なおこちゃんの手紙【モキュメンタリー】

武州青嵐(さくら青嵐)

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32話 立花邸①

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 初めて出会う立花凛という女児は、小学3年生とは思えないほど大人びて見えた。
 同席している学校心理士の石島から事前に聞いた情報によると、SNSに動画投稿などをしていて、かなり人気があるらしい。どうりで、と思うほど顔立ちは整い、身長もある。

 きっと軽くメイクしただけで見違えるのだろうが、いまは目の下にクマを作り、腰の半ばまである髪もひとつに束ねただけ。ブラシも通していないのだろうか。毛先がふわふわとしていて、そこだけ彼女を実年齢に見せていた。

「初めまして、凛さん。私は小学校でカウンセラーをしています石島といいます。そして、こちらが伊勢さん」

 石島がそっと声をかける。
 場所は立花家のリビングだ。

 昨日、坂巻臨床心理士のところに母親が相談に行き、その緊急性から石島が学校管理職に掛け合い、自宅訪問と涼子の同行を許可させたのだ。

「初めまして。伊勢涼子と申します」

 涼子はソファから立ち上がろうかどうしようか迷ったが、結局座ったまま、ローテーブルを挟んで向かいにいる立花母子に、一枚づつ名刺を差し出した。

「多々良……リョウ、さん?」

 母親が名刺を両手で受け取って小首をかしげる。その隣では凛が「ライトノベル?」と同じように首をかしげていた。

「こんな本を書いてます。凛さんがもう少し大きくなったら読んでね」

 そういって最新本を一冊差し出した。
 今どきのイラストに凛が目を輝かせて手を伸ばすが、母親の視線に気づいたのが、慌てて膝の上で手を丸める。

「どうぞ。見本誌でいただいたものなので。お姉ちゃんなら読むかな?」
 
 そう言うと、母親が、「いいんですか?」と恐縮したが、凛は手に取ってパラパラとめくりはじめた。

「伊勢さんは昨年まで中学校教員をなさっていたので守秘義務等はご存じです。また、取材でたくさんの怪談実話を集めておられるので、今回オブザーバーとして同席していただきました」

 石島が言うと、今度は母親が目を輝かせるから、涼子は慌てた。

「まだなんの役にもたってませんから。過大な期待は……」
「ええ、もちろんです! でも……なんだかホッとしました」

 石島は何度か首を縦に振ると、腰をかがめるようにして身を乗り出した。

「凛さん。『なおこちゃんの手紙』のことなんだけど」
 小声なのに、凛は静電気に触れたかのように背筋を伸ばし、本を抱えたまま母親に身を寄せた。

「誰からもらったのか、わかる?」
「たぶん……仙田さん」
「仙田、小春さんね?」

 石島が確認をした。凛がこっくりとうなずく。
 ということは。
 三沢佳花の発言が俄然信用を帯びてくる。

 彼女は昨日、教頭先生に「いじめる仙田さんとその他に復讐するため、『なおこちゃんの手紙』を出した」のだから。

「仙田さん、好きな男子がいて……。その子からの告白の手紙だと思って開けたんだって」
 凛がとつとつと語り始める。

 『なおこちゃんの手紙』を受け取った仙田小春は怖くなり、友達である立花凛、佐藤愛海、丸田杏、大林寿利亜に手渡した。
 もらった4人の反応は様々だったという。

「私は……、こんなの嘘だって思ってたし。サトアイも冷めてたし。怖がって怒って『なんでこんなの友達に渡すのよ!』って仙田さんに突っかかってたのはジュリアだけだったと思う」
「ご、ごめん。ちょっとメモしていいかな」

 話しの腰を折るのは悪いと思いつつ。最近の名前にはついて行けない。
 石島は眉根を寄せたが、凛は特になんとも思っていないようだ。こっくりとうなずいて、涼子がメモ帳にペンを走らせるのを待っていてくれた。

「丸田杏さんはどうだったの?」 
 涼子が、先ほど名前の出てこなかったひとりのことを尋ねた。

「アンにゃんは、一番冷静だったと思う。怖い話とか大好きで……。だから、ジュリアが『5人って誰に出そう』って泣きながら言っていた時に、『出さなくていいよ。怖いならちぎって川に流そう』って言ってくれて」
「どうして川に?」

 母親がいぶかしむ。「さあ」と凛が言うので、伊勢が口を挟んだ。

「流れる水や川には浄化作用があると言われていますので」
「そう……なんですね」

 うなずく母親を一瞥し、涼子は凛に顔を向けた。

「だけど、なおこちゃんが来たんだね?」

 凛は震えた。
 そしてさらに母親に身を近づける。

「一番最初になおこちゃんを見たのは、仙田さんで……。次に私たちだった。『あそぼ』ってやってきて……。家の中にまで入ってきて」
「ん? 家の中にも入ってきたの?」

 涼子が眉根を寄せる。石島が目を瞬かせた。

「なにか?」
「いえ……。こういうのって、招かれないと入れないんですよ。凛さんが入れちゃったのかな?」

 凛は勢いよく首を横に振った。涼子は母親を見る。

「最近、例えば、インターフォンが鳴って『遊ぼ』と言われ、『どうぞ』って言ってしまったこと、ありませんか?」

 途端に母親の顔が青ざめた。

「……あります。インターフォンが鳴ったので、確認したら女の子がいて……。『遊ぼ』って言われたから、3人のうちの誰かの友達だと思って……。でも、ドアを開けたらいなくて」
「たぶん、その時に侵入許可を取ったんでしょう。以降、家の中でも怪異が?」

 知らずに身を乗り出して伊勢が尋ねる。母親と娘は顔を見合わせて、同時にうなずいた。

「誰もいないはずなのに、室内で足音がしたり……。後ろに気配があるから『凛?』って声をかけて振り返っても誰もいなかったり……」

「暗いところから、手が出てくる。タッチしようとして」
 凛が半泣きの顔で続けた。

「これ……ずっと続くの?」
「大丈夫。落ち着いて。怖いんだね」

 石島がそっとなだめる。その横で、涼子は腕を組み、ソファに上半身を預けた。

「ほかの三人のところもそんな感じ?」
「うん。だから、みんなで相談して……。アンにゃんが『こっくりさん』をしようって」
「こっくりさん。やっぱり」

 涼子は爛々と目を輝かせた。石島は隣で不気味なものでも見るような眼でそんな彼女を見ている。
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