天使の住まう都から

星ノ雫

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四章

116 お出迎え

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「アルシオーネ嬢! まさかこのような所で貴方に会えるとは……! もしや、わざわざ出迎えに来てくださったのですか!?」

「ふふっ、まあ……そういう事になりますわね」

「なんとっ……!」

 王子様はもう小躍りしそうなほどに大喜び。既に王子様の目には、アルシオーネしか映っていなかった。
 頼むぜ王子様……。まだ階下にはお邪魔虫がいるんだから、しっかりしてくれ。

「でも、よく俺達が今日ここに来るって分かりましたね。――もしかして、ずっと待っててくれたんですか?」

「いいえ、カーミラのお友達が教えて下さったのです。今日辺りに三十五層を踏破するだろうと。――なのでお迎えに上がりました」

 すると階段に腰掛け眠そうにしていたカーミラが、こちらにテレポートしてきた。ふわりと俺のリュックの上に腰を掛けると、背後から俺の首に腕を回してくる。

「そーなんだよー。ケイタ君達に逆恨みしてるアホウがいるから、迎えに行ってあげてくれって頼まれちゃったんだよねー。――それはそうと! もー! ケイタ君の血は僕専用なんだからさぁ、他の子になんかあげちゃ、だ・め・だ・ゾッ!」

「はは……」

 やれやれ、いつから俺の血はカーミラ専用になったんですかね……?
 まあそれは置いといて、そうか……、彼女がカーミラに連絡してくれたんだな。

 今回のダンジョン攻略では何度も盗賊の彼等に助けられてしまった。機会があればちゃんとお礼がしたい。
 あっ、カーミラならひょっとしたら、彼等と連絡を取ってくれるかも?

「ねえカーミラさん? そのお友達とは――」

「もー! なんでおにーちゃんの血がカーミラさん専用なんですかぁー!」

 うおっとっと……。どうやらラキちゃんが、カーミラの足を引っ張り始めちゃったようだぞ……っと!?

「にょわー! 痛い痛い引っ張らないでー! 悪かったって! もージョーダンってばー!」

「グェ―! ちょ……待っで! ぐるぢい……!」

 カーミラが俺の首に腕を回したままなもんだから、俺の首まで絞められてしまっていた。
 勘弁してくれ……、危うく意識が飛ぶところだったよ……。

「まったく、何やってるんですか貴方達は……。――さっ、参りますわよ?」

「はいっ! ――さっアルシオーネ嬢、お手をどうぞ」

「もう……。わたくしは今や、只の平民なのですよ?」

「関係ありません。私にとってアルシオーネ嬢は、永遠に尊い人なのですから」

「あら……。少し見ない間に、随分と口がお上手になりましたのね」

 アルシオーネは少しだけ困った表情をするも、すぐに慣れた所作で手を差し出す。
 王子様はもうニッコニコだ。アルシオーネの手を取ると、エスコートしながらさっさと階段を下りていってしまった。



 まるで舞台演劇さながらにアルシオーネをエスコートして王子様が下りて来たもんだから、階下にいた全員は呆気に取られてポカンとした表情をしてしまっている。
 凄いな王子様。場の空気なんかまったく気にしてないぞ。

 それでも階下まで行くと、アルシオーネしか映っていなかった王子様の目にも漸く、他の連中の存在が目に入ったようだ。

「なんだ貴様らいたのか? 今日は気分が良いから見逃してやる。早々に立ち去るがよい。――さっ、行きましょうアルシオーネ嬢」

「なっ……、なんだとてめぇ!」

 ライアス達は飄々ひょうひょうとする王子様の態度にカチンときてしまい、静まり返っていた場が再び騒がしくなる。
 アルシオーネはそんなライアス達 『朱炎の風』 を一瞥すると突然、連中の助っ人としてやってきた面々に向けて声を発した。

「後ろに控える方々、此度は見なかった事にして差し上げます。そのまま回れ右してお帰りなさい。――彼らは 『ハルジの閃光』 を倒してしまえる程の強者つわもの揃いですのよ? もしもやり合ったら、確実に命を落としてしまいます。それに…………あなた方は、こちらのカサンドラ王国第二王子であるセリオス殿下・・に喧嘩を売ろうとしているという事を、理解していらっしゃるのかしら?」

 そんなアルシオーネの言葉にライアス達の後ろに控えていた連中はハッとして、漸く自分達が何をしでかそうとしていたのかを理解する。
 そう。今彼らは、貴族どころか王族に喧嘩を売ろうとしていたのだ。

「あっ、そういえばそうだったな。王子様は王子様・・・だったの忘れてた」

「大丈夫だ、俺も忘れてた」

「えへへ、私もですー」

 共に行動しているのでついつい忘れてしまうが、王子様は当たり前だけど王族であり、護衛騎士であるエルレインだって貴族令嬢なのだ。
 そんな二人のいるパーティにコイツ等は喧嘩を売ろうとしていたのだという事を、今更ながら俺達も理解する。

 連中の様子を見ると様々だった。アルシオーネの忠告が効いた連中もいれば、そうでもない連中もいる。
 これは仕方のないことだが、ここはカサンドラ王国ではない。このような忠告が効くのは、 『蒼狼の牙』 のようにカサンドラ王国出身の冒険者と、貴族という存在の力が強い国出身の冒険者だけだろう。

 逆にエルドラードのような共和国出身の者やカサンドラ王国と敵対する国出身の者にとっては、寧ろ嘲笑のネタとなってしまったようだ。

「ハッ! 他所の国の王子様がこんなところで権力振りかざすのかい! ――あんた実力勝負な冒険者になったくせに、恥ずかしいと思わないのかい?」

 途端に馬鹿にしたような顔でドワーフの女テンプルは啖呵を切ってきたのだが、思わず俺は吹き出してしまう。

「ぶはっ…………おいおい笑わせんなよ。お前ら俺達に敵わねぇからって、随分と沢山のお友達連れてきてんじゃねーか。――お前らの方がよっぽど恥ずかしいと思うぜ?」

「フン、まったくだな」

「ホントだぜ! あんたら情けねぇと思わないのかい?」

「うるさいよ! あんたらだって 『紅玉の戦乙女』 呼んでんじゃないかぃ!」

「黙れ貴様。アルシオーネ嬢は私を・・迎えに来てくださったのだ。――これ以上戯言を言うのなら、貴様ら全員、この場で切り捨てる」

 参ったな……、これじゃ埒が明かない。それにこのままだと、王子様が飛び出していきそうだ。

「リーダー同士の一騎打ちで俺が勝ったんだから、お前らとはもう決着がついたはずだ。――諦めてさっさと帰れ」

「ふざけんな! まぐれで勝ったくらいで調子に乗ってんじゃねえぞ! いいか、あの足鎧は俺達のもんなんだよ! さっさと――」

「言ったはずだぜ、次は無いってな。――やり合うってんなら、お前ら皆殺しだ。もちろん覚悟はできてんだろうな?」

「黙れクソが! てめぇらこそ覚悟はできてんだろうなぁ!? 只人の分際で――」

「まだ分かってないようだな。この際だから教えといてやる。このパーティのリーダーは俺なんだがな、このパーティで一番弱いのも俺なんだわ。――お前は、そんな俺にすら敵わなかったんだよ」

「なっ……んだとぉ!?」

 すると、ライアスの横で偉そうに腕を組んでいたスバートが、呆れた顔をして横槍を入れてきた。

「ハッ! おいおい、いくら何でも盛りすぎだろ。それだと、お前よりもリンメイの方が強いってことになんじゃねーか」

「当たり前だ。お前ら随分とリンメイを下に見てるよーだが、もうお前らの知ってる頃のリンメイじゃない。――お前さ、リンメイに蹴り飛ばされた事もう忘れたのか?」

「なっ……、黙れ貴様ぁ……!」

 スバートは痛い所を突かれたようで、ドスのきいた声で俺を牽制すると、それ以上は何も語らず睨みつけてきた。

「へぇーそうかい。――てことは何かい? そこの神官服着た小娘よりもあんたは弱いってのかい?」

 そう言うと連中はニヤニヤと、ラキちゃんを品定めするかのような目で見始めた。
 チッ……、こういった輩はすぐに弱そうな存在から狙おうとするから腹が立つ。ならばやることは決まっている……!

「おーぅ、弱い弱い。うちのラキシスさんには天地がひっくり返ったって敵わねーよ。ねぇ?」

 俺は仰々しく肩をすくめてお手上げですという仕草をすると、ラキちゃんに目配せをする。
 するとラキちゃんは頷き、連中の頭上辺りに向けてパチンと指を鳴らした。途端に……。

 ――ゴウッ!!!

 突如頭上に猛烈な熱源が発生したかと思えば、連中の頭上に巨大な炎の塊が出現した。
 『蒼狼の牙』 に見せた時とは比べ物にならない、見る者すべてが本能で恐怖を感じてしまうような、禍々しい小太陽とも呼べる存在がそこにあった。

「「「なっ!?」」」

「うふふのふーっ、皆さん纏めてかかってきやがれですっ!」

 ラキちゃんは可愛らしい挑発をするとすぐに火球を消してしまったのだが、その影響で周囲には熱風が吹き荒れる。
 どうやら連中に与える印象は絶大だったようで、誰もが絶句してしまっていた。



 ファルンはこのタイミングを逃さず、ライアス達が引き連れてきた連中に向けて言葉を発する。

「貴方達さぁ、コイツ等にどんな美味しい話を持ち掛けられたのか知らないけど、命が惜しかったら止めときなさい。――本当に死ぬわよ?」

「そーだよー。それにケイタ君自分が一番弱いって言ってるけどさー、 『魔闘術のダジール』 を倒したのケイタ君なんだぜ?――君ら敵うのかい?」

 意外な事に、 『ハルジの閃光』 の一人であるダジールの名前はそれなりにインパクトがあったようだ。眠たそうに俺の腕に寄りかかっていたカーミラの忠告に、どよめきが生じてしまう。
 そして、アルシオーネがダメ押しとばかりに言葉を付け加える。

「彼らに危害を加えようとするのなら、勿論わたくし達も加勢致します。――黙って見過ごす訳がないでしょう?」

「当たり前だ! リンメイに危害を加えようとするやつらは皆殺しにしてやる! ――命が惜しくない奴はかかってこい!」

「あたしもサリアおば……お姉ちゃんいるからね。うん、相手になるよ」

 メイランは今にも爆発しそうな程に怒りを露わにしている。もう我慢の限界だとばかりに彼女の力が漏れ出してきており、周囲が急激に冷えていく。
 その事を誰もが肌で感じ取り戦慄してしまう。

「ライアス! てめぇまたリンメイに手を出したら次は・・殺してやるって言ったよなぁ!? ――覚悟はできてんだろうな!?」

 これまで見せたことがないような怒りの形相で、メイランが啖呵を切る。
 どうやらこの怒号が、彼らの行動の引き金となってしまったようだ。

「チッ……、俺は帰るぞ! 冗談じゃねぇ!」

「やってらんねーわ。んじゃーな!」

「バカバカしい。勝手にやってろ、俺も帰るぜ」

「おいおいどーいうことだコレ!? 話が違うぞ!」

「こんなくだらねーことに命張れるかってんだ!――おい、帰るぞ!」

「あー……そういう事だ、わりーなライアス!」

「おっ、おいちょっと待てお前ら! ――おいっ!」

 助っ人として呼んで来た連中はライアス達に向けてそれぞれ悪態をつくと、次々と足早に帰っていってしまう。
 そして、結局残ったのは 『朱炎の風』 の四人だけとなってしまった。



 ライアスは焦りや怒りなど様々な感情が入り混じった表情を隠す事も出来ず、最後にはすがるような目でマイラを見てしまっていた。
 マイラはそんな情けない同族の姿を目にして苛立ちを隠せず、顔をしかめると舌打ちをしてしまう。

「チッ、みっともない……! ――あたいじゃメイランを止めらんないよ。ライアス、命が惜しけりゃ諦めな」

 マイラは忌々しそうにそんな言葉を吐き捨てると、話は終わりだとばかりにフンとそっぽを向いてしまった。

「グッ……! クソッ! クソオォォ!!!」

 マイラの拒絶する態度が相当堪えたのだろう。ライアスは踵を返すと、先に帰って行った連中の後を追うように、足早に出口の転移門ポータルへと走って行ってしまった。

「あっ、おい! ――チッ! お前らあまり調子に乗ってると、いずれ痛い目見るぜ!」

「貴様ら、いい気になるなよ……!」

「あんたら覚えときなよ!」

 最後にベイロン、スバート、テンプルの三人が各々威勢のいい捨て台詞を吐き、ライアスを追うようにして帰っていった。

「フン! 恥ずかしい奴ら」

「あいつら全然懲りてなかったな……。ああ、めんどくせぇ」

「ふむ……。あのような輩、今この場で始末したほうがよかったのではないか?」

「……まぁな」

 王子様の言う通りなんだけど、こちらから仕掛けて皆殺しにするわけにもいかない。
 返り討ちにしようにも、深層冒険者であるアルシオーネ達が来てしまったので、連中は俺達に手を出す事ができなくなってしまっていた。
 正直なところ、平和的な解決ではあったが遺恨が残ったままだ。あの手合いはいずれまた、何かしら仕掛けてくるだろうな……。

 しかしそんな俺達に向け、アルシオーネは意外な言葉を発する。

「誰も血を流すこと無く事が済んだのです。それで良しとしましょう」

「ははっ……、ですね」

 王子様のパーティメンバーであったカルラを、いきなり焼き殺そうとした人物とは思えない言葉だなぁ……。
 アルシオーネが涼しい顔をしてそんな事を言うもんだから、俺は内心で驚いてしまっていた。

「リンメイっ!」

「むゎー! お姉ちゃん、ちょっ、やめて……恥ずかしい……!」

 いつものようにスキンシップをしている二人に、マイラがおずおずと謝罪の言葉を投げかける。

「ごめんねリンメイ。あたいのせいで、また・・辛い思いさせちまったみたいだね……」

「えっ、それって……。もしかしてマイラさんは、ライアスがあたいにした事知ってたの!?」

 驚いた顔をするリンメイに、マイラだけでなくメイランまでもが無言で頷く。
 それから一呼吸置いて、言葉を発したのはメイランだった。

「――ごめんね黙ってて……。あの頃のリンメイには……、その……、どうしても言えなかったの……」

「お姉ちゃん……」

 そうか、ライアスがリンメイを利用してマイラに近づいたって事、既に本人は知っていたんだな。
 でもリンメイにはその事は伝えてなかったと……。

 リンメイと出会った頃を思い返してみると、納得してしまう。
 確かに、情緒が不安定だったあの頃のリンメイに伝えてしまったら、更に塞ぎ込んで大変な事になっていたかもしれない。



 メイランはリンメイを気遣う余りか言葉に詰まってしまったようで、次の言葉がなかなか出てこない。
 すると、それを見兼ねたファルンとヒスイが、助け舟を出すかのように会話に加わってきた。

「今だから教えてあげるけど、あの時のメイランの怒りは凄まじかったのよー?」

「ホントホント、リンメイにも見せてあげたかったくらい。もう滅茶苦茶に大暴れしたんだから」

「ええっ!?」

「でもあの時はさ、半殺しで許しちゃったのよね。……あのクソ野郎のこと」

「今思うとあれ失敗だったわね。やっぱりあの時に殺しておくべきだった」

「ほんとそうね。――でもあの頃はねぇ……。マイラもその……それなりにアイツのこと気に掛けてた頃だったじゃない? だからさ、できなかったのよねぇ……」

 はは……。もう既にライアスの奴、メイラン達によってシメられていたのか。
 だからアイツ、あれほど狼狽えていたんだな……。

「あの頃の自分は、本当に見る目が無さ過ぎて嫌になるよ。……ホント、情けないったらありゃしない」

「……そっか。なんだ、そうだったのか……アハハ……。――あたいさ、どうやってマイラさんにライアスのやった事伝えようかって、結構悩んでたんだぜ?」

 戸惑いながらもニッと微笑むリンメイがいじらしい。そんなリンメイを、マイラはまるで許しを請うかのように抱きしめてしまっていた。

「――本当に……ごめんよリンメイ」



 邪魔者も去ったので、改めて今回のフィールドエリアを見渡し、そして見上げてみる。

 ……凄いな。噂通り、ここは本当に海の底だ。

 三十五層フィールドエリアはなんと、海底に沈む神殿のエリアだった。
 今俺達がいる転移門ポータル周辺を中心に、小さな町一つ程度の広さがドーム状の結界によって覆われ、海水から遮断されている。
 そのため、五層ごとにあるダンジョンのフィールドエリアでは、ここが最も狭いエリアとされていた。

 このようなフィールドエリアであるため、残念ながらここには冒険者が喜ぶような資源が存在しないとされている。
 外の世界でも普通に見かける草木が少量あるだけで、それ以外は朽ちかけている遺跡群が広がるだけ。徘徊する魔物すらいない。

 そんなエリアなので、ここは苦労して到達しても何も得るものが無い場所、というのが世間の評価だった。
 大家さんが三十層より先へ進む必要は無いと判断した理由も、なんとなく頷けてしまう。

 しかし、俺にはここが全く価値の無い場所とは思えなかった。

 なぜなら、ここはとても景観が良い。
 この遺跡群はまるで国定公園かと思わせるほどに美しく維持されているし、周囲は海底と思わせないほどに明るいため結界の外がよく見え、まるで巨大な水族館の中にいるかのよう。
 見上げると、天高くにある透明なドーム状の結界の向こう側では、様々な魚や巨大な魔物などが我が物顔で泳いでいた。

 ここはただの通過点ではなく、休日には皆で遊びに来ても良いなと思えてしまう程には快適な、憩いの場として十分に利用できそうな空間だった。

「うゎー……、天井に海が広がっています……!」

「フィールドエリアに来る度に毎回言ってる気がするが……こりゃまた凄いなぁ……!」

「なー……、すげぇよな! ここ海の底なんだぜ!?」

 俺達は頭上に広がる海を眺めながら、思わず感嘆の声を漏らしてしまっていた。
 気分はまさに、竜宮城にやってきた浦島太郎のよう。

「はぁー……、こんな素敵な場所だったのですね……」

「ふふっ。真上の景色も凄いけど、このエリア、端に広がる景色もまた凄いのよ?」

「あらそうなの? それはぜひ見てみたいですね!」

 ヒスイは先程から、叔母である大家さんに得意げに説明している。
 たしかに端から見える海底の景色も凄そうだ。時間があればぐるっと一周、見て回りたい。

「今日は流石にあれですけど、また時間を設けて皆で見学に来ませんか?」

「だな! 今度皆で遊びに来ようぜ!」

「うんうん! お弁当持って来ましょう~!」

「それは良いですね! ――ふふっ、楽しみが一つ増えました」



 今日は 『紅玉の戦乙女』 が迎えに来てくれたこともあり、海底神殿の散策はまた今度にして、俺達はさっさと転移門ポータルを潜ってエントランスホールへ戻ってきた。
 これで本当の意味での三十五層の踏破が完了となり、漸く俺達も、この第三十五層転移門ポータルが利用可能となった。

 転移門ポータルを抜けると、途端に俺達に注目が集まる。
 流石は聖都で人気の高い冒険者パーティ 『紅玉の戦乙女』 だね。一瞬にして周囲の視線を惹きつけてしまう。
 しかし彼女達は慣れたもので、そんな視線など気にも留めず、颯爽と出口へ向かって歩を進める。

 ふと、アルシオーネは転移門ポータル付近のベンチに座る人物に向けて、さり気なく手を振っていた。

 ――おや? 誰に向けて手を振っているのだろう……。

 何気なく目で追ったのだが、その先にいたのが意外な連中だったので驚いてしまう。
 なんと、先程ライアス達が引き連れてきた助っ人の中にいた三人だったからだ。

 三人はあまり目立たないように、こちらに向かって控えめに手を振ったり、二指の敬礼よろしくピッと指で挨拶を返してくれていた。
 するとアルシオーネだけでなく『紅玉の戦乙女』 の他のメンバーまでもが、先程とは打って変わって愛想よく手を振る。

 ……あの顔はなんとなく覚えている。えらい剣幕で文句を言うと、真っ先に帰ってしまった奴等だったから。
 そんな光景を訝し気な顔で見ていたからだろうか。アルシオーネが俺にそっと囁いてくれた。

「うふふっ……。ケイタさん、横の繋がりは大切にしないといけませんわよ? ――情報源はカーミラだけではありません」

 ――ああっ! そうか、そういう事か……!

 アルシオーネの言葉でやっと合点がいく。
 アルシオーネ達が助けに来たのは俺達ではなく、ましてやライアス達 『朱炎の風』 でもなく……。

 俺も彼女達に倣って、彼等に向けて会釈をしておくことにした。
 今回の件で、彼等に俺の顔も覚えてもらえたら幸いだ。

「そういう事でしたか、勉強になります。――俺達も、この機会を大切にしないとですね」

 そんな俺の言葉に、アルシオーネは満足そうに微笑んでいた。
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