天使の住まう都から

星ノ雫

文字の大きさ
19 / 116
一章

019 新しい家族

しおりを挟む
 翌日、俺は昨日の中断してしまった大ネズミ狩りのルートの続きを完了させた。これで八回目も終了だ。
 ついに女神様に託された少女と合流する事ができたので、これからはラキシスを養うべく、今よりも稼げる男にならないといけない。
 そのためにも、早くダンジョンに行けるように頑張ろう。
 そんな事を考えながら今日も公衆浴場で臭いを落とし、帰路に就く。

「ただいま帰りました」

「はいお帰りなさい。ふふ……ラキちゃんはまだ帰ってませんよ」

「あっああ、はい」

 俺がキョロキョロと辺りを見回してたもんだから、大家さんは察してしまったようだ。……恥ずかしい。

「きっと大丈夫ですよ。ラクス様達を信じましょう」

「そうですね」

 その日は結局ラキちゃんは帰ってこなかった。



「まだ被害は出ておりませんが、最近蛇の魔物を見たという情報が寄せられています。お気を付けください。」

 今日も大ネズミ狩りを受けに来たら、受付のお姉さんからそんな事を言われた。
 警戒しているのか、いつもより大ネズミ狩りに並ぶ人も少ない気がする。
 とりあえず気を付けよう。あと二回だしな、無事に終わらせたい。



 気持ちを引き締め今日も望んだが、これといった問題が起こる事も無く、今日の討伐も無事終わらせる事ができた。
 今日はラキちゃんは帰っているだろうか? 何か異常は見つかっていないだろうか? そんな事を考えながら足早に帰る。

「ただいま帰りました」

「お帰りなさい!」

 ラキちゃんが満面の笑みで迎えてくれた。俺も自然と顔がほころぶ。

「ケイタさんお帰りなさい。――今日サラス様が家まで送ってくださいました。どこも異常は見られなかったそうですよ」

「そうですか! それはよかった!」

 大家さんの言葉に、思わず安堵してしまう。

「あの、今日からよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 ラキちゃんは畏まって俺に挨拶をしてくれたので俺も挨拶を返し、ふふふと二人で笑い合った。
 俺は帰る前に公衆浴場で体を洗ってきたが、今日は俺がお風呂を準備する日だったのを思い出す。

「今日は俺が風呂当番ですね。準備してきます」

「はい、お願いしますね。あっそうだ、ラキちゃんにもやり方を教えてあげてもらえませんか?」

「了解しました。――よし、行こっか!」

「うん!」

 早速二人でお風呂の準備をする事になった。水をお湯に変える魔動機の使い方や、掃除の仕方などを一緒にやりながら教えてあげる。
 最後に浴槽にお湯を張って終了だ。

「大家さん終わりました。俺は今日も先に済ませてきてますので、どうぞ使ってください」

「ありがとうございます。――じゃラキちゃん、一緒に入りましょうか?」

「はーい!」

 大家さん達を見送り、俺はリビングでくつろぎながら魔力マナを練る事にする。
 最近は見違えるほど上達してきたと思う。とりあえず先ほどの風呂掃除で衣服に着いた水気を魔力マナで吸い上げ、てのひらの上に球状に集めてみる。
 それを今度はてのひらの上で転がしてみる。右回転、左回転、八の字など……。
 意識を集中して両手で交互に行っていると、ミリアさんが帰って来た。

「ただいまーっ、あれ? 姉さんは?」

「今ラキちゃんとお風呂入ってます」

「あっ、ラキちゃん帰って来たのね」

「はい、どこも異常はなかったそうです」

「善きかな善きかな~」

 大家さん達の後にミリアさんもお風呂を使い、皆でさっぱりしたところで夕食となった。

「では改めて、新しい家族となるラキちゃんを歓迎して、――乾杯っ!」

「「「乾杯!」」」

 食事を楽しみながら、今日あった出来事などを語り合っていく。今日の主役はラキちゃんだ。
 特に、みんなラキちゃんの行ってきた所に興味津々だった。なんてったってあの魔王城のある浮島だからね。
 サラス様は魔王の秘書をしているらしく、健康診断以外にも色々と案内をしてもらったみたい。
 浮島にはレジャー施設も多く、とても楽しかったそうだ。

「いつでも遊びに来て良いって。これ貰っちゃった」

 何やらメンバーズカードのようなものを見せてくれる。

「いいなー。――あっそうだ、あたしも預かってる物があったんだ」

 ミリアさんはパタパタと何かを取りに行く。

「これこれ。はい、ラキちゃんの都民証。きっとラクス様の計らいね」

「ありがとう!」

「どういたしまして。これで聖都の施設はどこでも利用可能ね。ダンジョンだって行けちゃうわよ」

 凄いな、都民だと冒険者でなくてもダンジョンに入れるのか。

「凄いですね。でも冒険者以外でダンジョンに行く人っているんですか?」

「結構いるわよ。騎士や兵士の訓練だったり、魔導学院や神学校の生徒が修学目的でね」

 学院の生徒も行くのか。魔法講習の講師として来てくれている子達も潜っているんだろうか。

「へぇー、講習の講師できてくれた子達ともどこかで会うかもしれませんね」

「ケータさんなら護衛で雇ってくれるかもしんないわよ。前に言ったじゃない、講習受けてる子達は先の事考えてるって」

「ああ、顔を覚えてもらう意味もあったのか」

「そそ、生徒の護衛は良い稼ぎになるからね」

 そしてあわよくばロマンスがあったり……って感じかな? 青春だねえ。

「ダンジョンかぁ……あっ、俺も後一回で大ネズミ狩り卒業だからもう少しですよ」

「ふふ、お疲れ様。でも最近変な噂もあるから気を付けてね」

「あー、蛇の魔物でしたっけ?」

「それそれ。近々ギルドから調査依頼を出すとも言われてるわ」

「気を付けます」

 ラキちゃんが眠そうになってきていたので、談笑はこの辺でお開きになった。
 ラキちゃんは俺の同居人ではなく、一人の下宿人として大家さんが扱ってくれたので、四つあるうちの一部屋を割り当てられた。

「それではおやすみなさい」

 挨拶を交わし、それぞれ自分の部屋に入って行く。
 今日も疲れたな。さっさと寝てしまおう。



 目が覚めると何か違和感がある。布団をめくると、ラキちゃんが中で丸まっていた。

 ――うぉ!? いつのまに?

 うーん、まぁあんまり深く考えないでおこう。
 俺はラキちゃんを起こさないように着替え、支度をする。

「おはようございます」

「はいおはようございます。ラキちゃんはまだ寝ているのかしら?」

「そうですね。ってそうだ、目が覚めたら俺の布団の中にいたんです。後で起こしてあげてもらえますか?」

「あらあら。ふふっ、わかりました」

 早速朝食を頂き、お弁当を受け取る。いつものように食卓の隅に置いてある貯金箱にお弁当代の銅貨を2枚入れる。

「いつも助かります」

「どういたしまして。気を付けていってらっしゃい」

「はい、いってきます」

 玄関を出ようとしたら、ラキちゃんが起きてきて俺を呼び止めた。

「お兄ちゃん待ってー」

「ラキちゃんおはよう」

「おはよー。――あのねお兄ちゃん、これあげる。左手に付けて」

 手渡してくれたのは金属製のブレスレットだった。中央に緑色の菱形をした宝石がはめられている。
 とりあえず言われた通り左手にはめてみる。良かった、それほど分厚くないので籠手の邪魔にはならなさそうだ。

「最初だけチクッとするかも」

「えっ?」

 思わず言われた言葉にギョッとするが、それほど気になる痛みも感じず、はめる事ができた。
 はめた途端に、手首の内側の位置にくる緑色の宝石が赤に一瞬変わってから青色になる。
 えっ、これ魔道具?

「これでどこでもいっしょ」

そう言い、ニコッと笑った。

「ああ、これでどこでもいっしょだね」

 あまり深く考える事を止めて、俺も左手にはめたブレスレットを見せてニカッと笑った。

「じゃ、いってきます」

「いってらっしゃーい」

 さて、今日で地下水道ともおさらばだ!
 気合を入れて行こう。



 いつものように大ネズミ狩りの受付に並ぶ。
 鍵とルートマップを受け取り確認すると、今日の中継地点はラキちゃんを見つけた第二下水処理場だった。
 何かしらの縁がある感じがしてしまうね。

 今日のルートの入り口は魔導学院の寮の近くだった。朝なので学生たちが通学していく。
 橋の下にある入口から入ろうとしたら、学生の声が橋の上から聞こえてきた。

「ねぇ、やっぱり先生に報告しましょ?」

「そんな事できるわけないだろ! 下手したら学院に居られなくなるかもしれないんだぞ!」

「あっ! 待って!」

 説得する少女を振り切って、少年は走り去ってしまう。
 思わず上を見上げてみると、見知った少女がそこにいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~

イチイ アキラ
ファンタジー
生まれ変わったら飛べない鳥――ペンギンでした。 ドラゴンとして生まれ変わったらしいのにどうみてもペンギンな、ドラゴン名ジュヌヴィエーヴ。 兄姉たちが巣立っても、自分はまだ巣に残っていた。 (だって飛べないから) そんなある日、気がつけば巣の外にいた。 …人間に攫われました(?)

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

処理中です...