星を仰ぐふたりのシナリオ

TAKAHARA HIROKI

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【欧州編】最終章:フィレンツェの鐘

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それから、半年後。
イタリア、フィレンツェ。
「天井のない美術館」と呼ばれるこの美しい街を、夕日が茜色に染め上げていた。
ミケランジェロ広場には、大勢の人々が集まっていた。
今日は、優音のヨーロッパツアー最終公演の野外ステージが特設されていたのだ。
『Grazie!(ありがとう!)』
最後の曲を歌い終えた優音が叫ぶと、広場を埋め尽くした観客から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
あの日、ベネチアのゴンドラで生まれた曲は、『Gondola's Aria』というタイトルで発表され、ヨーロッパ中のチャートを席巻していた。
優音は息を弾ませながら、舞台袖を見た。
そこに、タキシードを着崩した蓮が立っていた。
彼はジャン・リュックの新作映画の撮影を終え、昨夜カンヌから駆けつけたばかりだ。
その映画はまだ公開前だが、関係者の間では「レンの最高傑作になる」と噂されていた。
アンコールの手拍子が鳴り止まない中、優音はマイクを握り直した。
「最後にもう一人、特別なゲストを紹介させてください」
ざわめく観客の前へ、蓮がゆっくりと歩み出る。
悲鳴のような歓声が上がった。
蓮はマイクを受け取らず、優音の隣に立った。そして、何も言わずに彼女の腰に手を回し、引き寄せた。
「……蓮?」
マイクを通して、優音の戸惑う声が響く。
蓮はポケットから、小さなベルベットの箱を取り出した。
広場が一瞬にして静まり返る。
「優音」
マイクを通さない、地声だった。けれど、その低い声は、広場の隅々まで届くほど芯が通っていた。
「俺たちのシナリオには、続きが必要だ」
蓮は片膝をつき、箱を開けた。
中には、星の形をした小さなダイヤが埋め込まれた指輪が輝いていた。
「一生、君の人生(シナリオ)の伴奏をさせてほしい。……結婚してくれ」
優音の手が口元を覆う。
涙が溢れて、景色が滲んだ。
ロンドンでの絶望も、ベネチアでの逃避行も、全てはこの瞬間のための伏線だったのだ。
「……はい。喜んで」
優音が頷くと同時に、フィレンツェ中の教会の鐘が一斉に鳴り響いた(それは偶然の時報だったが、まるで計算された演出のようだった)。
蓮は優音の指に指輪を嵌め、立ち上がると、万雷の拍手の中で彼女に長いキスをした。
空を見上げる。
茜色の空はいつの間にか群青色に変わり、一番星がくっきりと輝いていた。
東京でも、LAでも、そしてヨーロッパでも。
星はいつだって、二人を見守っていた。

『星を仰ぐふたりのアンコール II:欧州編』
—— 完 ——

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