幸せの時間をありがとう

その日は突然の事

きっと

きっと走っても、焦っても
状況は変わらない事は承知していた。

いつもならばビシッとスーツを着こなし
皆の手本のごとく落ち着いていた男。

乱れた姿などは、絶対みせない男が！
なにふりかまわず、必死で走ったのか？
｢ぜいぜい｣と、息を切らしながら、
手術室の前に現れた。

『一分でも一秒でも早く妻の元へ』

の想いが表情からも、また、ネクタイを
ゆるめ、着崩したワイシャツからも
その事は伝わってくる。

子供の額にはガーゼ。所々に擦り傷。
その子供の母親は、駆けつけた男に
すぐに気付き、深々と頭をさげる。

｢申し訳ございません。。。｣

子供は目にいっぱいの涙をためながら
｢僕のせいで オバサンが。。。｣

男はその場に着くまでは『怒り』の
感情が大きかった。。。

『なぜ？妻が！！！』と。。。

しかし。。。思い出したのであった。

真面目で優しい妻。。。

男は定年間近、お互い再婚同士で
二人の間には子供は居ない。

とっさの事ではあったかもだが、
きっと妻の気性からして、
見て見ぬふりは出来ない。。。

『この子を守りたかったんだと。。。』

男は冷静さを取り戻し、
子供の目線の高さまで しゃがみ、
右手で子供の頭を撫でながら話した。

『オバサンはね？とても優しくて
　そして。。。とても正義感の強い人。
　きっと。。。きっと。。。
　君が無事だった事に喜んでるよ
　無事でいてくれてありがとう』

なかなか言える言葉ではない。。。
それは。。。自分自身を慰める。。。
。。。そんな言葉だった。