ある日,トカゲに転生~ダンジョン暮らしの少年は外の世界の強さが分からない~

ルー

文字の大きさ
25 / 38
二章 人間での生活

第三話 人間の町に潜入した件

しおりを挟む
俺たちは森の一番近い町に来ていた。さあここから俺の冒険章が始まるぞ。そう思って町に歩いていく。
「あん。この中に入りたいだと。なら身分証明書か許可書を持ってこい。なに,ないだと。そんならここに入れることはできねえ。去った去った」
そんな俺たちの淡い希望は最初の町で砕け散った。

 俺は仕方なく町から離れる。

 まじかよ。ここに入るのには身分証明書が必要なのかよ。まあ,日本での入国許可書とかあったからわからんでもないが,俺たち持ってないぞ。こりゃあ,どうしようか。
(でしたら,もういっそこの門番を殺して侵入してしまえばいいのでは?)
何物騒なこと言ってんだよ。俺がそれを許すとでも思うか?
(そうでしたね。これは失礼)
でもほんとにどうしよう。確かラノベだと冒険者証が身分証明書になるんだったよな。でも登録するには町の中に入らないといけないし⋯⋯。まさに八方塞がりじゃないか。


 そもそも今俺たちがいるのは要塞都市ベルセルク。外周部を塀で囲まれたかなりいかつい町である。ちなみにこの街の名前は初代町長の趣味である。触れないでおこう。
まったくこまったなぁ。もしかしてこの証明書システムって全部の町にあったりする? だとしたら俺,どの町にも入れないよ。これはいきなりピンチ?

 んー。身分証明書を持っていなくても町に入る方法ってないのかな。
(ないことにはないですが,かなり危険ですよ)
え,あるんだ。どんな方法?
(潜入です)
潜入? それってあの門番を殺すっていう方法だろ。だめってさっき言ったじゃん。
(さっきにとは違います。今回のは強引に入るのではなく,誰にも知られずに入るのです。要はどこかで陽動を起こしてそのすきに塀を飛び越えるって感じです)
それ,完璧犯罪やに~。

 まあ,そんなどこかの放送部の女の子はいいとして,これしかないか。なかにはいれたら冒険者になれるもんな。
(これで,二人なかよく犯罪者ですね)




 結論から言おう。うまく行った。順調すぎるくらいにうまく行った。多少火力調整ができなくて近くの森が消し飛び爆風で町の塀の一部が崩れたりもしたがうまく行った。


 俺は今町の中のメインストリートっぽいところを歩いている。表情は堂々としているが内面がかなりおっかなびっくりである。

 にしてもすごい火力だな。俺があんなかりょくだせるなんてしらなかった。
(そうですよ。あのへんな龍の爺さんがおかしかっただけで弘樹は強いんですからね)
全く,おだてても何も出てこないぞ。
(だからおだてでは,て,もういいですよ~)
そして俺はシーと会話しながらまわりの声に耳を傾けてみる。

「いまの爆発,なんだったんだろうかねぇ」
「昨日のあれと言い最近はこわいねぇ」
「ねえ,聞いた? 勇者様がこの街に来るってよ」
井戸端会議かな。よしよし。俺の侵入はばれていないぞ。
「全く,最近は恐ろしいよ」
「ほんとにねぇ。無事に生きられるといいけど」
この会話は夫婦のようだ。仲睦まじくて結構。それにしても少し耳を傾ければあの爆発のこととか将来のことだ。主に心配な方面で。そんなに生きるのが大変なのかな。
(弘樹,今貴重な人との初接触ですよ。もっと堪能しなくていいんですか)
はっ。そうだった。すっかり忘れてたよ。ただあんまり感動がないんだよな。
(淡泊ですね。まあ,いいでしょう。では無事に潜入できたことですし第二段階へ移りますよ)
ラジャー。フェーズ2へ移行。
(それかっこいいつもりですか)
そこは突っ込まないでね。

 俺は今なかなか大きい建物の前にいた。
「ここか。突入するぜ」
(速く中に入ってください)
俺が中に入ると途端に酒の香りとバカでかい話声と喧嘩をしている声が耳に入ってきた。

 これはなかなかすごいインパクトだな。やはりこの建物は期待を裏切らないぜ。
(はいはい。そうですね。早いとこ身分証を作りましょう)
ここまで言えばわかっていると思うが,そう,冒険者ギルドである。

 それはファンタジーの鉄板中の鉄板。異世界転生したら何らかの形で出てくるもの。ストーリーによるが,主人公が初めに洗礼を受ける場所。基本的に冒険者は酒飲みで喧嘩好き。受付嬢は美人でギルマスはハゲかロりか巨乳。そう,それがギルドである。(偏見)

 弘樹がギルドの活気にあっけに取られていると後ろから声がかけられた。
「おい,坊主。そこどきな。ここは坊主みたいな年齢のやつが来る場所じゃねえぞ」
「はっ。まさかこれが新米に対する洗礼。テンプレ中のテンプレ。まさか実際にあるとは」
「おいおい,急にどうしたんだ。よくわかんないことを話し始めやがって。まあいいか。坊主は帰りな。ここはあぶねえぞ」

 ふつうのいい人である。ちなみにその声かけてきた人は中年のおじさんである。まだ髪のことでは悩んでなさそだ。
「あ,ありがとうございます。ですが,俺は今日冒険者登録をしに来ました」
「そうか。お前くらいの歳から働かなくちゃいけないんだな。がんばれよ,坊主」
まさかのすごくいい人だった。これは,テンプレなのか? まあ,いいか。
(弘樹,速く任務をしてください)

 俺たちの任務とは冒険者証を作ることである。なぜなら,冒険者証は身分証明書にもなっているからだ。これはあればどの町にも出入り放題である。

 俺はゆっくりと歩き始めた。向かう先は正面のカウンターである。そもそもこの冒険者ギルドは正面から入ってまっすぐにカウンター,右が酒場,左が訓練場に続く道である。そして,カウンターには,3つの窓口があり,使用用途で分けられてはいないようだ。

 さあここから改めて俺の冒険が始まるぞ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...