幸せの時間をありがとう

その日は突然の事

認めたくない

ナースステーションの近くの
個室へと移される。

顔には傷もなく、何事も無かったように
穏やかに眠っている。

医師が静かに口を開く。
｢最善は尽くしました。今夜が山場です｣

子供の母親が、男に何かを言ったが
その男には聞こえていなかった。。。
深々とお辞儀をし静かにその場を去る。

妻の心音が聞こえる静かな個室で
その夫は手を握り、祈るしかかなった。


。。。どれだけ時間が過ぎたのか？
そんなに時間は経ってなかったのだが
長く感じた。。。


ナースステーションの方で
看護師の声が聞こえる。

「ご家族様しか面会出来ません！あっ！
　娘さんですか？こちらへどうぞ」

看護師に連れられ、その横から
ひょこっと顔を出す。

その突然の訪問者を見た瞬間 思わず、
その男は席を立った。

看護師は お辞儀をして、その場を去る。

案内をしてくれた看護師に
「ありがとうございました」
とても丁寧にお礼をする。
そこにはどことなく気品もある。

が、しかし その声の主は。。。
どこをどう見ても女子高生だった。

その女子高生は自分の姿に驚いている
男の顔を見つめ そして
『にたっ』と笑顔。

クルクルっと回り自分の腰のクビレを
指さしてドヤ顔。

「びっくりした？」
いたずらっぽく笑いながら尋ねる。

男はベッドで静かに眠る妻を見て
そして、また女子高生に目を向ける。

女子高生は『うんうん』と小刻みに
首を縦に振る。

男は『いやいや』と小刻みに
首を横に振る。

何度も繰り返す。

女子高生がシビレを切らし、
｢サイレント夫婦漫才かーいっ！｣
の、懇親のツッコミ。。。笑えない。

男は気が付いていた。。。
「み。。。認めない。。。娘さん？」
苦し紛れに答える。。。

「もうっ！」
女子高生は顔をプクッっと膨らました。

その表情に我慢が出来なかった。。。

「美和子。。。」

「正解」

その女子高生は、紛れもなく妻だった。

何故？女子高生の姿の妻が今！
目の前に居るのか？？？
何となくの予想は付いていた。。。

『認めたくない。。。』
そう必死で思う夫の気持ちをよそに
妻は笑顔でいる。

「ね？痩せてたでしょ？」

少しふっくらしている妻の若き姿。
会話の中で『一度見たかったなぁ～』と
言った事はあったのは認めるが！
それを見ている事の意味は？？？
それを夫は『認めたくない』のだった。