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二章
063 二十五層踏破
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ゴールデンリッチが討伐された証に、宝箱が出現する。今回も三つだ。
「やったね、リンメイお姉ちゃん!」
「おっ、おう!」
リンメイはどうやら判断が遅れて金貨を使ってしまった事を気にしているのか、ボスを倒しても少々納得がいかない表情をしていた。
あれは俺達全員のミスなんだから、気に病まないで欲しい。
「流石だなっ! ――ほらっ、お待ちかねの宝箱だぞっ」
「あっ、うん」
俺はそんなリンメイの肩を叩いて促し、三人で宝箱の方へ向かう。
「……よし開けるぞ」
既に宝箱の前で待機していたミステルが全員来たのを確認すると、一つ目の宝箱を開ける。
中には金貨が一枚入っていた。
「……むぅ、やはり金貨か。情報通りだな」
「ちぇっ……」
横から覗いていたリンメイは残念そうに金貨を取り出し、ラキちゃんに渡してあげる。
実はこれは先程ラキちゃんが投げた金貨だったりする。
ゴールデンリッチに金貨を与えると、倒した後でこのように金貨を返してくれる。
一つの箱で一枚返してくれるので、三枚使えば宝箱の中身全てが金貨一枚ずつとなってしまう。
つまりは、宝箱からアイテムが出なくなってしまうわけだ。
因みに、金貨を三枚以上使っても返してくれるのは三枚だけだったりする。
「しょうがない、しょうがない。皆が無事だったんだから良いじゃないか」
「うん……そうだな」
「……二つ目いくぞ」
ミステルが二つ目の宝箱を開けると、鳥の翼をあしらったアクセサリーのような、可愛らしいアイテムが入っていた。
「あっ! これ知ってるぞ。 『天使の翼』 だろ?」
「……マジか!」
「ネームド品じゃないか!」
ハンス達は宝箱のアイテムに大喜びだ。
相変わらず分かってないのは俺とラキちゃんだけのようなので、二人でリンメイに解説をお願いする。
ラキちゃんはデザインの可愛らしさのせいか、とても興味津々だ。
「うーんと、これは 『天使の翼』 って名前のアイテムで、バッグチャームってやつだな。これを鞄に付けると、鞄の重さが半分になる」
「「おー!」」
「マジックバッグほどじゃないけど狩りで役立つから、冒険者に人気のアイテムだな。売ればかなりの額になるよ」
鞄の重量が半分になるのか。これは俺も欲しいぞ。
「……さて、聞くまでも無いと思うが欲しい奴?」
ミステルの問いに、勿論全員が手を上げた。
「だよなー……。おっし、あんまし長居も出来ねーし、さっさとくじ引きで決めちゃおうぜ」
しかし、クジで決めようと提案するハンスに、トーイが待ったを掛ける。
「……なあ、これはおじさん達の権利でいいんじゃないか? 俺達はマジックバッグ譲ってもらっただろ」
「あー……、そうだな。ミステルは?」
「……問題無い。――はいどうぞ」
ミステルは答えると即座に宝箱から取り出し、ラキちゃんに手渡してあげた。
「いいのか?」
ハンス達に問うと、三人はそれぞれ首肯で示してくれた。
「すまんな、ありがとう」
「ありがとうございます!」
「わりーな、ありがとっ」
「……誰が使うかはそちらで決めてくれ」
ラキちゃんとリンメイは顏を見合わせると微笑んで頷き合い、二人は俺を指差した。
「えっ、俺でいいの?」
「おっさんが一番大きな鞄背負ってるからな。いーんだよ」
「そうそう、いーんです。――お兄ちゃんしゃがんで?」
俺は言われるがままにラキちゃんに背を向けるようにして屈んだ。
ラキちゃんは俺の鞄のかぶせを捲り、かぶせの内側辺りに 『天使の翼』 を付けてくれたようだ。
途端に背中が軽くなる。
これは凄い。身体強化ができるようになったとはいえ、やはり鞄の重量が減るのはとてもありがたい。
俺は立ち上がると二人に向き直り、ぴょんぴょんと飛び跳ねて見せる。
「凄く軽くなったよ。二人ともありがとう!」
「おう!」
「どういたしましてっ!」
「……では最後開けるぞ」
俺達のやり取りから頃合いを見計らってくれたミステルは、確認を取ると最後の宝箱を開ける。
中にはロングソードが入っていた。
俺の持っているような湾刀ではない、直刀だ。鞘の形状からして両刃だろう。
その剣は全体的に黒を基調としたデザインをしており、所々に金色のアクセントがあってかっこいい。
見た目からして両手持ちもできそうだが、どちらかといえば片手持ちを想定された造りのようだ。
全員どんな効果があるのか気になるようで、リンメイに視線が集まる。
「えっと……、まず効果そのものは魔力を流すと切れ味が上がり、更に流すと手のひら程度の長さだけ魔力の刃が剣先から伸びる」
「うーん……、悪くは無いが結構出回ってる効果だな」
まぁ効果は至って普通だなって事で皆の期待は薄れてしまうが、リンメイは言葉を続ける。
「まあなー。ただ、この剣にはちょっとした特徴がある。――この剣さ、刀身が真っ黒なんだよ」
「へぇー、なんか暗殺者が好みそうだな」
「おっ、おっさん鋭い。この剣、暗闇での活動に適しているんだよ。後は虚を衝く攻撃とかね」
リンメイは俺に向けてパチンと指を鳴らす。
そしてその特徴の利便性を説明してくれると、今度は全員を見回した。
「そうだな……今回のパーティだと、ミステルのギフトと合わせるのも良いし、トーイのように盾の影からの刺突にも良いし、あたいのような双剣で虚を衝く連撃にも良いかな」
「なるほどねー、随分と優秀な剣に思えてきたよ。――この剣はネームド品じゃないんだよね?」
「うん。この剣さ、明るい場所だと逆に目立つんだよ。ネームド品だとそれも無くなるし、他にも効果があったはず。――というわけで欠点もあるが、この剣欲しい奴?」
ミステルとトーイは少し考えるも、すぐに二人とも手を上げた。
「よく考えたら俺達ダンジョンでの活動がメインだからね。その欠点はそんなに問題無いと思う」
「……うむ、ダンジョンでこれほど有利な剣は無い」
「まぁそうだよな」
そう言いリンメイも手を上げた。
という事でパーティ単位での争奪戦となるので、結局全員が手を上げた。
――さて、くじ引きの結果は……。
「よしっ! ふふっ、悪いね皆」
「……ぐはぁ! 無念だっ!」
見事当たりを引き当てたトーイは宝箱から剣を取り出すと、皆が注目する中、鞘から剣を引き抜く。
本当に刀身が黒い。それも、光を吸収してしまうような黒さだ。
「おぉー、本当に黒いな。なあ、折角だし魔力流してみてくれよ」
「おっけー」
トーイが魔力を通すと、剣先に黒色に可視化された魔力による刃が現れる。
「魔力の刃もちゃんと黒色なんだな」
「ですね。…………うん、いいねこの剣。気に入った」
トーイはとても満足したようで、盾と一緒に構えたりと、新しい剣の塩梅を確認している。
「トーイそろそろいいかー?」
「ああ、いいよ。ごめんごめん」
「んじゃ、二十五層を拝みに行こうぜ」
転移門を抜けると、熱波が全身を包み込む。
二十五層のフィールドエリアは様々な種類の砂漠が広がる世界で、とても暑い。
地上は現在夏だが、ここはそれ以上に暑かった。
「暑っ!」
「うわっ、なんだここ」
「ぺっ、ぺっ、……砂が口に入った」
転移門のあるエリアは丁度オアシスの湖の前に存在する。
砂漠と言われて最初にイメージするであろう砂の砂漠だけではなく、このエリアには岩石砂漠や礫砂漠といった様々な砂漠があり、その環境に耐えて生きている草花や樹木もかなりある。
そのため、意外と大家さんが必要とする薬草や薬に使える実をつける樹木が、このエリアには多い。
ただ、このエリアは移動するだけでも下手したら命に関わる事態になりかねないし、魔物も危険なのが多いために、採取に出かける時は一緒に行きましょうと大家さんに注意されている。
「すごいねー、砂だらけ」
「ほんとだねー」
俺とラキちゃんはオアシスの向こうにそびえる小高い砂の丘を眺めて、感嘆の声をあげてしまう。
「うゎー、あたいこういう暑いところ苦手……」
リンメイは魔力を使って手から氷属性の冷気を出しながら、手をパタパタと仰いでいた。
どうやら寒冷地育ちのリンメイには、この環境は堪えるようだね。
「んじゃ、さっさと転移門潜って冷えたエールでも飲みにいこうか?」
「「「さんせー!」」」
俺達は朝起きて一番でボスに挑んだため、まだ朝と言える時間帯にエントランスホールに戻って来た。
そのため、周りはこれからダンジョンへ赴く冒険者でいっぱいだ。
そんな冒険者達とは逆に俺達はエントランスホールを後にして、さっさと冒険者ギルド支店へ向かう。
今回の探索では売却せず所有権を決めたアイテムや装備品が多かったので、思ったよりも分配の勘定に手間取ってしまった。
こればっかりはお金に関する事なので、キッチリとやっておかないといけないから仕方がない。
因みに、リンメイが取り出したビキニアーマーはかなりの値段で売れた。
なんでも花街で護衛を兼ねて働いているお姉さん達に人気の品で、結構な需要があるんだとか。
今回も 『季節の恵み亭』 で祝勝会をする事になったのだが、リンメイが 「公衆浴場でさっぱりしてからにしたい」 と言うので、先に公衆浴場へ向かった。
地下水路ほどじゃないけどアンデッドの迷宮も結構臭いがアレだったからね……。
「あーやっぱり風呂はいいなあ」
「ですねー」
体を洗ってさっぱりした俺とハンス達は、湯船に浸かって全身を弛緩させる。
今回はかなり順調だったが、思っていたよりもハイペースだった。
やはり疲れが溜まっていたようで、湯船が本当に心地良い。まるで冒険の疲れが溶け出していくようだ。
「なぁ、おっさん達はやっぱり薬草採取がメインなのか?」
何気なく尋ねられたハンスの問いに、うちのメンバーの事を思い返してみる。
俺やラキちゃんと違い、リンメイはきっとトレジャーハントの方が良いんだろうけど、今の所は別に文句も無く一緒に行動してくれている。
大家さんの家の下宿人というのもあるし、一応三人とも薬草採取がメインと言って差し支えないだろう。
「まぁー……、一応はな」
「そっか……」
ハンスは少し悩む素振りを見せるが、すぐに 「止めた止めた」 と頭の後ろで手を組み、湯船の壁に持たれかかってしまった。
そして呟くように、先程の質問の理由を吐露した。
「あーあ、おっさん達が迷宮での稼ぎをメインにしてるなら固定パーティに誘うんだけどなあ」
――ああそういう事か。
俺達もダンジョン高層への到達が見えてきたから、そろそろ固定六人を考える時期になってきたんだな。
「そうなんだよね。はっきり言っておじさん達優秀だから、冗談抜きで固定パーティになって欲しいよ」
「……うむ。実に惜しい」
「あー……、その……すまんな」
「いいって。おっさんの事情も分かってっから」
「そーそー」
「……気にすんな」
「おっし! んじゃそろそろ冷えたエールでも飲みにいこーぜ」
大衆浴場でさっぱりとした俺達が 『季節の恵み亭』 に着く頃には、そろそろ昼食で賑わう時間となっていた。
そのため俺達も昼食を兼ねて、じゃんじゃんと料理を注文をする。
風呂上りの一杯というのもあって、冷えたエールは最高だった。
俺達のパーティは同行してくれたハンス達に感謝し、ハンス達のパーティも誘ってくれた俺達に感謝していた。
気分良くお互いを労い、手に入れた迷宮産の品を肴に盛り上がった。
先輩冒険者であるハンス達には本当に感謝している。
君らが同行してくれて本当に助かったよ。
冒険者としての目指す先は違うかもしれないが、これからもよろしく頼む。
「やったね、リンメイお姉ちゃん!」
「おっ、おう!」
リンメイはどうやら判断が遅れて金貨を使ってしまった事を気にしているのか、ボスを倒しても少々納得がいかない表情をしていた。
あれは俺達全員のミスなんだから、気に病まないで欲しい。
「流石だなっ! ――ほらっ、お待ちかねの宝箱だぞっ」
「あっ、うん」
俺はそんなリンメイの肩を叩いて促し、三人で宝箱の方へ向かう。
「……よし開けるぞ」
既に宝箱の前で待機していたミステルが全員来たのを確認すると、一つ目の宝箱を開ける。
中には金貨が一枚入っていた。
「……むぅ、やはり金貨か。情報通りだな」
「ちぇっ……」
横から覗いていたリンメイは残念そうに金貨を取り出し、ラキちゃんに渡してあげる。
実はこれは先程ラキちゃんが投げた金貨だったりする。
ゴールデンリッチに金貨を与えると、倒した後でこのように金貨を返してくれる。
一つの箱で一枚返してくれるので、三枚使えば宝箱の中身全てが金貨一枚ずつとなってしまう。
つまりは、宝箱からアイテムが出なくなってしまうわけだ。
因みに、金貨を三枚以上使っても返してくれるのは三枚だけだったりする。
「しょうがない、しょうがない。皆が無事だったんだから良いじゃないか」
「うん……そうだな」
「……二つ目いくぞ」
ミステルが二つ目の宝箱を開けると、鳥の翼をあしらったアクセサリーのような、可愛らしいアイテムが入っていた。
「あっ! これ知ってるぞ。 『天使の翼』 だろ?」
「……マジか!」
「ネームド品じゃないか!」
ハンス達は宝箱のアイテムに大喜びだ。
相変わらず分かってないのは俺とラキちゃんだけのようなので、二人でリンメイに解説をお願いする。
ラキちゃんはデザインの可愛らしさのせいか、とても興味津々だ。
「うーんと、これは 『天使の翼』 って名前のアイテムで、バッグチャームってやつだな。これを鞄に付けると、鞄の重さが半分になる」
「「おー!」」
「マジックバッグほどじゃないけど狩りで役立つから、冒険者に人気のアイテムだな。売ればかなりの額になるよ」
鞄の重量が半分になるのか。これは俺も欲しいぞ。
「……さて、聞くまでも無いと思うが欲しい奴?」
ミステルの問いに、勿論全員が手を上げた。
「だよなー……。おっし、あんまし長居も出来ねーし、さっさとくじ引きで決めちゃおうぜ」
しかし、クジで決めようと提案するハンスに、トーイが待ったを掛ける。
「……なあ、これはおじさん達の権利でいいんじゃないか? 俺達はマジックバッグ譲ってもらっただろ」
「あー……、そうだな。ミステルは?」
「……問題無い。――はいどうぞ」
ミステルは答えると即座に宝箱から取り出し、ラキちゃんに手渡してあげた。
「いいのか?」
ハンス達に問うと、三人はそれぞれ首肯で示してくれた。
「すまんな、ありがとう」
「ありがとうございます!」
「わりーな、ありがとっ」
「……誰が使うかはそちらで決めてくれ」
ラキちゃんとリンメイは顏を見合わせると微笑んで頷き合い、二人は俺を指差した。
「えっ、俺でいいの?」
「おっさんが一番大きな鞄背負ってるからな。いーんだよ」
「そうそう、いーんです。――お兄ちゃんしゃがんで?」
俺は言われるがままにラキちゃんに背を向けるようにして屈んだ。
ラキちゃんは俺の鞄のかぶせを捲り、かぶせの内側辺りに 『天使の翼』 を付けてくれたようだ。
途端に背中が軽くなる。
これは凄い。身体強化ができるようになったとはいえ、やはり鞄の重量が減るのはとてもありがたい。
俺は立ち上がると二人に向き直り、ぴょんぴょんと飛び跳ねて見せる。
「凄く軽くなったよ。二人ともありがとう!」
「おう!」
「どういたしましてっ!」
「……では最後開けるぞ」
俺達のやり取りから頃合いを見計らってくれたミステルは、確認を取ると最後の宝箱を開ける。
中にはロングソードが入っていた。
俺の持っているような湾刀ではない、直刀だ。鞘の形状からして両刃だろう。
その剣は全体的に黒を基調としたデザインをしており、所々に金色のアクセントがあってかっこいい。
見た目からして両手持ちもできそうだが、どちらかといえば片手持ちを想定された造りのようだ。
全員どんな効果があるのか気になるようで、リンメイに視線が集まる。
「えっと……、まず効果そのものは魔力を流すと切れ味が上がり、更に流すと手のひら程度の長さだけ魔力の刃が剣先から伸びる」
「うーん……、悪くは無いが結構出回ってる効果だな」
まぁ効果は至って普通だなって事で皆の期待は薄れてしまうが、リンメイは言葉を続ける。
「まあなー。ただ、この剣にはちょっとした特徴がある。――この剣さ、刀身が真っ黒なんだよ」
「へぇー、なんか暗殺者が好みそうだな」
「おっ、おっさん鋭い。この剣、暗闇での活動に適しているんだよ。後は虚を衝く攻撃とかね」
リンメイは俺に向けてパチンと指を鳴らす。
そしてその特徴の利便性を説明してくれると、今度は全員を見回した。
「そうだな……今回のパーティだと、ミステルのギフトと合わせるのも良いし、トーイのように盾の影からの刺突にも良いし、あたいのような双剣で虚を衝く連撃にも良いかな」
「なるほどねー、随分と優秀な剣に思えてきたよ。――この剣はネームド品じゃないんだよね?」
「うん。この剣さ、明るい場所だと逆に目立つんだよ。ネームド品だとそれも無くなるし、他にも効果があったはず。――というわけで欠点もあるが、この剣欲しい奴?」
ミステルとトーイは少し考えるも、すぐに二人とも手を上げた。
「よく考えたら俺達ダンジョンでの活動がメインだからね。その欠点はそんなに問題無いと思う」
「……うむ、ダンジョンでこれほど有利な剣は無い」
「まぁそうだよな」
そう言いリンメイも手を上げた。
という事でパーティ単位での争奪戦となるので、結局全員が手を上げた。
――さて、くじ引きの結果は……。
「よしっ! ふふっ、悪いね皆」
「……ぐはぁ! 無念だっ!」
見事当たりを引き当てたトーイは宝箱から剣を取り出すと、皆が注目する中、鞘から剣を引き抜く。
本当に刀身が黒い。それも、光を吸収してしまうような黒さだ。
「おぉー、本当に黒いな。なあ、折角だし魔力流してみてくれよ」
「おっけー」
トーイが魔力を通すと、剣先に黒色に可視化された魔力による刃が現れる。
「魔力の刃もちゃんと黒色なんだな」
「ですね。…………うん、いいねこの剣。気に入った」
トーイはとても満足したようで、盾と一緒に構えたりと、新しい剣の塩梅を確認している。
「トーイそろそろいいかー?」
「ああ、いいよ。ごめんごめん」
「んじゃ、二十五層を拝みに行こうぜ」
転移門を抜けると、熱波が全身を包み込む。
二十五層のフィールドエリアは様々な種類の砂漠が広がる世界で、とても暑い。
地上は現在夏だが、ここはそれ以上に暑かった。
「暑っ!」
「うわっ、なんだここ」
「ぺっ、ぺっ、……砂が口に入った」
転移門のあるエリアは丁度オアシスの湖の前に存在する。
砂漠と言われて最初にイメージするであろう砂の砂漠だけではなく、このエリアには岩石砂漠や礫砂漠といった様々な砂漠があり、その環境に耐えて生きている草花や樹木もかなりある。
そのため、意外と大家さんが必要とする薬草や薬に使える実をつける樹木が、このエリアには多い。
ただ、このエリアは移動するだけでも下手したら命に関わる事態になりかねないし、魔物も危険なのが多いために、採取に出かける時は一緒に行きましょうと大家さんに注意されている。
「すごいねー、砂だらけ」
「ほんとだねー」
俺とラキちゃんはオアシスの向こうにそびえる小高い砂の丘を眺めて、感嘆の声をあげてしまう。
「うゎー、あたいこういう暑いところ苦手……」
リンメイは魔力を使って手から氷属性の冷気を出しながら、手をパタパタと仰いでいた。
どうやら寒冷地育ちのリンメイには、この環境は堪えるようだね。
「んじゃ、さっさと転移門潜って冷えたエールでも飲みにいこうか?」
「「「さんせー!」」」
俺達は朝起きて一番でボスに挑んだため、まだ朝と言える時間帯にエントランスホールに戻って来た。
そのため、周りはこれからダンジョンへ赴く冒険者でいっぱいだ。
そんな冒険者達とは逆に俺達はエントランスホールを後にして、さっさと冒険者ギルド支店へ向かう。
今回の探索では売却せず所有権を決めたアイテムや装備品が多かったので、思ったよりも分配の勘定に手間取ってしまった。
こればっかりはお金に関する事なので、キッチリとやっておかないといけないから仕方がない。
因みに、リンメイが取り出したビキニアーマーはかなりの値段で売れた。
なんでも花街で護衛を兼ねて働いているお姉さん達に人気の品で、結構な需要があるんだとか。
今回も 『季節の恵み亭』 で祝勝会をする事になったのだが、リンメイが 「公衆浴場でさっぱりしてからにしたい」 と言うので、先に公衆浴場へ向かった。
地下水路ほどじゃないけどアンデッドの迷宮も結構臭いがアレだったからね……。
「あーやっぱり風呂はいいなあ」
「ですねー」
体を洗ってさっぱりした俺とハンス達は、湯船に浸かって全身を弛緩させる。
今回はかなり順調だったが、思っていたよりもハイペースだった。
やはり疲れが溜まっていたようで、湯船が本当に心地良い。まるで冒険の疲れが溶け出していくようだ。
「なぁ、おっさん達はやっぱり薬草採取がメインなのか?」
何気なく尋ねられたハンスの問いに、うちのメンバーの事を思い返してみる。
俺やラキちゃんと違い、リンメイはきっとトレジャーハントの方が良いんだろうけど、今の所は別に文句も無く一緒に行動してくれている。
大家さんの家の下宿人というのもあるし、一応三人とも薬草採取がメインと言って差し支えないだろう。
「まぁー……、一応はな」
「そっか……」
ハンスは少し悩む素振りを見せるが、すぐに 「止めた止めた」 と頭の後ろで手を組み、湯船の壁に持たれかかってしまった。
そして呟くように、先程の質問の理由を吐露した。
「あーあ、おっさん達が迷宮での稼ぎをメインにしてるなら固定パーティに誘うんだけどなあ」
――ああそういう事か。
俺達もダンジョン高層への到達が見えてきたから、そろそろ固定六人を考える時期になってきたんだな。
「そうなんだよね。はっきり言っておじさん達優秀だから、冗談抜きで固定パーティになって欲しいよ」
「……うむ。実に惜しい」
「あー……、その……すまんな」
「いいって。おっさんの事情も分かってっから」
「そーそー」
「……気にすんな」
「おっし! んじゃそろそろ冷えたエールでも飲みにいこーぜ」
大衆浴場でさっぱりとした俺達が 『季節の恵み亭』 に着く頃には、そろそろ昼食で賑わう時間となっていた。
そのため俺達も昼食を兼ねて、じゃんじゃんと料理を注文をする。
風呂上りの一杯というのもあって、冷えたエールは最高だった。
俺達のパーティは同行してくれたハンス達に感謝し、ハンス達のパーティも誘ってくれた俺達に感謝していた。
気分良くお互いを労い、手に入れた迷宮産の品を肴に盛り上がった。
先輩冒険者であるハンス達には本当に感謝している。
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