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第1話
8・喫煙室にて(その1)
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喫煙室のドアを開けたとたん、緒形雪野はむせかえるような煙に包まれた。
先にいた数人の喫煙者が振り返り、そのうちのひとりが緒形に軽く会釈をしてくる。たしか制作部署のディレクターだ。数日前、上司を通して紹介された覚えがある。
緒形も軽く頭を下げると、誰もいない隅の灰皿に向かった。
本音を言えば、煙草はあまり好きではない。特にうまいとは思わないし、スーツににおいがつくのも不愉快だ。
ただ、このなかで交わされる会話は興味深い。閉鎖空間であるせいか、内容がいろいろあけすけなのだ。特に、社内の内部事情や人間関係については、耳を傾けておいて損はない。
そのため、緒形は1日に2度、喫煙室に足を運ぶことにしていた。
「うーん……」
隣の灰皿を囲んでいた二人組の男性のうち、ひとりがスマホを眺めながら渋い顔つきになった。
「何? メッセージ?」
「まあ、そんなとこ。ほら、例の……」
「ああ、『処女ちゃん』?」
あまりにもストレートなあだ名に、緒形は咳き込みそうになった。もし、この場に女性社員がいたら「セクハラだ」と訴えられてもおかしくはないだろう。
言われた男性も、緒形と似たような感想なのか「言い方」と苦笑した。
「でも、違うかも」
「なにが?」
「処女じゃないかもってこと。飲んでるとき、膝とかぶつけてみたけど嫌がらなかったし」
「マジで?」
「そう。しかも、なんか焦らされたし」
「じゃあ、昨日は……」
「まさかの空振り。まあ、いいけどさ」
なるほど、どうやらこの彼は、昨夜「処女」と思われる女性とデートをしたものの、思うような結果にはならなかったらしい。
(ていうか、その女、本当に処女か?)
経験値が低そうな女性なら、膝が触れただけで身を引きそうなものだ。それなのに嫌がらないということは、そこそこ経験があるのではないか。
(まあ、俺ならそのほうがいいけど。処女とか、どう考えても面倒だし)
とはいえ、自分には関係のないことだ。
緒形は、のびた灰を灰皿に落とすと、半分ほどの長さになった煙草を再び吸い込もうとした。
「でも、そっかぁ……三辺ちゃん、処女じゃないかもなのかぁ」
先にいた数人の喫煙者が振り返り、そのうちのひとりが緒形に軽く会釈をしてくる。たしか制作部署のディレクターだ。数日前、上司を通して紹介された覚えがある。
緒形も軽く頭を下げると、誰もいない隅の灰皿に向かった。
本音を言えば、煙草はあまり好きではない。特にうまいとは思わないし、スーツににおいがつくのも不愉快だ。
ただ、このなかで交わされる会話は興味深い。閉鎖空間であるせいか、内容がいろいろあけすけなのだ。特に、社内の内部事情や人間関係については、耳を傾けておいて損はない。
そのため、緒形は1日に2度、喫煙室に足を運ぶことにしていた。
「うーん……」
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「何? メッセージ?」
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言われた男性も、緒形と似たような感想なのか「言い方」と苦笑した。
「でも、違うかも」
「なにが?」
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「マジで?」
「そう。しかも、なんか焦らされたし」
「じゃあ、昨日は……」
「まさかの空振り。まあ、いいけどさ」
なるほど、どうやらこの彼は、昨夜「処女」と思われる女性とデートをしたものの、思うような結果にはならなかったらしい。
(ていうか、その女、本当に処女か?)
経験値が低そうな女性なら、膝が触れただけで身を引きそうなものだ。それなのに嫌がらないということは、そこそこ経験があるのではないか。
(まあ、俺ならそのほうがいいけど。処女とか、どう考えても面倒だし)
とはいえ、自分には関係のないことだ。
緒形は、のびた灰を灰皿に落とすと、半分ほどの長さになった煙草を再び吸い込もうとした。
「でも、そっかぁ……三辺ちゃん、処女じゃないかもなのかぁ」
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