怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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クローバーの葉四つ

四葉の考察

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 七道先輩が怪盗クローバーの正体である孝一という名の三年生の写真を出した時、思考の端に引っ掛かりを感じた。
 こう言う事はよくある。意識外の記憶に該当がある時だ。
 俺は映像記憶的な事が出来るが、全てを昨日の事のように思い出せる訳じゃ無い。即座に思い出せる記憶は他の人とそう変わらないだろう。
 しかし見聞きした物は全て頭の奥底に保存されており、時間をかければ録画を再生するように閲覧する事が出来る。
 文化祭中だけならば探るのにそう時間はかからない。彼を見たのは……

 *

「目撃くらいなら色んな人がしてる……とは言うまでもないね。重要な場面なんだろう?」
「いや、そこまで言われると……動機推理に役立つかは自信がない」

 ひとねが眉を動かし、先を促してくる。

「昼前くらいかな、新聞部に絡まれてた。何を話してたかは分からないけど……その場所がオブジェの前だった」
「じゃあそのタイミングで怪盗クローバーはオブジェに盗みのトリックを仕込んでいたと言う事ですね!」
「くだりさん、今回トリックを暴く必要はありませんよ」
「え? あ、そっか」

 そう、犯行方法の推理ならば有用な情報だった。しかし今回は動機の推理、だから有用か自信が無かったのだ。

「動機の推理に直接役立つ物ではない。しかし覚えておいて損はないだろう。じゃあ、この前の続きを始めようか」

 ひとねの視線を受け、森当くんがホワイトボードを回す。裏には先週抽出した疑問点がそのまま残っている。

 ひとねは近くにあった指し棒を持ってその中の一つを指す。

『何故、オブジェの時に犯行声明が無かったのか』

「君たちはコレについてどう思う? 見つかってない可能性は一旦無しにしよう」

 いち早く手を挙げたのは下里。

「単純に人が来たとかで置く暇が無かったとか!……あれ? でも後から来て置く事はできますね、落ちてた風にすれば盗み発見後でも大丈夫です」

 自己完結しやがった。

 次に手を挙げたのは森当くん。手は挙げなきゃ駄目なのか?

「オブジェに犯行声明が必要無かったというのは僕も同じ意見です。しかし置けなかったのでは無くそもそも用意する必要が無かったのでは無いかと思います」
「どーいうこと?」
「オブジェ以外の三つの盗品は無くなったとしても盗まれたとは思われない物ばかりです。コレは怪盗の犯行だと主張する為に犯行声明を置く必要があったのではないでしょうか」

 確かにドライバーが無くなっていたとしても怪盗のせいだとは思わない。
 でも……おかしくないか?

「犯行を露わにしたかったのか? 普通隠すもんじゃないか?」
「本来であればそうです。しかし今回孝一先輩は愉快犯だと思われたかった。本来与える必要のないヒントを与えるなんて実に愉快犯らしいではありませんか」
「ああ、確かに」
「僕の見解は以上ですが……藤宮探偵はどう見ますか?」
「私も森当君とほぼ同意見だ。でも一つ訂正しておこう、犯行声明はあらかじめ用意してきた物じゃ無い。写真をみたまえ」

『クローバーのマグネットは頂いた。
   文化祭後に返却する   怪盗クローバー』

 厚紙ぴったりに収まった文字を眺める……あ、そうか。

「怪盗クローバーの名付け親は新聞部だ。家で用意してきたなら怪盗クローバーの名は無い筈だ」
「もちろん新聞部に自ら名を売る事もできるが失敗の可能性も高い、それじゃあ準備が台無しだ」
「名前を空欄にしといて後から書き足せばいいんじゃない?」
「この文は全て同じところで書かれていると思う……これ、実物は手に入らないのか?」
「今は新聞部が確保している筈ですね、僕が交渉してみましょう」
「ならこの件は一旦保留にしよう、次だ」


『なぜ、クローバーの物を盗んだか』

「先ほどの話を踏まえると愉快犯の補強でしょうか? 規則性のある物を盗むのは愉快犯がよくやる事です」
「でもさ、それならもっと話題になりそうな物を盗まない? こんな工具屋みたいなラインナップじゃ盛り上がりにくいよ」

 下里の言う通りだ。オブジェは分かりやすく話題になるが他のは犯行声明があったとしても話題にかける。

「オブジェの時点で話題性はある、難易度の問題なのかもな」

 ひとねがおもむろに立ち上がる。

「何か隠された共通点でもあるのか、それともコレらが必要だったのか……まだ情報が足りないね」

 残るは最後。これが解決すれば終わりの根本的疑問。

『何故、怪盗クローバーとなったか』

「何か見えてきた物はあるかい?」
「わかんなーい」

 俺と森当くんも首を横に振る。分かったのは愉快犯の偽装工作手順くらいだ、その偽装された動機には辿り着けそうもない。
 誰も口を開かないのを見てひとねはホワイトボードを裏返す。

「残念ながら私もまだ分からない。また明日にするとしよう」












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