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零章 祇園精舎の鐘の声〜諸行無常の響きあり〜

5 準備万端

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 「フレイム『炎よ』」
 
 しかし、何も起こらなかった…。
 魔術師は首をかしげ何度も呪文を唱えるが発動しない。
 当然だ。
 よほど、天性の才でも無ければこの違和感には対応できない。
 
 これには騎士達が一斉に声を上げた。
 
 「これは、凄いぞ!!」
 「奴らをこれで倒せますよ!」
 「しかし、我々にも効くのか…。
 また恐ろしい物を」
 
 まあ、当然の反応…というやつだろう。
 戦場での戦死は勇者と魔術被害による範囲攻撃が一番に大きい。
 それを防げるかもしれないのだから当然だ。
 ただ…この機械には欠点もまたある。
 一つは味方にもその効果がある事。
 そしてこれは外からの魔術を防げる訳では無いと言うことだ。
 その魔術師を無力化したいのであればその者を範囲に入れる必要がある。
 
 ま…、そこは戦略を考える人に考えさせる事にしよう。
 
 そしてもうひと押し。
 次のはかなり使える物だ。
 
 No.11 魔術弾
 
 「私の研究はもう一つあります。
 これは魔術弾と言いまして」
 
 そう言い始め荷車から箱詰めにされたボールを取り出して見せる。
 手に収まるくらいの大きさで投げやすくしてある。
 
 「これは、この中に魔法を入れて使います。
 すでにこれには魔法 ウィンド『風』が入っており…」
 
 そう言い俺が投げるとそれは地面につくと同時にパカリと開いて風を巻き起こした。
 
 「と…言うようにこれを使えばこのマジックジャマーが使われていている状況下でも魔法が使う事ができます」
 
 これにもまた騎士達が食いついた。
 それなら、敵は魔法が使えずこちらは使えると言う状況に持ち込めると思ったのだろう。
 確かに…マジックジャマーを地面に隠し敵をおびき寄せて上からこれを落とせば…。
 いや…範囲外ならそのまま魔術を行使すればいいだけか…。
 
 ふと、戦略を思いついたがその思考は置いておく。
 今は必要じゃない。
 さて…提供できるやつは提供してやった。
 これでなんとかなればいいのだが…。
 それで帰ってきた返事は満足の行くものだった。
 
 王は騎士たちを見て頷く。
 
 「素晴らしい!
 良いだろう、研究費は好きなだけ持っていくといい」
 
 それが王の言葉だった。
 俺は2つの機械、今見せた機械の使い方を説明しその王の間を後にする。
 全く…うまく行ったものだ。
 後は資金を手に入れればいいだけ。
 俺はこの城の兵士と共に荷馬車を持ってこさせ金貨の山!…があったはずの金庫へ辿り着いた。
 
 そこには金貨の大地があった。
 かなり減ったな。
 戦争が長続きしてたし当然か…。
 それでも約束は約束。
 荷車に積めるだけの金貨を載せこの王都を出たのだった。
 
 …
 
 その帰る途中、凝りもせずまた同じ場所に馬車が置かれていた。
 
 「はあ、またか…こりない奴らだ」
 
 止まるとまたのこのこと人が林から出てくる。
 
 「金を出し……あっなんでもねぇです…」
 
 「テンペスタ『嵐よ』」
 「「うわあああああああ!」」
 
 再び山賊達は風に乗り空中へと舞い上がって行った。
 
…✿❀✿❀✿…
 
 「はあ…はあ…」
 
 息が切れ視界がぼやけて足元が揺らぐ…。
 視界は赤く燃える炎に包まれ耳には悲鳴と怒号が飛び交っている。
 戦はまだ終わってはいない。
 立ち向かわなければ…。
 
 そう思い、重く動きの悪い体に鞭を打つ。
 早く行かなければ仲間が次々と死んでいく。
 甲冑を震わせカチャカチャと鳴らし少年は走る。
 
 「ふぉおおおっっ!!」
 
 日本刀同士がぶつかり合い火花を散らして滑らせる。
 
 「以水滅火」
 
 少年はそう呟き相手の胴体を切断した。
 それでも敵は次々と襲い掛かってくる。
 息の付きようもない。
 さらに人の焼ける匂いと熱気が追い討ちをかけてくる。
 
 たった一回のミスで死ぬ恐怖。
 殺気立ち命に変えても自分を討ち取ろうとする敵に気圧されそうになりながらも立ち向かう。
 
 「混水模魚」
 
 この世界に来て身につけた力を存分に活かし少年は戦う。
 剣を体ごと回転させ水の壁を作り上げる。
 
 「クソっ」
 「臆するな!! たかが水だ!」
 
 その水を切り裂き中にいるであろう少年を狙う。
 しかし…手応えは無い。
 
 「三尺秋水」
 
 「しまっがっ…」
 
 連続で切り続け、顔、胴、腰を通りすがりに次々と切り離していく。
 ああ…、また人が死んでしまった。
 僕の手で力で…。
 そんな後悔もする暇もなく今度は矢の雨が降り注いだ。
 
 くっ…流石にこれは…。
 
 「放てぇい!!」
 
 バババババン!!
 
 煙が上がり硝煙の匂いが立ち込める。
 顔を上げ少年があたりを見渡すとあたりが壁で覆われ自分を守っていた。
 その壁は動き月の光が照らす。
 
 「大丈夫であったか?
 武士(もののふ)リオンよ。
 貴様が死んでは不陽の虎の異名が廃るわ。
 ふははははっははは!」
 
 そこには、黒い甲冑を身に纏いその背後には炎を纏う大きな人骨を従えた女性が立っていた。
 彼女の力 我者髑髏。
 更に奥には無数の人骨と侍達が火縄銃と刀を構え進軍していた。
 
 「無数の屍は我が者ぞ!
 皆のもの進めーい!!」
 
 リオンが倒したはずの屍が燃え上がり白骨の骨となりカタカタと音を鳴らしながら動き出し隊に加わる。
 
 ノブナガ…彼女は武士を儀式召喚しこの世界の天下を取らんと各地に趣き戦を仕掛けては国を次々に占領していた。



 
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