閏述|極限環境における経済活動の終端シナリオについて

八角泰三

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第1章 序論

1.1.2 研究背景|地球資産参照型貨幣体系の運用上の限界

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地球外ハビタットにおける経済活動は、形式上は地球資産参照型の貨幣体系をそのまま継承している。すなわち、通貨の価値は地球上の資産、市場規模、信用構造を基準として定義され、地球外居住区における取引は、その外延として処理されている。この枠組みは、地球外活動が限定的であり、地球との物流・通信が安定していた段階においては、運用上の支障を顕在化させにくかった。

しかし、恒常居住化が進行するにつれ、この参照構造は次第に運用上の摩擦を生じさせている。第一に、地球資産は地球外居住者にとって直接的に検証不能であり、通貨価値の裏付けとしては完全に外在化された対象となる。その結果、貨幣は生存や労働の結果を表象する指標というよりも、制度的に付与された記号として機能する比重を強める。

第二に、地球外ハビタットにおける生活コストは、環境条件の制約により高度に物理資源依存的である。酸素、水、食料、熱管理といった要素は代替が困難であり、その供給の安定性は個体の生存に直結する。一方で、地球資産参照型貨幣体系における価格形成は、これらの物理的制約を間接的にしか反映しない。この非対称性は、特に供給変動や外乱が生じた際に、貨幣価値と実際の生存条件との乖離として顕在化する。

第三に、地球外居住者の中には、地球経済圏との直接的な接点を持たない世代が含まれるようになっている。こうした個体にとって、地球資産を基準とする価値尺度は、歴史的・制度的に与えられた前提ではあっても、生活経験に基づく実感を伴わない。貨幣は依然として使用され続けるが、その価値が何を参照しているのかについての理解は、制度的説明に委ねられる割合が増加する。

これらの点は、地球資産参照型貨幣体系が直ちに機能不全に陥ることを意味するものではない。むしろ問題となるのは、当該体系が運用可能であり続ける一方で、地球外ハビタットにおける生存条件や資源循環との対応関係を内部に持たない点である。この乖離は、制度上は吸収可能であっても、経済活動を記述する際の参照軸としては次第に不透明さを増す。

以上のような運用上の限界は、価値判断や制度改革の必要性を直接的に導くものではない。本研究では、これらを既存体系の欠陥として扱うのではなく、地球外ハビタットにおける経済活動を別の参照基準で記述する余地が生じている背景条件として位置づける。次節以降では、この参照基準の一つとして、物理量に基づく再記述の可能性を検討する。

【参考文献】
レナート・ヴァイス『工作読本・閉鎖環境居住区の作り方と暮らし方』(ヘリオス工房、2185)
ユイ・カザマ『地球を知らない世代――非地球起源個体の地球参照性』(ノヴァ人類学会、2201)
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