怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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まだらの推理

探偵ならざる者の考察

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 三人で夕食を取り、それぞれの部屋へと戻る。
 テレビを点けるが面白いものは見当たらない。ひとねの邪魔をするのはアレだし、ならば……
「温泉にでも行くか」


 ドアノブを回すと同時に隣からも同じ音が鳴る。
「おや、先輩」
「下里か」
「くだりちゃんです」
「何処にいくんだ? 下里」
 わざとらしい溜息をつき、下里は俺の持つビニール袋を覗き込む。
「先輩と同じ場所ですね」
「下着も入ってるんだが?」
「何を言ってるんです? 同じ釜の飯を食べた仲じゃないですか」
「三食とも個別に出てきただろ」
「炊いたのは同じ釜ですよ」
「ふむ……」
 一理ある。反証材料を探しているうちに温泉の前へとつく。
「レッツゴー!エスピーエー!」
「スパはなんか違うくないか」
「じゃあなんて言うんですか」
「いや、知らん」
 正真正銘、意味のない雑談を終え、温泉に入る。
 例の如く露天風呂に入ったいると遠くから声が響いてくる。
「かしきりー!」
 続いてくるのは水飛沫の音。
「飛び込むなよ」
『女子風呂に声かけてくるなんて、いやらしいですね』
「お前だけだろうが」
『くだりちゃんも女子なんですけどー!』
「同じ釜の飯を食った仲なんだろう?」
『確かにそうですね』
 そもそも同じ釜の飯を食べたからといって何があるのだろうか?
「……いや」
 下里との会話に論理性を求めてはいけない。ノリと勢いこそが彼女のコミュニケーション必勝法なのだと本人が言っていた。
「…………」
 それはコミュニケーション成功と言えるのだろうか? 押し売りじゃね?
「せんぱーい? もうのぼせたんです?」
「どうでもいい考え事だ。それよりひとねはどうした」
『考えるから部屋のお風呂に入るって言ってましたよ』
 安楽椅子探偵(仮称)たる角野さんといい探偵は密室が好きなのだろうか?

 そう、密室である。ちょうどいいので今回の事件。擬似的密室を頭の中で整理しておこう。
 入口の扉の鍵は閉まっており、開けたのは旅館が管理しているマスターキー。
 他の出入り口はなく、通れるのは窓くらいだ、
 窓から出るには高さと下で作業をしていたアルバイトさん、二つをクリアしなければならない。
 高さは登山道具を使うことで解決できるが……
『先輩、ごめんなさいです』
「ん? 何をした」
『この宿を選んだのはあたしなので……いえ、あたしに非があるなんでこれっぽっちも思ってないですけど』
 最後のは嘘だろう。もしくは『これっぽっち』が意外とデカいか、だ。
「気にすんな。探偵の宿命というやつだろ」
 探偵、ミステリ作品の主人公の異様なる事件遭遇率を死神と揶揄する事もある。
 ひとねがそれとは言わないが、彼女はただの探偵ではなく怪奇探偵である。
 怪奇現象を求める者のみに門戸を開く迷い家、地下図書館なんてのもある。
 怪奇現象は幽霊ではないが……
「言うだろ? 怪談をすれば寄ってくるって」
『そう思って頂けるなら嬉しいです』

 少しの沈黙。

「……ふう」
 長風呂の習慣はない。流石にのぼせてきたので出よう。
『もう出るんですか?』
「何故わかった」
『なんとなくのひとねちゃんパワーです』
「なんだそれ……まあ、とりあえず出るわ」
『あ、ストップです先輩! 最後に一つ質問させてください』
「なんだ?」
『今回の事件、殺人魔の怪奇現象は……推理を間違えても問題無いんですよね?』
「ん? ああ、そうだな」
 あれから地下図書館の資料で確認したが、特にペナルティは書かれていなかった。数うちゃ当たる戦法で乗り越えた記録すらあったくらいだ。
「次の殺人が起きる条件は時間経過だけだ」
『なるほど、です。ありがとうございます』
「おお……」
 今度こそ温泉から出る。下里はまだしばらく入っているらしい。
「…………」
 さっきの質問の意図がわからない。

 下里よ、何を考えているんだ?
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