第四の生命体#2 奪取

岬 実

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Day40-⑮ キアロ

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 イオタ、カール、すめらぎが武装を整え、続いて降下の支度をしている最中、イーライはマイクを使って、英語ではない言葉で声を荒らげていた。
 その内容を、ジョジョが訳する。

『今のはフランス語だから英訳しよう。「テメー等第五生物はどうせ必ず死刑だから、それが嫌ならブチ殺されに出て来い。あと1秒だけ待ってやる」だ、そうだ』
「人に物を頼む態度じゃないな……」

 カールの意見を無視してジョジョは続ける。

『そんな事よりイオタ君、早いトコかの兄妹と壷を殺せ。死亡確認をしろ。君だけでも十二分だが、飛び入りの二人も加われば勝利は君の手に有る』
「承知しました。良し行くぞ!」

 二つ返事でジョジョに従い、イーライからは「俺達はここを見張る」旨の提案、トゥラソニからは「頑張ってー!」と声援を受けつつ、ワイヤー降下をするイオタ。それに続くカールとすめらぎ

「さあて、さっさと終わらせてオナニーでもしようぜ」
「いやに素直に従うんだな、お前」
「上司だからだ。別に逆らう理由無いだろ」
「まあ……、確かに」

 建物の内部に進入し一壊いっかいの歯車を「ズ~ズ~」と引き摺って歩くイオタに、カールは自分の拳銃を構えてふと疑問をくちにする。

「それにしても第四生物はともかく、何故第五生物を躍起になって殺しに掛かるやら」
「超能力は、『のエネルギー』を使ってるらしいからだ。知らなかったか」
「軍隊で習うのは殺しと行進位なもんさ。で、何だそれ。メンタル的な話なのか?」
「いや、科学の話だ。聞けばそれは、例えば冷凍光線やらタイム・スリップやらを可能に出来るそうだが、借金みたいなモンで、使った分以上の正のエネルギーを用意しないといけないんだと」
「ふ~ん」
「何にしても、大量破壊兵器同然な奴等を生かしておけるか? 生まれる事を許すか? って理屈だ」
「その点は同感だ。だから奴等と戦ってる」

 イオタ達は一部屋ずつ中を確かめて行くのだが、殆どが豪華な居住スペースで、展示住宅の様に小綺麗にしてあり、棚には本や酒も整然と並べられて、まるで生活感が無い。
 他には映写室、娯楽室、ホーム・バー、トレーニング部屋、バスケットやテニスやフットサルのコートに、広い浴場まで備えている。

「ふん、働かないくせに無意味に良いトコ住んでんな……。壁紙からして高級品みたいだ」
「どれも盗品だろうがな」

 そんな会話をしながら、引き摺るハンマーでそれ等の床に傷を付けつつ次に行き着いたのは、厚手の鉄扉。
 「現在室温:-40℃」とドア脇のモニターに表示されている通り、扉を開けると真っ白な冷気が漏れ出した。

「冷凍室か……」

 カールが言う様に、室内は複数のパーテーションで区切られ、解体前の色々な動物が保存されていた。
 イオタとカールは死角に気を付けつつ室内のチェックをする。
 尚、すめらぎはイオタにくっつき、顔を埋めて歩を進める。
 イオタは呟いた。

「豚さんにウッシーさんに、色んなお魚さんに……、おっと、こっちは人間さんか」
「何ィッ!?」

 カールが慌ててイオタの方を見ると、十数人の服を着たまま、且つ獄門顔の射殺体、刺殺体、撲殺体が、くちに差し込まれたフックでラックに吊り下げられていた。
 すめらぎも僅かにそちらを見るも、「ひいいい」と再び顔を伏せてしまった。
 カールは苦笑しながら勇示ゆうじに尋ねる。

「大方、壷のラドンパのコスト用だな。勇示ゆうじ、この人達の身元は?」
『顔写真ト照合シタ。らどんぱノ前ノ所持者デ、マ、小悪党ダガ、16名全員ガ2ヶ月位前カラ行方不明二ナッテルナ』
「そうか……」

 カールは人数を数えつつ、真新しい血の氷が付いているフックを五つ発見した。

「5人足りないな。今さっき死体を持って行ったな? 壷のラドンパを起動する気か。急ごう!」

 カールに促され、足早にイオタの一行は階を下に進む。
 暫くすると廊下の突き当たりに、派手な装飾を施した両開きの金属製のドアが現れた。

「この部屋が怪しい……」

 イオタ達を下がらせ、カールはドアを静かに開け、その隙間から短銃を差し込みつつ中の様子を伺う。
 そこは、淡いオレンジ色のライトで薄暗く照らされた、吹き抜けと、それを十字に結ぶ通路を持つ大広間だった。
 カールの目の前には、三方に伸び、その先も枝分かれした道。道を作る壁には古今東西の有名な絵画が飾られ、床に点在するケースには宝石や貴金属をふんだんに使った美術品が展示されている。
 反対側の壁面には吹き抜けに繋がる階段が伸びており、その先に大袈裟なデザインのゲートが付いている。

「迷路、か……」

 カールは目に見える範囲に敵が居ない事を確かめると、手招きして二人を呼ぶ。
 しかし、イオタとすめらぎが入室するや、ドアは勢い良く閉まり、鍵の掛かる音が鳴った。

「しまった、罠か!」
「とは言え、こんな所で戦う気も無いだろ」

 緊迫するカールにイオタは欠伸混じりに答えると、頭上から声が聞こえた。

「いや、戦いたがりはお前達だけだ……」

 反射的に吹き抜けの十字路を見ると、酒瓶片手にイオタ達を見下ろすヴァディム兄妹。傍らには冷凍された五つの死体と、壷のラドンパ。

「どーよ、金銀財宝は人を惑わす。それで作った美術品、『デ・ラ・ヴィエ・エクスプレッション』は?」
「成金や小金持ちと同レベルだ」

 フランシスの問いにイオタが答えると、フランチェスカが「ああっ? 喋ってる……」と身を乗り出した。

「ん?」

 イオタは何気無くフランチェスカに視線を写すと、彼女は「ぅひっ……!」と顔を引き吊らせて身震いした。

「どーも時々そう言われるんだよな。喋んなさそうに見えんのかな」
『見える見える』

 勇示ゆうじは突っ込み、フランシスは続ける。

「一言で済ませるのはイラっと来るな。集めるのに苦労したんだぜ?」
「買えよ」

 周囲に数秒の沈黙が流れた。
 そして、フランシスは再び続ける。

「何つーの……? 俺達も一応悪党狩りをしていてなぁ……。これはソイツ等が持ってた物だ。放ったらかしには出来ないから保管してんだよ」
「寄贈しろよ」

 再び、周囲に数秒の沈黙が流れた。
 フランシスは三度みたび続ける。

「自己紹介しよう。俺と妹は粛清時の孤児だ。子供2匹の面倒も見切れない世間なぞ信用出来ねぇ」
「個人はもっと信用出来ん」

 三度みたび、周囲に数秒の沈黙が流れた。
 フランシスは四度よたび続ける。

「それはそれとして……。ちょっと交渉したいと思ってな。さっきも言ったが、俺達も悪党狩りをしている。お前等と同じさ。だからさ、『偶然出会ったら手伝いをし合うか、邪魔をしない』ってのでどうだ?」
わたくしはお前等を殺しに来たんだ」
「ふぅ~~~~~~~~~~~~~~ん……。そうか……、残念だ。いや、本当に残念だ。つまりは公的とは言え、悪って訳だ」
「知ってて『悪党狩りをしている』と言ったんじゃないのか」
「今回のハンターは、俺達じゃなくて『純金アステリオス』だ。既にお前等のすぐ近くに居るぞ? ほら来た!」

 無視して、フランシスはイオタ達から見える位置の通路を指差す。すると重い足音と共に、人影がノソノソ姿を現した。
 それは、手と足だけが人間の、二足歩行する黄金色の牛の像である。
 その手には、長くも短くもない剣が握られている。

「倒したいだろう? でも倒せねーよ。ラドンパに指示して、俺達と同じ透過能力を与えたからな。ラドンパにもだ」
「…………」

 カールは無言で拳銃を一発、アステリオスの足元に撃ち込む。しかし、足の裏の床の破片が飛んだだけだった。

「ホントだ……。どうする? ここじゃ戦えないぞ?」
「何とかする」

 顔に焦りの色を浮かばせるカールだが、イオタは特には表情を変えない。

「さあ逃げなさい! 高みの見物してあげるから!」

 フランチェスカが戦闘開始を宣言し、アステリオスが猛然と迫る。
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