神隠しな戦国おたく

TAKAHARA HIROKI

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第5章 六文銭の渡し賃

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雨に煙る石橋の上で、博史は亡霊のように立っていた。
 前方から、傭兵たちのライトが彼を照らす。
「Die!(死ね!)」
 先頭の兵士がサブマシンガンを乱射しながら突っ込んできた。
 博史は動かない。弾丸が足元の石畳を削り、彼の頬を掠める。
 距離、五メートル。
 バァン!
 一発の銃声。
 博史のリボルバーが火を噴いた。
 正確無比な射撃は、兵士の喉元を貫いた。男が前のめりに倒れ、慣性で博史の足元まで滑ってくる。
「……一人目」
 博史は低く呟いた。
 残弾、あと一発。
「くそっ! なめるな!」
 二人目の兵士が、倒れた仲間の背中を乗り越えて突進してくる。今度はナイフを構えている。銃撃戦では分が悪いと見たか、接近戦(CQC)だ。
 博史は銃を撃たなかった。
 兵士がナイフを突き出した瞬間、博史は半歩踏み込み、その腕を絡め取った。
 バキッ!
 「ぐあっ!?」
 博史は兵士の肘をへし折ると同時に、相手の懐に入り込み、掌底(しょうてい)を顎に叩き込んだ。
 脳震盪を起こして崩れ落ちる兵士を、博史は蹴り飛ばして橋の下――濁流が渦巻く川底へと落とした。
 三途の川の渡し賃(六文銭)はいらない。地獄へ直行だ。
「……Shoot him! Just kill him!(撃て! 殺せ!)」
 後方にいるリーダーが苛立ち紛れに叫ぶ。
 残りの兵士たちが一斉に銃を構えた。
 だが、博史はニヤリと笑い、橋の欄干に隠しておいた「ツタ」のような紐を思い切り引いた。
 カッ!! ドォォォンッ!!
 橋の手前、左右の岩壁が爆発した。
 博史が事前に仕掛けておいた、鉱山用の発破(ダイナマイト)だ。
 岩石が崩れ落ち、狭い橋の入り口を塞ぐように土砂が雪崩れ込む。
「ぬわぁぁぁ!?」
 先頭集団が土砂に巻き込まれ、後続の兵士たちが慌てて後退する。
「……ゲホッ、ゲホッ」
 爆煙の中、博史は血を吐いた。
 今の爆発で、飛び散った岩の破片が彼の横腹に突き刺さっていた。
 激痛で視界が明滅する。
 だが、まだだ。まだ道は完全に塞がっていない。瓦礫を乗り越えれば、奴らは入ってこられる。
 博史は瓦礫の山の上に登り、立ち塞がった。
 その姿は、満身創痍の鬼神のようだった。
「……どうした。通してほしければ、通行料を払え」
 リーダーが瓦礫の向こうから、憎々しげに博史を睨みつけた。
「Crazy bastard...(イカれた野郎だ)」
「なんとでも言え。……ここから先は、僕の『未来』だ。指一本触れさせない」
 博史は、最後の一発が装填された銃を構えた。
 狙うのはリーダーではない。
 リーダーの腰にある、手榴弾のポーチだ。
(……外せば終わり。当てても、爆風で僕もただでは済まない)
 博史の指が震える。
 失血で意識が遠のきそうだ。
 その時、背後のトンネルの奥から、微かな爆発音が響いた。
 ドォン……。
 小雪たちが、入り口を爆破した音だ。
 彼女たちは逃げた。守りきった。
「……ああ、よかった」
 博史の顔から、修羅の険しさが消え、憑き物が落ちたような穏やかな笑みが浮かんだ。
「What are you smiling at?(何がおかしい)」
 リーダーが銃を向ける。
「君たちの負けだ、と言ったんだ」
 博史は引き金を引いた。
 バァンッ!!
 最後の弾丸が、闇を切り裂いて飛翔した。
(最終章 第5章 完)
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