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Day40-⑨ ドゥ・アル・ウヌ
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屋敷の裏手側に回ったカール達は、イオタと敵が発する戦闘音を聴きながら、ガレージからの侵入を試みていた。
「早速、派手に暴れてるな……。良し、そろそろ俺達も行こう。俺が先を行くから、皇は援護を頼む」
カールは軍用拳銃の残弾を確かめつつ皇に指示し、勇示からの通訳を受けた彼女は無言で深く頷いた。
カールと皇の二人はドアの両脇に陣取り、カールが静かにドアを半開きにして拳銃を中に向け、次いで室内を覗き込む。
物音や動く物が感じられない事を確認し、皇にOKサインを出して、足音を立てない様に忍び足で進入する。
ガレージ内は小綺麗に整理されており、設備や道具が、簡易的な整備工場の様相を呈している。その中央に一台の大型SUVが停められていた。
カールはその車に目をやると、車の股下、車内等に注意しつつ、車の観察もする。
「ふーん……。装甲車の民間モデルか? エアレス・タイヤまで履いてるな」
カールは、蜂の巣の様な断面の、多層構造のタイヤに目をやりつつ呟いた。
「勇示、どうする? 壊しておくか? 証拠物件だろうし傷を付けるのも良くないか?」
『アア……、逃ゲラレタッテ別ニ構ワン。暴走族達ハ本来ノたーげっとジャナイ』
「何だ? ここの奴等を捕まえようとしてるんじゃないのか?」
『白状スルガ、族ノ連中ニ対シテノ任務ハ、ナルベク多クノ人数ヲ大怪我サセル事ダ。逮捕ハ副産物ナンダヨ』
カールは事情を聞きながら、棚に置かれている工具やオイルに目をやる。
「そうなのか? まあ、俺は管轄違いだから深くは訊かないが……」
その時突然、車の向こうのドアが開いて若い男を先頭にボスが姿を現した。
カールは反射的に皇の腕を掴み、共に車の陰に隠れた。
「俺達の車に近付くな、ヤンキー共が!」
若い男は言うなり、サブ・マシンガンを発砲しながらカール達の側に回り込もうとする。
「俺はアラスカ生まれだ、ヤンキーじゃねえ!」
流れ弾の着弾での埃を浴びつつ、カールは口でも応戦しながら、若い男の足元を狙って車の下側から撃ち返す。しかし若い男も、工具箱を横倒しにして弾除けとした。
一方皇もボスを相手に銃撃戦を始めるが、壁や車の存在が敵にとっても盾となり、中々当てられずにいる。
そこでカールは、棚に並べられていた潤滑油の缶を一つ手に取り、若い男の頭上に放り投げた。
「皇、あれを撃て!」
英語での指示だったが皇は理解し、一〇〇式を全弾発射。缶は破れて周囲に油の雨を降らせ、若い男は銃を傘にしながらそれを回避したものの、銃が油まみれになってしまった。
「さあて、撃てば全員焼け死ぬかも知れねーぜ! 大人しく捕まれ!」
カールは宣告しながらオイルの缶を片っ端から開けては床に転がす。見る見る内に、ガレージの床は油で覆われた。
「死なばもろともだ! 試してやる!」
その警告を無視し、ボスは油の海を撃とうとする。
だがリロード中の皇は瞬間的に対応し、近くに有った大型のレンチを投げ付ける。
レンチはボスの頭に直撃し、ボスは頭を押さえて片膝を突く。その患部から血が流れ始めた。
「ナイスだ皇!」
「くそ……!」
褒めるカールに、恨み言を呟くボス。
「ボス! ここは任せて、行って下さい!」
「頼む、『シェージ』……!」
ボスはふらつきながらその場から去る。皇はその後を追おうとするが、床を滑って来たタイヤに足を払われ、その場に転んで油にまみれた。
「ここは任せろって言ったろう? 1対2でも勝ち目が有るのさ」
シェージは油で滑ってもがいている皇に、使い物にならなくなったサブ・マシンガンを投げ付けて牽制し、カールには手招きする。
「勘違いするな! こっちは警察が来るまで粘れば良い! 勝つ必要は無い!」
カールは言いながら幾つかのスパナを手にし、車のボンネットに飛び乗る。
そこからシェージを狙って一本ずつ投げ付ける。だが、シェージは仰向けになって壁を蹴る事で油の床を滑走して避け、反対側の壁に設置してあった棚をカールに向かって倒す。
カールがそれから身をかわした隙に、シェージは手近に落ちて来た十字レンチを拾うと、棚をよじ登って車上でカールに対峙する。
「確かにそろそろ警察が来るかもな。そして床のオイルに火が点くかもなぁ。それでお前らごと始末する!」
「それはどうかな!?」
カールは腰の軍用ナイフを抜いて身を低く構える。
カールは一瞬フェイントを入れ、踏み込みつつ斬り上げる。しかし十字レンチの股で受け止められ、鳩尾付近にレンチの先での突きを食らう。
怯んだ所に、シェージがカールの首を十字レンチの股で打ち付けようとする。その瞬間、シェージの片腕にエア・ブラシ付きのホースが巻き付いた。皇が、空気圧縮機のチューブを投げ付けたのだ。皇と綱引きをする格好になる。
「隙有り!」
掛け声に合わせて、カールはシェージを蹴り落とそうとする。しかしシェージは「おっと!」と自ら車の下に飛び降りて回避、皇は空気圧縮機ごと引っ張られて車に叩き付けられた。
対してシェージは落下の勢いを活かして車の下を滑り抜け、ぶつかった衝撃で意識が飛びかけの皇 の脇に現れると、チューブで背後から彼女の首を締め上げる。尚、仰向けに寝そべる事で、カールに対しての盾としても使っている。
「邪魔するから死んで貰うよ!」
「…………! …………!」
皇は声も出せずに苦しみ、早くも顔が真っ赤になり、首周りに血管が浮き出ている。
しかし、脇に差していた二十六年式拳銃 剛健版を抜く事が出来た。
肩越しにシェージの顔に突き付けると、シェージは反射的に両手でその銃を掴んでしまった。首絞めが緩まった正にその瞬間、皇は頭を振り上げて、後頭部でシェージの口元に頭突きしたのだ。
「しまっ……た!」
前歯の全てが抜けかけになった口を押さえ、シェージは痛みに耐える。その隙に、皇は彼から距離を取った。
「終わりだ!」
カールはナイフを納め、車から飛び降りる。着地点はシェージの腹。腹部を踏み潰されたシェージは一瞬くの字になると、やがて全身から力が抜けた。
カールは「ふぅ~~っ……」と深く溜め息をすると、皇に向き直る。
「ケガハ、ナイカ?」
皇は目を丸くして顔を上げるが、すぐに首を縦に振った。
「そっか。コイツを縛って、見張りついでに休んでろ。俺はボスを探しながらデイブレイクの加勢もする」
カールはロープを皇に渡すと、ボスが消えた方へと向かった。
「早速、派手に暴れてるな……。良し、そろそろ俺達も行こう。俺が先を行くから、皇は援護を頼む」
カールは軍用拳銃の残弾を確かめつつ皇に指示し、勇示からの通訳を受けた彼女は無言で深く頷いた。
カールと皇の二人はドアの両脇に陣取り、カールが静かにドアを半開きにして拳銃を中に向け、次いで室内を覗き込む。
物音や動く物が感じられない事を確認し、皇にOKサインを出して、足音を立てない様に忍び足で進入する。
ガレージ内は小綺麗に整理されており、設備や道具が、簡易的な整備工場の様相を呈している。その中央に一台の大型SUVが停められていた。
カールはその車に目をやると、車の股下、車内等に注意しつつ、車の観察もする。
「ふーん……。装甲車の民間モデルか? エアレス・タイヤまで履いてるな」
カールは、蜂の巣の様な断面の、多層構造のタイヤに目をやりつつ呟いた。
「勇示、どうする? 壊しておくか? 証拠物件だろうし傷を付けるのも良くないか?」
『アア……、逃ゲラレタッテ別ニ構ワン。暴走族達ハ本来ノたーげっとジャナイ』
「何だ? ここの奴等を捕まえようとしてるんじゃないのか?」
『白状スルガ、族ノ連中ニ対シテノ任務ハ、ナルベク多クノ人数ヲ大怪我サセル事ダ。逮捕ハ副産物ナンダヨ』
カールは事情を聞きながら、棚に置かれている工具やオイルに目をやる。
「そうなのか? まあ、俺は管轄違いだから深くは訊かないが……」
その時突然、車の向こうのドアが開いて若い男を先頭にボスが姿を現した。
カールは反射的に皇の腕を掴み、共に車の陰に隠れた。
「俺達の車に近付くな、ヤンキー共が!」
若い男は言うなり、サブ・マシンガンを発砲しながらカール達の側に回り込もうとする。
「俺はアラスカ生まれだ、ヤンキーじゃねえ!」
流れ弾の着弾での埃を浴びつつ、カールは口でも応戦しながら、若い男の足元を狙って車の下側から撃ち返す。しかし若い男も、工具箱を横倒しにして弾除けとした。
一方皇もボスを相手に銃撃戦を始めるが、壁や車の存在が敵にとっても盾となり、中々当てられずにいる。
そこでカールは、棚に並べられていた潤滑油の缶を一つ手に取り、若い男の頭上に放り投げた。
「皇、あれを撃て!」
英語での指示だったが皇は理解し、一〇〇式を全弾発射。缶は破れて周囲に油の雨を降らせ、若い男は銃を傘にしながらそれを回避したものの、銃が油まみれになってしまった。
「さあて、撃てば全員焼け死ぬかも知れねーぜ! 大人しく捕まれ!」
カールは宣告しながらオイルの缶を片っ端から開けては床に転がす。見る見る内に、ガレージの床は油で覆われた。
「死なばもろともだ! 試してやる!」
その警告を無視し、ボスは油の海を撃とうとする。
だがリロード中の皇は瞬間的に対応し、近くに有った大型のレンチを投げ付ける。
レンチはボスの頭に直撃し、ボスは頭を押さえて片膝を突く。その患部から血が流れ始めた。
「ナイスだ皇!」
「くそ……!」
褒めるカールに、恨み言を呟くボス。
「ボス! ここは任せて、行って下さい!」
「頼む、『シェージ』……!」
ボスはふらつきながらその場から去る。皇はその後を追おうとするが、床を滑って来たタイヤに足を払われ、その場に転んで油にまみれた。
「ここは任せろって言ったろう? 1対2でも勝ち目が有るのさ」
シェージは油で滑ってもがいている皇に、使い物にならなくなったサブ・マシンガンを投げ付けて牽制し、カールには手招きする。
「勘違いするな! こっちは警察が来るまで粘れば良い! 勝つ必要は無い!」
カールは言いながら幾つかのスパナを手にし、車のボンネットに飛び乗る。
そこからシェージを狙って一本ずつ投げ付ける。だが、シェージは仰向けになって壁を蹴る事で油の床を滑走して避け、反対側の壁に設置してあった棚をカールに向かって倒す。
カールがそれから身をかわした隙に、シェージは手近に落ちて来た十字レンチを拾うと、棚をよじ登って車上でカールに対峙する。
「確かにそろそろ警察が来るかもな。そして床のオイルに火が点くかもなぁ。それでお前らごと始末する!」
「それはどうかな!?」
カールは腰の軍用ナイフを抜いて身を低く構える。
カールは一瞬フェイントを入れ、踏み込みつつ斬り上げる。しかし十字レンチの股で受け止められ、鳩尾付近にレンチの先での突きを食らう。
怯んだ所に、シェージがカールの首を十字レンチの股で打ち付けようとする。その瞬間、シェージの片腕にエア・ブラシ付きのホースが巻き付いた。皇が、空気圧縮機のチューブを投げ付けたのだ。皇と綱引きをする格好になる。
「隙有り!」
掛け声に合わせて、カールはシェージを蹴り落とそうとする。しかしシェージは「おっと!」と自ら車の下に飛び降りて回避、皇は空気圧縮機ごと引っ張られて車に叩き付けられた。
対してシェージは落下の勢いを活かして車の下を滑り抜け、ぶつかった衝撃で意識が飛びかけの皇 の脇に現れると、チューブで背後から彼女の首を締め上げる。尚、仰向けに寝そべる事で、カールに対しての盾としても使っている。
「邪魔するから死んで貰うよ!」
「…………! …………!」
皇は声も出せずに苦しみ、早くも顔が真っ赤になり、首周りに血管が浮き出ている。
しかし、脇に差していた二十六年式拳銃 剛健版を抜く事が出来た。
肩越しにシェージの顔に突き付けると、シェージは反射的に両手でその銃を掴んでしまった。首絞めが緩まった正にその瞬間、皇は頭を振り上げて、後頭部でシェージの口元に頭突きしたのだ。
「しまっ……た!」
前歯の全てが抜けかけになった口を押さえ、シェージは痛みに耐える。その隙に、皇は彼から距離を取った。
「終わりだ!」
カールはナイフを納め、車から飛び降りる。着地点はシェージの腹。腹部を踏み潰されたシェージは一瞬くの字になると、やがて全身から力が抜けた。
カールは「ふぅ~~っ……」と深く溜め息をすると、皇に向き直る。
「ケガハ、ナイカ?」
皇は目を丸くして顔を上げるが、すぐに首を縦に振った。
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