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1章 月が落ちた日
第1話
しおりを挟む「―レオハルト・ヴァーリオン。『魔術師』と共謀し、王都を襲撃させた罪により―貴様を処刑する」
満月の夜。
そんな月の光を一身に浴びながら、まるで光り輝く満月のように真っ直ぐな目をした十代半ばの少年―レオハルト・ヴァーリオンは絶望に打ちひしがれていた。
『ノード大陸』にある王都―『王都シュバイツァー』の中心部で、白髪の男は彼の前でそう声を上げたのだ。
かつて教会で共に勉学に励んだ者達、そして共に戦場に立っていた者達がレオハルトを取り囲む中、その命令は無情にも下されてしまう。
「どう……して……?」
レオハルトのすぐ近くに居た少女―『魔術師』の王女であるレイシア・レディスターは驚きと困惑の表情を浮かべていた。
ずっと王都の為に戦ってきた。
大切な人々を失い、仲間を失い、周囲の人達から恨まれるようなことがあっても―レオハルトはただ、王都の為、そこに住む人々の為に汚名を被りながらも必死に守り抜いてきたのだ。
数多の敵を薙ぎ払い、その功績から王都内では〝英雄〟とすら称えられていたほどだった。
しかし、そんな彼に告げられたのは新たな賞賛の言葉でもなく、また敬愛するような言葉でもなく―文字通りの『死刑宣告』だった。
あまりにも理不尽な要求を受け入れられず、レオハルトはそれを告げた相手―ルーレック・シュバノスへと食い掛るように言葉を返した。
「どういうことですか……? 何故、僕が処刑されなければならないんですか……?」
「言ったはずだ。『魔術師』と共謀し、王都を襲撃させたことだと」
「違います! 僕ではありません! それが出来ないことはすでに証明したはずだ!」
そんな必死の叫びも虚しく、周りを取り囲む一人から銃―『征錬銃』と呼ばれるものがレオハルトの頭に掲げられた。そこから感じる殺気が伝わり、レオハルトは思わず視線を向ける。
そこに居た少年―グラウス・ルートリマンの姿にレオハルトは声を震わせながら問い掛けた。
「まさか……君が……僕を―隊長である僕を―罠にハメたのか? グラウス……」
『王都防衛軍第十三部隊』―その隊長だったレオハルトは、副隊長であるグラウスへとそう問い掛ける。
かつてレオハルトの戦友だった彼の兄の後を継いで隊長となり、グラウス自身は兄の代わりに副隊長の座に就いた。
そして、共に戦場を走り、敵対勢力と戦ってきた―そんな戦友からの裏切りにレオハルトが驚愕していると、グラウスは事もなげに答えてくる。
「―『魔術師』如きを庇い建てするからだ。恨むなら、お前のその甘さを恨め……レオハルト」
「グラウス……!」
その瞬間、周囲で『征錬銃』を構えていた者達が一斉に銃撃態勢へと移行する。
さらに、『征錬銃』を向けていた者達の中から、レオハルトへ向けて切羽詰まったように怒号が浴びせられた。
「お前がいけないんだよ……! 『落ちこぼれ』の癖に、調子に乗った罰だ!」
「ただの親の七光りで居りゃ良かったんだ!」
レオハルトの父、ラヴェルム・ヴァーリオンはこの王都では名の知れた存在であり、そう口にする彼らは元はレオハルトと同じく、ラヴェルムの作った教会に居た生徒達だ。
しかし、優秀な父に対してそれほどの成績も残せなかったレオハルトを彼らは『落ちこぼれ』と呼び、蔑むことで己の肯定して楽しんでいた。だが、それがある時〝英雄〟と突然認められ始めたことに嫉妬と羨望を抱き続けていたのだ。
彼らはそんなレオハルトが目の前で堕ちていく様を目の当たりにし、興奮気味な様子で怒号をぶつけていく。
「裏切り者は処刑だ!」
「正義は俺達にある!」
「ふざ……けるな……!」
あまりにも酷い言い草に、レオハルトは強く唇を嚙み締める。
そして彼らは威嚇する為の警戒態勢ではなく、確実にこの場でレオハルトを殺害する為に手にした『征錬銃』の引き金へと手を掛けていった。
そんな烏合の衆を眺めていたグラウスもまた、冷たい目を隊長であるレオハルトへ向けると、まるで感情のこもってない声をレオハルトへと向けた。
「―あの世でせいぜい兄貴によろしく伝えてくれ」
「グラァァァァァウス!」
憎しみに支配されたレオハルトの声と共に、銃声が王都に木霊する。
―その日、何よりも綺麗だった月が落ちた。
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