紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第18章:将軍、抜刀

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皇居の地下深くに設けられた「伊賀幕府・大本営」。
 自家発電の薄暗い灯りの中、非常呼集された閣僚(上忍)たちが、焦燥の色を隠せずに議論を戦わせていた。
「敵の拠点は太平洋上。ミサイルも航空機も制御不能な今、攻撃手段が皆無です!」
「竹槍でB52爆撃機を落とすようなものだ。もはや、降伏しか……」
 弱気な発言が飛び交う中、上座に座る一人の男が、静かに立ち上がった。
 現代の征夷大将軍、服部 雷蔵(はっとり らいぞう)18世である。
 彼が動いた瞬間、騒がしかった会議室が水を打ったように静まり返った。
 将軍の足音が、まったくしなかったからだ。
 歴戦の上忍たちでさえ、その気配を察知できなかった。
 将軍は無言のまま、背後の壁に飾られていた桐箱の前に立った。
 その指先には、長年の厳しい鍛錬によってできた「忍びタコ」があった。彼は、世襲だけの飾り物ではない。かつて天下を統一した「初代・服部半蔵」の血を色濃く受け継ぎ、幼少期より伊賀の里で最も過酷な修行を生き抜いた「免許皆伝」の忍びでもあったのだ。
 将軍が桐箱を開ける。
 中から現れたのは、妖しい紫色の輝きを放つ一振りの直刀(ちょくとう)。
 伝説の忍者刀**『大千鳥(おおちどり)・影打(かげうち)』**。
 歴代の「半蔵」のみが佩刀(はいとう)を許された、忍びの至宝だった。
 シャラッ……。
 将軍が刀を抜くと、その冷気で室内の温度が数度下がったように感じられた。
 刃(やいば)が、薄暗い灯りを吸い込んでギラリと光る。
「……機械に心はない。故に恐怖も知らぬが、真の勇気も知らぬ」
 将軍は刀身に見入ったまま、腹の底から響くような低音で言い放った。
「我が国の忍びたちは、恐怖を知り、それを乗り越える術(すべ)を持っている。データ上の勝率など無意味。……余自らが出陣し、指揮を執る」
「なっ、上様!? そのような無茶な!」
「総大将が前線になど、前代未聞でございます!」
 狼狽える閣僚たちを、将軍は一瞥した。その眼光は、政治家のものではなく、闇夜で獲物を狙う頭領のそれだった。
「案ずるな。わしは此度(こたび)の戦、将軍としてではなく、一人の伊賀者として臨むつもりだ。デジタルが消えた今なら、里の若い者にも遅れはとらんよ」
 将軍が刀を一振りすると、空気が切り裂かれ、ヒュンという鋭い音が鳴った。
 彼は豪奢な羽織を脱ぎ捨てた。その下に着込んでいたのは、実戦仕様の鎖帷子(くさりかたびら)と、漆黒の忍び装束であった。
「それに、この大千鳥が血を求めておる。……ヴォイドの鋼鉄の首をな」
 将軍の覚悟(ゲキ)が飛ぶ。
 それは電波ではなく、魂を震わせる「殺気」の波動となって、絶望しかけていた指揮官たちを奮い立たせた。
 最強の忍び「服部雷蔵」がトップに立った瞬間、日本という国そのものが、巨大な一つの「暗殺集団」となって研ぎ澄まされていく。
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