8 / 10
1章 月が落ちた日
第8話 戦火の狼煙
しおりを挟む
そんな中、この報告をしたケニカはまた一つ逡巡を見せたかと思うとそれも一瞬、普段冷静な彼にしては珍しく、どこか諦めた様子であることを口にしてきた。
「それと……イルを攻めているのは、〝王都防衛軍第十三部隊〟を筆頭にした部隊だとも聞いております」
「〝第十三部隊〟……だと?」
その名を口にしたレオハルトはそれまで冷静だった表情を一変させる。
ケニカが口にした〝王都防衛軍第十三部隊〟―その部隊こそ、かつてレオハルトが『神聖アルト国』に居た際に隊長を務めていた部隊だったからだ。
〝王都防衛軍第十三部隊〟の前隊長は民間人であるレオハルトを庇って戦死し、レオハルトはそんな彼の後を継ぐようにして就任したが―結果として、『王都防衛軍』から〝反逆者〟の汚名を着せられた上、処刑を宣告された。
当時、十代程度であったレオハルトに『王都シュバイツァー』の軍である『王都防衛軍』は『魔術師』との共謀を図ったと彼に嫌疑を掛け、仲間であったはずのレオハルトを暗殺という形で処刑しようと試みたのだ。
ゆえに、レオハルトにとって彼らはすでに仲間とは言えない。
そして、その暗殺の手引きをした人間こそ、〝王都防衛軍第十三部隊〟の副隊長―つまり、当時その部隊の隊長を務めていたレオハルトの部下であるグラウス・ルートリマンだ。
グラウスはレオハルトを庇って戦死した前隊長、トニス・ルートリマンの弟でもあり、彼はその兄の代わりに軍に志願して副隊長の座に就いていた。
だが、レオハルトが退役したのなら、彼は恐らく副隊長ではなく隊長に就任している可能性は高い。突然訪れた憎き旧友との再会の可能性に、レオハルトは喉からもれる笑い声を押さえることが出来ず、顔を俯かせながら小さく肩を震わせていた。
「……」
「陛下……」
レイシアとケニカが見守る中、嘲るような笑い声をあげていたレオハルトだったが、徐々にそれは小さくなっていき、やがて俯かせていた顔をゆっくりと上げる。
燃え上がる炎のように赤い瞳を浮かべたレオハルトは、そんな瞳とは真逆に冷たい笑みを浮かべていた。
そして、聞く者を恐怖で震え上がらせるように冷たい声を上げたのだ。
「―ついに、この日が来たのか」
この場に居る誰かに向けたものでもなく、ただ静かにそう呟くレオハルト。
王としての威厳のあるものでもなく、またレイシアのように親しい人間に向けるものでも無いその静かな声は王室に静かに響き渡っていく。
「私はずっとこの時を待ちわびていた……。第十三部隊と―グラウスと再び相まみえるこの時をな……」
「……」
そんなレオハルトへと視線を向けるレイシアだったが、それでも声を掛けることはなかった。罪悪感をその顔に浮かばせた彼女は、自分がレオハルトに声を掛ける資格が無いと考えていたからだ。
レオハルトと共に長く居たケニカもまた、そんな王の姿にただ静かに目を閉じる。
あの日、目の前の主君と共に見た腐敗した『神聖アルト国』を知る彼も、少なからず『王都防衛軍』と会うことを望んでいた。
それが例え『第二次国家戦争』という戦の中だとしても、レオハルトもケニカもかつての故郷と相対しなければならなかった。
過去を精算する為、未来を創る為―新たな時代を作る王として、ケルム王は高らかに宣言した。
「各軍に召集を急がせろ。……さあ、奴らに一泡吹かせてやろうじゃないか」
「それと……イルを攻めているのは、〝王都防衛軍第十三部隊〟を筆頭にした部隊だとも聞いております」
「〝第十三部隊〟……だと?」
その名を口にしたレオハルトはそれまで冷静だった表情を一変させる。
ケニカが口にした〝王都防衛軍第十三部隊〟―その部隊こそ、かつてレオハルトが『神聖アルト国』に居た際に隊長を務めていた部隊だったからだ。
〝王都防衛軍第十三部隊〟の前隊長は民間人であるレオハルトを庇って戦死し、レオハルトはそんな彼の後を継ぐようにして就任したが―結果として、『王都防衛軍』から〝反逆者〟の汚名を着せられた上、処刑を宣告された。
当時、十代程度であったレオハルトに『王都シュバイツァー』の軍である『王都防衛軍』は『魔術師』との共謀を図ったと彼に嫌疑を掛け、仲間であったはずのレオハルトを暗殺という形で処刑しようと試みたのだ。
ゆえに、レオハルトにとって彼らはすでに仲間とは言えない。
そして、その暗殺の手引きをした人間こそ、〝王都防衛軍第十三部隊〟の副隊長―つまり、当時その部隊の隊長を務めていたレオハルトの部下であるグラウス・ルートリマンだ。
グラウスはレオハルトを庇って戦死した前隊長、トニス・ルートリマンの弟でもあり、彼はその兄の代わりに軍に志願して副隊長の座に就いていた。
だが、レオハルトが退役したのなら、彼は恐らく副隊長ではなく隊長に就任している可能性は高い。突然訪れた憎き旧友との再会の可能性に、レオハルトは喉からもれる笑い声を押さえることが出来ず、顔を俯かせながら小さく肩を震わせていた。
「……」
「陛下……」
レイシアとケニカが見守る中、嘲るような笑い声をあげていたレオハルトだったが、徐々にそれは小さくなっていき、やがて俯かせていた顔をゆっくりと上げる。
燃え上がる炎のように赤い瞳を浮かべたレオハルトは、そんな瞳とは真逆に冷たい笑みを浮かべていた。
そして、聞く者を恐怖で震え上がらせるように冷たい声を上げたのだ。
「―ついに、この日が来たのか」
この場に居る誰かに向けたものでもなく、ただ静かにそう呟くレオハルト。
王としての威厳のあるものでもなく、またレイシアのように親しい人間に向けるものでも無いその静かな声は王室に静かに響き渡っていく。
「私はずっとこの時を待ちわびていた……。第十三部隊と―グラウスと再び相まみえるこの時をな……」
「……」
そんなレオハルトへと視線を向けるレイシアだったが、それでも声を掛けることはなかった。罪悪感をその顔に浮かばせた彼女は、自分がレオハルトに声を掛ける資格が無いと考えていたからだ。
レオハルトと共に長く居たケニカもまた、そんな王の姿にただ静かに目を閉じる。
あの日、目の前の主君と共に見た腐敗した『神聖アルト国』を知る彼も、少なからず『王都防衛軍』と会うことを望んでいた。
それが例え『第二次国家戦争』という戦の中だとしても、レオハルトもケニカもかつての故郷と相対しなければならなかった。
過去を精算する為、未来を創る為―新たな時代を作る王として、ケルム王は高らかに宣言した。
「各軍に召集を急がせろ。……さあ、奴らに一泡吹かせてやろうじゃないか」
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる