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自分次第 (男性/仕事/職探し/自信)
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『慎重に選考を重ねました結果、今回は誠に残念ながら貴意に添いかねる結果となりました。』
思わず、舌打ちが出た。
応募のメールを送ってから数時間で返信してきて、慎重な選考とは笑わせる。
残念だと思うならせめて面接くらい……と、どこまでも暗く落ち込んでいきそうな思考を放り出すために、彼は一度だけ大きな溜め息をついた。
そりが合わない上司と心底くだらないと思う同僚に嫌気がさし、彼が勢いで会社を辞めたのはすでに1年近く前のことだった。
辞めた当初はすっきりしたという思いが強く、会社の名前を背負わない自由さと気楽さを楽しんだ。だが、失業保険の振り込みが終了するころからは、あれほど渇望した自由は不安へと形を変えていた。
どこにも所属しないという自分自身を、自由だと思うか不自由だと思うかは、それこそ自分自身なのだ。金銭的な拠り所がなくなるという現実は、思いのほか彼にとっては不安な日々だった。
『ご活躍を心よりお祈り申し上げます。』
もはや呪いの言葉としか思えないお祈りの文章が映し出されたブラウザを消し、彼はぼんやりとお気に入りのグラビアアイドルが微笑みかける壁紙を眺める。
会社組織に所属しないということは、誰にも必要とされないということとイコールなのか。考えても意味のないことに思考を支配され、どこまでも暗い気分になる。
立ち直らなければ、と思う。
気持ちが落ち込むと良い結果につながらないことはよくわかっている。
企業が採用、不採用を決める時に、応募者の出来、不出来だけで決まるわけではないこともわかっている。運やタイミングもある。
それでも、落ち込んでしまう。
不採用通知が届く度、この世の中に「お前は駄目だ」というレッテルを貼られた気になってしまうのだ。
ピロン。
電子音がメールの着信を告げる。
いかにも怠惰な動きで彼はメールソフトを起動させた。
敢えて感情を排除して、もう傷付かないように心を防御する。またどこかの企業からのお祈りメールだから、期待するんじゃないと自分に言い聞かせながら。
『面接にお越し頂きたく思いますので、都合の良い日程をお知らせください』
思わず、二度見した。
そして、ゆっくりとその文面を二回読み直した。
期待してはいけないと思った分、面接の連絡はあまりにも不意打ちで彼の心にストレートに届いた。
ワンクッション置いた後、嬉しさが心の底からこみあげてきた。
ここのところ連敗続きで面接は久し振りのことだった。
WEB応募した会社だから、面接には履歴書を持っていかなければならない。
(……そうだ。写真!)
思考回路がマイナスを抜け、正しく機能し出した彼の眼にはうっすらと涙がにじんでいた。
彼は知らない。
落ち込む時はとことん暗く、嬉しい時は飛び跳ねんばかりに喜ぶ。その素直さが何より評価されていたことを。単純ともいえるその実直さで営業成績を上げていたことも、恐らく自覚してはいない。
売上が上がったことを自分のことのように喜び、うまくいかなかったときはきちんと責任を感じる。その感情を仕事として昇華することができる彼は、取引先と信頼関係を築くことができた。
良い面と悪い面は表裏一体で、ビジネスに徹することができない、甘いという批判も、もちろんあった。
彼の特徴を良いと思うか悪いと思うかは、相手次第で、また、彼次第でもある。
スーツを着込んだ彼は、証明写真の撮影のために財布だけをつかんで慌ただしく外出する。
ずっと落ち込み続けていた彼の表情は、久々の面接の連絡で気持ちが浮上した分だけ明るくなっている。これまでの落ち込んだ様子とはずいぶん違い、精力的にも見える表情だ。
事前情報があるとはいえ、面接は一期一会。
自分の特徴をどう良く伝えるかにおいては、彼自信の感情が大きく影響することだろう。
もちろん、彼の気持ちが明るくとも良い結果が出るとは限らない。
ただ、運を引き寄せることはできるのかもしれない。
自分次第で変えられることがある時に、どうするかもまた自分次第なのだ。
思わず、舌打ちが出た。
応募のメールを送ってから数時間で返信してきて、慎重な選考とは笑わせる。
残念だと思うならせめて面接くらい……と、どこまでも暗く落ち込んでいきそうな思考を放り出すために、彼は一度だけ大きな溜め息をついた。
そりが合わない上司と心底くだらないと思う同僚に嫌気がさし、彼が勢いで会社を辞めたのはすでに1年近く前のことだった。
辞めた当初はすっきりしたという思いが強く、会社の名前を背負わない自由さと気楽さを楽しんだ。だが、失業保険の振り込みが終了するころからは、あれほど渇望した自由は不安へと形を変えていた。
どこにも所属しないという自分自身を、自由だと思うか不自由だと思うかは、それこそ自分自身なのだ。金銭的な拠り所がなくなるという現実は、思いのほか彼にとっては不安な日々だった。
『ご活躍を心よりお祈り申し上げます。』
もはや呪いの言葉としか思えないお祈りの文章が映し出されたブラウザを消し、彼はぼんやりとお気に入りのグラビアアイドルが微笑みかける壁紙を眺める。
会社組織に所属しないということは、誰にも必要とされないということとイコールなのか。考えても意味のないことに思考を支配され、どこまでも暗い気分になる。
立ち直らなければ、と思う。
気持ちが落ち込むと良い結果につながらないことはよくわかっている。
企業が採用、不採用を決める時に、応募者の出来、不出来だけで決まるわけではないこともわかっている。運やタイミングもある。
それでも、落ち込んでしまう。
不採用通知が届く度、この世の中に「お前は駄目だ」というレッテルを貼られた気になってしまうのだ。
ピロン。
電子音がメールの着信を告げる。
いかにも怠惰な動きで彼はメールソフトを起動させた。
敢えて感情を排除して、もう傷付かないように心を防御する。またどこかの企業からのお祈りメールだから、期待するんじゃないと自分に言い聞かせながら。
『面接にお越し頂きたく思いますので、都合の良い日程をお知らせください』
思わず、二度見した。
そして、ゆっくりとその文面を二回読み直した。
期待してはいけないと思った分、面接の連絡はあまりにも不意打ちで彼の心にストレートに届いた。
ワンクッション置いた後、嬉しさが心の底からこみあげてきた。
ここのところ連敗続きで面接は久し振りのことだった。
WEB応募した会社だから、面接には履歴書を持っていかなければならない。
(……そうだ。写真!)
思考回路がマイナスを抜け、正しく機能し出した彼の眼にはうっすらと涙がにじんでいた。
彼は知らない。
落ち込む時はとことん暗く、嬉しい時は飛び跳ねんばかりに喜ぶ。その素直さが何より評価されていたことを。単純ともいえるその実直さで営業成績を上げていたことも、恐らく自覚してはいない。
売上が上がったことを自分のことのように喜び、うまくいかなかったときはきちんと責任を感じる。その感情を仕事として昇華することができる彼は、取引先と信頼関係を築くことができた。
良い面と悪い面は表裏一体で、ビジネスに徹することができない、甘いという批判も、もちろんあった。
彼の特徴を良いと思うか悪いと思うかは、相手次第で、また、彼次第でもある。
スーツを着込んだ彼は、証明写真の撮影のために財布だけをつかんで慌ただしく外出する。
ずっと落ち込み続けていた彼の表情は、久々の面接の連絡で気持ちが浮上した分だけ明るくなっている。これまでの落ち込んだ様子とはずいぶん違い、精力的にも見える表情だ。
事前情報があるとはいえ、面接は一期一会。
自分の特徴をどう良く伝えるかにおいては、彼自信の感情が大きく影響することだろう。
もちろん、彼の気持ちが明るくとも良い結果が出るとは限らない。
ただ、運を引き寄せることはできるのかもしれない。
自分次第で変えられることがある時に、どうするかもまた自分次第なのだ。
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