紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第11章:恋と傷跡

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作戦が決まり、仮眠を取ることになった。
 コンクリートの床に、破れたドレスと疾風のジャケットを敷く。
「……疾風、背中を見せて。火傷してるでしょう」
 揚羽の声には、拒否できない響きがあった。
 疾風がシャツを脱ぐと、背中には爆発の熱波でただれた痕が赤黒く残っていた。
「無茶して……」
 揚羽は、どこからか調達してきた一升瓶の蓋を開けた。
 中身は高級日本酒だ。
 彼女はそれを口に含み、霧のように疾風の背中に吹きかけた。
「ぐっ……!」
 傷口にアルコールが染みる。疾風が呻くと、揚羽の冷たい指先が、火照った肌に触れた。
 彼女が取り出したのは、包帯ではない。
 自分の着物の裾(すそ)を引き裂いて作った、白い**晒(さらし)**だ。
 そして、薬草として地下に自生していたドクダミをすり潰した緑色のペースト。
「昔ながらの治療法よ。ナノマシン治療より時間はかかるけど、痕は残らないわ」
 揚羽は手際よく薬草を塗り、晒を蓮の体に巻き付けていく。
 二人の距離が近づく。
 泥と血の匂いの中に、ふわりと揚羽の髪の香り――ジャスミンの残り香が漂った。
 晒を巻き終え、揚羽が結び目を作ろうとした時、疾風が振り返り、彼女の手首を掴んだ。
「揚羽」
「……なに?」
「生きて帰ろう。こんな時代遅れの俺たちでも、まだやるべきことがある」
 揚羽は一瞬だけ、弱々しい少女のような表情を見せた。
 だがすぐに、いつもの不敵な笑みを浮かべ、疾風の額を指先で弾いた。
「当たり前でしょ。まだ、最高級のシャンパンを奢ってもらってないもの」
 薄暗い地下室。
 揺れる松明の火が、二人の影を一つに重ねていた。
 アナログな絆だけが、凍てつく世界で燃え残った最後の希望だった。
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