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第6章 散りゆく鷹
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スローモーションのように、時間が引き伸ばされた。
博史の銃口から飛び出した44口径の鉛玉は、雨粒を弾き飛ばしながら直進した。
リーダーの男が、その軌道を目で追う。
彼の表情が、嘲笑から驚愕へ、そして絶望へと変わっていく。
「No...(まさか……)」
弾丸は、男の腰に装着された手榴弾ポーチの留め具を正確に撃ち抜いた。
火花が散る。
信管が作動する。
カッ!!!!!
視界が真っ白に染まった。
轟音は遅れてやってきた。
手榴弾の爆発が、隣接する予備弾倉や他の爆薬へと連鎖し、巨大な火球となって膨れ上がった。
ズガアアアァァァァァァンッ!!!!!!
夜の森が、昼間のように明るく照らされた。
爆風が瓦礫を吹き飛ばし、石橋の土台そのものを粉砕する。
リーダーの男も、背後の部下たちも、悲鳴を上げる間もなく炎の奔流に飲み込まれ、吹き飛んだ。
そして、その衝撃波は、至近距離にいた博史をも襲った。
「ぐっ……!!」
体が木の葉のように舞う。
熱波に焼かれ、背中を岩盤に叩きつけられる。
直後、崩落した石橋の瓦礫が、土砂崩れとなって彼の上に降り注いだ。
***
……静寂。
耳鳴りだけが、キーンと響いている。
雨の冷たさで、博史は意識を取り戻した。
目を開けると、そこは瓦礫の隙間だった。
体を動かそうとしたが、指一本動かない。
首から下は、巨大な岩と鉄骨の下敷きになっている。感覚がない。痛みすらない。それは、致命的な損傷を意味していた。
(……やったか)
博史は霞む目で前方を見た。
石橋があった場所は完全に崩れ落ち、巨大なクレーターとなっていた。
敵の気配はない。あの爆発で生き残れる人間はいないだろう。
勝ったのだ。
たった一人で、最新鋭の傭兵部隊を道連れにした。
「……はは……」
乾いた笑いが漏れ、ゴボリと血が溢れた。
肺が潰れている。もう長くはない。
博史は空を見上げた。
瓦礫の隙間から、紫色の空が見える。
嵐は過ぎ去ろうとしていた。
あの「光の穴」――2025年への扉もまた、役目を終えてゆっくりと閉じようとしている。
帰りたかったか? と問われれば、嘘になる。
冷えたコーラが飲みたかった。
ふかふかのベッドで眠りたかった。
誰も死なない世界で、ただの歴史オタクとして生きたかった。
けれど。
(……後悔は、ないな)
博史の脳裏に、時(とき)の泣き顔が浮かんだ。
そして、小雪の微笑みが。
彼女たちが生き延びる未来。自分が守り抜いたその「明日」は、どんな平和な現代よりも価値がある。
ふと、博史の右手――唯一動かせる手――が、何か硬いものに触れた。
泥の中に埋もれていた、あの**「蒼い旗」**の切れ端だった。
ボロボロで、煤けて、泥だらけ。
だが、その青色は、雨に洗われて凛と輝いていた。
博史はその布切れを、最期の力を振り絞って握りしめた。
「……あとは、頼んだぞ」
誰にともなく呟く。
意識が急速に遠のいていく。
冷たい雨が、心地よい子守唄のように聞こえた。
青き鷹は、巣を守り抜き、その翼を畳んだ。
椎葉の森に、静かな夜が戻ってくる。
(最終章 第6章 完)
博史の銃口から飛び出した44口径の鉛玉は、雨粒を弾き飛ばしながら直進した。
リーダーの男が、その軌道を目で追う。
彼の表情が、嘲笑から驚愕へ、そして絶望へと変わっていく。
「No...(まさか……)」
弾丸は、男の腰に装着された手榴弾ポーチの留め具を正確に撃ち抜いた。
火花が散る。
信管が作動する。
カッ!!!!!
視界が真っ白に染まった。
轟音は遅れてやってきた。
手榴弾の爆発が、隣接する予備弾倉や他の爆薬へと連鎖し、巨大な火球となって膨れ上がった。
ズガアアアァァァァァァンッ!!!!!!
夜の森が、昼間のように明るく照らされた。
爆風が瓦礫を吹き飛ばし、石橋の土台そのものを粉砕する。
リーダーの男も、背後の部下たちも、悲鳴を上げる間もなく炎の奔流に飲み込まれ、吹き飛んだ。
そして、その衝撃波は、至近距離にいた博史をも襲った。
「ぐっ……!!」
体が木の葉のように舞う。
熱波に焼かれ、背中を岩盤に叩きつけられる。
直後、崩落した石橋の瓦礫が、土砂崩れとなって彼の上に降り注いだ。
***
……静寂。
耳鳴りだけが、キーンと響いている。
雨の冷たさで、博史は意識を取り戻した。
目を開けると、そこは瓦礫の隙間だった。
体を動かそうとしたが、指一本動かない。
首から下は、巨大な岩と鉄骨の下敷きになっている。感覚がない。痛みすらない。それは、致命的な損傷を意味していた。
(……やったか)
博史は霞む目で前方を見た。
石橋があった場所は完全に崩れ落ち、巨大なクレーターとなっていた。
敵の気配はない。あの爆発で生き残れる人間はいないだろう。
勝ったのだ。
たった一人で、最新鋭の傭兵部隊を道連れにした。
「……はは……」
乾いた笑いが漏れ、ゴボリと血が溢れた。
肺が潰れている。もう長くはない。
博史は空を見上げた。
瓦礫の隙間から、紫色の空が見える。
嵐は過ぎ去ろうとしていた。
あの「光の穴」――2025年への扉もまた、役目を終えてゆっくりと閉じようとしている。
帰りたかったか? と問われれば、嘘になる。
冷えたコーラが飲みたかった。
ふかふかのベッドで眠りたかった。
誰も死なない世界で、ただの歴史オタクとして生きたかった。
けれど。
(……後悔は、ないな)
博史の脳裏に、時(とき)の泣き顔が浮かんだ。
そして、小雪の微笑みが。
彼女たちが生き延びる未来。自分が守り抜いたその「明日」は、どんな平和な現代よりも価値がある。
ふと、博史の右手――唯一動かせる手――が、何か硬いものに触れた。
泥の中に埋もれていた、あの**「蒼い旗」**の切れ端だった。
ボロボロで、煤けて、泥だらけ。
だが、その青色は、雨に洗われて凛と輝いていた。
博史はその布切れを、最期の力を振り絞って握りしめた。
「……あとは、頼んだぞ」
誰にともなく呟く。
意識が急速に遠のいていく。
冷たい雨が、心地よい子守唄のように聞こえた。
青き鷹は、巣を守り抜き、その翼を畳んだ。
椎葉の森に、静かな夜が戻ってくる。
(最終章 第6章 完)
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