17 / 53
17話 臨床心理士坂巻のカウンセリング記録(◎◎小学校3年生 仙田小春 1/11/2025)
しおりを挟む
こんにちは。ぼくは坂巻と言います。
まずはお名前を聞かせてもらえるかな。
せんだ、こはるさん、だね。初めまして。
この教室に入ったのは初めて? そう。実はぼくもなんだ。いつもはね、△市というところで働いているんだよ。知っている? △市。
ああそうです。お母さんはよくご存じだ。おそばが有名なんだよ。
ぼくはね、臨時で来たんだ。いつもは学校心理士の石島先生がいるよね。知ってる?
そう。女の先生。
……この時計が気になる? 時間を決めて小春さんとぼくはお話をするんだ。この時計が10:45になったらおしまいだよ。わかった?
腕、大丈夫? 折れたんだって?
……あ、そうですか。とう骨遠位骨折。転んだ時に手をついて、とう骨が折れてずれたのかな?
いいんですよ、お母さん。無理に小春さんをしゃべらせなくても。
そうだ、小春さん。じゃあ、ぼくが尋ねるから、「はい」のときはうなずいてくれる? で、「いいえ」のときは、首を横に振ってくれたらいいから。
わかった? そう。ありがとう。君の気持ち、よくわかったよ。
今日、ここに来たのはなにか心配事があったからかな?
(小春、首を横に振る)
お母さん、そんな小春さんを責めないで。ぼくは小春さんに尋ねているんです。
小春さん、正直に言えばいいからね。ぼくはそのためにいるんだから。
すみません、お母さん。同席してもらっていても構わないんですが、少し小春さんから離れて座ってもらえますか。……すみません、もっと離れて。あの、壁の方まで。ご協力感謝します。
そうか、じゃあ小春さんは心配事があって来たんじゃないんだね。じゃあ(小声で)お母さんに言われたから来た?
(小春、首を横に振る)
そっかそっか。うーん、じゃあ、ぼくになにか話したいことがあって来たのかな。
(小春、しばらく考えてから、ちらりと母親を見る)
あ、お母さん立たないで。こっちに来ないでいただけますか?
小春さん、お母さんに来てほしいの?
(小春、激しく首を横に振る)
お母さんに部屋から出て行ってほしい?
(小春、深くうなずく)
すみません、お母さん。一度退席していただけますか? ここにはカメラがあって、音声はひろいませんが録画されています。ほら、あれです。なのでお母さんが不在の間にぼくが不埒なことをする心配はありませんので。
……おっしゃることはもっともです。ですが、ここは小春さんの意思を尊重して……。
待ってください、お母さん。小春さんは自分の意思でここに来たとさっきはっきり示しましたよ?
ぼくはまだ小春さんのお話を聞いていません。
小春さん、退席したい? お母さんと帰る?
(小春、再び激しく首を横に振る)
……ありがとうございます。
部屋の外に椅子があります。15分経ったら入室してください。ありがとうございます。
……さて、小春さん。ぼくに話したいことって……。あ、大丈夫だよ。ティッシュもあるから、これ使って。
(小春、嗚咽をあげて泣き出す)
5分ほど沈黙。
落ち着いた?
「……はい」
そうか。じゃあ、ぼくに話したいことを、ゆっくりでいいから話してくれないかな。
「はい。……あの、ここで話したことは、お母さんにも伝わりますか?」
ぼくには守秘義務があるからね。君が望むなら話さないよ。話してほしくない?
「わからない……。お母さん、なんでも知りたがるから」
そっか。それがしんどい?
「でも無視されるともっとしんどい」
無視されたりもするんだね。
それはしんどいね。
「その……。ここに来たのは、なにを話してもいいって、八木先生が言ってくれたから」
八木先生というのは小春さんの……?
「クラスの先生です。病院にも来てくれて……」
そうなんだね。
小春さんのことを心配してくれる先生なんだ。
「八木先生に話そうかと思ったけど……」
思ったけど、どうしたの?
「どうせ誰に話しても信じてくれないし。特にお母さんに聞かれたら……」
……聞かれたら?
「だめな子扱いされて、無視される……」
そうか。
八木先生にお話ししても信じてもらえなくて、お母さんに聞かれたらダメな子扱いされる。
だけど、誰かに話がしたくてぼくのところに来てくれたんだね?
「………ごめんなさい」
謝ることなんてないよ。来てくれてありがとう。ぼくは小春さんのお話に興味があるな。ときどきメモをとるけどいい?
「はい」
じゃあ、まずは忘れないように八木先生が担任だってことを書くね?
「はい」
小春さん。ぼくに話したいことをお願いできるかな?
「………」
ゆっくりでいいよ。
「………」
ひょっとして、あの事故の時のことを話したい? 小春さんが骨を折った、その事故の時のことを。
(小春、うなずく)
そっか。
あの日、君はお友達と一緒にいたんだよね? 一斉下校で。一旦みんなと一緒に下校したけど、こっそり学校に戻ってきた?
(小春、うなずく)
その時のお話だね? 誰かに聞いてほしいけど、信じてもらえない、っていうのは。
「なおこちゃんが……」
なおこちゃん。
「なおこちゃん……」
うん。
「なおこちゃんが……」
なおこちゃん。
……なおこちゃんだね?
「なおこちゃん……」
なおこちゃんがどうしたのかな。
ん? 小春さん、立ち上がってどうしたの?
「なおこちゃんが……その」
なおこちゃん。
忘れないように、ぼくもここに書いておくね。なおこちゃんだね。
小春さん、座ろうか。さあ、椅子に。
「なおこちゃんが……!」
うん、なおこちゃんがどうしたのかな?
一緒に遊んだのかな?
「まだいる!!!!」
落ち着いて、小春さん! 小春さん⁉
お母さん、来てください! 誰か先生を呼んで!
まずはお名前を聞かせてもらえるかな。
せんだ、こはるさん、だね。初めまして。
この教室に入ったのは初めて? そう。実はぼくもなんだ。いつもはね、△市というところで働いているんだよ。知っている? △市。
ああそうです。お母さんはよくご存じだ。おそばが有名なんだよ。
ぼくはね、臨時で来たんだ。いつもは学校心理士の石島先生がいるよね。知ってる?
そう。女の先生。
……この時計が気になる? 時間を決めて小春さんとぼくはお話をするんだ。この時計が10:45になったらおしまいだよ。わかった?
腕、大丈夫? 折れたんだって?
……あ、そうですか。とう骨遠位骨折。転んだ時に手をついて、とう骨が折れてずれたのかな?
いいんですよ、お母さん。無理に小春さんをしゃべらせなくても。
そうだ、小春さん。じゃあ、ぼくが尋ねるから、「はい」のときはうなずいてくれる? で、「いいえ」のときは、首を横に振ってくれたらいいから。
わかった? そう。ありがとう。君の気持ち、よくわかったよ。
今日、ここに来たのはなにか心配事があったからかな?
(小春、首を横に振る)
お母さん、そんな小春さんを責めないで。ぼくは小春さんに尋ねているんです。
小春さん、正直に言えばいいからね。ぼくはそのためにいるんだから。
すみません、お母さん。同席してもらっていても構わないんですが、少し小春さんから離れて座ってもらえますか。……すみません、もっと離れて。あの、壁の方まで。ご協力感謝します。
そうか、じゃあ小春さんは心配事があって来たんじゃないんだね。じゃあ(小声で)お母さんに言われたから来た?
(小春、首を横に振る)
そっかそっか。うーん、じゃあ、ぼくになにか話したいことがあって来たのかな。
(小春、しばらく考えてから、ちらりと母親を見る)
あ、お母さん立たないで。こっちに来ないでいただけますか?
小春さん、お母さんに来てほしいの?
(小春、激しく首を横に振る)
お母さんに部屋から出て行ってほしい?
(小春、深くうなずく)
すみません、お母さん。一度退席していただけますか? ここにはカメラがあって、音声はひろいませんが録画されています。ほら、あれです。なのでお母さんが不在の間にぼくが不埒なことをする心配はありませんので。
……おっしゃることはもっともです。ですが、ここは小春さんの意思を尊重して……。
待ってください、お母さん。小春さんは自分の意思でここに来たとさっきはっきり示しましたよ?
ぼくはまだ小春さんのお話を聞いていません。
小春さん、退席したい? お母さんと帰る?
(小春、再び激しく首を横に振る)
……ありがとうございます。
部屋の外に椅子があります。15分経ったら入室してください。ありがとうございます。
……さて、小春さん。ぼくに話したいことって……。あ、大丈夫だよ。ティッシュもあるから、これ使って。
(小春、嗚咽をあげて泣き出す)
5分ほど沈黙。
落ち着いた?
「……はい」
そうか。じゃあ、ぼくに話したいことを、ゆっくりでいいから話してくれないかな。
「はい。……あの、ここで話したことは、お母さんにも伝わりますか?」
ぼくには守秘義務があるからね。君が望むなら話さないよ。話してほしくない?
「わからない……。お母さん、なんでも知りたがるから」
そっか。それがしんどい?
「でも無視されるともっとしんどい」
無視されたりもするんだね。
それはしんどいね。
「その……。ここに来たのは、なにを話してもいいって、八木先生が言ってくれたから」
八木先生というのは小春さんの……?
「クラスの先生です。病院にも来てくれて……」
そうなんだね。
小春さんのことを心配してくれる先生なんだ。
「八木先生に話そうかと思ったけど……」
思ったけど、どうしたの?
「どうせ誰に話しても信じてくれないし。特にお母さんに聞かれたら……」
……聞かれたら?
「だめな子扱いされて、無視される……」
そうか。
八木先生にお話ししても信じてもらえなくて、お母さんに聞かれたらダメな子扱いされる。
だけど、誰かに話がしたくてぼくのところに来てくれたんだね?
「………ごめんなさい」
謝ることなんてないよ。来てくれてありがとう。ぼくは小春さんのお話に興味があるな。ときどきメモをとるけどいい?
「はい」
じゃあ、まずは忘れないように八木先生が担任だってことを書くね?
「はい」
小春さん。ぼくに話したいことをお願いできるかな?
「………」
ゆっくりでいいよ。
「………」
ひょっとして、あの事故の時のことを話したい? 小春さんが骨を折った、その事故の時のことを。
(小春、うなずく)
そっか。
あの日、君はお友達と一緒にいたんだよね? 一斉下校で。一旦みんなと一緒に下校したけど、こっそり学校に戻ってきた?
(小春、うなずく)
その時のお話だね? 誰かに聞いてほしいけど、信じてもらえない、っていうのは。
「なおこちゃんが……」
なおこちゃん。
「なおこちゃん……」
うん。
「なおこちゃんが……」
なおこちゃん。
……なおこちゃんだね?
「なおこちゃん……」
なおこちゃんがどうしたのかな。
ん? 小春さん、立ち上がってどうしたの?
「なおこちゃんが……その」
なおこちゃん。
忘れないように、ぼくもここに書いておくね。なおこちゃんだね。
小春さん、座ろうか。さあ、椅子に。
「なおこちゃんが……!」
うん、なおこちゃんがどうしたのかな?
一緒に遊んだのかな?
「まだいる!!!!」
落ち着いて、小春さん! 小春さん⁉
お母さん、来てください! 誰か先生を呼んで!
0
あなたにおすすめの小説
怪蒐師
糸世朔
ホラー
第8回ホラー•ミステリー大賞で優秀賞を受賞しました。ありがとうございました!
●あらすじ
『階段をのぼるだけで一万円』
大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。
三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。
男は言った。
ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。
ーーもちろん、ただの階段じゃない。
イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。
《目次》
第一話「十三階段」
第二話「忌み地」
第三話「凶宅」
第四話「呪詛箱」
第五話「肉人さん」
第六話「悪夢」
最終話「触穢」
※他サイトでも公開しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
本作は改稿前/改稿後の複数バージョンが存在します
掲載媒体ごとに内容が異なる場合があります。
改稿後小説作品はカイタとネオページで見られます
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる