閏述|極限環境における経済活動の終端シナリオについて

八角泰三

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第1章 序論

1.1.1 研究背景|地球外ハビタットの恒常居住化

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近年、人類の地球外活動は探査および短期滞在の段階を越え、恒常的な居住を前提としたハビタットの建設と運用へと移行しつつある。これらの地球外ハビタットは、補給依存型の前哨基地ではなく、出生、成長、就労、老衰といった生活史の全過程が内部で完結する居住空間として設計されている。その結果、地球を一度も直接経験しない個体、あるいは地球への物理的帰還を前提としない個体が、居住者の中核を占める状況が現実のものとなりつつある。

このような恒常居住化は、生命維持、エネルギー循環、物質再利用といった工学的課題に対しては一定の解を与えつつある一方で、社会制度、とりわけ経済活動の基盤に関しては、地球中心的な前提をほぼ無修正のまま引き継いでいる。現在流通している貨幣体系は、依然として地球上の資産、地球経済圏における信用、あるいは地球を基準とした価値尺度を参照点としており、地球外ハビタットはそれを外挿する形で運用されている。

しかし、地球外で生涯を完結させる個体にとって、地球に存在する資産や市場は、直接的に観測も操作もできない抽象的参照項となる。その参照関係は制度上維持されているものの、日常的な生存、労働、消費といった行為との対応関係は次第に不透明になりつつある。特に、極限環境下においては、生活コストの大部分が生命維持に直結する物理的資源によって占められるため、地球起源の資産価値と個体の生存条件との乖離は無視できない水準に達しつつある。

本研究は、このような状況を価値判断や制度批判としてではなく、運用上の背景条件として捉える。すなわち、地球外ハビタットの恒常居住化が進展した結果として、既存の経済活動がどのような参照軸の下で再記述可能であるかを検討するための前提条件を、本節では整理する。ここでは、特定の経済制度の優劣を論じることを目的とせず、あくまで地球外居住という生活様式の定着が、経済活動の記述方法そのものに与える影響に焦点を当てる。

【参考文献】
アレクサンドル・ヘルツ『地球貨幣体系の形成と拡張――資産参照型経済の四千年史』(オルビス出版、2179)
ミラ・ソーン/カイル・ユーノ『地球居住者と地球外居住者のインフラ費用――ラグラン係数と生存余裕度』(アストラ経済新聞社、2195;原連載:アストラ経済新聞、2190–2193)
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