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第14章:拡散する歌声
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朝起きると、世界が変わっていた。
文字通りの意味で。
「……Ren! Look at this!(蓮! これ見て!)」
優音の叫び声で、蓮は飛び起きた。
彼女が突きつけてきたスマートフォンの画面。動画サイトの再生回数のカウンターが、目の前で目まぐるしく回っている。
100万、200万、300万……。
『Who is she?(彼女は誰?)』
『神の歌声だ』
『日本語は分からないけど、涙が止まらない』
コメント欄はあらゆる言語で埋め尽くされていた。
SNSでは『#MyHome』というハッシュタグがトレンド入りし、世界中の人々が、自分の大切な家族や恋人、故郷の風景と共に、優音の曲をBGMにした動画を投稿していた。
「バズってる……なんてレベルじゃないぞ」
蓮も自身のスマホを確認し、息を呑んだ。
音楽ストリーミングサービスの「グローバル・バイラルチャート」で、『Home』が1位に躍り出ていたのだ。
宣伝費ゼロ。事務所のプッシュなし。
ただ、楽曲の力と、優音の声だけで勝ち取った頂点だった。
「どうしよう、蓮。レーベルからメールがいっぱい来てる……」
「慌てるな。今のお前は選ぶ側だ。嫌な条件なら全部断ればいい」
蓮は笑いながら優音の頭を撫でた。かつて日本で、大人の事情に振り回されていた少女はもういない。
そして、快進撃は優音だけではなかった。
蓮が出演した映画『The Long Goodbye(邦題:長いお別れ)』が、北米で限定公開されたのを皮切りに、口コミで爆発的なヒットを記録し始めていた。
蓮の役どころは、主人公を裏切り、最後に自ら命を絶とうとする孤独な移民の青年。
出演時間は決して長くない。しかし、そのスクリーンに映る蓮の瞳——深い絶望と、微かな救いを求める「本物の目」——は、観客と批評家の心を鷲掴みにした。
『この日本人の俳優は何者だ?』
『主演を食う存在感』
『彼の沈黙の演技(サイレント・アクティング)は、雄弁な詩のようだ』
有名映画批評サイトで、蓮の演技への賛辞が並ぶ。
Variety誌は「今年最大の発見(Revelation)」という見出しで蓮の特集記事を組んだ。
ある夜、二人はアパートの小さなテレビで、ニュースを見ていた。
エンターテインメントコーナーで、蓮の映画のヒットと、優音の『Home』の現象が同時に取り上げられた。
キャスターが興奮気味に語る。
「驚くべきことに、この謎の天才シンガー・Yuonと、ブレイク中の俳優・Renは、同じアパートで暮らすパートナーだという噂です!」
画面には、以前SNSに投稿された、サンタモニカの海岸を二人で歩く(後ろ姿の)写真が映し出された。
隠すつもりもなかった。二人は顔を見合わせ、吹き出した。
「バレちゃったな」
「うん。でも、もう『バーター』なんて言わせない」
優音は力強く言った。
その時、蓮の携帯が鳴った。映画の監督からだった。
「……はい。……えっ?」
蓮の表情が強張り、そして徐々に紅潮していく。
電話を切った蓮は、震える手で優音の肩を掴んだ。
「優音、聞いたか? 映画が……アカデミー賞にノミネートされた」
「嘘……!」
「作品賞、監督賞、そして……助演男優賞に、俺が入ってる」
優音は悲鳴を上げ、蓮に飛びついた。
二人は狭いリビングで、子供のようにはしゃぎ回った。
足元には、書きかけの譜面と、読み込まれた台本。
何もなかった二人が、自分たちの力だけで、世界の頂点への切符を手に入れたのだ。
「まだ終わりじゃないぞ」
蓮は優音を抱きしめたまま、真剣な眼差しで言った。
「授賞式には、パートナー同伴が許されてる。……一緒に歩いてくれるか? レッドカーペットを」
優音の胸に、日本での記憶が蘇る。
あの煌びやかな記者会見。レンズの向こう側へ行ってしまった蓮と、端に追いやられた自分。
でも、今は違う。
「うん。行くよ」
優音は涙ぐみながら、最高の笑顔で答えた。
「今度は、蓮の隣が私の指定席(Home)だから」
数日後。
世界中のメディアが、「奇跡の日本人カップル」の登場を待ちわびていた。
かつて日本で「スニーカーとガラスの靴」と揶揄された二人は、今や世界が憧れる「星を仰ぐふたり」として、夢の舞台へ向かおうとしていた。
(第14章 完)
文字通りの意味で。
「……Ren! Look at this!(蓮! これ見て!)」
優音の叫び声で、蓮は飛び起きた。
彼女が突きつけてきたスマートフォンの画面。動画サイトの再生回数のカウンターが、目の前で目まぐるしく回っている。
100万、200万、300万……。
『Who is she?(彼女は誰?)』
『神の歌声だ』
『日本語は分からないけど、涙が止まらない』
コメント欄はあらゆる言語で埋め尽くされていた。
SNSでは『#MyHome』というハッシュタグがトレンド入りし、世界中の人々が、自分の大切な家族や恋人、故郷の風景と共に、優音の曲をBGMにした動画を投稿していた。
「バズってる……なんてレベルじゃないぞ」
蓮も自身のスマホを確認し、息を呑んだ。
音楽ストリーミングサービスの「グローバル・バイラルチャート」で、『Home』が1位に躍り出ていたのだ。
宣伝費ゼロ。事務所のプッシュなし。
ただ、楽曲の力と、優音の声だけで勝ち取った頂点だった。
「どうしよう、蓮。レーベルからメールがいっぱい来てる……」
「慌てるな。今のお前は選ぶ側だ。嫌な条件なら全部断ればいい」
蓮は笑いながら優音の頭を撫でた。かつて日本で、大人の事情に振り回されていた少女はもういない。
そして、快進撃は優音だけではなかった。
蓮が出演した映画『The Long Goodbye(邦題:長いお別れ)』が、北米で限定公開されたのを皮切りに、口コミで爆発的なヒットを記録し始めていた。
蓮の役どころは、主人公を裏切り、最後に自ら命を絶とうとする孤独な移民の青年。
出演時間は決して長くない。しかし、そのスクリーンに映る蓮の瞳——深い絶望と、微かな救いを求める「本物の目」——は、観客と批評家の心を鷲掴みにした。
『この日本人の俳優は何者だ?』
『主演を食う存在感』
『彼の沈黙の演技(サイレント・アクティング)は、雄弁な詩のようだ』
有名映画批評サイトで、蓮の演技への賛辞が並ぶ。
Variety誌は「今年最大の発見(Revelation)」という見出しで蓮の特集記事を組んだ。
ある夜、二人はアパートの小さなテレビで、ニュースを見ていた。
エンターテインメントコーナーで、蓮の映画のヒットと、優音の『Home』の現象が同時に取り上げられた。
キャスターが興奮気味に語る。
「驚くべきことに、この謎の天才シンガー・Yuonと、ブレイク中の俳優・Renは、同じアパートで暮らすパートナーだという噂です!」
画面には、以前SNSに投稿された、サンタモニカの海岸を二人で歩く(後ろ姿の)写真が映し出された。
隠すつもりもなかった。二人は顔を見合わせ、吹き出した。
「バレちゃったな」
「うん。でも、もう『バーター』なんて言わせない」
優音は力強く言った。
その時、蓮の携帯が鳴った。映画の監督からだった。
「……はい。……えっ?」
蓮の表情が強張り、そして徐々に紅潮していく。
電話を切った蓮は、震える手で優音の肩を掴んだ。
「優音、聞いたか? 映画が……アカデミー賞にノミネートされた」
「嘘……!」
「作品賞、監督賞、そして……助演男優賞に、俺が入ってる」
優音は悲鳴を上げ、蓮に飛びついた。
二人は狭いリビングで、子供のようにはしゃぎ回った。
足元には、書きかけの譜面と、読み込まれた台本。
何もなかった二人が、自分たちの力だけで、世界の頂点への切符を手に入れたのだ。
「まだ終わりじゃないぞ」
蓮は優音を抱きしめたまま、真剣な眼差しで言った。
「授賞式には、パートナー同伴が許されてる。……一緒に歩いてくれるか? レッドカーペットを」
優音の胸に、日本での記憶が蘇る。
あの煌びやかな記者会見。レンズの向こう側へ行ってしまった蓮と、端に追いやられた自分。
でも、今は違う。
「うん。行くよ」
優音は涙ぐみながら、最高の笑顔で答えた。
「今度は、蓮の隣が私の指定席(Home)だから」
数日後。
世界中のメディアが、「奇跡の日本人カップル」の登場を待ちわびていた。
かつて日本で「スニーカーとガラスの靴」と揶揄された二人は、今や世界が憧れる「星を仰ぐふたり」として、夢の舞台へ向かおうとしていた。
(第14章 完)
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