閏述|極限環境における経済活動の終端シナリオについて

八角泰三

文字の大きさ
39 / 43
第11章 結論

11.2 極限環境における経済活動の終端像

しおりを挟む
本研究で示した枠組みを最後まで追うと、極限環境における経済活動は、破壊や崩壊によって終わるのではなく、役割を終えることで静かに周縁化される像として現れる。ここで想定される終端は、資本主義の否定や貨幣経済の失敗を意味しない。むしろ、それらが長い時間にわたり有効に機能してきた事実を前提としたうえで、参照される必要がなくなる局面を指している。

カロリー基準による再記述を通じて明らかになったのは、経済制度が生存を媒介する装置として成立している限り、その存在は必然であるという点である。しかし、生存が制度を経由せずに継続可能となる条件が満たされた場合、経済活動は存続しつつも、行為選択の中心から退いていく。価格、交換、蓄積といった操作は消滅しないが、それらを用いなくとも生活が成り立つため、参照されない操作として残る。

この終端像において、貨幣経済は崩壊しない。制度は維持され、記録も残り、場合によっては再び利用される余地を持つ。ただし、それは生存を保証するための不可欠な条件ではなくなる。経済は、生活を支える基盤から、選択可能な補助的手段へと位置づけを変える。その結果として、経済活動は終わるのではなく、生活から切り離される。

重要なのは、この過程が意図的に設計されたものではない点である。理念や政策によって経済を廃する必要はなく、また倫理的判断によって交換を拒否する必要もない。生存に関わる操作が計測や清算を必要としなくなった結果として、経済が自然に用いられなくなる。この意味で、終端像は未来予測ではなく、条件を最後まで記述した際に現れる帰結である。

極限環境において観測され得る経済活動の終端像とは、制度が否定される未来ではない。制度が機能を失うのでもない。制度が役割を終えた後も、生活が継続してしまう状態である。経済は消えず、ただ生活の中心から外れる。そのとき残るのは、生存という事実だけであり、そこでは経済という語自体が、もはや必要とされない。

本研究が描いた終端像は、結論ではなく記述の停止点である。これ以上、経済について語るための参照軸が存在しない地点において、経済活動は静かに終わる。そこに到達したとき、終わったのは制度ではなく、制度について語る必然性そのものである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

処理中です...