天使の住まう都から

星ノ雫

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二章

028 初めてのダンジョン 1

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「おっさんそっち行ったぞ!」

「任せろ!」

 今日は遂に初めてのダンジョン探索だ。今回はハンス達のパーティに入れてもらっている。
 キリムとサリムの狐人の二人もあれからハンス達と頻繁に活動しているようで、今回も一緒にきている。
 まずは俺に合わせてくれて、迷宮エリアの三層辺りまで宝箱を探しながら探索する事となった。

 今はアイアンニードルの群れと交戦中だ。
 コイツは低層に出るハリネズミのような魔物なんだが、ミリアさんが武器も扱えないならダンジョン行っちゃいけないって言ってた意味がよく分かった。
 こんなん殴ったら手がズタズタになるわ!
 こいつ以外にも、スライムやウィル・オ・ウィスプなど素手ではどうにもならない敵が低層には多いそうだ。

 俺は剣に魔力マナを流し込み、危なげなく屠っていく。ああ、たしかに大ネズミと変わらんな、こりゃ。
 ダンジョンの敵は倒すと瞬く間に崩れ落ちてしまう。
 魔石は確実に残るのだが、その時に運が良いと、毛皮などの魔物の一部や、魔物が食べた遺留品なども残っている。これがドロップアイテムだ。
 なんと、モンスターによっては食肉がドロップアイテムとして残る場合もある。
 解体作業すら要らないんだから、そりゃ皆ダンジョンに入り浸るよなあ……。

 それともう一つ、魔物は重要な物を稀にドロップする。それは宝箱の鍵だ。
 五層毎に宝箱の色が違い、それに合った色の鍵を手に入れないと、宝箱を開ける事ができない。
 だから宝箱を開けたければ、敵を倒して鍵を手に入れるか、誰かが売った鍵を買うしかない。

 戦闘も終わり、急いでドロップ品を回収していく。
 回収する者、警戒する者としっかり分けて行動する。戦闘終了後を狙った冒険者狩りがいるからだ。

「なんだこれ? こんなのも買い取ってくれるのか?」

「ああ、それはアイアンニードルの針ですね」

 針というより五寸釘のようなそれを俺は回収していく。

「ギルドは何でも常設依頼として買い取ってくれっから、気にせず拾っときゃいーんだよ」

「なるほど了解だ」

「あっ! 銀貨みーつけたっ!」

 サリムが嬉しそうに銀貨を掲げる。

「おお! やったな!」

 パーティ全員の歓声があがる。
 遺留品にはお金もたまにあるので侮れない。

 それから、再び進んで行く。暫くしたら斥候の役目をしているミステルが何か発見したようだ。

「……宝箱発見! 周囲警戒!」

 俺は教えてもらった通り、宝箱を守るように周囲を警戒する陣に加わる。
 宝箱を発見し、浮かれている時が一番危ないらしい。
 因みに、この世界のダンジョンに出る宝箱にはトラップが無い。ウィザードリィじゃなくてドラクエ仕様なのが嬉しいね。
 ただし、ミミックは存在しているので、ミミックだけ警戒すれば良い。

「おじさん、顔を狙った飛び道具に気を付けてください」

「分かった」

 このパーティの壁役でもある盾持ち剣士のトーイが盾を構え、俺に注意をしてくれる。
 俺は背負子しょいこの下に備え付けていた小型の盾を左手で持ち、顔を守る。
 この前のメカリス湖での出来事から、小さくても盾があった方が良いと思い、今回買って持ってきた。

 もう一つ、メカリス湖での出来事から何とかしたいなと思っている事がある。遠距離攻撃の件だ。
 魔法による攻撃が良いんだろうけど、まだまだ未熟で攻撃魔法士のように遠くへ威力のある魔法攻撃は撃てないし、どうしたもんかなあ。

「……回収した。中は古銭だけだった」

 宝箱の中身は無事回収が終わったようだ。
 低層の宝箱は、アイテムよりも神聖魔導帝国時代の古銭が入っている事の方が多いらしい。
 古銭は貨幣としての価値は無いが、金属素材として買い取ってくれるんだそうな。

 宝箱はアイテムを全て取り出すと、倒した魔物と同様崩れ落ちていく。
 また、宝箱はマジックバッグのような能力を持っていて、武器や防具などの宝箱よりも大きな物が入っている時がある。
 ただ注意しないといけないのは、武器や防具を取り出す時だ。
 なんと手に取った人の種族や体型に合わせた寸法で箱の外に出てきてしまうため、しっかり話し合わないと結構パーティ内で揉めるらしい。

「なんだまた古銭かよ」

「ぼやかない、ぼやかない。――さっさと移動しよう」

 どうやら冒険者狩りも来なかったようで、俺たちはまた移動する。
 迷宮エリアは五日毎に内部の迷宮が再構築される。再構築とは、迷路の形状が変化する事だ。
 今日は前回再構築されてからまだ三日なので、まだ次の再構築まで時間があるし、この頃になると販売されるダンジョンマップも充実してくる。
 だから俺たちは下の階層へ向かう階段までの最短マップを購入し、階段以外へ向かう道を進んで宝箱を探しているわけだ。

「……行き止まり。宝箱も……無し」

「無しかー。んじゃ戻ろうぜ」

 マップに記されている道まで戻って来た俺達は、魔物にやられた傷のある三人の死体が転がっているのを発見する。
 金目の物はもう持ち去られた後のようだ。

「もう死体漁りに持ってかれた後か」

「死体漁り?」

「死んだ冒険者の物を漁るためにダンジョンうをうろちょろしてる奴らがいんだよ」

「へぇー」

「まぁ、冒険者狩りとはまた違った意味でのダンジョンの嫌われ者だな」

 死体漁りか。ダンジョンにはいろんな奴らがいるなあ。



「兄さん」

 暫く進んでいたら、サリムが兄の名を呼んだ。
 キリムは頷くと、少し前を行くミステルの所まで行き、ミステルの肩を叩く。
 それからキリムは自分の鼻をトントンと触れた後に前を指さす。
 それで理解したミステルは頷き、二人は俺達の方へ戻って来た。

「もう少し先で待ち伏せされている」

 どうやらキリムとサリムは臭いで誰かが十字路付近にいる事に気が付いたようだ。

「どうする? 撃退するか?」

「待ち伏せされている付近にサリムの魔法を打ち込んで、それでも襲ってくるようなら撃退だ」

「「「了解」」」

「おっさん対人戦だ。ビビんなよ」

「大丈夫、もう経験済みだ」

 まぁ相手は魔物にも見える竜人だったけどさ。
 それから俺達は音を立てないよう武器を構え、進んで行く。

 それから、十字路の左付近に向かってサリムが青い炎の玉を打ち込んだ。
 よく見る攻撃魔法の炎の色とは違う。もしかしたらこれがサリムのギフトかもしれないな。

――ボゥン!

 慌ててぞろぞろと六人が現れる。

「チッ! 気づかれてるぞ!」

「構わん、殆どガキどもだ。やっちまうぞ!」

「「「オオッ!」」」

「なめんなよこの屑どもが!」

「……死ぬのはお前ら……だっ!」

 連中は不意打ちを狙っていたからか、遠距離攻撃の準備ができていないようだった。
 こちらはミステルとキリムの弓、そしてサリムの魔法攻撃で遠距離から攻撃する。
 そして遠距離攻撃で怯んだ隙に、俺とハンスとトーイで仕留めにかかる。

 俺は剣に最大限の魔力マナを注ぎ込み、斬りかかっていく。
 その時、再び頭の中で雷光が煌めき、剣に紫電の光が纏いだす。
 まただ! これは雷魔法に適正があるって事か?

 相手の剣筋をいなそうと俺の剣が相手の剣に触れた途端、パシーン! という音と共に相手がショックを受けたように動けなくなり、隙だらけとなった。
 透かさず喉を突き、止めを刺す。
 これは……。もしかしたら今後の戦いで強力な強みになるかもしれないぞ。
 初めては拳だった。今回は剣に纏えた。――ならば!

 俺に斬りかかって来た相手の剣を跳ね上げ、紫電を纏うよう意識して魔力マナを練り上げ、後ろ蹴りを放つ。

――ドゴン!

 紫電を纏った俺の蹴りで相手は吹き飛び、ショックで起き上がれないようだ。
 できたぞ稲妻キック! 思わず 『チャージアーップ!』  と叫んじゃいそうだ!

「ナイス! おじさん!」

 素早くトーイが起き上がれない相手の止めを刺してくれた。
 どうやらこれで冒険者狩りは片付いたようだ。

「俺達三人は冒険者狩りを倒しても何も奪わない事にしている。――ここまで落ちたくないからな。皆は好きなようにしてくれ」

「俺とサリムも同じだ。穢れた連中の財貨を奪うほど落ちぶれちゃいない」

「勿論俺もだよ」

 お前らは立派だ。この世界でここまで筋を通すお前らに、俺は敬意を表するよ。

「――ということだ爺さん。後は好きなようにしてくれ」

 キリムは十字路から少し先にある曲がり角の方を見て、そう言った。
 すると、随分と年を取った獣人の冒険者が一人、ひょっこりと現れた。
 ああ、なるほどな。この爺さんがさっきの話に出てきた死体漁りの一人なんだろう。

「ハハッ、青いねえ、ケツが痒くならぁ。――じゃ、遠慮なく頂かせてもらうぜ」

 爺さんは素早くこちらにきて、冒険者狩りの死体を漁りだす。

「チッ、……いこうぜ」

「またなボウズども。お前さん達が死んだら俺様が漁ってやるぜ。ヒヒヒ」

「うるせぇジジイ。さっさと死ね」

 作業に勤しむ爺さんを後にし、俺たちは迷宮エリアの探索を再開した。
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