転生兄が妹の王子を奪っちゃった件

ちなみ

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十二

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    十二


 王宮の一室に、柔らかな朝の光が差し込む。
 豪華だがどこか無機質な部屋。
 今はその中に温度があった。
「おにいさん……」
 ベッドの中から、眠たげな声。
「まだ、朝ですか……?」
「ああ」
 椅子から立ち上がり、カーテンを少しだけ開ける。
「いい天気だ」
「そう、ですか……」
 もぞもぞと布団を動かす音。
「……もう少し」
 そう言って、布団の中に潜り込もうとする。
「起きろ」
「無理です」
「無理じゃねえ」
「だって……」
 小さく、言い訳するように――
「昨日……すごく疲れたので……」
「……それは、否定しねえ」
 少しだけ、声を緩める。
「でも……」
「でも?」
「……朝飯」
「っ」
 ペルフェはぴくっと反応した。
「……朝飯?」
「ああ……」
「それなら」
 もぞもぞと布団から顔を出す。
「起きます」
 その即落ち具合に思わず口元が緩む。
「単純だな」
「失礼ですね」
 そう言いながら、少しだけ、頬が膨れる。
「でも……」
 少し真面目な声になる。
「今まで朝ごはんあんまり食べられなかったので……」
 胸の奥が、ちくりとする。
「今は」
 視線を合わせる。
「今は、どうだ……」
 ペルフェは少し考えるようにしてから言った。
「お腹空いてます……」
 その一言で、胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「よし」
 俺は、満足そうに頷く。
「それなら」
「それなら?」
「ちゃんと食わせる」
「ふふ」
 ペルフェは、少し照れたように笑った。

 朝食は、王宮とは思えないほど、素朴だった。
 白パン、スープ、果物、卵料理。
 だが、ペルフェは、それを、まるで宝物のように見つめている。
「すごい」
「何が」
「全部食べられそうです」
 その言い方があまりにも嬉しそうで胸が少しだけ締め付けられる。
「無理すんな」
「しません」
 そう言って、スープを一口、口に運ぶ。
「あ……」
 目が、少し見開かれる。
「……美味しい」
「普通だろ」
「普通が」
 言葉を探すように少し間を置いて――
「こんなに美味しいんですね……」
 胸の奥がじんわりと熱くなる。
「今まで」
「言うな」
 少し強めに言ってしまう。
「今は」
「今、ですね」
 ペルフェはにこっと笑った。
「今、美味しいです」
 それでいい。
 それだけで、いい。

 食事を終えたあと窓際の椅子に並んで座る。
 外では、王宮の庭園が穏やかな朝の光に包まれていた。
「おにいさん」
「ん」
「僕……」
 少し、言い淀んでから――
「昨日のこと夢じゃないですよね」
「夢なら」
 少しだけ、意地悪く言う。
「こんなに腹減らねえ」
「ふふ」
 ペルフェは、くすっと笑った。
「そうですね」
 しばらく、沈黙があって、やがて彼が小さく言った。
「おにいさん」
「何だ」
「僕」
 視線を落とす。
「今まで誰かに触られるの怖かったんです」
 その言葉に、胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
「うん」
「でも」
 少しだけ顔を上げる。
「今……」
 俺の袖をそっと掴む。
「おにいさんなら」
 その指先がわずかに震えている。
「大丈夫……です」
 胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「触るぞ……」
 低く言う。
「はい」
 その返事を確認してから、ゆっくりと肩に手を置く。
 びくっとする様子は、ない。
 少し緊張しているが、逃げない。
「……大丈夫か」
「はい」
「嫌なら……」
「……嫌じゃない……です……」
 その言葉に胸の奥が温かくなる。
 そっと引き寄せる。
 ペルフェは一瞬だけ戸惑ったように目を瞬いたが、すぐにこちらに身を寄せてきた。
「……あ」
 小さく、息を吐く。
「心臓……」
「何だ」
「速い」
「俺のか」
「はい」
「……お前のも」
「え」
「速い……」
 そう言って、胸に触れさせる。
 ペルフェは、目線をキョロと彷徨わせる。
「……本当だ……」
「……緊張してる……」
「……してます……」
 素直に言う。
「でも」
 視線を、俺に向ける。
「嫌じゃない……」
 その言葉に胸の奥がじんわりと熱くなる。
 俺はそっと彼の頭に手を置いた。
「よく頑張ったな」
「え……」
「今まで」
 少し、言葉を選ぶ。
「ずっと……」
 ペルフェの目が、潤む。
「そんな……」
「褒めるよ」
 即断だった。
「生きててくれてありがとう」
 その言葉にペルフェの目からぽろっと涙が零れる。
「おにいさん……」
「何だ」
「……僕……」
 涙を拭おうとして、手が震える。
「……今……すごく……幸せです……」
 その言葉に胸の奥が静かに確実に崩れた。
「……ああ」
 低く、答える。
「俺もだ……」
 そう言って、そっと額にキスを落とす。
 ペルフェは、少し驚いたように目を見開いたが、すぐに、照れたように笑った。
「おにいさん」
「嫌だったか」
「いえ」
 首を振る。
「嬉しいです」
 その言葉に、胸の奥が、さらに熱くなる。
「じゃあ」
「じゃあ……?」
「……もう一回……」
「え……」
「……嫌なら」
「……嫌じゃ……ないです……」
 そう言って目を閉じる。
 その仕草があまりにも無防備で、胸がぎゅっと締め付けられる。
 もう一度軽く額にキスをする。
「……ふふ……」
 ペルフェは、くすっと笑った。
「くすぐったい……」
「文句言うな」
「言ってません」
 そう言いながら俺の服をそっと掴む。
「おにいさん……」
「ん」
「……ずっと……」
 小さな声。
「……そばに……いてください……」
 その言葉に胸の奥が静かに、確実に満ちていく。
「ああ」
 即答だった。
「ずっとだ」
 こいつが、俺の腕の中で穏やかな呼吸をしている。
 それだけで全部、報われた気がした。
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