学科魔法士の迷宮冒険記(短編集)

九語 夢彦

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短編集:メイアを見付けた日(16)

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 校庭に出たメイアはすぐに気付く。
「よう、メイア」
 命彦達が校庭の一角にある木の下にいることに。
 手を上げて声をかけた命彦へ、メイアがゆったりと気負わずに歩み寄り、口を開く。
「命彦、ミサヤ、勇子、空太。もう来てたのね?」
「そら当然やろ? ウチらはすでに魔法士資格を持ってるから……」
「自分の魔法学科でやる魔法関係の学習課程は、全部サボれるんだよねぇ?」
「おまけに今は依頼も受けてねえ。この時間は暇ってこった。普段だったらさっさと家に帰るんだが」
『今回は面白い見世物があるでしょう?』
「そういうこっちゃ。調子こいとるアホ共がぶちのめされる姿が見たいねん。ぶははは」
「やれやれ……酷いわね、4人とも。ふふふ」
 メイアが命彦達と明るく笑っていると、どこから湧いたのか、巻き毛少女とその取り巻きの魔法予修者達が現れた。
「そういうこと。……メイア、あんたのその余裕がある表情、おかしいと思ってたのよ?」
「さてはコイツらの手を借りる気ね!」
「卑怯だぞ、依星ぃ!」
「分かってるの! 授業妨害は退学要件よ!」
 腕組みして精一杯の虚勢を見せているが、明らかに命彦達を恐れている様子の巻き毛少女達。
 特に、実際に痛い目にあわされた勇子への畏怖は相当らしく、巻き毛少女達は誰も彼もが勇子の視線を避けるように、目を泳がせている。
 その様子を見て、勇子は呆れたように言い返した。
「はあ? あんたら程度いてこますのに、ウチらがメイアへ手を貸す必要あらへんやん。模擬戦闘は徹頭徹尾メイアだけで勝負するわ。それで勝てるしね?」
「そうだね? 宣言してあげるよ。僕らは前回同様、ただの観戦者ギャラリーさ」
「せやせや。多勢に無勢のくせしおって、今ここでウチら見てオタオタするんかい、ぶははは! 小物やの~あんたら」
「ほらほらお気に入りの教官殿が待ってるよ? 外野を気にしてる場合かい?」
 勇子と空太がシッシと動物を追い払うように手を振ると、屈辱感満載の表情で巻き毛少女が勇子達の後ろにいる命彦とメイアを見た。
 メイアがにこやかに笑って返す横で、命彦はごく自然に巻き毛少女を無視し、子犬姿のミサヤをあやしている。
 睨みつけられてることは勿論承知しているし、視界の端に巻き毛少女の姿は映っているだろうが、空気や背景の一部とでも言うように、命彦はミサヤの腹をくすぐり、2人だけの世界を作っていた。
 3mほどの、極めて近い距離で必死に睨みつけているのに、徹底的に相手にされず、路傍ろぼうの石とでも言うようにごく自然に無視され続ける巻き毛少女を見て、勇子と空太、メイアが思わず吹き出す。
 家の力の恩恵もあり、〔魔工士〕学科では常に同期達の視線を集めて、無視したくても他者からは絶対に無視できぬ相手として扱われていた巻き毛少女にとって、これは罵倒されるよりよっぽど堪えたらしい。
 巻き毛少女の目が苛烈に憎しみを宿し、肩がプルプルと震えた。
「あんた達の前で、メイアを……メイアの魔法機械と心を、徹底的に壊してやる! 行くわよ!」
 そう言い放つと、巻き毛少女は取り巻き達を連れて、自分達の方を見る教官の傍へ歩いて行った。
 その後ろ姿を見ていたメイアが、フッと小さくため息をついて言う。
「……授業開始時刻だから、そろそろ私も行くわ」
「おう! いってら~」
「気負わずにね?」
「サクッと片して来い」
『私とマヒコを楽しませる見世物であることを、願っています』
「無茶ばっかり言うわね、でも……一応努力はするわ」
 そう言ってメイアは、教官の傍へと歩いて行った。
 そして、授業間の休憩時間が終わり、メイアの勝負の時が始まる。

「そ、それでは……ま、魔法実習課程における模擬戦闘を、か、開始します。呼ばれた生徒は、ま、魔法予修者の生徒の前に、た、立ってください」
 前回の模擬戦闘の時と同様、教官が魔法予修者の生徒を前に並ばせ、魔法未修者の生徒を1人ずつ呼んで行く。
 呼ばれた生徒が全員出ると、立体映像で校庭に投影された競技場が出現し、模擬戦闘が始まった。
 しかし、前回と違うのは、一戦一戦が終わる時間の速さだった。
「どいつもこいつも弱いわ! あははは」
「ほんとよねぇ~? もっと抵抗してよ。きゃははは」
「おいおい、雑魚に無茶ぶりはひでえだろ?」
「確かに、そらよ! さっさとつぶれちまえ!」
 魔法予修者の生徒達は、魔法未修者の生徒達を圧倒し、その魔法機械を壊して行く。
 敗残者の魔法未修者達は、茫洋とした瞳で壊れた自分の魔法機械を見て、拾い上げてはトボトボと競技場を去って行った。
 その様子を見ていたメイアは、作り手の諦観によって半端に修復され、抵抗らしい抵抗もできぬまま、散り行く魔法機械達を憐れに思う。
 戦えと命じられれば、魔法機械は、人工知能は、たとえ負けると分かっていても戦う。
 壊れてしまっても、人工知能が失われても、作り手の命令を魔法機械達は遵守する。
 だからこそメイアは、戦いに出す魔法機械に対し、作り手の自分は、親たる自分は、常にできる限り最高の状態で戦場へと出してあげるのが、責務だと考えていた。
 勝てる手を、壊されずに生き残れる手を、一緒に考えるのが、開発者としての責任だと思っていた。
 それが〔魔工士〕という学科魔法士の誇り、意地だと考えていた。
 どうせ壊されるから、修理が半端でもいい。どうせ負けるから、指示も適当でいい。
 その考え方、諦めの念が、メイアには極めて不愉快で、腹立たしかった。
 立って模擬戦闘の様子を見るメイアの前に、負けた魔法未修者の女生徒が座る。
 僅かだが、話したことのある女生徒だった。
 校庭へ三角座りして生気を失った目で、自分の魔法機械と同じように壊されて行く、同期の魔法機械を女生徒は見ている。
「どうせ皆……壊される」
 女生徒の呟きがメイアの耳に入った。と同時に、メイアが教官に呼ばれる。
 教官が指差す先には、鬼の形相をした巻き毛少女が立っていた。
 自分を睨みつける巻き毛少女の視線をサクッと無視して、メイアは歩き出す。
「負け犬が。自分の魔法機械に謝るのが先でしょ。戦ってくれた魔法機械をねぎらうのが先でしょ? だから負けるのよ。いつまでもそうして負け続ければいいわ」
 女生徒とすれ違い様、少し立ち止まりメイアは言う。
 現状を漫然と受け入れ、自分の足元に転がる壊れた魔法機械を、自分の未熟さから壊されてしまった魔法機械を、悼むことさえも忘れている同期への、メイアの怒りの発言だった。
「……私は、あんた達とは違う」
 メイアの静かに怒りを宿す言葉に、女生徒はハッと驚いた様子だった。
 女生徒の視線を受けていることに気付きつつ、メイアは振り返らずに進む。
 競技場に入ったメイアが、シロンを取り出すと、額に十字の血管を浮かべた巻き毛少女が、こめかみをひくつかせて言った。
「やっと出たわね、あんたを処刑する用にこの子は最後まで取っていたのよ。さあ来い〈オーガボーグ・改〉!」
 他の魔法未修者の魔法機械を粉砕していた、虎のように見える四足型機獣の魔法機械を背後に引っ込ませ、巻き毛少女は前回の模擬戦闘でシロンを粉砕した魔法機械を、〈出納の親子結晶〉から召喚した。
 魔法具から鬼型アンドロイドが出現し、ズシンと競技場へ入る。
 改造したのか、首回りや肩周りに装甲が増設されており、全体的に防御力を上げている印象を受けた。
 明らかにシロンの武器、使い捨ての電導剣スタンブレード対策であろう。
「そのみみっちい魔法機械を、もう一度粉砕してあげる! 一方的に蹂躙じゅうりんしてやるわ!」
 そう宣言する巻き毛少女を無視して、メイアは競技場の見やすい位置に移動していた命彦達を見やり、柔らかく手を振る。
 メイアの行動がかんに障ったのか、巻き毛少女が喚いた。
「聞いてるの、メイアッ!」
「……御託はいいのよ。私は勝つためにここにいるから、ねえシロン?」
 巻き毛少女へどうでもよさそうに雑に返事し、メイアは競技場に入ったシロンへ笑いかけた。
 巻き毛少女を煽る意図で言った発言は狙い通り作用し、教官が開始の合図をすると同時に、巻き毛少女の感情制御が断たれる。
 巻き毛少女は怒声を発した。
「たたきつぶせええええーっ!」
 〈オーガボーグ・改〉がシロンへ突進し、右腕の破砕掘削機を振り上げ、シロンへ叩きつけた。
 その場面を見た魔法未修者達、魔法予修者達の誰もが、シロンが粉砕されたと思った。
「きゃはは、粉々よあれ!」
「デカい口叩く割に瞬殺かよ!」
 魔法予修者達がはやし立てるが、あまりの破壊力に舞い上がる土煙が晴れた時。
 巻き毛少女達と魔法未修者達の目が驚愕に見開かれる。
 メイアが不敵に笑って言った。
「今、何かしたかしら?」
 鬼型アンドロイドの目、高感度感知器センサーが入った部分に電導剣が突き刺さり、加えて鬼型アンドロイドの頭頂部にシロンは立っていた。
「今までのシロンとは、次元が違うわよ?」
 誰かの影響か、どす黒く笑うメイアの言葉に、巻き毛少女は息を呑んだ。
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