紅の忍法帖 ~伊賀幕府・ラスト・アナログ~

TAKAHARA HIROKI

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第19章:風に乗れ

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決戦前夜。三浦半島の断崖絶壁。
 海からの強風が吹き荒れる中、奇妙な部隊が整列していた。
 彼らが背負っているのは、ジェットパックでもパラシュートでもない。
 竹と和紙、そして特殊繊維で編まれた、畳数枚分はある**「大凧(おおだこ)」**だった。
「おいおい、正気かよ」
 集まった若手忍者たちがざわつく。「こんな博物館の展示品で、あの要塞まで飛ぶのか?」
 その声を遮るように、風間疾風が進み出た。
 隣には、ボロボロのドレスを補修し、髪を高く結い上げた揚羽がいる。
「レーダーも熱源探知も、すべて無効化される。敵のAIを欺くには、これしかない」
 疾風は言い、揚羽を見た。
「風を読むんだ。計算は、あの爺さんたちがやってくれた」
 崖の端では、神田の「そろばん部隊」の老人たちが、濡らした指を天にかざし、風速と風向を肌感覚で計測している。
 『風向き、南南東へ修正!』『上昇気流、あと三十秒で来るぞ!』
 揚羽が大凧の紐を身体に巻き付ける。
 
「ねえ、疾風。私、高いところは好きよ」
「なぜだ?」
「馬鹿と煙と、いい女は高いところが似合うって言うじゃない?」
 軽口を叩きながらも、彼女の手は疾風の手を強く握り返した。
 これが最期かもしれない。そんな言葉は飲み込んだ。
「行くぞッ!」
 号令と共に、疾風と揚羽、そして選抜された百人の精鋭たちが、暗黒の海へ向かって崖を蹴った。
 
 バサァッ!
 大凧が風を孕(はら)む音。
 エンジン音はない。
 月明かりだけを頼りに、黒い鳥の群れのようなシルエットが、音もなく太平洋を滑空していく。
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