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一章
008 困った時のサリーちゃん
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大きなカレンダーはサリーちゃんを挟んで依頼掲示板の横に張り出されていた。
ああそうか、字が読めなきゃカレンダーもサリーちゃんに読んでもらわないといけないからね。
「こんにちはサリーちゃん。昨日はありがとう、無事冒険者になれたよ」
「こんにちは! お力になれたようで良かったです」
「俺ケイタって言うんだ。これからよろしくね」
「はい! こちらこそよろしくお願いしますね」
昨日声を掛けてくれたお礼を言い、早速カレンダーを見てみる。
思ってた以上に講習会の種類があるんだな。……えーっと、まずは魔法を使えるようになりたい。そして獲物の解体方法。
うっ、魔法関連は結構細分化されているんだな……。
超初心者向けはどれなんだ? 全然分からないから、ちょっとサリーちゃんに聞いてみよう。
「ねえサリーちゃん、俺全く魔法の使い方が分かんないんだけど、どの講習受けたらいいかな?」
「えっ!? ……そうですねぇ、冒険者なら誰でも使えなきゃいけないのが身体強化ですから、この身体強化魔法入門講習なんてどうでしょう?」
サリーちゃんはカレンダーを指差しながら、俺に教えてくれた。
「あれ、今日の午後じゃないか。これって当日でも参加可能なの?」
「もちろんできますよ~。正直、どの講習もあまり人が来ないので、予約などは必要ありません」
「そうなんだ。じゃ早速今日受けてみようかな」
「それが良いと思いますよ。この魔法は命に関わってきますからね。少しでも早い習得を推奨いたしますっ!」
「そうだね。教えてくれてありがとう」
「はい! またなんでも聞いてくださいね」
身体強化か! ヒーローモノの定番だし男の子としては憧れちゃうよね。それが俺でも使えるようになるなんて! ……などと思わず感激してしまったが、ふと気が付いてしまう。
冒険者には当たり前な魔法なんだよな。てことは、万が一喧嘩にでも巻き込まれてしまったら、まだ使えない俺ってかなりやべーんじゃ……。
――思わずゾワリと寒気がして、冷や汗が流れてしまう。これは……何よりも優先しなきゃいけない急務だ……!
……とはいえ、柱の時計を見るとまだ講習時間までには時間がある。
焦っても仕方がない。不安に駆られる気持ちを抑えるためにも、先に防具屋を見てこようかな。身体強化が使えない今は、防具を頼りにするしかないんだから。
余談だけど、この世界にはしっかりと時計がある。小型なのは魔道具扱いで少々お高いが、手が出せないお値段ではない。なんと宝箱のアイテムとしてもたまに出るらしい。俺もいつかは欲しいものだ。
お勧めされた防具屋は冒険者ギルドから結構近くにあった。
建物は最初に行った武器屋のように完全に売り買いだけをする商店ではなく、仕立て直しをするための工房も兼ねていたので結構大きい。
大家さん曰く、この仕立て直しの腕が良いのが、このお店のお勧めポイントらしい。
そうだよな、防具は完全にその人の体型に合わせないといけないからなあ。ゲームのように買ってすぐに装着というわけにはいかない。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃい」
俺より少しお年を召されている感じの女性が返事をしてくれた。
顔立ちは美人というより可愛らしい感じで背が低く、体つきは結構がっしりしている。
もしかしてドワーフの方なのかな?
「薬師のサリアさんの紹介できました。大ネズミ狩りに備えて籠手と臑当か厚手のブーツ辺りが欲しいんですけど、手頃なのってありますか?」
「おっ、大ネズミ狩りかあ、偉いねお兄さん。サリアさんの紹介だし、良いの見繕っちゃおうかね。まず籠手から見る?」
「はいお願いします。あと、できたらあんまり高くないのが良いのですが……。俺、懐事情が厳しくって……」
「分かってる分かってる、新人だしね。……うーんと中古でもいい?」
お姉さんはごそごそと探しながら尋ねてきた。中古でもあんまりボロボロじゃなければいいかな。
「はい、傷みが酷くなければ大丈夫ですよ」
「アハハ、そんな酷いのはこの店じゃ扱ってないよ」
お姉さんは笑いながら答えてくれると、包みを一つ棚から引っ張り出し、テーブルで広げて俺に見せてくれた。
「サリアさんの紹介だから薬草採取もするんでしょ? 少し値は張るけど指先の動かしやすいのを選んでみた。――これはオーシャンバッファローの革で作られた籠手で、外側にアイアンクラブの甲羅を加工した板が付いてるんだ。つい先日買い取った物でね、予備品だったみたいで年数は経ってるが殆ど使ってない」
名前からして海のある地域の品なのかな? 思わず良い出汁が取れそうだと、いらん事を考えてしまう。
見せてもらうと、本当にあまり使われた感じが無い。甲冑のガントレットとは違い指先の自由がかなりあり、薬草採取の時にいちいち外す必要は無さそうだ。
「良いですねこれ。お幾らですか」
「キリの良いところで銀貨1枚でどう?」
「わかりました。それで買います」
「まいどありっ! んじゃ、お兄さんの腕に合わせるために、少し手直ししようかね。ちょっと腕見せて」
俺は腕をまくって、掌を上にして見せる。
「お兄さん剣ダコ無い綺麗な手してんねえ、頑張んなきゃだめだよ。――あら、でも拳ダコはある。お兄さん拳闘士でもやってたの?」
「いや、ちょっと訓練した事があるくらいですね」
「ふーん、この籠手も殴るの考えて作ってあるから、お兄さんには丁度良いかもしれないね」
お姉さんは採寸をしながら、この籠手の特徴を教えてくれる。言われてみれば、拳の部分なんて殴るために作ってるような感じがするし、裏拳、手刀、掌底部分にも補強がしてある。
確かにこの作りは、俺にとって都合がいい。これは良い買い物をしたぞ。
「よし、次は臑当かブーツだったね」
そういってお姉さんはしゃがみ、俺が今履いている安全靴を見る。
「お兄さん踝まで隠れる靴履いてるのかい。――これ良い靴だねえ。これならブーツじゃなくても臑当でいいんじゃない?」
俺の安全靴はハイカットだから元々ブーツみたいなんだよね。そうだな、お姉さんの言う通り臑当にしておこう。
「そうですね、臑当にします」
またお姉さんはごそごそと探してくれる。
「うーんと、お兄さんの体に合いそうなのは、とりあえずコレとコレかな」
一つは甲冑のように三枚の整形された金属板でがっちり覆うタイプ。もう一つは前方の臑だけ金属板が付いている厚手の革でできたタイプ。
どうしようか悩んだが、俺は格闘技とかで使うレッグガードっぽいのが良かったので、革の方に決めた。
「ネズミを蹴っ飛ばすのならこっちのがよさそうなので、こっちにします」
「アハハ、了解っ」
この臑当は新品だったが駆け出しが買う量産品だったので小銀貨六枚と、先に買った籠手よりも全然安かった。
籠手のほうが可動部分とパーツが多いから作るのにお金がかかるのかな? なんて素人考えをしてしまう。
こちらも採寸をし、調整してもらう事にする。
「お名前はケ、イ、タ、さんっと。明日にはできてると思うから、楽しみにしててね」
台帳に名前を書いたお姉さんから引き換えの札を受け取り、手付金として品物の半額を渡す。
「ではよろしくお願いしますね」
「はいはーい」
本当は胸当てやヘルメット辺りも欲しいけど、もう女神様からの支度金は底をつきそうだ。頑張ってお金を貯めてから買おう。
冒険者ギルドへ戻ると丁度昼時で、講習会の時間までにはまだ十分な時間の余裕があった。
昼食は折角だからギルドに併設されている酒場兼食堂で取る事にしよう。どうやらお値段お手頃なランチメニューがあるようなので助かる。
まずは先に受付で講習会の参加費を支払い、証の札を貰っておく事にした。
時間になったら教室に入るよう参加者を呼んでくれるらしいので、それまでは昼食を取りながら、のんびりと待つ事にしよう。
さて、いよいよ魔法ですよ魔法!
ああそうか、字が読めなきゃカレンダーもサリーちゃんに読んでもらわないといけないからね。
「こんにちはサリーちゃん。昨日はありがとう、無事冒険者になれたよ」
「こんにちは! お力になれたようで良かったです」
「俺ケイタって言うんだ。これからよろしくね」
「はい! こちらこそよろしくお願いしますね」
昨日声を掛けてくれたお礼を言い、早速カレンダーを見てみる。
思ってた以上に講習会の種類があるんだな。……えーっと、まずは魔法を使えるようになりたい。そして獲物の解体方法。
うっ、魔法関連は結構細分化されているんだな……。
超初心者向けはどれなんだ? 全然分からないから、ちょっとサリーちゃんに聞いてみよう。
「ねえサリーちゃん、俺全く魔法の使い方が分かんないんだけど、どの講習受けたらいいかな?」
「えっ!? ……そうですねぇ、冒険者なら誰でも使えなきゃいけないのが身体強化ですから、この身体強化魔法入門講習なんてどうでしょう?」
サリーちゃんはカレンダーを指差しながら、俺に教えてくれた。
「あれ、今日の午後じゃないか。これって当日でも参加可能なの?」
「もちろんできますよ~。正直、どの講習もあまり人が来ないので、予約などは必要ありません」
「そうなんだ。じゃ早速今日受けてみようかな」
「それが良いと思いますよ。この魔法は命に関わってきますからね。少しでも早い習得を推奨いたしますっ!」
「そうだね。教えてくれてありがとう」
「はい! またなんでも聞いてくださいね」
身体強化か! ヒーローモノの定番だし男の子としては憧れちゃうよね。それが俺でも使えるようになるなんて! ……などと思わず感激してしまったが、ふと気が付いてしまう。
冒険者には当たり前な魔法なんだよな。てことは、万が一喧嘩にでも巻き込まれてしまったら、まだ使えない俺ってかなりやべーんじゃ……。
――思わずゾワリと寒気がして、冷や汗が流れてしまう。これは……何よりも優先しなきゃいけない急務だ……!
……とはいえ、柱の時計を見るとまだ講習時間までには時間がある。
焦っても仕方がない。不安に駆られる気持ちを抑えるためにも、先に防具屋を見てこようかな。身体強化が使えない今は、防具を頼りにするしかないんだから。
余談だけど、この世界にはしっかりと時計がある。小型なのは魔道具扱いで少々お高いが、手が出せないお値段ではない。なんと宝箱のアイテムとしてもたまに出るらしい。俺もいつかは欲しいものだ。
お勧めされた防具屋は冒険者ギルドから結構近くにあった。
建物は最初に行った武器屋のように完全に売り買いだけをする商店ではなく、仕立て直しをするための工房も兼ねていたので結構大きい。
大家さん曰く、この仕立て直しの腕が良いのが、このお店のお勧めポイントらしい。
そうだよな、防具は完全にその人の体型に合わせないといけないからなあ。ゲームのように買ってすぐに装着というわけにはいかない。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃい」
俺より少しお年を召されている感じの女性が返事をしてくれた。
顔立ちは美人というより可愛らしい感じで背が低く、体つきは結構がっしりしている。
もしかしてドワーフの方なのかな?
「薬師のサリアさんの紹介できました。大ネズミ狩りに備えて籠手と臑当か厚手のブーツ辺りが欲しいんですけど、手頃なのってありますか?」
「おっ、大ネズミ狩りかあ、偉いねお兄さん。サリアさんの紹介だし、良いの見繕っちゃおうかね。まず籠手から見る?」
「はいお願いします。あと、できたらあんまり高くないのが良いのですが……。俺、懐事情が厳しくって……」
「分かってる分かってる、新人だしね。……うーんと中古でもいい?」
お姉さんはごそごそと探しながら尋ねてきた。中古でもあんまりボロボロじゃなければいいかな。
「はい、傷みが酷くなければ大丈夫ですよ」
「アハハ、そんな酷いのはこの店じゃ扱ってないよ」
お姉さんは笑いながら答えてくれると、包みを一つ棚から引っ張り出し、テーブルで広げて俺に見せてくれた。
「サリアさんの紹介だから薬草採取もするんでしょ? 少し値は張るけど指先の動かしやすいのを選んでみた。――これはオーシャンバッファローの革で作られた籠手で、外側にアイアンクラブの甲羅を加工した板が付いてるんだ。つい先日買い取った物でね、予備品だったみたいで年数は経ってるが殆ど使ってない」
名前からして海のある地域の品なのかな? 思わず良い出汁が取れそうだと、いらん事を考えてしまう。
見せてもらうと、本当にあまり使われた感じが無い。甲冑のガントレットとは違い指先の自由がかなりあり、薬草採取の時にいちいち外す必要は無さそうだ。
「良いですねこれ。お幾らですか」
「キリの良いところで銀貨1枚でどう?」
「わかりました。それで買います」
「まいどありっ! んじゃ、お兄さんの腕に合わせるために、少し手直ししようかね。ちょっと腕見せて」
俺は腕をまくって、掌を上にして見せる。
「お兄さん剣ダコ無い綺麗な手してんねえ、頑張んなきゃだめだよ。――あら、でも拳ダコはある。お兄さん拳闘士でもやってたの?」
「いや、ちょっと訓練した事があるくらいですね」
「ふーん、この籠手も殴るの考えて作ってあるから、お兄さんには丁度良いかもしれないね」
お姉さんは採寸をしながら、この籠手の特徴を教えてくれる。言われてみれば、拳の部分なんて殴るために作ってるような感じがするし、裏拳、手刀、掌底部分にも補強がしてある。
確かにこの作りは、俺にとって都合がいい。これは良い買い物をしたぞ。
「よし、次は臑当かブーツだったね」
そういってお姉さんはしゃがみ、俺が今履いている安全靴を見る。
「お兄さん踝まで隠れる靴履いてるのかい。――これ良い靴だねえ。これならブーツじゃなくても臑当でいいんじゃない?」
俺の安全靴はハイカットだから元々ブーツみたいなんだよね。そうだな、お姉さんの言う通り臑当にしておこう。
「そうですね、臑当にします」
またお姉さんはごそごそと探してくれる。
「うーんと、お兄さんの体に合いそうなのは、とりあえずコレとコレかな」
一つは甲冑のように三枚の整形された金属板でがっちり覆うタイプ。もう一つは前方の臑だけ金属板が付いている厚手の革でできたタイプ。
どうしようか悩んだが、俺は格闘技とかで使うレッグガードっぽいのが良かったので、革の方に決めた。
「ネズミを蹴っ飛ばすのならこっちのがよさそうなので、こっちにします」
「アハハ、了解っ」
この臑当は新品だったが駆け出しが買う量産品だったので小銀貨六枚と、先に買った籠手よりも全然安かった。
籠手のほうが可動部分とパーツが多いから作るのにお金がかかるのかな? なんて素人考えをしてしまう。
こちらも採寸をし、調整してもらう事にする。
「お名前はケ、イ、タ、さんっと。明日にはできてると思うから、楽しみにしててね」
台帳に名前を書いたお姉さんから引き換えの札を受け取り、手付金として品物の半額を渡す。
「ではよろしくお願いしますね」
「はいはーい」
本当は胸当てやヘルメット辺りも欲しいけど、もう女神様からの支度金は底をつきそうだ。頑張ってお金を貯めてから買おう。
冒険者ギルドへ戻ると丁度昼時で、講習会の時間までにはまだ十分な時間の余裕があった。
昼食は折角だからギルドに併設されている酒場兼食堂で取る事にしよう。どうやらお値段お手頃なランチメニューがあるようなので助かる。
まずは先に受付で講習会の参加費を支払い、証の札を貰っておく事にした。
時間になったら教室に入るよう参加者を呼んでくれるらしいので、それまでは昼食を取りながら、のんびりと待つ事にしよう。
さて、いよいよ魔法ですよ魔法!
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