閏述|極限環境における経済活動の終端シナリオについて

八角泰三

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第4章 価格・レートの再定義

4.3 市場行為の再解釈

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本節では、生存効率係数およびその予測誤差を踏まえた上で、従来「市場行為」と呼ばれてきた諸活動を、カロリー基準の枠組みにおいて再解釈する。ここでの再解釈は、市場の否定や代替を目的とするものではない。むしろ、市場行為が担ってきた機能を、生存条件との関係において読み替える試みである。

市場行為は、価格を媒介として、資源配分やリスク分散、期待形成を行ってきた。取引、投機、貯蔵、保険といった行為は、いずれも将来の不確実性に対する応答として理解できる。カロリー基準においても、この構造自体は維持されるが、その参照軸は抽象的価値から、生存への効果へと移行する。

例えば、貯蔵行為は、価格変動への備えとしてではなく、将来の生存条件を安定させるための選択として再解釈される。ここで重要なのは、貯蔵が必ずしも最適解であるとは限らない点である。減衰や不可逆性を考慮すれば、一定量以上の貯蔵は、生存効率係数を低下させる可能性を持つ。これは、価格が上昇すると期待して過剰に在庫を抱える行為が、結果として損失を生む場合と構造的に類似している。

交換行為も同様に再解釈される。価格に基づく交換は、利得の最大化を目的とするが、カロリー基準では、交換は生存条件の改善を目的とした再配分として位置づけられる。このとき、交換の合理性は、生存効率係数の比較によって判断されるが、その判断は常に予測誤差を含む。したがって、交換は最適化行為というよりも、不完全な情報下での調整行為として理解される。

投機的行為に相当するものも存在する。将来の生存条件が改善すると予測される資源や技術に、現在のカロリーを集中させる選択は、価格市場における先物取引と同型である。ただし、その結果が個体の生存に直結する点において、リスクの質は異なる。この差異は、投機を否定する理由にはならないが、その影響範囲を明確にする。

市場における失敗や破綻も、同様に再解釈される。生存効率係数の過大評価や、予測モデルへの過信は、カロリー配分の歪みを生み、結果として生存条件を悪化させる。これは、価格市場におけるバブル崩壊や連鎖破産と対応する現象であるが、ここでは抽象的な損失ではなく、具体的な生活条件の悪化として現れる。

以上のように、市場行為はカロリー基準の導入によって消失するのではなく、その意味内容を変える。取引、貯蔵、投機、調整といった行為は、生存効率係数という参照軸を通じて再配置され、生存にどのような影響を与えるかという問いに直結する形で理解される。本研究が示すのは、新しい市場の設計ではなく、既存の市場行為を別の物理量に写像したときに現れる構造である。

次章では、この再解釈が集団レベルでどのような動態を生み出すかを検討し、成功と破綻の典型的なパターンを例示する。

【参考文献】
エリック・ヴァン・ドーン『閉鎖環境市場の実際――宇宙港とハビタットの物々交換史』(オービタル・フィールドノーツ、2184)
マックス・オルティス『市場はだいたい間違う――経済学者のための失敗小話集』(アンダーグラウンド・エコノミクス社、2188)
リナ・フェルドマン 作/ユウ・タカハシ 絵『ぼくのケーキのほうが小さい』(綴社、2169)
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