星を仰ぐふたりのシナリオ

TAKAHARA HIROKI

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第15章:レッドカーペット

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ロサンゼルス、ドルビー・シアター前。
リムジンのドアが開く瞬間、優音は深く息を吸った。
窓の外には、かつて見た日本の記者会見とは比べ物にならないほどの、光の洪水と歓声の嵐が渦巻いている。
「大丈夫か?」
隣に座る蓮が、優しく手を重ねてきた。
今日の彼は、黒のタキシード姿。けれど、かつて「作られた王子様」だった頃のような窮屈さは微塵もない。刻まれた皺さえも味方につけた、堂々たる俳優の顔だ。
優音は、蓮の手を強く握り返した。
今日のドレスは、有名なブランドからの提供ではない。地元の古着屋で見つけたヴィンテージのドレスを、自分でリメイクしたものだ。深い夜空のようなネイビーブルー。
それは「誰かの着せ替え人形」ではない、優音自身の意志の色だった。
「行こう、優音」
「うん」
二人が車から降り立つと、世界が揺れたような轟音が響いた。
「Ren! Over here!」
「Yuon! Look at me!」
無数のカメラのフラッシュが焚かれる。
優音は一瞬、目が眩みそうになったが、隣にいる蓮の腕が力強く支えてくれた。
レッドカーペット。選ばれた者だけが歩ける、栄光の道。
かつて第3章で、優音は「レンズの向こう側」に追いやられ、蓮の背中を見送るだけだった。
けれど今、二人は横並びで歩いている。
誰のバーターでもない。対等なパートナーとして。
インタビュアーがマイクを向けてきた。
「蓮、ノミネートおめでとう! そして優音、あなたの『Home』は素晴らしいわ。二人は日本でのキャリアを捨てて、ここに来たそうね。怖くはなかった?」
蓮は優音と顔を見合わせ、穏やかに微笑んだ。
「怖かったですよ。でも、失うことでしか手に入らないものもありました」
蓮はカメラに向かって、はっきりと言った。
「僕たちは一度、それぞれのシナリオを見失いました。でも、遠回りしたからこそ、この場所に続く本当の道を見つけられたんです」
その様子は、世界中に生中継されていた。
東京。
超高層マンションの一室で、美月はグラス片手に大型テレビを見つめていた。
画面の中の蓮は、美月が隣にいた時よりも、ずっとリラックスして、そして本当に幸せそうに笑っている。
その隣にいる優音もまた、かつての地味な少女の面影はなく、凛とした美しさを放っていた。
「……負けたわね」
美月は独り言ちた。
彼女の周りには、高級な家具も、トロフィーも、地位もある。けれど、蓮と優音の間にあるような「魂の結びつき」だけは、どんなに演じても、どんなに稼いでも手に入らなかったものだ。
「お幸せに。……バカなふたり」
美月はふっと自嘲気味に笑い、テレビの電源を切った。
画面が暗転し、美月の完璧にメイクされた顔だけが、黒い画面に寂しげに映り込んだ。
授賞式会場。
助演男優賞の発表の瞬間。
プレゼンターが封筒を開け、溜めを作る。会場の緊張がピークに達する。
「And the Oscar goes to...」
名前が呼ばれた瞬間、蓮は驚きに目を見開き、そして隣の優音をきつく抱きしめた。
会場中がスタンディングオベーションで祝福する。
ステージへと向かう蓮の背中は、もう優音を置いていく背中ではなかった。
優音はその背中を見守りながら、心の中で確信していた。
これが、私たちの新しい始まりなのだと。
(第15章 完)
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