テオと夢想の魔導士たち

八角泰三

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サカキ

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ヴィラレライトの朝は、いつも世界が生まれたてであるかのように透き通っている。

淡い金色の陽光が、幾重にも重なる緑の天蓋をすり抜けて、柔らかな芝生の上に木漏れ日のレースを編み上げていた。どこからか吹き抜ける微風は、名も知れぬ甘い花の香りを運び、世界を満たしている。

その静寂の庭園の奥、蔦の絡まる白いベンチに、ひとりの貴人が腰掛けていた。
透き通るような白磁の肌と、光を織り込んだような銀糸の髪を持つ貴人が、瞬きすら忘れたように、ただ一点の虚空を見つめ続けている。
あまりにも微動だにしないため、まるで精巧な大理石の彫像が、この美しい庭園の風景の一部として、静かに同化しつつあるようだった。

「おはよう、サカキさん!」

無邪気な声が足音と共に近づいてきても、サカキと呼ばれた貴人はすぐには動かなかった。
永遠にも似た数秒の沈黙の後、ひどくゆっくりとした動作で、彼は視線を落とした。澄み切った湖面のような瞳が、自分を見上げる小さな影を映し出す。

「……ああ、おはよう、テオ。」
サカキの声には、感情の波立ちが一切なかった。風の止んだ水面を撫でるような、どこまでも静かで凪いだ響きだった。
「何をしているの?」
テオが小首を傾げると、サカキは再び視線を庭の茂みへと戻した。

「今朝は、いつもより早く目が覚めてね。夜明けの時刻に、あの葉の先から朝露が滴り落ちるのを見たんだ。」
サカキの細く美しい指先が、何もない空間をそっとなぞる。
「その、水滴が地に落ちていく完璧な軌跡の中に……私は、この世界を構成する真理の片鱗を見た。今は、その奇跡を称えるための即興詩を編んでいるところだよ。」

「それは素敵だね。どんな詩なの?」
「まだ、一行目すらできていない。最初の単語を構成する、母音の響きの美しさについて熟考しているからね。」

テオは、自分の腕にはめられた小さな腕時計に目をやった。針はすでに、お昼の少し前を指している。
「そっか。素敵な詩になるといいね!」
テオが元気よく手を振っても、サカキからの返事はもうなかった。彼は再び、永遠にも似た思索の海へと深く沈んでいった。

その日の夕暮れ。
空が優しい薄紫色に染まる頃、テオは小脇にノートを抱え、ヴィラレライトの中心にそびえ立つ巨大な塔へとやってきた。
雲を突き抜けて頂上の見えないその塔の中枢には、分厚い絨毯の敷かれた静かな部屋がある。そこで多肉植物のようにどっしりと座っているのが、テオたち「隣人」の管理者であるシッポウだった。

「本日の記録です、シッポウ。」
テオが机の上にノートを広げると、シッポウは穏やかな微笑みを浮かべてそれに目を通した。

シッポウの指先がなぞるノートの一番新しいページには、テオの丸っこい文字で、今日の報告が記されていた。

『サカキ、庭で5時間ぼーっとする』

「ご苦労さま、テオ。……今日も、皆さん穏やかな一日を過ごされたようですね。」
「うん。ツバキさんは枯葉が落ちるのをずっと見てたし、リョウブさんは雲を見て三日目になるよ。」
「そうですか。」

シッポウは、テオの言葉に深く頷き、大きな手で優しく彼の頭を撫でた。そして、分厚い革張りのバインダーに、テオのノートの記述を丁寧に綴じていく。

綴じ終えたバインダーを静かに閉じると、パタンという重厚な音が絨毯敷きの部屋に吸い込まれていった。

「サカキさんの詩が完成するまでは、しばらくそっとしておきましょう。……テオ、明日はリョウブさんの様子を見に行ってくれませんか。」
「リョウブさん?うん、いいよ。でも、リョウブさんは本当にのんびり屋さんだね。アシュプルの皆はそうだけど、特に。」

テオが不思議そうに首を傾げると、シッポウは静かに目を伏せ、窓の外――薄紫色に染まりゆくヴィラレライトの広大な庭園へと視線を向けた。

「長く生きたアシュプルほど、時間の流れに対して大らかになるのです。彼らが積み重ねてきた悠久の時の中では、数日、あるいは数年という単位すら、意味が曖昧になるのでしょうね。」
「ふうん。僕たちとは違うんだね。」
「ええ。彼らと我々とでは、世界を測る尺度が全く異なるのです。だからこそ、あなたが時折こうして声をかけ、彼らの時間をこの世界に繋ぎ止めてあげることが必要なのですよ。」

「わかった!じゃあ明日、リョウブさんに雲の形のこと、聞いてみるね。」と、テオは元気よく頷いた。

無邪気に笑うテオを見下ろし、シッポウは再び静かで深い微笑みを浮かべた。
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