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弐章 国づくり

78 槿花

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 西にノブナガ、北にケンシン。
 そして東に妖魔界と人界を隔てる黒い霧が隣接する地理を持つ国。
 
 槿花(キンカ)。
 
 シンゲンという名の猛将が治める国だ。
 
 その槿花の首都は彩り鮮やかな花が咲き乱れそんな街を行く人々の顔はどこか明るい。
 
 山上に城がありその城下町にもまた城が立っている不思議な都で様々な区画が作られており。
 
 居住区 商業区 練兵場…などと。
 
 花咲く都にはそれぞれの区画がありそれぞれ区画ごとに独自の活気を見せている。
 
 その中の商業区。
 
 そこでは他の区画よりも人々が行き乱れ、食べ物の匂いが辺りに満ち。 
 
 商人や店の主人は道行く人々に威勢のいい呼び声を投げかけていく。
 
 そんな昼の活気は途絶える事を知らない。
 
 「陰陽師って奴になりたいんだけど…」
 
 人々の声や雑音が外から聞こえる。
 
 陰陽師達が集まり妖魔等に関する依頼や情報が集まる場所。
 
 商業区のちょうど中央、各都に一つ存在する陰陽寮と呼ばれている京都に本部を置く組織の施設だ。
 
 中は2階建てになっており玄関を入ると段付きの立派な土間が出迎え座敷が複数部屋に分かれ広く畳が敷かれ。
 
 受付と思われる奥の部屋には長机があり、美しい和服姿の娘が数名、正座をし。
 
 その奥には巻物や書物が置かれた棚が取り付けられていた。
 そこでも和服姿の娘が書物を整理している姿が見える。
 
 そんな中で子供が一人。
 
 受付の女性を一人捕まえ陰陽師になるための手続きを進めようとしていた。
 
 「ぼく? そうは言っても…歳が、ねぇ…」
 
 正面にいる受付の女性はそう言うと困った様に頬に手をあてルークを見つめる。
 
 お金と情報の為。
 この世界にとって、もといた世界における冒険者と同じ役割を持つ陰陽師になろうと考えていたのだが…。
 
 「まさか、年齢制限があるのか?」
 
 ルークは自身の小さな手と体を見回し、不安そうに聞く。
 
 「どうだったかしら…」
 
 ルークがそう聞くと困った様子で後ろで書類を整理していた女性に顔を向ける。
 
 「一応…そんな規定は決められて無かったと思うけど…」
 「そう…なら問題ないのかな…」
 
 それを聞き安心した様にルークは笑い立ち上がる。
 
 「じゃあ!!」
 
 だが、手続きが出来ると思ったさなか後ろから声がかけられた。
 
 「おっと坊主。
 ちょいまち、陰陽師になる前に試験ってもんがあるんだが…。
 その前に坊主が試験を受けるに相応しいか試す必要があるんだわ」
 
 急に声がした後ろに振り向くとそこには腰から刀を下げた男が一人。
 
 怖い顔をした侍が襟から手を出し薄ひげをさすりながら背の低いルークを見下ろしていた。
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