閏述|極限環境における経済活動の終端シナリオについて

八角泰三

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第5章 制度的実装形態の比較

5.1 政府発行型(インフラ的生産)モデル

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本節では、カロリー基準に基づく経済活動を、政府発行型(インフラ的生産)モデルとして実装した場合の構造と特性を整理する。このモデルにおいて政府は、通貨発行主体としてではなく、生存に必要な基礎的生産を維持するインフラ運営主体として位置づけられる。

政府発行型モデルの中核は、食料・酸素・水・温度制御といった生存に不可欠な要素を、公共インフラとして一元的に生産・配分する点にある。これらの生産活動は、直接的に ML 上のカロリーとして記録され、個体への配分は CR 操作として反映される。ここで重要なのは、政府が「価値」を発行するのではなく、生存条件そのものを安定供給することで、結果としてカロリーが流通する構造になっている点である。

このモデルにおいて、政府は価格調整や市場介入を行わない。配分の基準は、最低生存条件を満たすための必要量に限定され、余剰の配分や選択の自由は制度の外部に委ねられる。その結果、政府の役割は、経済主体というよりも環境条件の維持装置に近づく。

安定性の観点から見ると、政府発行型モデルは、初期段階および極限環境下において高い有効性を示す。生産量と人口規模が比較的固定されている場合、インフラ的生産は予測可能性が高く、減衰や不可逆操作を織り込んだ上でも、最低限の生存を保証しやすい。この点において、本モデルは、ハビタット建設直後や災害後の再建期に適している。

一方で、このモデルには構造的な制約が存在する。第一に、生存以上の選択を内部で扱えない点である。政府発行型モデルは、最低限の生存を維持することには適しているが、個体ごとの嗜好やリスク選好の差異を反映する仕組みを持たない。その結果、余剰カロリーの利用や生存効率係数に基づく最適化は、制度の外部で発生する。

第二に、政府自身が単一障害点となる点である。生産設備の故障、運営判断の遅延、あるいは予測モデルの誤差が累積した場合、その影響は集団全体に波及する。ML 上では記録の整合性が保たれていたとしても、物理的生産が停止すれば、記録は意味を失う。

さらに、政府発行型モデルでは、減衰と不可逆性が制度内部に吸収されやすい。損失や効率低下は、個体の選択ではなく、インフラ全体の性能として現れるため、責任の所在が曖昧になりやすい。この点は、安定性を高める一方で、調整速度を低下させる要因ともなる。

以上より、政府発行型(インフラ的生産)モデルは、生存の底を支える構造として高い信頼性を持つが、経済活動全体を内包するモデルではない。本研究の枠組みにおいて、本モデルは単独で完結する制度ではなく、他の実装形態と併存することで初めて機能する基盤的構成要素として位置づけられる。次節では、この基盤の上に企業的主体がどのように振る舞い得るかを検討する。

【参考文献】
大槻 伸輔『配給という生活――戦後初期における食糧管理の記録』(国民生活叢書、1951)
マーガレット・L・ハリス『配給国家の設計――非常時における生存インフラの政治学』(オルタナ・ポリティクス出版、2124)
地球外居住庁 編『恒常ハビタットにおける基礎生存インフラ運用白書』(地球外居住庁報告書、2189)
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