閏述|極限環境における経済活動の終端シナリオについて

八角泰三

文字の大きさ
24 / 43
第6章 回収不能・代替不能時の挙動

6.3 生存単位の縮小

しおりを挟む
前節で述べた制度的経済の解体過程を経ると、経済活動を記述するための主体単位は、不可逆的に縮小していく。本節では、この生存単位の縮小がどのように進行し、どの水準で安定するかを整理する。

制度的経済が機能している間、個体は生産・交換・貯蔵・吸収といった操作を通じて、経済主体として記述される。しかし、観測不能および調整不能の状態が持続すると、これらの操作は成立せず、個体はもはや経済的判断の対象として扱われなくなる。このとき起こるのは、個体の消失ではなく、記述単位の変更である。

生存単位の縮小は、まず個体単位から関係単位への移行として現れる。扶養関係や共同生活単位が維持されている限り、制度は個体ではなく、最小限の生活集団を参照する。ここでの単位は、法的・制度的に定義されたものではなく、実質的にカロリーを共有し得る範囲として成立する。

次に、関係単位が維持できなくなると、生存単位は機能単位へと縮小する。すなわち、「誰が生きているか」ではなく、「どの機能が維持されているか」が参照されるようになる。居住区の一角、循環設備の一部、あるいは特定の作業工程が、生存を支える最小単位として扱われる。この段階では、人間は制度的記述から後景化し、環境の構成要素の一部として位置づけられる。

最終的に、生存単位はカロリーそのものに還元される。生産能力を失い、貯蔵も尽き、関係も断たれた個体は、制度的にはこれ以上分解できない存在として扱われる。この還元は、倫理的判断や選別の結果ではなく、記述上の必然である。制度は、個体を「処理する」のではなく、生存を構成していたエネルギーの配置を更新するに過ぎない。

この段階において、個体は経済主体でも、生活単位でもなくなるが、生存の連鎖から完全に切り離されるわけではない。生存単位の縮小とは、生命の否定ではなく、制度が参照できる最小単位への遷移である。そこでは、生存は引き続き起こっているが、もはや経済的言語によって記述されない。

以上のように、生存単位の縮小は、回収不能・代替不能時の挙動の最終段階として位置づけられる。この段階に到達したとき、制度的経済は役割を終え、その外部にある生存様式が前景化する。次章では、こうした境界から距離を保ちながら制度が成立する条件、すなわち成立パターンの例示を行う。

【参考文献】
ハロルド・T・グリーン『完全循環社会――廃棄物ゼロ設計の思想』(ノード環境工学叢書、2164)
環境資源庁 編『再資源化基準マニュアル 第5版』(官庁標準資料、2171)
マーティン・J・コール『捨てない社会――すべては何かに使える』(アンダーサイド・ブックス、2160)
匿名『あなたも資源になれる』(私家版、2157)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...