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第2話
9・意外な展開
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緒形は戸惑った。まさか、彼女のほうから高校時代の話をふってくるとは思ってもみなかった。
実は、菜穂と再会した際、緒形が最初に感じたのはうっすらとした拒絶だ。「話しかけないでほしい」「知り合いだと周囲に知られたくない」──おそらく彼女は、高校時代の交際をなかったことにしたいのだろう。
その気持ちはわからなくはなかった。当時、菜穂との交際を続けていけなくなった原因は明らかに自分にあり、なのに緒形はそのことについて一度も菜穂に謝ろうとはしなかったのだから。
(いわゆる「黒歴史」ってやつですか)
それならそれで仕方がない。
以降、緒形は社内で菜穂を見かけても、自分からは声をかけないようにしていた。
土曜日のハチ公前でのあれこれも、喫煙室での浜島の下世話な発言を耳にしていなければ無視していた。
今日だって、彼女がギョッとするほどのひどい顔をしていなければ、見かけても素通りして、今頃遅い昼食にありつけていたはずだ。
なのに、そんな菜穂が今、自分から当時の思い出を話そうとしている。
緒形は、迷った末「いつの話?」とだけ訊いてみた。
「たぶん10月とか11月とかそれくらい。すごく夕焼けのきれいな日で、私は教室で学級日誌を書いていて」
菜穂の手が、ココアの缶を包みこむ。
「私、昔から要領が悪くて……その日も、日直の業務がぜんぜん終わらなくて。そんな自分が情けなくて、落ち込みながら日誌を書いていたのかな。そしたら、後ろの出入口から緒形くんが入ってきて『あれ、三辺なにしてんの?』って。それで日誌を書いてるって伝えたら、緒形くん、ふらっと教室を出ていって──しばらくしてから『差し入れ』って紙パックのいちご牛乳をくれたの」
びっくりしたけど、嬉しかった──そう語る彼女の唇に浮かんだのは、今にも消えてしまいそうなくらいのほのかな微笑みだ。
緒形は、またもや返答に迷うはめになった。
まず、いくら昔の話とはいえ、今の菜穂から好意的な感情を向けられるとは思ってもみなかった。
同時に──彼女が思い違いをしていることにも気がついた。
彼女が語ったこの思い出話は、おそらく緒形のほうが正確に覚えている。それも、苦い思い出として。
実は、菜穂と再会した際、緒形が最初に感じたのはうっすらとした拒絶だ。「話しかけないでほしい」「知り合いだと周囲に知られたくない」──おそらく彼女は、高校時代の交際をなかったことにしたいのだろう。
その気持ちはわからなくはなかった。当時、菜穂との交際を続けていけなくなった原因は明らかに自分にあり、なのに緒形はそのことについて一度も菜穂に謝ろうとはしなかったのだから。
(いわゆる「黒歴史」ってやつですか)
それならそれで仕方がない。
以降、緒形は社内で菜穂を見かけても、自分からは声をかけないようにしていた。
土曜日のハチ公前でのあれこれも、喫煙室での浜島の下世話な発言を耳にしていなければ無視していた。
今日だって、彼女がギョッとするほどのひどい顔をしていなければ、見かけても素通りして、今頃遅い昼食にありつけていたはずだ。
なのに、そんな菜穂が今、自分から当時の思い出を話そうとしている。
緒形は、迷った末「いつの話?」とだけ訊いてみた。
「たぶん10月とか11月とかそれくらい。すごく夕焼けのきれいな日で、私は教室で学級日誌を書いていて」
菜穂の手が、ココアの缶を包みこむ。
「私、昔から要領が悪くて……その日も、日直の業務がぜんぜん終わらなくて。そんな自分が情けなくて、落ち込みながら日誌を書いていたのかな。そしたら、後ろの出入口から緒形くんが入ってきて『あれ、三辺なにしてんの?』って。それで日誌を書いてるって伝えたら、緒形くん、ふらっと教室を出ていって──しばらくしてから『差し入れ』って紙パックのいちご牛乳をくれたの」
びっくりしたけど、嬉しかった──そう語る彼女の唇に浮かんだのは、今にも消えてしまいそうなくらいのほのかな微笑みだ。
緒形は、またもや返答に迷うはめになった。
まず、いくら昔の話とはいえ、今の菜穂から好意的な感情を向けられるとは思ってもみなかった。
同時に──彼女が思い違いをしていることにも気がついた。
彼女が語ったこの思い出話は、おそらく緒形のほうが正確に覚えている。それも、苦い思い出として。
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