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壱章 和風な異世界?

9 情報源

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 『おいそこの小童、起きろ!
 …………。
 なんだ?
 死んだか…?』
 
 混濁とした意識の中、頭に響く声に俺は起こされた。
 どれだけここで寝ていたのだろうか…。
 体が痛くて起き上がるのも面倒に感じる。
 
 「うう……やばいな」
 
 ゆっくりと手を動かしポケットを探り探す…すると硬いなにかに指がぶつかった。
 
 No.18 ポーションタブレット
 
 それを手繰り寄せ数粒口の中に入れる。
 まるで生き返る様だった。
 体の傷は癒え、身体が軽くなる。
 上位ポーションをタブレット状にして持ち運びが簡単に出来る物をと作ったのだが正解だった。
 
 『おい…お前、聞こえておらぬのか!』
 
 頭に言葉が響いてくる。
 鬱陶しい…。
 
 「誰だ…さっきから…」
 
 目を見開き辺りを見渡すと明るかった。
 太陽の光…。
 久々に見る光に胸が踊った。
 しかし、その光はこの周辺のみですぐそばに闇があった。
 まるで見えない壁に阻まれているかの様に黒い煙はこちらには入って来ない。
 それが天高く、空まで続いていた。
 上を見ていると鳥が遥か高くを通り過ぎていく。
 和む…
 この世界に来てずっと戦ってばかりだった為かそう気を緩ませた瞬間。
 疲れが一気に現れ再び眠りにつこうとした。
 しかし…それは眠らせてはくれないらしい。
 
 『誰だ…とは無礼な。
 妾を誰と心得ておるのだ?』
 
 その声は女性の声で重々しく。
 そしてゆったりと話しかけてくる。
 
 頭に直接、語りかけている?……聞いたことの無い魔法だな。
 そう思いながらも俺はあたりを見渡した。
 すると一つの祠が立て祀られているのが見える…どうやら声はそこから聞こえているらしい。
 
 「では、誰なのかな?」
 
 それにしても…久しぶりの会話だった…。
 少しそれに喜んでいる自分がいるのが分かる。
 
 『ふん…無礼な奴め…。
 もし…妾が実態を持っておれば貴様のような小鬼など一撃の手刀で亡きものにするものを…。
 …まあ今はいい、妾の名は修羅だ。
 貴様、名を名乗れ』
 
 修羅?どんな奴かは知らんが攻撃的な奴らしい。
 物騒な事を言っている。
 ここは、あまり刺激せずこの世界の情報を得るのが無難か。
 
 「俺は、ルークと言う者だ。
 王国デセオで魔術研究者をしている」
 
 そう告げると返事はすぐに帰ってきた。
 
 『王国?デセオ?聞かぬ名だな…。
 妾が数百年、封印されているあいだに出来た地名か?
 全く…時とは恐ろしい物だ。
 貴様の反応から察するにこの鬼姫、修羅の名も時の中に消えたのであろう?』
 
 ふむ…。
 意外と喋るな、この修羅という者。
 このまま喋らせてみるか…。
 俺は軽く適当に相槌を入れ話を調子づかせてみる事にする。
 するとかなり昔の事?を話した。
 なんでもかつて自分は鬼姫と恐れられていたとか。
 九尾の狐と幾度も喧嘩をし仲良くなり同盟を組んで人間と天下分け目の戦をしたらしい。
 この話で世界には人間そして亜人と妖魔がいる事が分かった。
 これはもといた世界と似ている。
 
 しかし種族が違った。
 まず鬼、これは俺自身の事だ。
 他にも天狗、土蜘蛛、妖狐、龍族、犬神。
 これが太古から存在する上位種族だそうだ。
 向こうの世界と同じ様に魔素…こちらでは妖気なるものかは知らないが…そこから産まれるらしい。
 人から変化する現象と魔物からの進化。
 あとは普通に生殖する物なのか、気になったので聞いたらそうだと不思議そうに言われた。
 そうして話は続いていく。
 
 『それで…その武士(もののふ)と呼ばれる人間が妾をここに封じ込めおったわけじゃ。
 妾ら妖王もそいつに数多くやられてしもうた』
 
 シュラは悔しそうに、でもどこか楽しそうに語り聞かせる。
 武士と言うのは強き者という意味合いのようでこちらの世界で言う勇者的な存在なのだろうと理解した。
 そして妖王、これは魔王と酷似したものだろう。
 
 『奴は強かった。
 が…妾と何度も命がけの戦いをし、その末。
 刺し違えてな…奴は息絶えおったわ。
 ま…そのお陰で妾は今もこうして一人ここに封印されておる訳だがな…』
 
 なるほど…。
 それから妖王と言う者について話を聞いてみることにした。
 どれだけ危険な存在なのかを知っておきたかった為だ。
 まあ、できるだけ接触は避けるつもりだが。
 
 『妖王の強さとな?…
 ふふふ…ふはははははは。
 強さ? 強さとな?…』
 
 何がおかしいのか笑っている。
 この世界の笑いの壺はどこかおかしいのか?
 
 『そうさなぁ…
 強さはそれぞれで違うが。
 私は国の一つや二つ…潰せるぞ?…
 しかし…弱い奴だと…都(みやこ)一つ消すので精一杯だろうな』
 
 やはり、魔王と同じレベルか…。
 まあ、妖魔についてはこのへんでいいだろう。
 さて、後の問題は…。
 
 「所で…この黒い霧は何なんだ?
 出口は無いのか?」
 
 この黒い霧だ。
 妖魔があちらこちらにいて数歩、歩いただけで出くわす始末。
 正直、もうあんな思いはごめんだ。
 この世界がこの霧で包まれて無ければいいのだが…。
 俺はそう願うかのように真上のみ晴れた青い空を見上げて聞いた。
 
 『ああ…この霧か?
 この霧は、私がここに封印されてすぐに現れた。
 私も分からぬ。
 もしかすると、ここ以外はこの様な状態なのかもな?…ふふ』
 
 シュラは可笑しそうに笑い言う。
 しかし…。
 
 「それではなぜ、ここだけ霧が無いんだ?」
 
 疑問だった。
 最初は魔術壁でも貼ってあるのかとも考えていたのだがどうやら違うらしい。
 未知の力が働いている。
 そう俺は結論づけていた。
 そして、どうやらそれは的中していたらしい。
 
 『ここはふざけた式神に護られているからな。
 妖魔や邪しき者が妾の封印を解かぬよう近づけないように、護っておるのよ』
 
 そうシュラは憎々しげに告げる。
 
 『しかし…なぜ…貴様はここに入れたのだ?
 その小鬼の姿…妖魔なのであろう?
 なぜだ?』
 
 そんな事を言われても…時間さえあれば研究し解明してやってもいいが、今はそんな時間も答えもない。
 
 「さあ? あいにくと答えを持ち合わせてはいない」
 
 そうして、俺とシュラと名乗る者は会話を続けた。
 やけに話に乗ってくる。
 きっと寂しかったのだろう。
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