神隠しな戦国おたく

TAKAHARA HIROKI

文字の大きさ
34 / 60

第6章 散りゆく鷹

しおりを挟む
スローモーションのように、時間が引き伸ばされた。
 博史の銃口から飛び出した44口径の鉛玉は、雨粒を弾き飛ばしながら直進した。
 リーダーの男が、その軌道を目で追う。
 彼の表情が、嘲笑から驚愕へ、そして絶望へと変わっていく。
「No...(まさか……)」
 弾丸は、男の腰に装着された手榴弾ポーチの留め具を正確に撃ち抜いた。
 火花が散る。
 信管が作動する。
 カッ!!!!!
 視界が真っ白に染まった。
 轟音は遅れてやってきた。
 手榴弾の爆発が、隣接する予備弾倉や他の爆薬へと連鎖し、巨大な火球となって膨れ上がった。
 ズガアアアァァァァァァンッ!!!!!!
 夜の森が、昼間のように明るく照らされた。
 爆風が瓦礫を吹き飛ばし、石橋の土台そのものを粉砕する。
 リーダーの男も、背後の部下たちも、悲鳴を上げる間もなく炎の奔流に飲み込まれ、吹き飛んだ。
 そして、その衝撃波は、至近距離にいた博史をも襲った。
「ぐっ……!!」
 体が木の葉のように舞う。
 熱波に焼かれ、背中を岩盤に叩きつけられる。
 直後、崩落した石橋の瓦礫が、土砂崩れとなって彼の上に降り注いだ。
 ***
 ……静寂。
 耳鳴りだけが、キーンと響いている。
 雨の冷たさで、博史は意識を取り戻した。
 目を開けると、そこは瓦礫の隙間だった。
 体を動かそうとしたが、指一本動かない。
 首から下は、巨大な岩と鉄骨の下敷きになっている。感覚がない。痛みすらない。それは、致命的な損傷を意味していた。
(……やったか)
 博史は霞む目で前方を見た。
 石橋があった場所は完全に崩れ落ち、巨大なクレーターとなっていた。
 敵の気配はない。あの爆発で生き残れる人間はいないだろう。
 勝ったのだ。
 たった一人で、最新鋭の傭兵部隊を道連れにした。
「……はは……」
 乾いた笑いが漏れ、ゴボリと血が溢れた。
 肺が潰れている。もう長くはない。
 博史は空を見上げた。
 瓦礫の隙間から、紫色の空が見える。
 嵐は過ぎ去ろうとしていた。
 あの「光の穴」――2025年への扉もまた、役目を終えてゆっくりと閉じようとしている。
 帰りたかったか? と問われれば、嘘になる。
 冷えたコーラが飲みたかった。
 ふかふかのベッドで眠りたかった。
 誰も死なない世界で、ただの歴史オタクとして生きたかった。
 けれど。
(……後悔は、ないな)
 博史の脳裏に、時(とき)の泣き顔が浮かんだ。
 そして、小雪の微笑みが。
 彼女たちが生き延びる未来。自分が守り抜いたその「明日」は、どんな平和な現代よりも価値がある。
 ふと、博史の右手――唯一動かせる手――が、何か硬いものに触れた。
 泥の中に埋もれていた、あの**「蒼い旗」**の切れ端だった。
 ボロボロで、煤けて、泥だらけ。
 だが、その青色は、雨に洗われて凛と輝いていた。
 博史はその布切れを、最期の力を振り絞って握りしめた。
「……あとは、頼んだぞ」
 誰にともなく呟く。
 意識が急速に遠のいていく。
 冷たい雨が、心地よい子守唄のように聞こえた。
 青き鷹は、巣を守り抜き、その翼を畳んだ。
 椎葉の森に、静かな夜が戻ってくる。
(最終章 第6章 完)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...