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壱章 和風な異世界?

8 妖魔

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 ドォオオオオオン!
 ドォオオオオオン!
 
 幾度と爆発音が響き渡る。
 その炎は移動し続け様々な場所で聞こえていた。
 
 「メガフレイム!! 『炎よ』〈上級〉」
 
 この世界に来てからどれ程日付と時間が経過したのだろうか…。
 それを確認する暇も無く奴らは次々と現れ襲って来ていたのだ。
 
 あの大鬼と呼ばれる妖魔を魔法で仕留めた時、それは何も無かったかのように体が霧散し妖魔は消えた。
 
 そこまでは問題無かったのだが…。
 次に現れたのは巨大な蜘蛛だ。
 それは音も無く背後に迫り突如として襲ってきた。
 間一髪のところで躱し、お返しにと魔法をおみまいする。
 
 「メガフレイム!! 『炎よ』〈上級〉」
 
 のだが…。
 全く魔法が効いていない。
 
 キャシャシャ…
 
 強い…。
 まとわりつく炎を蜘蛛はたやすく振り払ってみせる。
 ならば…!
 
 「アルドペルフェクト 『大地よ』〈上級〉
 ……潰すまでの事!!」
 
 そう唱え片手を地面につけると地面が揺れ大蜘蛛に対し両側の大地が膨れ上がり大蜘蛛を包み圧迫した。
 
 見るも無残に潰れ地面の中へと引きずりこまれていく。
 その際、体液が飛び嫌な気持ちの悪い音を立てた…と同時に黒い煙へ変わる。
 
 「これだから虫は嫌いだ……」
 
 あの黒い煙は一体何なのか?
 そう考えながらもその場を離れ数歩歩いた時…再び視線を感じた。
 全く、虫は勘弁してくれるとありがたいのだが…。
 目の前にいたのは百足(ムカデ)それも巨大な。
 すぐさま炎の魔法を唱えるが効かなかった。
 虫などには効かないのだろうか?
 
 「アグアゲショス 『水弾』」
 
 試しに水の魔術を試してみる。
 水が手から放たれ魔物に命中するが効果はない。
 では…雷で…。
 大百足が全ての足を動かし迫ってくる。
 
 「メガライトニング 「稲妻よ」〈上級〉」
 
 両手より雷を発生させ大百足を感電させる。
 この呪文は強力だが多少自分にもダメージが来るうえ魔力消費が激しいのが難点だ。
 
 プスプス…。
 ギシャ…。
 ドスン!
 
 「なんとかなったか…」
 
 あと少しで食われている所だった。
 目の前に横たわる大百足を見てそう思う。
 そして大百足は例のごとく黒い霧へと変わり霧散する。
 一体、物質がなぜ煙に変わり消えるのか…謎だ。
 今の所すべての妖魔と言われる生物はそうなのでそういう物なのだろう。
 死んでも体を残す魔物とは大違いだ。
 ひょっとしたら俺も死んだら消えるのだろうか?
 
 その後も迫りくる妖魔に対し火をぶつけ続けた。
 他にも風の呪文を使用したのだが効果はボチボチだ。
 仕方がないので一番得意な火を撃ち続けている。
 
 だが…魔力の消費が激しく、今現在…限界に近い…。
 おまけに数日は魔法を使いながら走り続けているのでは無いだろうか?
 と、言うのも奴らは次から次へとまるでローテーションを組んでいるかの様に襲ってくる。
 走り、逃げながら戦っている為、遭遇しやすいのかもしれない。
 
 その間、かなりの妖魔を仕留めた。
 鬼に蜘蛛、百足、狼。
 どれも、見たことの無い生物ばかり。
 
 そして妖魔は死ぬと黒い霧に変わり姿を消していく。
 本当に不思議な生態だ…。
 
 そして、気づいた事がある。
 この暗闇、これは夜でも洞窟の中…と言う事でもなく黒い霧の中にいるという事。
 炎の魔法を使用した際、辺りを照らすがそれは異常なほど僅かなのだ。
 そこで、炎に照らされる周りをよく見ると黒い霧が見える。
 これが恐らく、暗闇の正体なのだろう。
 何か…と言う事はまだ分からないが、この世界特有の物か。
 もしかするとこの世界は全て暗闇なのかも知れない。
 そう、俺は考えながらも走って妖魔から逃げ回る。
 
 ここは暗闇でよく分からないがチラホラと建物の残骸が見える。
 人がいた…いや、知的生命体がいた証だ。
 
 オオオオン…
 
 それは、妖魔が突如、逆に逃げ出した時…それは現れた。
 
 「逃げた? 今まで追ってきてたのに…」
 
 立ち止まり、辺りを見渡すと大きな影がうっすらと動いているのが見え、恐怖した。
 今まで遭遇した中で明らかに一番やばい存在。
 それはもといた世界の巨人族よりも大きく山よりもでかい。
 こんな、生命体がいるのか!?
 
 目の錯覚では無いかと俺は目を擦るがそれは消えない。
 解析…。
 
 デイダラボッチ 
 確認不明
 
 その名のみが頭の中に浮かんだ。
 強大な存在。
 本能的にで無くとも伝わってくる恐
怖。
 俺は即座にその場を離れるべく足を動かす…が遅すぎた。
 
 オオオオオン…
 
 デイダラボッチの手がこちらに伸び頭上へと一瞬にして追いつかれる。
 手が上より迫りもう駄目かと思いながらも全速力で瓦礫を飛び越え、大地を蹴り…走った。
 しかし…。
 
 「しまっ…!!」
 
 浮遊感が俺を襲う。
 崖…
 上を意識しすぎて下への注意がおろそかになったようだ。
 体が崖の下へと吸い寄せられていく。
 下はさらに暗い闇…俺はなすすべも無くその中へと落ちていった。
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