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短編集
短編集:メイアを見付けた日(5)
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メイアは戦闘を観察し、繰り返し立てていた戦略を脳内で確認した。
(機代一族の彼女達が使う魔法機械は、基本的に彼女達の指示で動く。ある程度の自立行動がとれるシロンは、この点で優位に立ってるわ。私からの指示が遅れても、シロンは機敏に動ける。でも彼女達の魔法機械は違う。棒立ちのまま、命令・指示を必ず待つ。本来は彼女達の魔法機械も、自立行動がとれる筈だけど、その行動を見てる限り、命令・指示があるまでは待機するように制限がついてるっぽい。この一瞬の行動力の差は、戦闘でシロンを助けてくれる筈)
目の前で、同期である魔法未習者の少女の、ノタノタ動く魔法機械が跳ね飛ばされ、宙を舞う。
巻き毛少女が指示する虎の如き魔法機械の突進を躱し切れず、上空へ弾き飛ばされたのである。
その様子を観察し、メイアは黙考を続けた。
(規格が違い過ぎるから、受けに回っちゃダメね。全ての攻撃を回避する必要がある。その点シロンは他の魔法機械より有利よ。規格が小さいから、当然攻撃する的も小さいし、そもそも機動力に極振りしてるから動きも速い。突進攻撃は避けられる。問題は……)
メイアの目の前で巻き毛少女の魔法機械がガバリと口を開き、宙を舞う魔法機械を口で受け止めて、噛み砕いた。
そして、噛み砕かれて2つに分かれた魔法機械が地に落ちた瞬間、巻き毛少女の指示を受けた虎の如き魔法機械が、前足を叩きつける。
2つに分断された魔法機械は、踏みつぶされて砕け散った。
粉砕された魔法機械の持ち主である同期の少女が、涙を目に浮かべ、ぺたりと座り込む。
その姿を意図的に視界から外して、メイアは巻き毛少女の魔法機械を見据えた。
(あの噛みつき攻撃と前足の一撃ね。あれを潜り抜けられるかどうか。今までは予測回避の精度が低くて無理だった。でも、負け続けてある程度情報が蓄積された今回は、それができる筈。仮想戦闘でも、これまで4割でずっと足踏みしてた予測回避率が、初めて6割まで上昇した。自信を持つのよ)
同期の少年少女達が、砕け散った自分の相棒だったモノをかき集めて、涙目のまま後ろへ下がる。
それを見て、小太りでビクつく実習教官が言った。
「つ、次の10人、前へ! えーとまず……は、機代実械さんの前に、依星メイアさん。行ってください」
「いらっしゃ~い、メイア?」
遂にメイアの順番が回って来る。巻き毛少女がメイアを手招きした。
「処刑の時間だ、ぎゃははは」
「実械、頼むわよ~。ぶっつぶしちゃえ!」
周囲の魔法予修者達がゲラゲラ笑い、はやし立てるが、メイアはそれらの声を一切無視した。
歩き出したメイアは、立体映像で校庭に浮かび上がる、競技場としての境界線の前に立つ。
先に戦っていた同期の少女とすれ違った時、メイアは思った。
(私は、あんた達とは違う……私は勝つ!)
決然と対面に見える巻き毛少女を見据え、メイアは決意を戦意に転換した。
砕けた魔法機械を胸に抱き、俯いてトボトボ歩く少女の姿。
以前の自分と同じその少女の姿を、メイアは否定した。
〈余次元の鞄〉からズルリと工具箱を引き出すと、メイアはその工具箱から小型機人シロンを取り出し、立体映像で浮かび上がる競技場に、シロンを置いた。
13mほど離れて立つ、自分と10倍近い規格差の魔法機械を認識し、シロンがいつでも動けるよう、前傾姿勢を取る。
そのシロンを見て、ニンマリと巻き毛少女が笑って言った。
「この時を楽しみにしてたわ、メイア。ここだったら邪魔も入らず、じっくり遊べるものね? 叩きつぶしてあげるわ、そのチビ!」
「……目に物見せてあげる」
シロンの状態を確認するため、そして戦闘映像を記録するため、ポマコンを持つメイアが言い返す。
空気が緊迫した。メイアと同じく最後の順番である魔法未修者9人が、自分達の相棒を取り出し、校庭に置いた姿を見て、教官が言う。
「で、では、模擬戦闘……始め!」
小太りの実習教官の開始の声と共に、巻き毛少女とメイアが叫ぶ。
「突進で跳ね飛ばせっ!」
「シロン、回避!」
虎のように見える巻き毛少女の魔法機械、四足型機獣が、頭を下に下げて加速した。
と同時に、メイアの小型機人シロンも駆け出す。小さいがシロンの動きは速く、機獣の突進を間一髪避けた。
「無駄よ、踏みつぶせ!」
「シロン!」
避けたシロンへ、瞬時に飛びついた四足型機獣が前足を振り下ろす。
メイアの悲鳴じみた叫び声に反応し、シロンが自立的に判断して、機獣の前足をかすめる様に後退した。
「うざい! 噛み砕け!」
「半身で前へ! シロン!」
メイアが指示するより先に、四足型機獣の噛みつき攻撃が小型機人を急襲するが、小型アンドロイドは自らスッと左足を引いて身体を半身にし、迫る機獣の顎の下に飛び込んだ。
渾身の噛みつき攻撃も空を切り、巻き毛少女がハッと驚きに目を見開く。
「……っ!」
「今よシロン! 脇腹に取り付け!」
機獣の死角である腹の下に飛び込んだシロンへ、メイアが勝機とばかりに拳を握って叫ぶ。
巻き毛少女達機代一族の子らが持つ四足型機獣は、特段優れた知識や技術を持っておらず、年齢も12歳とまだ幼い魔法予修者が自力で作ったというには、明らかに異常とも言えるほど完成度が高かった。
それゆえに、誰が見ても製作者が別人だと分かるのだが、一応機代一族の子らが作ったと言い訳できるよう、手を抜いて作られている部分が1カ所だけあった。
それが、装甲で覆われておらず、剥き出しの配線や回路、駆動部が見える脇腹である。
あからさまに弱点を作ることで、巻き毛少女達が自分達で作ったと無理に言い訳する材料にしているわけだが、メイアとしては機獣にも弱点があることの方が重要であった。
「ふ、振るい剥がすのよ!」
脇腹に弱点があるとはいえ、そもそもそこを狙えるほどの動きができる魔法機械を、メイアが所有しているとは思っておらず、一瞬指示に迷った巻き毛少女。
慌てて機獣に命じたが、その時にはすでにシロンが、四足型機獣の装甲の端に手をかけて、脇腹に取り付いていた。
機獣の装甲に封入された付与魔法の魔法力場と、シロンの装甲に封入された付与魔法の魔法力場が、互いに反発するが、一瞬で効力が相殺され、シロンが機獣の脇腹にある配線を両手で鷲掴む。
その状態で、機獣が激しく身震いしたため、配線が引き延ばされ、遂には千切れた。
弾き飛ばされたシロンは地面に叩き付けられ、転がったが、小さくても魔法機械である。
装甲に封入された精霊付与魔法の魔法力場が効力を発揮し、小型アンドロイドを無事に生還させた。
「衝撃による機能低下は……3%ほど。行ける!」
ポマコンでシロンの状態を確認し、メイアは自分が優勢だと確信した。
周囲でもざわめきが起きる。
早々に、自分の相手していた魔法未修者の魔法機械を粉砕し、観客と化していた魔法予修者達が口々に言う。
「嘘だろ? おい……」
「今までと動きが全然違う! 前回は前足で踏みつぶされてたし、その前だって!」
「噛みつき攻撃をモロに喰らってた筈。どういうことよ?」
やや怯えた目をする魔法予修者達に、メイアが心の内で言い返す。
(情報の統合って概念をもう一度学習することね? やっと噛み合ったのよ、シロンの経験値がね)
メイアからしてみれば、シロンの人工知能が敗戦の経験から得た情報を統合し、仮想戦闘で繰り返し戦闘行動を試考し続けた結果が実を結び、ようやく予測回避の精度が一段上がって、機獣の攻撃を凡そ回避できる状態に至っただけと理解できるが、魔法予修者達にしてみれば、今まで圧倒していた筈の相手が、急に自分達へ手傷を負わす危険性を持ったように見えて、さぞ不気味であろう。
「魔法未修者風情が、よくも私の魔法機械を!」
公開処刑のつもりが反撃を食わされ、恥をかかされた巻き毛少女が、羞恥と憤激で顔を真っ赤に染めて叫ぶ。
「そうやっていつまでも見下してるから、手痛い反撃を受けたのよ!」
相手の冷静さを奪うため、メイアが煽るように応じると、背後からメイアにとっては援護にも等しい声が聞こえた。
「へえ~……面白い見世物じゃねえか?」
『ええ。一般教養課程が終わって、図書館で依頼の調べ物を今までしていたら……』
「校内でも、酷い魔法未修者いじめで噂されとるいじめっ子魔法予修者が、当の魔法未修者に反撃されとる場面に遭遇やん。あははは、こりゃ傑作!」
「しっ! 勇子、声がデカいよ! あっち授業だから静かに! めっちゃこっち見てるじゃんか」
いつの間にか、実習授業の見物人としてあの子犬姿の魔獣を連れた少年達が、校庭にいた。
「み、魂斬と鬼土に風羽! ど、どうしてここにいるのよ! あんた達、すでに資格持ちでしょ!」
一番見られるのが嫌だった相手に、恥をかかされた姿を見られ、巻き毛少女が動揺する。
その巻き毛少女へ、少年達がどうでもよさそうに言葉を返した。
「どうしてって……学科魔法士資格を取ったかて、卒業するまではここの生徒やん? 別にウチらがここにおっても、おかしあらへん」
「まあ、今回は3時限目までの一般教養課程の授業が終わったら、他の資格持ちの生徒達と同様に、僕らも帰るつもりだったんだけどね、ホントは?」
「偶然俺達が受けた依頼で調べ物があったから、魔法関連の学習課程がある4時限目以降、授業には出ねえで図書館で今まで調べ物してただけだ。どこか不自然か?」
『ごくごく自然かと……それでバカ共の狼狽える姿を見られたのですから、これは運命の采配でしょう』
「うむうむ、その通りだ。ところで、実習時に外野と喋ってていいのかお前? 負けるぞ?」
意図して煽ってるとは思えず、思ったことを少年達はただ口にしてるだけであろうが、巻き毛少女の判断力を奪うには十分だった。
「黙れ! すぐに終わらせてやるわ!」
「できるかしらね?」
血走った眼で自分を見る巻き毛少女の姿を認識し、メイアは精神的にも自分が優位に立ったことを確信する。
「さっさとあのチビを粉砕してっ! 行けえっ!」
「シロン!」
巻き毛少女の指示で、四足型機獣が小型機人に飛びかかるが、配線の一部を千切られた影響か、先ほどよりも一拍反応が遅い。
余裕を持って、シロンは機獣の踏み付けを回避した。
「とにかく動きを止めるのよ! 噛みつけ!」
「シロン、飛び込め!」
先ほどより遅い噛みつき攻撃を潜り抜け、また脇腹に取り付く小型機人。
その姿を見て、巻き毛少女が激昂する。
「同じ手を二度も食うか! 尾ではたき落とせっ!」
「くっ!」
巻き毛少女の命令を受け、四足型機獣の長い尾が脇腹を打ち、シロンを叩き落した。
「シロン!」
魔法力場同士が相殺され、長い尾でまともに打たれた衝撃が、内部機構にも浸透したせいか。
ポマコンの示す小型機人シロンの機能低下率は30%を超えていた。
ギギギッと、起き上がるのが遅い小型アンドロイドを見て、目を血走らせた巻き毛少女が笑って言う。
「ははっ! 今だ、トドメをさすのよっ!」
「……無駄だよバーカ」
勝利を確信した巻き毛少女の耳に、子犬姿の魔獣を連れた少年の一言が届く。
「シロン、よくやったわ!」
メイアの歓声が聞こえて、ようやく巻き毛少女は理解した。自分の四足型機獣の状態に。
「ど、どうして……どうしてよっ!」
機獣は脊椎を損傷した動物のように、腰が地に着き、ノロノロと後ろ足を引きずっている状態だった。
よくよくシロンの手を見ると、割れた回路基板の一部が握られている。
「弱点剥き出しのところへ、あれだけの衝撃を持つ一撃を加えたら、回路基板が割れることくらい理解できるでしょ? 製作も整備も他人任せにしてるから、咄嗟の判断にボロが出る。シロン、トドメよ!」
勝利を確信したメイアが、ようやく立ち上がった小型アンドロイドに言う。
シロンの敏捷性もやや低下していたが、腰から下を引きずってノロクサ動く四足型機獣よりは遥かに速い。
機獣の背後に回って首筋に取り付いたシロンは、腰に付けていた使い捨ての電導剣を、機獣の首の駆動部装甲の隙間へ突っ込み、配線に電流を加えつつ焼き切った。
ビリリっと機獣が震え、ズシンと地に伏す。
「よくやったわ、シロン!」
メイアがこちらに走り寄って来るシロンと共に、勝利の歓喜に震えた矢先だった。
「まだよ!」
巻き毛少女の叫び声が、周囲に響いた。
いつの間に取り出したのか、〈出納の親子結晶〉を手に持った巻き毛少女が、血走った眼でメイアを見て叫ぶ。
「あんただけは……そのチビだけは、ここでつぶすっ! 来い、〈オーガボーグ〉!」
〈出納の親子結晶〉が発動し、妖魔種魔獣【鬼妖魔】を模した魔法機械が現れた。
先に戦った四足型機獣も完成度が高かったが、こちらはそれ以上に完成された印象をメイアは持った。
「う、そ……」
困惑するメイア。子犬姿の魔獣を連れた少年の横にいた、美形の少年が眉をひそめて言う。
「あれ、塗装や右腕の装備が違うけど……僕達戦闘型の魔法士が、対魔獣用の戦闘訓練で使う魔法機械だよね?」
「ああ。あれはマズいだろ。軍の開発部が作った戦闘用の魔法機械達と比べれば戦闘力は低いが……」
魔獣を連れた少年も渋い顔で首を振ると、その横にいた背の高い少女まで叫んだ。
「それでも魔法士の戦闘訓練には打って付けやから言うて、軍や警察、魔法士育成学校でもよう使われとるヤツやん! 機代家が訓練用言うてあっちこっちへ売りさばいとる、民間開発とはいえ純粋に戦闘特化の魔法機械やぞ! あれ使うんは反則やろ! そもそも絶対に自分で作ってへんやんけ!」
「黙れ! 模擬戦闘の規則では2体目まで使っていいのよ! それにこの魔法機械は私が手を加えた。私が作ったモノよ! ……さあ、続けるわよ、メイアッ!」
体裁を捨てて巻き毛少女が凄絶に笑った。
メイアの方へ走り寄っていたシロンが、またいつでも動けるよう前傾姿勢を取る。
「し、シロン……」
迷い怯えるメイアの前で、鬼型アンドロイドとも言うべき訓練型魔法機械〈オーガボーグ〉が咆哮した。
(機代一族の彼女達が使う魔法機械は、基本的に彼女達の指示で動く。ある程度の自立行動がとれるシロンは、この点で優位に立ってるわ。私からの指示が遅れても、シロンは機敏に動ける。でも彼女達の魔法機械は違う。棒立ちのまま、命令・指示を必ず待つ。本来は彼女達の魔法機械も、自立行動がとれる筈だけど、その行動を見てる限り、命令・指示があるまでは待機するように制限がついてるっぽい。この一瞬の行動力の差は、戦闘でシロンを助けてくれる筈)
目の前で、同期である魔法未習者の少女の、ノタノタ動く魔法機械が跳ね飛ばされ、宙を舞う。
巻き毛少女が指示する虎の如き魔法機械の突進を躱し切れず、上空へ弾き飛ばされたのである。
その様子を観察し、メイアは黙考を続けた。
(規格が違い過ぎるから、受けに回っちゃダメね。全ての攻撃を回避する必要がある。その点シロンは他の魔法機械より有利よ。規格が小さいから、当然攻撃する的も小さいし、そもそも機動力に極振りしてるから動きも速い。突進攻撃は避けられる。問題は……)
メイアの目の前で巻き毛少女の魔法機械がガバリと口を開き、宙を舞う魔法機械を口で受け止めて、噛み砕いた。
そして、噛み砕かれて2つに分かれた魔法機械が地に落ちた瞬間、巻き毛少女の指示を受けた虎の如き魔法機械が、前足を叩きつける。
2つに分断された魔法機械は、踏みつぶされて砕け散った。
粉砕された魔法機械の持ち主である同期の少女が、涙を目に浮かべ、ぺたりと座り込む。
その姿を意図的に視界から外して、メイアは巻き毛少女の魔法機械を見据えた。
(あの噛みつき攻撃と前足の一撃ね。あれを潜り抜けられるかどうか。今までは予測回避の精度が低くて無理だった。でも、負け続けてある程度情報が蓄積された今回は、それができる筈。仮想戦闘でも、これまで4割でずっと足踏みしてた予測回避率が、初めて6割まで上昇した。自信を持つのよ)
同期の少年少女達が、砕け散った自分の相棒だったモノをかき集めて、涙目のまま後ろへ下がる。
それを見て、小太りでビクつく実習教官が言った。
「つ、次の10人、前へ! えーとまず……は、機代実械さんの前に、依星メイアさん。行ってください」
「いらっしゃ~い、メイア?」
遂にメイアの順番が回って来る。巻き毛少女がメイアを手招きした。
「処刑の時間だ、ぎゃははは」
「実械、頼むわよ~。ぶっつぶしちゃえ!」
周囲の魔法予修者達がゲラゲラ笑い、はやし立てるが、メイアはそれらの声を一切無視した。
歩き出したメイアは、立体映像で校庭に浮かび上がる、競技場としての境界線の前に立つ。
先に戦っていた同期の少女とすれ違った時、メイアは思った。
(私は、あんた達とは違う……私は勝つ!)
決然と対面に見える巻き毛少女を見据え、メイアは決意を戦意に転換した。
砕けた魔法機械を胸に抱き、俯いてトボトボ歩く少女の姿。
以前の自分と同じその少女の姿を、メイアは否定した。
〈余次元の鞄〉からズルリと工具箱を引き出すと、メイアはその工具箱から小型機人シロンを取り出し、立体映像で浮かび上がる競技場に、シロンを置いた。
13mほど離れて立つ、自分と10倍近い規格差の魔法機械を認識し、シロンがいつでも動けるよう、前傾姿勢を取る。
そのシロンを見て、ニンマリと巻き毛少女が笑って言った。
「この時を楽しみにしてたわ、メイア。ここだったら邪魔も入らず、じっくり遊べるものね? 叩きつぶしてあげるわ、そのチビ!」
「……目に物見せてあげる」
シロンの状態を確認するため、そして戦闘映像を記録するため、ポマコンを持つメイアが言い返す。
空気が緊迫した。メイアと同じく最後の順番である魔法未修者9人が、自分達の相棒を取り出し、校庭に置いた姿を見て、教官が言う。
「で、では、模擬戦闘……始め!」
小太りの実習教官の開始の声と共に、巻き毛少女とメイアが叫ぶ。
「突進で跳ね飛ばせっ!」
「シロン、回避!」
虎のように見える巻き毛少女の魔法機械、四足型機獣が、頭を下に下げて加速した。
と同時に、メイアの小型機人シロンも駆け出す。小さいがシロンの動きは速く、機獣の突進を間一髪避けた。
「無駄よ、踏みつぶせ!」
「シロン!」
避けたシロンへ、瞬時に飛びついた四足型機獣が前足を振り下ろす。
メイアの悲鳴じみた叫び声に反応し、シロンが自立的に判断して、機獣の前足をかすめる様に後退した。
「うざい! 噛み砕け!」
「半身で前へ! シロン!」
メイアが指示するより先に、四足型機獣の噛みつき攻撃が小型機人を急襲するが、小型アンドロイドは自らスッと左足を引いて身体を半身にし、迫る機獣の顎の下に飛び込んだ。
渾身の噛みつき攻撃も空を切り、巻き毛少女がハッと驚きに目を見開く。
「……っ!」
「今よシロン! 脇腹に取り付け!」
機獣の死角である腹の下に飛び込んだシロンへ、メイアが勝機とばかりに拳を握って叫ぶ。
巻き毛少女達機代一族の子らが持つ四足型機獣は、特段優れた知識や技術を持っておらず、年齢も12歳とまだ幼い魔法予修者が自力で作ったというには、明らかに異常とも言えるほど完成度が高かった。
それゆえに、誰が見ても製作者が別人だと分かるのだが、一応機代一族の子らが作ったと言い訳できるよう、手を抜いて作られている部分が1カ所だけあった。
それが、装甲で覆われておらず、剥き出しの配線や回路、駆動部が見える脇腹である。
あからさまに弱点を作ることで、巻き毛少女達が自分達で作ったと無理に言い訳する材料にしているわけだが、メイアとしては機獣にも弱点があることの方が重要であった。
「ふ、振るい剥がすのよ!」
脇腹に弱点があるとはいえ、そもそもそこを狙えるほどの動きができる魔法機械を、メイアが所有しているとは思っておらず、一瞬指示に迷った巻き毛少女。
慌てて機獣に命じたが、その時にはすでにシロンが、四足型機獣の装甲の端に手をかけて、脇腹に取り付いていた。
機獣の装甲に封入された付与魔法の魔法力場と、シロンの装甲に封入された付与魔法の魔法力場が、互いに反発するが、一瞬で効力が相殺され、シロンが機獣の脇腹にある配線を両手で鷲掴む。
その状態で、機獣が激しく身震いしたため、配線が引き延ばされ、遂には千切れた。
弾き飛ばされたシロンは地面に叩き付けられ、転がったが、小さくても魔法機械である。
装甲に封入された精霊付与魔法の魔法力場が効力を発揮し、小型アンドロイドを無事に生還させた。
「衝撃による機能低下は……3%ほど。行ける!」
ポマコンでシロンの状態を確認し、メイアは自分が優勢だと確信した。
周囲でもざわめきが起きる。
早々に、自分の相手していた魔法未修者の魔法機械を粉砕し、観客と化していた魔法予修者達が口々に言う。
「嘘だろ? おい……」
「今までと動きが全然違う! 前回は前足で踏みつぶされてたし、その前だって!」
「噛みつき攻撃をモロに喰らってた筈。どういうことよ?」
やや怯えた目をする魔法予修者達に、メイアが心の内で言い返す。
(情報の統合って概念をもう一度学習することね? やっと噛み合ったのよ、シロンの経験値がね)
メイアからしてみれば、シロンの人工知能が敗戦の経験から得た情報を統合し、仮想戦闘で繰り返し戦闘行動を試考し続けた結果が実を結び、ようやく予測回避の精度が一段上がって、機獣の攻撃を凡そ回避できる状態に至っただけと理解できるが、魔法予修者達にしてみれば、今まで圧倒していた筈の相手が、急に自分達へ手傷を負わす危険性を持ったように見えて、さぞ不気味であろう。
「魔法未修者風情が、よくも私の魔法機械を!」
公開処刑のつもりが反撃を食わされ、恥をかかされた巻き毛少女が、羞恥と憤激で顔を真っ赤に染めて叫ぶ。
「そうやっていつまでも見下してるから、手痛い反撃を受けたのよ!」
相手の冷静さを奪うため、メイアが煽るように応じると、背後からメイアにとっては援護にも等しい声が聞こえた。
「へえ~……面白い見世物じゃねえか?」
『ええ。一般教養課程が終わって、図書館で依頼の調べ物を今までしていたら……』
「校内でも、酷い魔法未修者いじめで噂されとるいじめっ子魔法予修者が、当の魔法未修者に反撃されとる場面に遭遇やん。あははは、こりゃ傑作!」
「しっ! 勇子、声がデカいよ! あっち授業だから静かに! めっちゃこっち見てるじゃんか」
いつの間にか、実習授業の見物人としてあの子犬姿の魔獣を連れた少年達が、校庭にいた。
「み、魂斬と鬼土に風羽! ど、どうしてここにいるのよ! あんた達、すでに資格持ちでしょ!」
一番見られるのが嫌だった相手に、恥をかかされた姿を見られ、巻き毛少女が動揺する。
その巻き毛少女へ、少年達がどうでもよさそうに言葉を返した。
「どうしてって……学科魔法士資格を取ったかて、卒業するまではここの生徒やん? 別にウチらがここにおっても、おかしあらへん」
「まあ、今回は3時限目までの一般教養課程の授業が終わったら、他の資格持ちの生徒達と同様に、僕らも帰るつもりだったんだけどね、ホントは?」
「偶然俺達が受けた依頼で調べ物があったから、魔法関連の学習課程がある4時限目以降、授業には出ねえで図書館で今まで調べ物してただけだ。どこか不自然か?」
『ごくごく自然かと……それでバカ共の狼狽える姿を見られたのですから、これは運命の采配でしょう』
「うむうむ、その通りだ。ところで、実習時に外野と喋ってていいのかお前? 負けるぞ?」
意図して煽ってるとは思えず、思ったことを少年達はただ口にしてるだけであろうが、巻き毛少女の判断力を奪うには十分だった。
「黙れ! すぐに終わらせてやるわ!」
「できるかしらね?」
血走った眼で自分を見る巻き毛少女の姿を認識し、メイアは精神的にも自分が優位に立ったことを確信する。
「さっさとあのチビを粉砕してっ! 行けえっ!」
「シロン!」
巻き毛少女の指示で、四足型機獣が小型機人に飛びかかるが、配線の一部を千切られた影響か、先ほどよりも一拍反応が遅い。
余裕を持って、シロンは機獣の踏み付けを回避した。
「とにかく動きを止めるのよ! 噛みつけ!」
「シロン、飛び込め!」
先ほどより遅い噛みつき攻撃を潜り抜け、また脇腹に取り付く小型機人。
その姿を見て、巻き毛少女が激昂する。
「同じ手を二度も食うか! 尾ではたき落とせっ!」
「くっ!」
巻き毛少女の命令を受け、四足型機獣の長い尾が脇腹を打ち、シロンを叩き落した。
「シロン!」
魔法力場同士が相殺され、長い尾でまともに打たれた衝撃が、内部機構にも浸透したせいか。
ポマコンの示す小型機人シロンの機能低下率は30%を超えていた。
ギギギッと、起き上がるのが遅い小型アンドロイドを見て、目を血走らせた巻き毛少女が笑って言う。
「ははっ! 今だ、トドメをさすのよっ!」
「……無駄だよバーカ」
勝利を確信した巻き毛少女の耳に、子犬姿の魔獣を連れた少年の一言が届く。
「シロン、よくやったわ!」
メイアの歓声が聞こえて、ようやく巻き毛少女は理解した。自分の四足型機獣の状態に。
「ど、どうして……どうしてよっ!」
機獣は脊椎を損傷した動物のように、腰が地に着き、ノロノロと後ろ足を引きずっている状態だった。
よくよくシロンの手を見ると、割れた回路基板の一部が握られている。
「弱点剥き出しのところへ、あれだけの衝撃を持つ一撃を加えたら、回路基板が割れることくらい理解できるでしょ? 製作も整備も他人任せにしてるから、咄嗟の判断にボロが出る。シロン、トドメよ!」
勝利を確信したメイアが、ようやく立ち上がった小型アンドロイドに言う。
シロンの敏捷性もやや低下していたが、腰から下を引きずってノロクサ動く四足型機獣よりは遥かに速い。
機獣の背後に回って首筋に取り付いたシロンは、腰に付けていた使い捨ての電導剣を、機獣の首の駆動部装甲の隙間へ突っ込み、配線に電流を加えつつ焼き切った。
ビリリっと機獣が震え、ズシンと地に伏す。
「よくやったわ、シロン!」
メイアがこちらに走り寄って来るシロンと共に、勝利の歓喜に震えた矢先だった。
「まだよ!」
巻き毛少女の叫び声が、周囲に響いた。
いつの間に取り出したのか、〈出納の親子結晶〉を手に持った巻き毛少女が、血走った眼でメイアを見て叫ぶ。
「あんただけは……そのチビだけは、ここでつぶすっ! 来い、〈オーガボーグ〉!」
〈出納の親子結晶〉が発動し、妖魔種魔獣【鬼妖魔】を模した魔法機械が現れた。
先に戦った四足型機獣も完成度が高かったが、こちらはそれ以上に完成された印象をメイアは持った。
「う、そ……」
困惑するメイア。子犬姿の魔獣を連れた少年の横にいた、美形の少年が眉をひそめて言う。
「あれ、塗装や右腕の装備が違うけど……僕達戦闘型の魔法士が、対魔獣用の戦闘訓練で使う魔法機械だよね?」
「ああ。あれはマズいだろ。軍の開発部が作った戦闘用の魔法機械達と比べれば戦闘力は低いが……」
魔獣を連れた少年も渋い顔で首を振ると、その横にいた背の高い少女まで叫んだ。
「それでも魔法士の戦闘訓練には打って付けやから言うて、軍や警察、魔法士育成学校でもよう使われとるヤツやん! 機代家が訓練用言うてあっちこっちへ売りさばいとる、民間開発とはいえ純粋に戦闘特化の魔法機械やぞ! あれ使うんは反則やろ! そもそも絶対に自分で作ってへんやんけ!」
「黙れ! 模擬戦闘の規則では2体目まで使っていいのよ! それにこの魔法機械は私が手を加えた。私が作ったモノよ! ……さあ、続けるわよ、メイアッ!」
体裁を捨てて巻き毛少女が凄絶に笑った。
メイアの方へ走り寄っていたシロンが、またいつでも動けるよう前傾姿勢を取る。
「し、シロン……」
迷い怯えるメイアの前で、鬼型アンドロイドとも言うべき訓練型魔法機械〈オーガボーグ〉が咆哮した。
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若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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