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三章
096 雷樹島 2
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「皆様のお世話を仰せつかりましたナタリアです。よろしくお願い致します」
「よろしくお願いします」
ナタリアさんはこの基地の軍人というよりも、グランドホステスといった佇まいの方だった。
俺達が雷樹島にいる間は、この方が俺達を接客をしてくれるそうだ。
「それでは白雪号の監査に移らせて頂きたいのですが、言語面でのサポートをお願いするるかもしれませんので、ケイタさんも御一緒よろしいでしょうか?」
「分かりました。――じゃ、ちょっと行ってくる。皆はすまないけどラキちゃんが戻ってくるの待っててもらえるか?」
「オッケー」
「うむ」
「分かりました」
「ラキシス様がお戻りになられましたら、先に皆様を貴賓館へご案内させていただきます」
図面や設計図など資料の詳細を聞かれた時の為、白雪号の監査には俺も同行する事となる。
緊張した面持ちの船長達に案内され、居ても立っても居られない感じの魔族の技術員は大はしゃぎで白雪号へ向かって行く。
双方の雰囲気が随分と対照的だったので、思わず笑ってしまいそうになる。
「いやぁー、魔王様はあちらの技術をあんまり教えてはくれませんからね。今日は楽しみで仕方がありませんでしたよ」
魔族の技術員は俺の立ち位置を知っているので、並んで歩いていた一人が、そっと俺に話しかけてくれた。
どうやら彼らは魔力を一切使わない俺の世界の技術に大変興味があったようで、しかもその技術をどのようにしてこちらの技術で代用しているのかにも注目しているようだった。
向こうの波止場にはまるでSFの世界に出てきそうな魔族の潜水艦が並んでいるんだよね。あんなのを作れてしまうのに、彼らは俺の世界の技術に興味があるんだな。
「先輩見てください、この船マナメタルで出来てますよ!」
「おお流石だな。これなら大きな破損でもしない限り、何百年でも持つぞ」
マナメタルとはダンジョンで手に入るあの古銭に使われている金属で、魔力を流せば自己修復をしてくれる優れもの。
潜水艦は劣化が早く寿命が短いので、この世界の金属でそれらを克服していたのか。なるほどな、だからこの船は劣化を感じさせなかったんだな。
それ以外にもこの船は随所にこの世界の技術を巧みに取り入れていたようで、技術員は頻りに感心していた。
とりあえず後で返却してくれる事を約束し、今日は図面や設計図などといった資料を持ち帰るそうだ。
今回はこの船の所在を確認できるようにするための魔動機を一時的に取り付けるだけに止め、船の解析が済んだ後に、ちゃんと整備も請け負ってくれると言う。
どうしてそこまでしてくれるのかと尋ねたら、この船には博物館で飾れるような歴史的価値があるそうで、この船の図面や資料を貸してもらえるだけで十分お釣りがくるからだそうな。
そういうものなのかね……。
そんな感じで白雪号には少しだけ手を加えないといけないので、今日はこの基地で一泊させてもらう事となっている。
今頃はきっと、本来要人が宿泊するための貴賓館に案内されている頃だろう。ラキちゃんがいるからね、最大級に持て成してもらえるのがありがたい。
しかも夜には歓迎の宴も開いてくれるそうで、いやはや、最近は飲んでばかっかりだな……。
次の日。
白雪号の改修作業が終わるまでは暇なので、ナタリアさんにこの島を案内してもらう事にした。
今俺達がいる基地周辺には結界が張られており、雷樹の影響を受けないようになっている。
そのため落雷の心配は全く無く、絶え間なく鳴り響いている雷樹の音も、遠くで雷が鳴っているかなと思う程度まで抑えられていた。
まずは潜水艦のドックを見学させてもらい、少しだけ魔族の潜水艦の中も見せてもらう。
もう俺だけでなく、全員が大興奮。すげーすげー言いながら見学させてもらっていた。
いやもうホントにSFに出てくる宇宙船のようで、とにかくかっこいいんだよ! まるで某アニメに出てきたノーチラス号みたいなんだこれが!
「我が艦の主な任務は、海洋調査と魔物をダンジョンにおびき寄せる転移門の設置や維持管理ですね」
「「「へぇー」」」
以前トリスさんから人の生息域を広げるために、世界のあらゆる箇所にダンジョンへ魔物をおびき寄せるための転移門が設置してあると聞いた。
なるほどな、海の魔物もこの人達のおかげで数を減らしていたんだな。
「深海での作業は、主にこちらのゴーレムによって遠隔操作で行っています」
潜水艦の横では、メンテナンス中と思われる人型のゴーレムが並んでいた。
なんかこいつ等、どっかで見た事があるぞ……。
「あっ! こいつ十四層のダンジョンボスじゃねーか!」
「うふふ、あれはこのゴーレムに手を加え、自律性を持たせて運用しているんですよ。――どうでした? 中々手強かったです?」
「うんうん、結構手強かった。核が減る度にどんどん核の移動速度が上がっていくのがいやらしかったなー。――ふふっ、おっさん吹っ飛ばされていたし」
「あー、あれは痛かったなぁ……。人型をしてはいるが人と同じ行動をするとは限らないと、あれで学んだよ」
なるほどね、こいつ等だったらどんなに深海でも問題無く、安全に作業ができるだろう。
普段は丸まった状態で格納されており、使用時は人型となって活動するんだそうな。
次に俺達は、基地周辺の案内をしてもらう。
トルディーン山と城壁のような外輪山に挟まれた陸地には、この世界でもここでしか見られないであろう独特な形状をした、低木や草花が生い茂っている。
「ここら一帯はここでしか生息していない非常に貴重な草花や低木ばかりで、薬草となる種も数多くあります。そのため、私達はここを天然の薬草畑として活用しております」
「こんな環境なのに凄いですね、こんなにも植物が生い茂っているなんて。………………ああそうか、雷のおかげだ」
「ふふっ、流石は迷い人であるケイタさん。ご存知でしたか」
「どういう事なの? お兄ちゃん」
「ああえっと、それはね――」
昔、農業を営んでいた祖父に聞いた事がある。なぜ雷が稲妻とよばれているか。
それは、昔から 『稲妻ひと光で稲が一寸伸びる』 と言われるように、雷が多いと稲が豊作になると考えられていた。
そのため、雷と稲が夫婦となり子(稲穂)を生すから、雷は稲妻と呼ばれるんだそうだ。
実はこれ、科学的な根拠がある。
植物の成長に欠かせない三大要素は窒素・リン酸・カリウムなのだが、雷放電により空気中の窒素が酸素と結びつき、窒素酸化物となる。
これが雨に溶けて降り注ぎ、養分となるんだよね。だから雷は、自然の肥料と呼ばれている。
「それに、たまに起こる落雷による火災で、その周囲の土壌が整えられます」
「なるほど、燃えた所は天然の焼畑になるんですね。どおりでここは低木しかないわけだ」
「はい、その通りです」
「あのー……。ここの薬草、少し分けてもらう事ってできます?」
「勿論大丈夫ですよラキシス様。よろしければ既に摘んで処理のしてある生薬もありますが、そちらをお分けしても構いませんよ?」
「本当ですか!? ありがとうございます! ――やった! サリアお姉ちゃんに良いお土産ができましたっ!」
「本当だね! ――今俺達は薬師の方の所にご厄介になってるので、とても助かります」
「そうでしたか。では後でお持ちしますね」
ここでしか採れない非常に珍しい薬草。これはきっと大家さんも喜ぶだろう。
それからも暫く小道に沿って外を散策していると、どこか見慣れた転移門に行き着いた。
これは……。俺がこの世界へきた時の聖都アルテリア近くにあった遺跡にそっくりだ。
「あっ、こんな所に転移門があるぞ」
「これは私達が移動用に使っている転移門ですね。これで王都ハイネリアまで行き来しております」
「へぇー。もしかして、これであたいらも移動できちゃったりする?」
「皆さんは残念ながら利用する事ができませんね。ですが……うーん、これは言っちゃっていいのかなぁ……。――少々お待ちくださいね、確認を取ります」
それからナタリアさんは携帯端末を取り出すと、どこかへ確認の連絡をしだした。
「――ええ、ええ、はいそうです。ではお話してもよろしいと言う事で。……分かりました。そのようにお伝え致します」
おっ、話は纏まったようだ。
ナタリアさんは携帯端末を仕舞うと、こちらへ向き直った。
「お待たせしました。本来ならばラキシス様が四十層へ到達したらサラス様がお教えする予定だったそうですが、今お話しても良いと許可を取りました。――この転移門は、魔族以外ですとダンジョン四十階層まで踏破した者が利用を許可されます」
「えっ、マジで!?」
「ただし、実はこれダンジョン攻略における裏技的な事ですので、できれば他言無用でお願いしたいのです。その点を了承して頂けるのでしたら、皆さんに運用方法をお教えしますが、……約束守れますか?」
「えっと、親しい人に話すのもダメ? あたいのお姉ちゃんのパーティ、既に四十層到達してるから教えてあげたいんだけど……」
ああそうか、 『紅玉の戦乙女』 は既に五十層まで到達している最深層冒険者だから利用できるもんな。
「そうですねぇ……、その辺は皆さんの判断にお任せしますが、皆さんがこの人にならばという口の堅い方だけにしてくださいね」
それからナタリアさんは俺達やポラーレファミリーにしっかりと釘を刺して確認を取ると、この転移門の運用方法を教えてくれた。
フィールドエリアにあるボス部屋からの転移門は本来ならば一方通行なのだが、実は四十層だけは秘密のエリアに移動できるようになっているそうだ。
そしてその秘密のエリアには世界各地のダンジョンへ通じる転移門がずらーっと並んでおり、四十層まで踏破したダンジョン間ならば、転移門を使って移動できるようになっている。
これは元々、各地のダンジョンを四十層まで到達した冒険者へのサービス的な裏技で設定していた事らしい。
しかし、あちらこちらのダンジョンをそれぞれ四十層まで攻略する酔狂な冒険者は稀で、しかもこの裏技に気が付いている人間がほぼいないため、利用者は極少数らしい。
そしてその秘密のエリアは、この雷樹島のような秘境に点在する転移門とも繋がっていた。
「てことは、どこでもいいからダンジョンを四十層までいけるようになれば、ここへ来れるようになるって事だね!?」
おおっ? 船長が妙に食いついてきたぞ。お前らダンジョン攻略なんてしてないだろうに……。
「そうなりますね。ただし、事前にこの転移門に登録しておかないといけませんけどね」
「「「登録?」」」
「はい。登録は至って簡単で、そこの転移門の魔法陣の中に入れば登録は完了です」
ここにいる面子はまだ誰もダンジョンの四十層へ到達していないにも関わらず、全員が魔法陣の中に入り登録をしていた。
ラキちゃんも登録を終えたのだが、何か気になる事があるようでナタリアさんに質問を持ち掛ける。
「ということは、一度何かしらの方法でここまで来ないと、この転移門は使えないって事なんですね?」
「はい、そうなりますね」
「そっかー。じゃ、サリアお姉ちゃんはここへは連れてこれないのかぁ……」
ラキちゃんは残念そうに、しょんぼりとしてしまう。
あーそうか、こんな大家さんの喜びそうな薬草の宝庫、たしかに連れてきてあげたかったね。
「そうですね……では、ラキシス様のゲスト招待の権限を解除しておきましょう」
「ゲスト招待の権限!?」
「はい。実は本来ならばラキシス様は全ての権限をお持ちなのですが、サラス様がケイタさんとダンジョンを攻略する上でつまらなくなってしまうと、制限を掛けているのです」
「そうだったのですか」
「はい。ですのでラキシス様ならば、どこのダンジョンでも良いので招待されたい方と四十層へご一緒すれば、御自分が登録されている秘境への転移門に限り、招待できるようになります」
「――! やった! ありがとうございます!」
「はい、どういたしましてっ」
ラキちゃんの喜ぶ姿を見て、ナタリアさんもニコニコ顔だ。
よかった。後は大家さんも交えてダンジョン四十層を踏破すれば、大家さんもここへ来ることができるようになる。
きっと大家さん喜ぶぞ。
そういえば……。
俺は先程から気になっていた事をナタリアさんに尋ねてみる事にした。
「ナタリアさん一つお聞きしたいのですが、ここのような秘境の転移門って、もしかして聖都アルテリアの近くにもありません?」
「おっ、ケイタさんよくご存じですね。――はい、実はあそこもそうなんです」
「おお、やっぱり! なんか随分とこの転移門と雰囲気が似ていたので、もしやと思ったんです」
「割と秘境でも無い場所にも、ここのような転移門は幾つか存在します。それらを探してみるのも、意外と楽しいかもしれませんね。魔物用の転移門とは形状が違うので、見ればすぐに分かるはずですよ?」
どうやらナタリアさんは何でもかんでも教えてくれるわけでは無いようで、俺達に転移門を探索する楽しみを与えてくれたようだ。
「えっ……。じゃ聖都なら、聖都のダンジョン攻略しなくても行けるって事じゃん! ――ねーお姉ちゃん、あたしらもヘイガルデスのダンジョン攻略しよーよ!」
「そうだねえ……。冬でもここからヘイガルデスへ買い出しに行けるようになるのは魅力だね。それに天使様に招待してもらえば、聖都にまで買い出しに行けるじゃないか。……よし、いっちょやってみるか!」
「いぇーい! ――リンメイ、すぐに攻略して聖都に遊びに行くからね!」
どうやらアリーナは、聖都にいるリンメイの所まで簡単に遊びに行ける手段があると知って、とても嬉しそうにしている。
友達が遊びに来てくれるって事が嬉しいやら恥ずかしいやらで、照れているリンメイがなんか可愛い。
「おっおう、楽しみにしてる……。――あっ、あたいらも負けてらんねーな! 帰ったら早速四十層まで攻略しようぜ!」
「うんうん!」
「だなっ! 王子様とエルレインもそれでいいか?」
「無論だ。こんな便利な設備、是非使えるようにしておきたいからな」
「はい、私も勿論問題はありません。――これで次の目標ができましたねっ!」
これは凄い情報だ。俺達の次の目標ができてしまったぞ。
帰ったら俺達のパーティの六人目である大家さんを誘って、ダンジョン四十層まで攻略だ!
「よろしくお願いします」
ナタリアさんはこの基地の軍人というよりも、グランドホステスといった佇まいの方だった。
俺達が雷樹島にいる間は、この方が俺達を接客をしてくれるそうだ。
「それでは白雪号の監査に移らせて頂きたいのですが、言語面でのサポートをお願いするるかもしれませんので、ケイタさんも御一緒よろしいでしょうか?」
「分かりました。――じゃ、ちょっと行ってくる。皆はすまないけどラキちゃんが戻ってくるの待っててもらえるか?」
「オッケー」
「うむ」
「分かりました」
「ラキシス様がお戻りになられましたら、先に皆様を貴賓館へご案内させていただきます」
図面や設計図など資料の詳細を聞かれた時の為、白雪号の監査には俺も同行する事となる。
緊張した面持ちの船長達に案内され、居ても立っても居られない感じの魔族の技術員は大はしゃぎで白雪号へ向かって行く。
双方の雰囲気が随分と対照的だったので、思わず笑ってしまいそうになる。
「いやぁー、魔王様はあちらの技術をあんまり教えてはくれませんからね。今日は楽しみで仕方がありませんでしたよ」
魔族の技術員は俺の立ち位置を知っているので、並んで歩いていた一人が、そっと俺に話しかけてくれた。
どうやら彼らは魔力を一切使わない俺の世界の技術に大変興味があったようで、しかもその技術をどのようにしてこちらの技術で代用しているのかにも注目しているようだった。
向こうの波止場にはまるでSFの世界に出てきそうな魔族の潜水艦が並んでいるんだよね。あんなのを作れてしまうのに、彼らは俺の世界の技術に興味があるんだな。
「先輩見てください、この船マナメタルで出来てますよ!」
「おお流石だな。これなら大きな破損でもしない限り、何百年でも持つぞ」
マナメタルとはダンジョンで手に入るあの古銭に使われている金属で、魔力を流せば自己修復をしてくれる優れもの。
潜水艦は劣化が早く寿命が短いので、この世界の金属でそれらを克服していたのか。なるほどな、だからこの船は劣化を感じさせなかったんだな。
それ以外にもこの船は随所にこの世界の技術を巧みに取り入れていたようで、技術員は頻りに感心していた。
とりあえず後で返却してくれる事を約束し、今日は図面や設計図などといった資料を持ち帰るそうだ。
今回はこの船の所在を確認できるようにするための魔動機を一時的に取り付けるだけに止め、船の解析が済んだ後に、ちゃんと整備も請け負ってくれると言う。
どうしてそこまでしてくれるのかと尋ねたら、この船には博物館で飾れるような歴史的価値があるそうで、この船の図面や資料を貸してもらえるだけで十分お釣りがくるからだそうな。
そういうものなのかね……。
そんな感じで白雪号には少しだけ手を加えないといけないので、今日はこの基地で一泊させてもらう事となっている。
今頃はきっと、本来要人が宿泊するための貴賓館に案内されている頃だろう。ラキちゃんがいるからね、最大級に持て成してもらえるのがありがたい。
しかも夜には歓迎の宴も開いてくれるそうで、いやはや、最近は飲んでばかっかりだな……。
次の日。
白雪号の改修作業が終わるまでは暇なので、ナタリアさんにこの島を案内してもらう事にした。
今俺達がいる基地周辺には結界が張られており、雷樹の影響を受けないようになっている。
そのため落雷の心配は全く無く、絶え間なく鳴り響いている雷樹の音も、遠くで雷が鳴っているかなと思う程度まで抑えられていた。
まずは潜水艦のドックを見学させてもらい、少しだけ魔族の潜水艦の中も見せてもらう。
もう俺だけでなく、全員が大興奮。すげーすげー言いながら見学させてもらっていた。
いやもうホントにSFに出てくる宇宙船のようで、とにかくかっこいいんだよ! まるで某アニメに出てきたノーチラス号みたいなんだこれが!
「我が艦の主な任務は、海洋調査と魔物をダンジョンにおびき寄せる転移門の設置や維持管理ですね」
「「「へぇー」」」
以前トリスさんから人の生息域を広げるために、世界のあらゆる箇所にダンジョンへ魔物をおびき寄せるための転移門が設置してあると聞いた。
なるほどな、海の魔物もこの人達のおかげで数を減らしていたんだな。
「深海での作業は、主にこちらのゴーレムによって遠隔操作で行っています」
潜水艦の横では、メンテナンス中と思われる人型のゴーレムが並んでいた。
なんかこいつ等、どっかで見た事があるぞ……。
「あっ! こいつ十四層のダンジョンボスじゃねーか!」
「うふふ、あれはこのゴーレムに手を加え、自律性を持たせて運用しているんですよ。――どうでした? 中々手強かったです?」
「うんうん、結構手強かった。核が減る度にどんどん核の移動速度が上がっていくのがいやらしかったなー。――ふふっ、おっさん吹っ飛ばされていたし」
「あー、あれは痛かったなぁ……。人型をしてはいるが人と同じ行動をするとは限らないと、あれで学んだよ」
なるほどね、こいつ等だったらどんなに深海でも問題無く、安全に作業ができるだろう。
普段は丸まった状態で格納されており、使用時は人型となって活動するんだそうな。
次に俺達は、基地周辺の案内をしてもらう。
トルディーン山と城壁のような外輪山に挟まれた陸地には、この世界でもここでしか見られないであろう独特な形状をした、低木や草花が生い茂っている。
「ここら一帯はここでしか生息していない非常に貴重な草花や低木ばかりで、薬草となる種も数多くあります。そのため、私達はここを天然の薬草畑として活用しております」
「こんな環境なのに凄いですね、こんなにも植物が生い茂っているなんて。………………ああそうか、雷のおかげだ」
「ふふっ、流石は迷い人であるケイタさん。ご存知でしたか」
「どういう事なの? お兄ちゃん」
「ああえっと、それはね――」
昔、農業を営んでいた祖父に聞いた事がある。なぜ雷が稲妻とよばれているか。
それは、昔から 『稲妻ひと光で稲が一寸伸びる』 と言われるように、雷が多いと稲が豊作になると考えられていた。
そのため、雷と稲が夫婦となり子(稲穂)を生すから、雷は稲妻と呼ばれるんだそうだ。
実はこれ、科学的な根拠がある。
植物の成長に欠かせない三大要素は窒素・リン酸・カリウムなのだが、雷放電により空気中の窒素が酸素と結びつき、窒素酸化物となる。
これが雨に溶けて降り注ぎ、養分となるんだよね。だから雷は、自然の肥料と呼ばれている。
「それに、たまに起こる落雷による火災で、その周囲の土壌が整えられます」
「なるほど、燃えた所は天然の焼畑になるんですね。どおりでここは低木しかないわけだ」
「はい、その通りです」
「あのー……。ここの薬草、少し分けてもらう事ってできます?」
「勿論大丈夫ですよラキシス様。よろしければ既に摘んで処理のしてある生薬もありますが、そちらをお分けしても構いませんよ?」
「本当ですか!? ありがとうございます! ――やった! サリアお姉ちゃんに良いお土産ができましたっ!」
「本当だね! ――今俺達は薬師の方の所にご厄介になってるので、とても助かります」
「そうでしたか。では後でお持ちしますね」
ここでしか採れない非常に珍しい薬草。これはきっと大家さんも喜ぶだろう。
それからも暫く小道に沿って外を散策していると、どこか見慣れた転移門に行き着いた。
これは……。俺がこの世界へきた時の聖都アルテリア近くにあった遺跡にそっくりだ。
「あっ、こんな所に転移門があるぞ」
「これは私達が移動用に使っている転移門ですね。これで王都ハイネリアまで行き来しております」
「へぇー。もしかして、これであたいらも移動できちゃったりする?」
「皆さんは残念ながら利用する事ができませんね。ですが……うーん、これは言っちゃっていいのかなぁ……。――少々お待ちくださいね、確認を取ります」
それからナタリアさんは携帯端末を取り出すと、どこかへ確認の連絡をしだした。
「――ええ、ええ、はいそうです。ではお話してもよろしいと言う事で。……分かりました。そのようにお伝え致します」
おっ、話は纏まったようだ。
ナタリアさんは携帯端末を仕舞うと、こちらへ向き直った。
「お待たせしました。本来ならばラキシス様が四十層へ到達したらサラス様がお教えする予定だったそうですが、今お話しても良いと許可を取りました。――この転移門は、魔族以外ですとダンジョン四十階層まで踏破した者が利用を許可されます」
「えっ、マジで!?」
「ただし、実はこれダンジョン攻略における裏技的な事ですので、できれば他言無用でお願いしたいのです。その点を了承して頂けるのでしたら、皆さんに運用方法をお教えしますが、……約束守れますか?」
「えっと、親しい人に話すのもダメ? あたいのお姉ちゃんのパーティ、既に四十層到達してるから教えてあげたいんだけど……」
ああそうか、 『紅玉の戦乙女』 は既に五十層まで到達している最深層冒険者だから利用できるもんな。
「そうですねぇ……、その辺は皆さんの判断にお任せしますが、皆さんがこの人にならばという口の堅い方だけにしてくださいね」
それからナタリアさんは俺達やポラーレファミリーにしっかりと釘を刺して確認を取ると、この転移門の運用方法を教えてくれた。
フィールドエリアにあるボス部屋からの転移門は本来ならば一方通行なのだが、実は四十層だけは秘密のエリアに移動できるようになっているそうだ。
そしてその秘密のエリアには世界各地のダンジョンへ通じる転移門がずらーっと並んでおり、四十層まで踏破したダンジョン間ならば、転移門を使って移動できるようになっている。
これは元々、各地のダンジョンを四十層まで到達した冒険者へのサービス的な裏技で設定していた事らしい。
しかし、あちらこちらのダンジョンをそれぞれ四十層まで攻略する酔狂な冒険者は稀で、しかもこの裏技に気が付いている人間がほぼいないため、利用者は極少数らしい。
そしてその秘密のエリアは、この雷樹島のような秘境に点在する転移門とも繋がっていた。
「てことは、どこでもいいからダンジョンを四十層までいけるようになれば、ここへ来れるようになるって事だね!?」
おおっ? 船長が妙に食いついてきたぞ。お前らダンジョン攻略なんてしてないだろうに……。
「そうなりますね。ただし、事前にこの転移門に登録しておかないといけませんけどね」
「「「登録?」」」
「はい。登録は至って簡単で、そこの転移門の魔法陣の中に入れば登録は完了です」
ここにいる面子はまだ誰もダンジョンの四十層へ到達していないにも関わらず、全員が魔法陣の中に入り登録をしていた。
ラキちゃんも登録を終えたのだが、何か気になる事があるようでナタリアさんに質問を持ち掛ける。
「ということは、一度何かしらの方法でここまで来ないと、この転移門は使えないって事なんですね?」
「はい、そうなりますね」
「そっかー。じゃ、サリアお姉ちゃんはここへは連れてこれないのかぁ……」
ラキちゃんは残念そうに、しょんぼりとしてしまう。
あーそうか、こんな大家さんの喜びそうな薬草の宝庫、たしかに連れてきてあげたかったね。
「そうですね……では、ラキシス様のゲスト招待の権限を解除しておきましょう」
「ゲスト招待の権限!?」
「はい。実は本来ならばラキシス様は全ての権限をお持ちなのですが、サラス様がケイタさんとダンジョンを攻略する上でつまらなくなってしまうと、制限を掛けているのです」
「そうだったのですか」
「はい。ですのでラキシス様ならば、どこのダンジョンでも良いので招待されたい方と四十層へご一緒すれば、御自分が登録されている秘境への転移門に限り、招待できるようになります」
「――! やった! ありがとうございます!」
「はい、どういたしましてっ」
ラキちゃんの喜ぶ姿を見て、ナタリアさんもニコニコ顔だ。
よかった。後は大家さんも交えてダンジョン四十層を踏破すれば、大家さんもここへ来ることができるようになる。
きっと大家さん喜ぶぞ。
そういえば……。
俺は先程から気になっていた事をナタリアさんに尋ねてみる事にした。
「ナタリアさん一つお聞きしたいのですが、ここのような秘境の転移門って、もしかして聖都アルテリアの近くにもありません?」
「おっ、ケイタさんよくご存じですね。――はい、実はあそこもそうなんです」
「おお、やっぱり! なんか随分とこの転移門と雰囲気が似ていたので、もしやと思ったんです」
「割と秘境でも無い場所にも、ここのような転移門は幾つか存在します。それらを探してみるのも、意外と楽しいかもしれませんね。魔物用の転移門とは形状が違うので、見ればすぐに分かるはずですよ?」
どうやらナタリアさんは何でもかんでも教えてくれるわけでは無いようで、俺達に転移門を探索する楽しみを与えてくれたようだ。
「えっ……。じゃ聖都なら、聖都のダンジョン攻略しなくても行けるって事じゃん! ――ねーお姉ちゃん、あたしらもヘイガルデスのダンジョン攻略しよーよ!」
「そうだねえ……。冬でもここからヘイガルデスへ買い出しに行けるようになるのは魅力だね。それに天使様に招待してもらえば、聖都にまで買い出しに行けるじゃないか。……よし、いっちょやってみるか!」
「いぇーい! ――リンメイ、すぐに攻略して聖都に遊びに行くからね!」
どうやらアリーナは、聖都にいるリンメイの所まで簡単に遊びに行ける手段があると知って、とても嬉しそうにしている。
友達が遊びに来てくれるって事が嬉しいやら恥ずかしいやらで、照れているリンメイがなんか可愛い。
「おっおう、楽しみにしてる……。――あっ、あたいらも負けてらんねーな! 帰ったら早速四十層まで攻略しようぜ!」
「うんうん!」
「だなっ! 王子様とエルレインもそれでいいか?」
「無論だ。こんな便利な設備、是非使えるようにしておきたいからな」
「はい、私も勿論問題はありません。――これで次の目標ができましたねっ!」
これは凄い情報だ。俺達の次の目標ができてしまったぞ。
帰ったら俺達のパーティの六人目である大家さんを誘って、ダンジョン四十層まで攻略だ!
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又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
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ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
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