中に入る。タケシは既に中に入って待っていた。
「待ってたよワタルさん!」
「なかなかサシの誘いに乗れなくて申し訳ない、それにしてもサシ飲みの誘いとは珍しいね。」
「たまには飲みにも誘ってみようかなと思って。それと喜んで、たまたまユウスケさんが近くまで来てるらしくて、あと一時間くらいしたら合流してくれるんだよ!」
「ほお、それはそれは。それじゃまあ待ちながら飲みますか。」
前触れもなくいきなり師匠を呼ばれたのに面食らうと同時に、近くまで来てるのに一時間も掛かることに不自然さを覚えながらも、タケシと酒を酌み交わす。タケシはもともと酒が強いほうではない一方、ワタルは酒好きな上、もしかしたらユウスケに奢ってもらえるかもしれないという期待からどんどんビールが進んでいった。タケシが切り出した話は、本格的に将来の目標を聞くものだった。
「俺は将来ユウスケさんみたいに起業して夢を叶えたいと思ってるんだけど、ワタルさんには将来どうなりたいの?」
「そうだね、今はそれなりに給料を貰える環境にいるから、このままエンジニアとしてのキャリアを積みつつ、本当にやりたいことはお金を稼げることでもないから余暇でやるかな。年収六百万あたりを超えたら幸福度にそんなに差がなくなるらしいんだよね。そしたらあとは精神的な負荷の問題かな。そんなにメンタル強いほうでもないしね。起業は選択としてはあるけど、僕はそこまでリスクは取れないな。」
済が年収六百万円の話をしたあたりでタケシの顔色が変わった。
「俺は経営者に仕事を作ってもらってる雇われ人より、経営者のほうが偉いと思っている。それに、自分の世界で収まる生き方よりも、他人に影響を与えられる生き方のほうが正しい生き方だと思う。俺はこのまま、仲間に良い影響を与えられる生き方がしたいと思って経営の勉強をしてる。米盛数夫さんの本とか。」
済の頭の中で、地雷が爆発する音がした。
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