天使の住まう都から

星ノ雫

文字の大きさ
39 / 116
二章

039 新しい技

しおりを挟む
 今日はリンメイが俺達の下宿先へ引っ越すので、手伝いにやってきた。
 受付で宿のおばさんに断りを入れ、上がらせてもらう。

「ラキちゃん、俺ちょっとキリム達の所に行ってくるから、先にリンメイのお手伝いお願いできるかな?」

「はーい」

 そうして二手に分かれ、俺はキリム達が宿泊している二人部屋に向かった。
 ノックをするとキリムの返事が聞こえたので、今日はまだ居るようだ。

「おはよう、ケイタだけど」

 名乗ると扉を開けてくれた。サリムもいたようで、一緒に迎えてくれる。

「おじさんおはよー」

「おはようございます。今日はどうしたんですか?」

「朝からゴメンな。えっと、ちょっと話がしたいんだけど中に入れてもらえる?」

「いいですよ、どうぞ」

 それから、昨日リンメイが自分達の所にやってきた経緯を話した。

「あちゃー、おじさん達巻き込んじゃったようでゴメンね」

「なんかすみません」

 申し訳なさそうに謝る二人。

「いや、その事はいいんだ。――そこでなんだけど、俺達の方でリンメイを受け入れるよ。恐らくだけど、キリム達の活動に支障が出てるんだろ?」

 今日先にキリム達の所へ来た理由を持ち出す。
 すると、図星だったのか二人は驚いた後、ばつの悪そうな顔をする。

「実はそうなの……」

 ポツリとサリムが呟いた。

「だと思った」

「でも、いいんですか?」

「それに、リンメイは納得するかしら?」

「その辺は大丈夫だと思うよ。実は昨日、彼女が俺達の下宿先に住みたいって言いだしたんだ。だから、キリム達さえよければリンメイをこちらの固定パーティに迎え入れるつもり」

「そうですか。俺達は勿論構いません。――では、すみませんがリンメイの事よろしくお願いします」

「ごめんねおじさん。あの子の事お願いね」

「ああ任された。その代わりと言っちゃなんだが、俺達とたまにはパーティ組んでくれよな」

「それは勿論!」 「ええ!」

 それから俺はリンメイの引っ越しの手伝いに来た事を伝えると、二人も部屋まで付いて来てくれた。
 リンメイの部屋に行くと、元々荷物は少なかったのか、もう既に片付いていた。

「おはよう。もう片付いたんだな」

「おはよ。荷物は全部ラキが預かってくれたんだ」

 リンメイの後ろでラキちゃんが手を振ってた。
 なるほど、ラキちゃんが荷物を亜空間収納に入れてくれたのか。

「おはよー。昨日はごめんね、確認もせずパーティ決めちゃって」

 後ろから様子を伺っていたサリムがリンメイに声を掛けた。

「あっ、おはよ……。あたいこそ勝手に抜けてごめん……」

「おはようリンメイ。君は別に謝る必要は無いよ。悪いのは俺達だ」

「そうそう。それより聞いたよ、おじさん達と同じ所に下宿するんだってね」

「うん。それで……、あの……」

 リンメイは何か言いたそうにしていたから、俺が先に言う事にした。

「そうそうリンメイ、折角だし、俺達と固定パーティ組まないか? 俺達へなちょこだからさ、君がパーティーに入ってくれたら心強いなー」

「うんうん、へなちょこだからリンメイお姉ちゃん入ってくれたら心強いなー」

 俺とラキちゃんの言葉に、リンメイはぱっと表情を明るくする。

「しょ、しょーがねーな。おっさんのパーティに入ってやるよ!」

 つい先日と同じような俺のセリフを皆覚えていたようで、皆で ふふふ と笑ってしまった。
 それからキリムとサリムに見送られ、俺達は宿を後にした。



 こうしてリンメイも大家さんの家の下宿人となり、夜にはリンメイの歓迎会が行われた。
 ミリアさんはトマス君からリンメイの事を聞いていたらしく、とても好意的だ。
 臨時職員に前向きな事も聞いていたようで、 「制服も準備しとかなくちゃね」 と張り切っていた。

 これで下宿人の部屋は満室となった。
 そのため食事面で大家さんの負担が増えてしまうのではと心配になったが、ラキちゃんとリンメイが手伝ってくれるので問題無いとの事。
 すみません大家さん。俺は炊事ダメなので他の部分で頑張ります。

 ともかく、これで俺達も三人パーティだ。
 これを機に、暫くはダンジョンの攻略を頑張ってみてもいいんじゃないかと思っている。
 ただキリム達は暫くは他のパーティとの探索で忙しいらしく、残念ながら都合が合わないようだけど。



 今日はダンジョンの再構築の日。
 俺はムジナ師匠の所へ投擲術を習いに来ていた。リンメイはラキちゃんを連れてダンジョン周辺の露店へ出かけて行ってる。
 ミリアさんにも勧められてその気になったのか、リンメイは 【鑑定技能】 の強化をするために露店巡りをして、色々と売られている迷宮産のアイテムを見て回るんだとか。
 目標であるお姉さんに少しでも近づきたいけど道が見えず鬱屈としていた頃から一転して、自分のギフトに希望を見出したリンメイは前に進んで行けているようだ。

 今日教えてもらった技はまさに奥義とも言える、これまでの悩みを一気に解消してくれる性質を持っていた。
 俺は新しい技を試してみたい衝動に駆られながら、いそいそと帰る。
 どうしよう、物凄く試したい。これから五層に行って練習してこようかな?
 そんな事を考えながら帰っていたら、不意に 【虫の知らせ】 ギフトの警鐘が頭に鳴り響く。

 暫くすると、先日コテンパンにした獣人の五人組が現れた。
 ……大人しくはしてないだろうとは思ったが、随分と早いご登場だな。

「よぉ! 待ってたぜ」

「リンメイにはもう関わらないと言ったがお前は別だ」

「只人が舐めやがって」

「ぶっ殺してやる」

「先日は油断したが俺がギフトを使えばお前なん……」

 どいつもこいつも鬱憤が溜まっているようでダラダラと喋ってくれる。
 こんな隙を生かさないわけがないだろう。
 俺は素早くアイアンニードルの針を両手で三本ずつ引き抜き、フルパワーの身体強化と風魔法を使って連中に向かって投擲した。

 ――ドス!ドス!ドス!ドス!ドス!

「ぐあっ!」

「くそっ!」

「いっでぇ!」

 致命傷には程遠いが、全員の体のどこかに打ち込む事に成功した。
 フルパワーで投げたので、革鎧や腕でガードされた籠手にも突き刺さっている。
 今回教えてもらったのはここからだ!

「ドン!」

 俺は当てた針を避雷針のように紫電を誘導させ、全員に雷魔法をお見舞いしてやる。
 パシーン! と良い音がして全員焼け焦げ、マヒ状態となり動けなくなった。

「「「がぁぁ!」」」

「ギフトなんか使わせるわけねーだろ!」

 俺は抜刀しながら距離を詰め、先ほどギフトがどうのと言いかけた奴の首を落とす。
 前回遭遇した時ですら見逃すのは甘いなと思ってた位だ。二度目は無い。

「まっ、まっでぐれ!」

「待つかよ馬鹿」

 問答無用。俺はさっさと全員の首を落とした。
 それにしても上手くいったな。思っていた以上の手ごたえがあり、嬉しさでかなり興奮している。この技は使えるぞ!

 今回教えてもらったのは、投擲した得物に魔力マナを糸のように繋いだ状態にしておき、その魔力マナを辿って刺さった対象に適性魔法を打ち込むというもの。
 以前アイアンニードルの針に魔法を纏わせて投げる事ができないかと試した事があったが、体から離れるとどうしても魔法の効果が霧散して属性攻撃にはならなかった。
 だがこの方法ならば適性魔法を遠くの敵に当てる事ができる。

 ムジナ師匠は風魔法の適性があるので、的に針を打ち込んだ後に術を発動させると、風魔法により的がズタズタに切り裂かれた。
 俺の場合は雷魔法に適性があるので、今回のように雷魔法を打ち込む事に成功した。
 本来雷魔法に指向を持たせるにはラキちゃんのように天候を操れるくらいの強大な力が無いとできないが、これならば俺でも狙った場所に当てられる!

「おぅ、見事だケイタ」

 そんな声と共に影からムジナ師匠が現れた。

「あっ、ムジナ師匠。さっき教えてもらったの、上手くできましたよ」

「まったく、いきなり使う羽目になるとはな」

 周りの惨状を見回し、ムジナ師匠はため息をつく。

「教会の方まで聞こえちゃいましたか?」

「アホぅ。こんだけ血の臭いがしてりゃ誰だって分かるわ」

 そう言いつつも、死体漁りを始めた。

「こいつらの死体どうしましょう?」

「あぁ、ほっときゃいい。こういうのを片づける奴等に銭稼がせてやれ」

 そんな連中もいるのか。

「ほら、行った行った。俺も帰る」

 そう言ってムジナ師匠はまた影に潜って行ったので、俺も急いでこの場を離れた。
 やはり法で守られてもいないこの世界では、禍根を残す行為は危険だ。
 甘い考えのままじゃダメだなとつくづく思いながら、俺は帰路に就いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~

イチイ アキラ
ファンタジー
生まれ変わったら飛べない鳥――ペンギンでした。 ドラゴンとして生まれ変わったらしいのにどうみてもペンギンな、ドラゴン名ジュヌヴィエーヴ。 兄姉たちが巣立っても、自分はまだ巣に残っていた。 (だって飛べないから) そんなある日、気がつけば巣の外にいた。 …人間に攫われました(?)

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...