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短編集
短編集:メイアを見付けた日(2)
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翌日。メイアはいつもより早く魔法士育成学校、魔葉学園へと登校した。
自分を助けてくれた少年に、昨夜思い至った危機を伝えたかったからである。
(機代家の子達、絶対に彼の学籍を調べて校内で報復しに行く筈。魔法実習の教官も、消極的とはいえ彼女達の味方をしてるから、素性が割れるのもきっと速いわ。彼に会って、早く危険だって伝えるのよ!)
焦る気持ちを抑えて、メイアは魔葉学園の図書館に駆け込んだ。
図書館の司書室には、メイアに目をかけてくれている〔魔工士〕の学科専門課程を担当する女性教官がよく泊まり込んでおり、少年の学籍を知ることに力を貸してくれる可能性があったからである。
(教官に頼み込んで、彼の学籍を教えてもらう。そして、彼に会いに行って、機代一族に報復される可能性があると伝える。うん、この手順で行くわ!)
メイアは司書室の前で立ち止まり、荒い息を整えた。
機代家は、日本で最も古くから魔法機械について研究している魔法使いの一族であり、日本各地の魔法士育成学校における〔魔工士〕学科の設立にも、深く関与している家系であった。
日本で最も多くの優れた〔魔工士〕学科の魔法士を輩出しており、魔法機械に関わる業界であれば、相当太い伝手を、機代一族は持っている。
その意味では、メイアにとって敵に回すと非常に怖い家系であり、昨日校舎の屋上でメイアを威迫していた機代一族の巻き毛少女達の言い分も、事実ではあった。
ただ、機代一族は他の魔法使いの一族と比べると歴史が浅い家系であり、〔魔工士〕という括りで見ると相当の影響力を持つが、魔法士全体の括りで見ると、他に幾らでも機代家を遥かに超える影響力を持つ家系があるため、付け入る隙自体はある。
魔葉学園にも、機代家を超える影響力を持つ魔法使いの一族が多数おり、メイアも本当に苦しい時は、こうした家系の庇護下に入ろうと考えていた。
勿論、魔法未修者であるメイアを庇護してくれる家系は相当希少であるが、しかし、〔魔工士〕学科主席の立場を維持できていれば、助けてくれる家系が皆無とも言えず、可能性はあった。
庇護を受ける場合、メイアが相当の代価を払う必要はあるが、機代一族の圧力・威迫を日々受けるメイアにとっては、忸怩たる想いはあるものの、この可能性だけが唯一の希望だったのである。
控えめに司書室の扉を叩き、メイアは入室した。
「失礼します!」
すると、年配の女性教官が部屋の椅子に腰かけており、メイアを出迎える。
「おや、依星さん。随分早くに登校されましたね? どうしました?」
「教官、実は……」
メイアは女性教官に、昨日の校舎屋上での出来事を包み隠さず話した。
女性教官が顎に手を当てて困り顔で言う。
「……そうでしたか、また機代さん達が。困った子達ですね、本当に。しかし……かといって、彼女達を退学させるほどの影響力や権限を、私は持っていませんし。ふーむ、それで依星さんは、その男子生徒のことが気がかりというわけですね?」
「はい。機代さん達はねちっこい性格ですから、絶対に私を助けた彼へ報復しに行くでしょう。ですから!」
「彼に危険が迫っていることを警告したい、と。そういうことですね?」
「はい。どうか私に、彼の学籍情報を教えてください!」
苦笑する女性教官に頭を下げるメイア。
しかし、女性教官の答えは、メイアの希望から逸れたモノであった。
「ふむ。結論から言うと、それはできません。個人的にその生徒と知り合いであればまだしも、僅かに会話しただけの、他学科の生徒の個人情報を調べて明かすのは、私の職責に関わります。仮に今後起こる問題に対処するための緊急措置だとしても、そもそも個人情報の管理は徹底すべきモノ。バラした時点で私はクビですからねえ?」
「でも、実習教官は!」
「〔魔工士〕学科第1学年の実習教官は、確かに機代家の推薦で当校へ赴任されましたが、しかし、もし機代さん達に、その男子生徒の情報を明かしたとすれば、彼はクビです。彼女達に理由をきちんと確認した上で、不穏さを嗅ぎ付けて踏みとどまると思いますよ?」
女性教官の言い分に、メイアは食い下がる。
「それは希望的観測でしょう? 私はそこまで実習教官を信じられません! 機代さん達が、他人の作った魔法機械で実習を受けてることを、ずっと黙認している方ですよ? 気が弱い人ですから、機代さん達に教えろって詰め寄られればきっと!」
「まあ、明かす可能性はあるでしょうね、普通の生徒の情報であれば? ただ、今回はその気の弱さから明かすことはまずあり得ませんよ。ふふふふ……彼も命が惜しいでしょうからね? すぐに我が身の保身を考える筈です。敵に回すとマズい家系は、全力で避けるでしょう」
不意に、物凄く黒い気配を発する笑みを浮かべて言う年配の女性教官。
その女性教官の様子を見て、メイアはハッと気付いた。
「……? もしかして、教官は彼のことを知ってるんですか?」
「ええ、知ってますよ? 思念を発する魔獣と思しき子犬を連れた、魔法予修者の男子生徒。その上、魔力物質製の触手を瞬時に具現化し、魔法機械を一瞬で無力化する高い戦闘力を持つ。そして、依星さんと同学年でもある。これらの特徴と合致する生徒は、この学校には1人しかいません。私のよく知る知人のお孫さんです。私が依星さんを預けるとすれば、彼の家系が筆頭ですからね、ふふふ」
「えっ?」
思わぬ教官の言葉に、耳を疑うメイア。
そのメイアを見てくすくす笑いつつ、女性教官はのんびりと茶を飲む。
「そうですか、遂に会いましたか、彼と。運命を感じますねえ~……私が引き会わせようと思っていた者に、依星さんがすでに会っていて、しかも危ういところを助けてもらっていたとは。〔魔工士〕の学科魔法士資格を、依星さんが取得してから紹介しようと思っていたのですが、運命の女神もたまには良いことをします」
「教官?」
「ここから先はただの独り言です。教えるのはマズイですが、独り言を聞かれるのは不可抗力ですからね。ほんの少しだけ、彼について教えましょう。魂斬一族……日本最古の魔法使いの一族である神樹家を守護する、戦闘に特化した魔法使いの一族の、次期当主。それが、依星さんを救った男子生徒です」
「っ!」
教官の言葉にメイアは凍り付いた。
日本に数ある魔法使いの一族において、頂点に立つと言われる神樹一族と、その神樹一族を代々守護し、神樹家の敵を葬る切り札として、数多の魔法使いの一族から畏怖される魂斬一族。
この2つの魔法使いの一族については、魔法未修者のメイアでも聞き覚えのある、日本でも特に古い家系だったからである。
「機代さん達も、さすがに調べれば気付くと思いますけどね、敵に回したら真剣にマズい家の子だということは。しかし、私としては、あの跳ね返りのじゃじゃ馬さ加減で、是非とも彼に挑んでもらい、痛い目に遭って欲しいところです。戦の神とさえ謳われるあの一族の者であれば、1度敵と認識したら最後、確実に半端には終わらせませんからねえ、うふふふ」
「教官……心の声が漏れてますよ?」
「あらら、いけませんね? 色々と面倒をかけてくれる子達ですから、ついつい本心が出てしまいました。ただまあ、魂斬一族を1度でも敵に回せば、酷い目に遭うのは、日本の魔法使いの一族では常識です。ここは機代さん達の出方を待ちましょうか。彼女達がこちらの想定以上に賢いことを祈りつつ、ね?」
絶対に、想定以上の馬鹿であることを願っている女性教官の黒い笑顔を見つつ、メイアは問うた。
「あ、あの、酷い目に遭うのが常識というのは、どういうことですか?」
「そのままの意味ですよ、家ごとつぶされるということ。平安時代から伊達に1000年以上も魔法使いをしていませんからね、あの一族は。基本的に武断派です、それも相当知恵の回る方の。おまけに、魂斬家を敵に回せば、盟友の関係にある他の魔法使いの一族も確実に動く。一体化してると言っていい神樹家は当然として、家同士で親しい付き合いのある、風羽家や鬼土家といった有力家系も動くでしょう。機代一族は一瞬で終わります。実家の立場を思えば、機代さん達も下手には動けませんよ、普通はね?」
女性教官の言葉に、ごくりと息を呑み、メイアが恐々と問う。
「そ、それほどの家系ですか……随分と親し気に話しておられますが、教官は魂斬一族のどういう方と面識があるのですか?」
「そうですねぇ、御当主とも知り合いですが、当主の伴侶である女性が、そもそも私の友人です。彼女に連れられて、私もよく迷宮へ素材採集に行きました。もう数十年来の知己ですね? もっとも、結婚して子どもができてから、私は魔法機械の研究の方に専念しましたので、今はもう彼女のように迷宮へ行ってませんが。それでも、定期的に連絡を取り合ってる間柄ですよ?」
「あ、あははは……そうでしたか」
女性教官の迫力ある笑顔に押され、メイアは自分の当初の目的の達成が難しいことを理解した。
「少し話し込んでしまいましたね? そろそろ1時限目が始まります。教室へ戻ってください」
「は、はい。失礼します」
男子生徒が魂斬一族の子であることは分かったものの、結局どこの魔法学科の生徒かまでは知ることができず、メイアは警告する手段を持たぬまま、自分の〔魔工士〕学科の教室へ行った。
(制服が同じだと学科の区別も難しい。魔法士育成学校は基本的に人数が多いし……どうしよう。手詰まりだわ)
そう思ってメイアが教室へ入ると、いつもであればすでに着席している筈の、機代家の巻き毛少女達が教室におらず、その姿を探しているメイアの耳に、廊下の喧騒が届いた。
「おいおい聞いたか、決闘だってさ!」
「聞いた聞いた! 校門前で揉めてた奴らが、校庭で決闘してんだろ?」
「数人の〔魔工士〕が、魔法機械まで出して暴れてるんですって!」
「教官も立ち会ってるんだってさ! 面白そう、見に行こうよ!」
すぐにメイアは立ち上がり、校庭へと駆け出した。
(そうだった! 素性を知る云々以前に、そもそも登校時の校門前で偶然会う可能性も僅かにあったわ! 忘れてた!)
決闘してるのが、男子生徒と巻き毛少女達だと確信し、メイアは生徒達が集まる校庭へと出る。
その目に映ったのは。
「おらああぁぁぁー、この程度かボケエエーッ!」
「「「ひいいぃっ!」」」
虎の如き魔法機械の足を掴んで棍棒のように振り回し、巻き毛少女達を追い回す背の高い少女と、その少女の追いかけっこをボケーと見る、2人の少年の姿であった。
「勇子、一応手加減しろよ~、見てるヤツら多いから」
メイアが探していた、魔獣と思しき子犬を頭に乗せた少年の、気の抜けた声援が聞こえた瞬間。
「分かっとるわい! よいやさっ!」
「ハブラっ!」
メイアへ嫌がらせをする者達の筆頭たる巻き毛少女が、魔法機械を振り回す少女に打ち飛ばされる。
物凄い速度で吹っ飛び、そして顔面から地面に落ちた。
治癒魔法ですぐ治療できるとはいえ、惨い落ち方である。
「おお、馬鹿力に任せた会心の一撃だね!」
「うむ。良い放物線だった」
『虫の息ですが生きてます、案外丈夫ですね』
他人事のように観戦し、感想を言う少年達。
その会話が聞こえ、メイアは激しく脱力した。
自分を助けてくれた少年に、昨夜思い至った危機を伝えたかったからである。
(機代家の子達、絶対に彼の学籍を調べて校内で報復しに行く筈。魔法実習の教官も、消極的とはいえ彼女達の味方をしてるから、素性が割れるのもきっと速いわ。彼に会って、早く危険だって伝えるのよ!)
焦る気持ちを抑えて、メイアは魔葉学園の図書館に駆け込んだ。
図書館の司書室には、メイアに目をかけてくれている〔魔工士〕の学科専門課程を担当する女性教官がよく泊まり込んでおり、少年の学籍を知ることに力を貸してくれる可能性があったからである。
(教官に頼み込んで、彼の学籍を教えてもらう。そして、彼に会いに行って、機代一族に報復される可能性があると伝える。うん、この手順で行くわ!)
メイアは司書室の前で立ち止まり、荒い息を整えた。
機代家は、日本で最も古くから魔法機械について研究している魔法使いの一族であり、日本各地の魔法士育成学校における〔魔工士〕学科の設立にも、深く関与している家系であった。
日本で最も多くの優れた〔魔工士〕学科の魔法士を輩出しており、魔法機械に関わる業界であれば、相当太い伝手を、機代一族は持っている。
その意味では、メイアにとって敵に回すと非常に怖い家系であり、昨日校舎の屋上でメイアを威迫していた機代一族の巻き毛少女達の言い分も、事実ではあった。
ただ、機代一族は他の魔法使いの一族と比べると歴史が浅い家系であり、〔魔工士〕という括りで見ると相当の影響力を持つが、魔法士全体の括りで見ると、他に幾らでも機代家を遥かに超える影響力を持つ家系があるため、付け入る隙自体はある。
魔葉学園にも、機代家を超える影響力を持つ魔法使いの一族が多数おり、メイアも本当に苦しい時は、こうした家系の庇護下に入ろうと考えていた。
勿論、魔法未修者であるメイアを庇護してくれる家系は相当希少であるが、しかし、〔魔工士〕学科主席の立場を維持できていれば、助けてくれる家系が皆無とも言えず、可能性はあった。
庇護を受ける場合、メイアが相当の代価を払う必要はあるが、機代一族の圧力・威迫を日々受けるメイアにとっては、忸怩たる想いはあるものの、この可能性だけが唯一の希望だったのである。
控えめに司書室の扉を叩き、メイアは入室した。
「失礼します!」
すると、年配の女性教官が部屋の椅子に腰かけており、メイアを出迎える。
「おや、依星さん。随分早くに登校されましたね? どうしました?」
「教官、実は……」
メイアは女性教官に、昨日の校舎屋上での出来事を包み隠さず話した。
女性教官が顎に手を当てて困り顔で言う。
「……そうでしたか、また機代さん達が。困った子達ですね、本当に。しかし……かといって、彼女達を退学させるほどの影響力や権限を、私は持っていませんし。ふーむ、それで依星さんは、その男子生徒のことが気がかりというわけですね?」
「はい。機代さん達はねちっこい性格ですから、絶対に私を助けた彼へ報復しに行くでしょう。ですから!」
「彼に危険が迫っていることを警告したい、と。そういうことですね?」
「はい。どうか私に、彼の学籍情報を教えてください!」
苦笑する女性教官に頭を下げるメイア。
しかし、女性教官の答えは、メイアの希望から逸れたモノであった。
「ふむ。結論から言うと、それはできません。個人的にその生徒と知り合いであればまだしも、僅かに会話しただけの、他学科の生徒の個人情報を調べて明かすのは、私の職責に関わります。仮に今後起こる問題に対処するための緊急措置だとしても、そもそも個人情報の管理は徹底すべきモノ。バラした時点で私はクビですからねえ?」
「でも、実習教官は!」
「〔魔工士〕学科第1学年の実習教官は、確かに機代家の推薦で当校へ赴任されましたが、しかし、もし機代さん達に、その男子生徒の情報を明かしたとすれば、彼はクビです。彼女達に理由をきちんと確認した上で、不穏さを嗅ぎ付けて踏みとどまると思いますよ?」
女性教官の言い分に、メイアは食い下がる。
「それは希望的観測でしょう? 私はそこまで実習教官を信じられません! 機代さん達が、他人の作った魔法機械で実習を受けてることを、ずっと黙認している方ですよ? 気が弱い人ですから、機代さん達に教えろって詰め寄られればきっと!」
「まあ、明かす可能性はあるでしょうね、普通の生徒の情報であれば? ただ、今回はその気の弱さから明かすことはまずあり得ませんよ。ふふふふ……彼も命が惜しいでしょうからね? すぐに我が身の保身を考える筈です。敵に回すとマズい家系は、全力で避けるでしょう」
不意に、物凄く黒い気配を発する笑みを浮かべて言う年配の女性教官。
その女性教官の様子を見て、メイアはハッと気付いた。
「……? もしかして、教官は彼のことを知ってるんですか?」
「ええ、知ってますよ? 思念を発する魔獣と思しき子犬を連れた、魔法予修者の男子生徒。その上、魔力物質製の触手を瞬時に具現化し、魔法機械を一瞬で無力化する高い戦闘力を持つ。そして、依星さんと同学年でもある。これらの特徴と合致する生徒は、この学校には1人しかいません。私のよく知る知人のお孫さんです。私が依星さんを預けるとすれば、彼の家系が筆頭ですからね、ふふふ」
「えっ?」
思わぬ教官の言葉に、耳を疑うメイア。
そのメイアを見てくすくす笑いつつ、女性教官はのんびりと茶を飲む。
「そうですか、遂に会いましたか、彼と。運命を感じますねえ~……私が引き会わせようと思っていた者に、依星さんがすでに会っていて、しかも危ういところを助けてもらっていたとは。〔魔工士〕の学科魔法士資格を、依星さんが取得してから紹介しようと思っていたのですが、運命の女神もたまには良いことをします」
「教官?」
「ここから先はただの独り言です。教えるのはマズイですが、独り言を聞かれるのは不可抗力ですからね。ほんの少しだけ、彼について教えましょう。魂斬一族……日本最古の魔法使いの一族である神樹家を守護する、戦闘に特化した魔法使いの一族の、次期当主。それが、依星さんを救った男子生徒です」
「っ!」
教官の言葉にメイアは凍り付いた。
日本に数ある魔法使いの一族において、頂点に立つと言われる神樹一族と、その神樹一族を代々守護し、神樹家の敵を葬る切り札として、数多の魔法使いの一族から畏怖される魂斬一族。
この2つの魔法使いの一族については、魔法未修者のメイアでも聞き覚えのある、日本でも特に古い家系だったからである。
「機代さん達も、さすがに調べれば気付くと思いますけどね、敵に回したら真剣にマズい家の子だということは。しかし、私としては、あの跳ね返りのじゃじゃ馬さ加減で、是非とも彼に挑んでもらい、痛い目に遭って欲しいところです。戦の神とさえ謳われるあの一族の者であれば、1度敵と認識したら最後、確実に半端には終わらせませんからねえ、うふふふ」
「教官……心の声が漏れてますよ?」
「あらら、いけませんね? 色々と面倒をかけてくれる子達ですから、ついつい本心が出てしまいました。ただまあ、魂斬一族を1度でも敵に回せば、酷い目に遭うのは、日本の魔法使いの一族では常識です。ここは機代さん達の出方を待ちましょうか。彼女達がこちらの想定以上に賢いことを祈りつつ、ね?」
絶対に、想定以上の馬鹿であることを願っている女性教官の黒い笑顔を見つつ、メイアは問うた。
「あ、あの、酷い目に遭うのが常識というのは、どういうことですか?」
「そのままの意味ですよ、家ごとつぶされるということ。平安時代から伊達に1000年以上も魔法使いをしていませんからね、あの一族は。基本的に武断派です、それも相当知恵の回る方の。おまけに、魂斬家を敵に回せば、盟友の関係にある他の魔法使いの一族も確実に動く。一体化してると言っていい神樹家は当然として、家同士で親しい付き合いのある、風羽家や鬼土家といった有力家系も動くでしょう。機代一族は一瞬で終わります。実家の立場を思えば、機代さん達も下手には動けませんよ、普通はね?」
女性教官の言葉に、ごくりと息を呑み、メイアが恐々と問う。
「そ、それほどの家系ですか……随分と親し気に話しておられますが、教官は魂斬一族のどういう方と面識があるのですか?」
「そうですねぇ、御当主とも知り合いですが、当主の伴侶である女性が、そもそも私の友人です。彼女に連れられて、私もよく迷宮へ素材採集に行きました。もう数十年来の知己ですね? もっとも、結婚して子どもができてから、私は魔法機械の研究の方に専念しましたので、今はもう彼女のように迷宮へ行ってませんが。それでも、定期的に連絡を取り合ってる間柄ですよ?」
「あ、あははは……そうでしたか」
女性教官の迫力ある笑顔に押され、メイアは自分の当初の目的の達成が難しいことを理解した。
「少し話し込んでしまいましたね? そろそろ1時限目が始まります。教室へ戻ってください」
「は、はい。失礼します」
男子生徒が魂斬一族の子であることは分かったものの、結局どこの魔法学科の生徒かまでは知ることができず、メイアは警告する手段を持たぬまま、自分の〔魔工士〕学科の教室へ行った。
(制服が同じだと学科の区別も難しい。魔法士育成学校は基本的に人数が多いし……どうしよう。手詰まりだわ)
そう思ってメイアが教室へ入ると、いつもであればすでに着席している筈の、機代家の巻き毛少女達が教室におらず、その姿を探しているメイアの耳に、廊下の喧騒が届いた。
「おいおい聞いたか、決闘だってさ!」
「聞いた聞いた! 校門前で揉めてた奴らが、校庭で決闘してんだろ?」
「数人の〔魔工士〕が、魔法機械まで出して暴れてるんですって!」
「教官も立ち会ってるんだってさ! 面白そう、見に行こうよ!」
すぐにメイアは立ち上がり、校庭へと駆け出した。
(そうだった! 素性を知る云々以前に、そもそも登校時の校門前で偶然会う可能性も僅かにあったわ! 忘れてた!)
決闘してるのが、男子生徒と巻き毛少女達だと確信し、メイアは生徒達が集まる校庭へと出る。
その目に映ったのは。
「おらああぁぁぁー、この程度かボケエエーッ!」
「「「ひいいぃっ!」」」
虎の如き魔法機械の足を掴んで棍棒のように振り回し、巻き毛少女達を追い回す背の高い少女と、その少女の追いかけっこをボケーと見る、2人の少年の姿であった。
「勇子、一応手加減しろよ~、見てるヤツら多いから」
メイアが探していた、魔獣と思しき子犬を頭に乗せた少年の、気の抜けた声援が聞こえた瞬間。
「分かっとるわい! よいやさっ!」
「ハブラっ!」
メイアへ嫌がらせをする者達の筆頭たる巻き毛少女が、魔法機械を振り回す少女に打ち飛ばされる。
物凄い速度で吹っ飛び、そして顔面から地面に落ちた。
治癒魔法ですぐ治療できるとはいえ、惨い落ち方である。
「おお、馬鹿力に任せた会心の一撃だね!」
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