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6章 逢魔が時
6章ー5:魔法抜きの決闘、〔武士〕 対 〔騎士〕
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「たのもうーっ!」
命彦と勇子の打ち込み稽古が終わってすぐ、腹の底から女性にしては野太い声を出して、ガチャガチャと甲冑を響かせつつ、角持ち少女が姿を現した。
「相手が来おったけど……これまたどえらい甲冑を着込んどるねえ?」
「あれ着て普通に動ける時点で、もう性別というか、種族を疑うよ」
勇子と空太が呆れた表情で言う。
〔騎士〕学科の魔法士がよく魔法具として装備する全身甲冑は、関節部の可動域を広げ、重さを軽減するために一部の装甲を取り除いた、機動力重視の甲冑である。
この手の甲冑は普通、太腿の内側や裏までは装甲で覆われておらず、防御力はやや下がるが、倒れてもすぐ起き上がれるように、あるいは、高所や段差もよじ登れるように、動きやすさを工夫したモノであった。
しかし今回、角持ち少女が命彦との決闘に合わせて装備した全身甲冑は、関節可動域のギリギリまで装甲で覆った、動きにくいものの、防御力を極めて重視した甲冑である。
確実に30kg近い重量はある全身甲冑を着込み、角持ち少女は片腕に仮面兜を持って訓練場に入場した。
「まさかその甲冑姿で、ここまで移動したのか?」
「いや。先ほどこの訓練場の前で着込ませてもらった」
角持ち少女の後ろには、【ヴァルキリー】小隊の双子の片割れがいた。彼女が甲冑の装備を手伝ったらしい。
手に持っていた盾と両手剣を角持ち少女に差し出し、片割れ少女が言う。
「この決闘、私が立会人をさせてもらいますわ。勝負が本当に魔法抜きで、かつ公平であるか見極めるためにね」
「それは別にええけど、この件はあんたらの小隊長、知っとるんやろね?」
「お嬢様は知らん。知らせる必要もあるまい。私の独断だ。勝てばその時伝えればいい」
「へえー、そいで負けたらどうすんの?」
「私は負けんっ!」
角持ち少女が勇子を威嚇するように言う。
命彦はどうでもよさそうに、〈余次元の鞄〉から脇差と太刀、籠手と地下足袋に脛当てと、米粒ほどの鉄鎖を縫い込んだ具足羽織を取り出し、装備した。
「もうどうでもいいからさっさと始めよう。お前らの相手をするのは面倒だ」
「ふん。威勢だけは褒めてやる」
角持ち少女が仮面兜を装備し、普通の人間は両手で扱う筈の両手剣を片手で抜き放って、盾を構える。
命彦も鞘から戦場刀である太刀を抜いた。どちらも真剣である。
「はいはい、勝負は少し待ってねぇ?」
「梢さん?」
「邪魔をするつもりか?」
「違うわよ。このままだったら死傷者が出るでしょ? だからこれを使えって言いたいだけよ」
梢が2体の魔法具と思しき人形を取り出した。人形を見て角持ち少女が言う。
「消費型魔法具〈身代わり人形〉か、私には不要だ」
「じゃあ決闘は認められません。これはウチの依頼所の決まりだからね? 場所を貸してあげる以上、従ってもらうわよ? 決闘には〈身代わり人形〉の使用が最低条件だわ。それに、半端に決着するのはお互い嫌でしょう? これ使ったら、本気で戦えると思うけど?」
梢の言葉に、角持ち少女が沈黙した。
消費型魔法具〈身代わり人形〉は、人形に魔血を吸わせることで、魔血の持ち主の受ける傷を、人形へと移し替えることができる魔法具である。
人形が壊れれば魔法具としての効力を失うが、人間でいう致命傷にまで人形は耐えることができ、魔血を吸わせればたとえ自分が致命傷を負っても、その傷を人形に移し替えて命を拾えるため、魔法士が迷宮に行く際は是非とも懐に忍ばせたい魔法具であった。
但し、その効果ゆえに相応に高価であり、入手は結構難しい。
今回は命彦の決闘ということで、梢が安全に配慮して、密かに用意していたようである。
「確かに。この魔法具を装備していれば死ぬことはありませんから、思い切り攻撃できますね。確かめさせてもらってもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ。立会人だからね? 存分に見てくれればいいわ。あ、使用料は負けた人持ちってことで、よろしく!」
立会人である【ヴァルキリー】小隊の片割れ少女が、梢から〈身代わり人形〉を受け取り、じっと観察する。
「……見た限り、市販の〈身代わり人形〉ね? 使っても平気だと思うわ」
「分かった。籠手を外してくれ」
角持ち少女が、立会人の片割れ少女の手を借りて籠手を外し、指先を両手剣で少し切って、魔力を込めた血を人形に垂らす。命彦も同じことをした。
魔血を吸った命彦の人形を梢が持ち、角持ち少女の人形を立会人である片割れ少女が持つ。
「呪詛の力は?」
角持ち少女がどこかビクビクした様子で聞くと、命彦がスタスタスタと歩き、少女の目の前まで来て言う。
「今は働かねえよ。魔力を介してそういう風に蟲に命じた」
そう言って命彦が離れて角持ち少女と再度対峙する。
角持ち少女は、もはや心配事は消えたとばかりに、笑っていた。
特殊型魔法具〈悦従の呪い蟲〉は、命彦が無意識に放つ魔力も感じ取り、快感を呪詛対象者に与える。
呪詛の効力が働く状態で、角持ち少女が命彦に切りかかれば、3m圏内に踏み込んだ時点で、腰も砕けるほどの快感が身体を襲うから、戦闘する前に戦闘不能に陥った。
しかし今は、その不安も解消されている。全力で命彦をぶちのめせる。
角持ち少女は鬱憤の全てを、この決闘で晴らすつもりであった。
そして、真剣を構えた2人の決闘が始まった。
決闘の立ち上がりは静かだった。
命彦はごく自然体で、角持ち少女の仮面兜の先にある眉間を狙うように、晴眼に日本刀を構えて、少女の動きに合わせて立ち位置を少しずつ移動する。
一方の角持ち少女は、両手剣を後ろにして盾を構え、盾と甲冑の身体で剣の間合いを隠すように、じりじりと距離を詰めた。
盾を構えた全身甲冑の相手に対し、命彦は円弧を描くように常に斜へ斜へと移動する。
移動するのは決まって盾を持つ左手の方であり、しかも盾を回り込むように移動するため、盾を常に自分と命彦との間に置きたい角持ち少女は、間合いを詰めつつも盾の位置を常に移動させ、どこか戦いにくそうにしていた。
2人のやり取りを見て、空太が口を開く。
「息が詰まりそうだ。……勇子はどっちが勝つと思う?」
「んーそやねえ、相手が地球人類で、命彦が槍みたいに長柄物を使ってたら、命彦の圧勝って言いたいんやけど、あいつ太刀使っとるし、相手は異世界混血児やから、苦戦はすると思う。魔法抜きってのもあるけど、命彦は自分で有利を捨てとるからねぇ」
勇子は思案するように言葉を返した。その勇子に今度は舞子が問う。
「どうして自分が有利である筈の武器を使わずに、命彦さんは太刀を使ってるんですか?」
「ウチの勘やけど、剣には剣で勝ちたいからちゃう? あるいは、太刀の方が初見の相手に対峙した時でも、安心できるからかもしれんね? 迷宮でいつも使っとるのは太刀やから。あと他に理由があるとすれば、命彦が槍を使ったら、あっちが文句言いそうってことくらいやわ」
「あ、確かに……」
舞子は、立会人である【ヴァルキリー】小隊の双子の片割れ少女に視線を送った。
角持ち少女はともかく、片割れ少女は口が達者そうであり、角持ち少女がもし槍での決闘で負ければ、卑怯だ無効だと、あれこれ文句を言う気がした。
「まあ戦士の意地ってのも理解できるけど、そもそもの防御力に天と地ほどの差があるから、太刀で戦う限り、そう簡単には勝てんと思うで? 相手の武器は両手剣で重いし長い上に、盾まである。普通の人間が全身甲冑を装備したら、防御力が高くて重いから盾は不要やねんけど、あいつは異世界混血児やから、盾を持つ余力がある。剣も片手剣やのうて両手剣が使えるし、それだけの筋力的余裕があるんや」
勇子の言葉に、梢と空太が補足した。
「幾ら崩しの技術があっても、身体能力と装備の差のせいで苦戦はするでしょうね? 両手剣の受け方を間違えれば太刀が曲がるし、たとえ両手剣に対処したとしても、間合いが近いと盾の突撃を喰らう可能性がある。盾って防具に見られがちだけど、実際は攻撃にもよく使われるからね?」
「あと、西洋甲冑は重くてひたすら動きにくいって勘違いしてる人が多いけど、実は重くても意外と動けるんだよねえ? 関節の可動域次第じゃ、敏捷性もある程度確保できるし。それに、形状と防御力の高さから、太刀の斬撃もほぼ無効化できる。可動域を広げたら必然的に関節部が狙いやすいんだけど、あの全身甲冑の場合、場所的に刺突以外の攻撃手段は通りにくいよ」
梢達の言葉を聞く舞子へ、勇子が総括するように言い、ポンと手を叩く。
「ぶっちゃけ重い武器で叩くんが、あの手の装備には1番効くんやけど、今回は装備者が肉体派の異世界混血児っちゅうこともあって、動きも結構素早い筈やから、命彦にとっても機動力を落とす重い武器は使えへん。せやから、敏捷性に特化した防具の装備にしたんやろね? ……あ、槍を使わんのもそのせいか。防御を固められて間合いをつぶされ、懐に入られる可能性を嫌ったんやと思うわ」
舞子が恐る恐る全員へ問うた。
「……あのー、皆さんの話を聞いてると、命彦さんの勝ち目がほとんど見えませんが?」
「まあ、勝ち目が薄いんは確かやね」
「多分苦戦もするでしょう」
「けど、恐らく最後は」
「命彦が勝つ気がする。そうよね、ミサヤ?」
『当然です』
梢の問いかけに舞子の頭の上に乗るミサヤが答える。
「……さあ、動くで」
勇子の発言で、舞子は命彦の動きを目に焼き付けるべく、その姿を追った。
仕かけたのは、角持ち少女の方だった。
「はあああぁぁぁーっ!」
最初に対峙した間合いをどうにも詰められず、このままでは千日手と思ったのだろう。
盾を持つ手に力を込めて、突撃を敢行したのである。梢の言う、盾の突撃であった。
命彦も事前に察知し、すぐに回避したが、肉体派の亜人の血のせいか、突撃速度が恐ろしく速く、盾が具足羽織の端に僅かに触れた。
命彦も躱し様に斬撃を放つが、カインッと全身甲冑の曲面に阻まれ、無効化される。
「……むっ!」
僅かに眉をひそめる命彦の表情を見て、これは捉え切れると踏んだのだろう。
角持ち少女はそのままくるりと反転して、距離を開けた命彦へ、また前面に盾を構えて突撃を仕かけた。
命彦の晴眼の構えが、いつの間にか左足前で右足後ろの、下段の右脇構えに移っていたが、気にせず突貫する角持ち少女。
そして、盾が命彦にぶつかる寸前、身体ごと命彦の姿を一瞬で見失い、角持ち少女は盾を持つ左腕や左肩に重い衝撃を受けて進路をズラされ、たたらを踏んだ。
峰を返した下段右脇構えから、後ろに置いた右足を軸に、前にあった左足をクルリと円を描くように右後ろ側へと下げ、角持ち少女から見て身体一つ分を、右方へとズラした命彦。
身体をずらしつつ、盾の突撃を紙一重で避けて、足捌きの遠心力と腰の重心をのせた渾身の峰打ちを、角持ち少女へ叩き込んだのである。
仮面兜のせいで視野が狭められてる上、走っている横合いから、すれ違い様に奇襲を受けた形であり、さすがの全身甲冑も僅かに凹んだ。
ただ、角持ち少女自体は無傷であり、すぐさま反転して攻勢に出ようとする。
しかし、軽装俊敏である命彦の方が、攻撃速度が僅かに速かった。
たたらを踏んだ角持ち少女が、命彦のいる左側へ身体ごと振り返った瞬間、仮面兜の側面、それも耳がある位置を狙って、命彦の斬撃が襲いかかる。
「でぇいっ!」
「くおっ!」
驚きの反射神経で両手剣を滑り込ませ、太刀の斬撃を受け止めて、角持ち少女の気が一瞬緩んだその時であった。
角持ち少女の顔面に衝撃が走り、仮面兜が顔面に激しくぶつかる。
「がぁっ!」
体勢不十分でも太刀の斬撃を見事に受け止めた、角持ち少女の両手剣。
その両手剣を押し込んでいた太刀が、刃と刃の接点を基点に一瞬でクルリと回り、命彦の両手で持つ柄頭が、思い切り仮面兜に下から上へ抉るように突き込まれたのである。
体重差があるとはいえ、姿勢が崩れている時に痛打を浴び、仮面兜が圧迫される。
顔面の痛みを堪えつつ、角持ち少女がお返しとばかりに、右足を後ろに半歩出して押された上半身を戻し、崩れた体勢を起こしつつ、両手剣を振り下ろした。
すでに後退していた命彦だが、両手剣の届く間合いにまだおり、角持ち少女は受け止められても太刀ごと命彦をへし折るつもりで、両手剣を振るう右腕に力を込めた。
「おあああーっ!」
しかし、ヅィーンという軽い手ごたえがあるだけで、両手剣の斬撃は受け流され、地面を穿つだけであった。
命彦と勇子の打ち込み稽古が終わってすぐ、腹の底から女性にしては野太い声を出して、ガチャガチャと甲冑を響かせつつ、角持ち少女が姿を現した。
「相手が来おったけど……これまたどえらい甲冑を着込んどるねえ?」
「あれ着て普通に動ける時点で、もう性別というか、種族を疑うよ」
勇子と空太が呆れた表情で言う。
〔騎士〕学科の魔法士がよく魔法具として装備する全身甲冑は、関節部の可動域を広げ、重さを軽減するために一部の装甲を取り除いた、機動力重視の甲冑である。
この手の甲冑は普通、太腿の内側や裏までは装甲で覆われておらず、防御力はやや下がるが、倒れてもすぐ起き上がれるように、あるいは、高所や段差もよじ登れるように、動きやすさを工夫したモノであった。
しかし今回、角持ち少女が命彦との決闘に合わせて装備した全身甲冑は、関節可動域のギリギリまで装甲で覆った、動きにくいものの、防御力を極めて重視した甲冑である。
確実に30kg近い重量はある全身甲冑を着込み、角持ち少女は片腕に仮面兜を持って訓練場に入場した。
「まさかその甲冑姿で、ここまで移動したのか?」
「いや。先ほどこの訓練場の前で着込ませてもらった」
角持ち少女の後ろには、【ヴァルキリー】小隊の双子の片割れがいた。彼女が甲冑の装備を手伝ったらしい。
手に持っていた盾と両手剣を角持ち少女に差し出し、片割れ少女が言う。
「この決闘、私が立会人をさせてもらいますわ。勝負が本当に魔法抜きで、かつ公平であるか見極めるためにね」
「それは別にええけど、この件はあんたらの小隊長、知っとるんやろね?」
「お嬢様は知らん。知らせる必要もあるまい。私の独断だ。勝てばその時伝えればいい」
「へえー、そいで負けたらどうすんの?」
「私は負けんっ!」
角持ち少女が勇子を威嚇するように言う。
命彦はどうでもよさそうに、〈余次元の鞄〉から脇差と太刀、籠手と地下足袋に脛当てと、米粒ほどの鉄鎖を縫い込んだ具足羽織を取り出し、装備した。
「もうどうでもいいからさっさと始めよう。お前らの相手をするのは面倒だ」
「ふん。威勢だけは褒めてやる」
角持ち少女が仮面兜を装備し、普通の人間は両手で扱う筈の両手剣を片手で抜き放って、盾を構える。
命彦も鞘から戦場刀である太刀を抜いた。どちらも真剣である。
「はいはい、勝負は少し待ってねぇ?」
「梢さん?」
「邪魔をするつもりか?」
「違うわよ。このままだったら死傷者が出るでしょ? だからこれを使えって言いたいだけよ」
梢が2体の魔法具と思しき人形を取り出した。人形を見て角持ち少女が言う。
「消費型魔法具〈身代わり人形〉か、私には不要だ」
「じゃあ決闘は認められません。これはウチの依頼所の決まりだからね? 場所を貸してあげる以上、従ってもらうわよ? 決闘には〈身代わり人形〉の使用が最低条件だわ。それに、半端に決着するのはお互い嫌でしょう? これ使ったら、本気で戦えると思うけど?」
梢の言葉に、角持ち少女が沈黙した。
消費型魔法具〈身代わり人形〉は、人形に魔血を吸わせることで、魔血の持ち主の受ける傷を、人形へと移し替えることができる魔法具である。
人形が壊れれば魔法具としての効力を失うが、人間でいう致命傷にまで人形は耐えることができ、魔血を吸わせればたとえ自分が致命傷を負っても、その傷を人形に移し替えて命を拾えるため、魔法士が迷宮に行く際は是非とも懐に忍ばせたい魔法具であった。
但し、その効果ゆえに相応に高価であり、入手は結構難しい。
今回は命彦の決闘ということで、梢が安全に配慮して、密かに用意していたようである。
「確かに。この魔法具を装備していれば死ぬことはありませんから、思い切り攻撃できますね。確かめさせてもらってもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ。立会人だからね? 存分に見てくれればいいわ。あ、使用料は負けた人持ちってことで、よろしく!」
立会人である【ヴァルキリー】小隊の片割れ少女が、梢から〈身代わり人形〉を受け取り、じっと観察する。
「……見た限り、市販の〈身代わり人形〉ね? 使っても平気だと思うわ」
「分かった。籠手を外してくれ」
角持ち少女が、立会人の片割れ少女の手を借りて籠手を外し、指先を両手剣で少し切って、魔力を込めた血を人形に垂らす。命彦も同じことをした。
魔血を吸った命彦の人形を梢が持ち、角持ち少女の人形を立会人である片割れ少女が持つ。
「呪詛の力は?」
角持ち少女がどこかビクビクした様子で聞くと、命彦がスタスタスタと歩き、少女の目の前まで来て言う。
「今は働かねえよ。魔力を介してそういう風に蟲に命じた」
そう言って命彦が離れて角持ち少女と再度対峙する。
角持ち少女は、もはや心配事は消えたとばかりに、笑っていた。
特殊型魔法具〈悦従の呪い蟲〉は、命彦が無意識に放つ魔力も感じ取り、快感を呪詛対象者に与える。
呪詛の効力が働く状態で、角持ち少女が命彦に切りかかれば、3m圏内に踏み込んだ時点で、腰も砕けるほどの快感が身体を襲うから、戦闘する前に戦闘不能に陥った。
しかし今は、その不安も解消されている。全力で命彦をぶちのめせる。
角持ち少女は鬱憤の全てを、この決闘で晴らすつもりであった。
そして、真剣を構えた2人の決闘が始まった。
決闘の立ち上がりは静かだった。
命彦はごく自然体で、角持ち少女の仮面兜の先にある眉間を狙うように、晴眼に日本刀を構えて、少女の動きに合わせて立ち位置を少しずつ移動する。
一方の角持ち少女は、両手剣を後ろにして盾を構え、盾と甲冑の身体で剣の間合いを隠すように、じりじりと距離を詰めた。
盾を構えた全身甲冑の相手に対し、命彦は円弧を描くように常に斜へ斜へと移動する。
移動するのは決まって盾を持つ左手の方であり、しかも盾を回り込むように移動するため、盾を常に自分と命彦との間に置きたい角持ち少女は、間合いを詰めつつも盾の位置を常に移動させ、どこか戦いにくそうにしていた。
2人のやり取りを見て、空太が口を開く。
「息が詰まりそうだ。……勇子はどっちが勝つと思う?」
「んーそやねえ、相手が地球人類で、命彦が槍みたいに長柄物を使ってたら、命彦の圧勝って言いたいんやけど、あいつ太刀使っとるし、相手は異世界混血児やから、苦戦はすると思う。魔法抜きってのもあるけど、命彦は自分で有利を捨てとるからねぇ」
勇子は思案するように言葉を返した。その勇子に今度は舞子が問う。
「どうして自分が有利である筈の武器を使わずに、命彦さんは太刀を使ってるんですか?」
「ウチの勘やけど、剣には剣で勝ちたいからちゃう? あるいは、太刀の方が初見の相手に対峙した時でも、安心できるからかもしれんね? 迷宮でいつも使っとるのは太刀やから。あと他に理由があるとすれば、命彦が槍を使ったら、あっちが文句言いそうってことくらいやわ」
「あ、確かに……」
舞子は、立会人である【ヴァルキリー】小隊の双子の片割れ少女に視線を送った。
角持ち少女はともかく、片割れ少女は口が達者そうであり、角持ち少女がもし槍での決闘で負ければ、卑怯だ無効だと、あれこれ文句を言う気がした。
「まあ戦士の意地ってのも理解できるけど、そもそもの防御力に天と地ほどの差があるから、太刀で戦う限り、そう簡単には勝てんと思うで? 相手の武器は両手剣で重いし長い上に、盾まである。普通の人間が全身甲冑を装備したら、防御力が高くて重いから盾は不要やねんけど、あいつは異世界混血児やから、盾を持つ余力がある。剣も片手剣やのうて両手剣が使えるし、それだけの筋力的余裕があるんや」
勇子の言葉に、梢と空太が補足した。
「幾ら崩しの技術があっても、身体能力と装備の差のせいで苦戦はするでしょうね? 両手剣の受け方を間違えれば太刀が曲がるし、たとえ両手剣に対処したとしても、間合いが近いと盾の突撃を喰らう可能性がある。盾って防具に見られがちだけど、実際は攻撃にもよく使われるからね?」
「あと、西洋甲冑は重くてひたすら動きにくいって勘違いしてる人が多いけど、実は重くても意外と動けるんだよねえ? 関節の可動域次第じゃ、敏捷性もある程度確保できるし。それに、形状と防御力の高さから、太刀の斬撃もほぼ無効化できる。可動域を広げたら必然的に関節部が狙いやすいんだけど、あの全身甲冑の場合、場所的に刺突以外の攻撃手段は通りにくいよ」
梢達の言葉を聞く舞子へ、勇子が総括するように言い、ポンと手を叩く。
「ぶっちゃけ重い武器で叩くんが、あの手の装備には1番効くんやけど、今回は装備者が肉体派の異世界混血児っちゅうこともあって、動きも結構素早い筈やから、命彦にとっても機動力を落とす重い武器は使えへん。せやから、敏捷性に特化した防具の装備にしたんやろね? ……あ、槍を使わんのもそのせいか。防御を固められて間合いをつぶされ、懐に入られる可能性を嫌ったんやと思うわ」
舞子が恐る恐る全員へ問うた。
「……あのー、皆さんの話を聞いてると、命彦さんの勝ち目がほとんど見えませんが?」
「まあ、勝ち目が薄いんは確かやね」
「多分苦戦もするでしょう」
「けど、恐らく最後は」
「命彦が勝つ気がする。そうよね、ミサヤ?」
『当然です』
梢の問いかけに舞子の頭の上に乗るミサヤが答える。
「……さあ、動くで」
勇子の発言で、舞子は命彦の動きを目に焼き付けるべく、その姿を追った。
仕かけたのは、角持ち少女の方だった。
「はあああぁぁぁーっ!」
最初に対峙した間合いをどうにも詰められず、このままでは千日手と思ったのだろう。
盾を持つ手に力を込めて、突撃を敢行したのである。梢の言う、盾の突撃であった。
命彦も事前に察知し、すぐに回避したが、肉体派の亜人の血のせいか、突撃速度が恐ろしく速く、盾が具足羽織の端に僅かに触れた。
命彦も躱し様に斬撃を放つが、カインッと全身甲冑の曲面に阻まれ、無効化される。
「……むっ!」
僅かに眉をひそめる命彦の表情を見て、これは捉え切れると踏んだのだろう。
角持ち少女はそのままくるりと反転して、距離を開けた命彦へ、また前面に盾を構えて突撃を仕かけた。
命彦の晴眼の構えが、いつの間にか左足前で右足後ろの、下段の右脇構えに移っていたが、気にせず突貫する角持ち少女。
そして、盾が命彦にぶつかる寸前、身体ごと命彦の姿を一瞬で見失い、角持ち少女は盾を持つ左腕や左肩に重い衝撃を受けて進路をズラされ、たたらを踏んだ。
峰を返した下段右脇構えから、後ろに置いた右足を軸に、前にあった左足をクルリと円を描くように右後ろ側へと下げ、角持ち少女から見て身体一つ分を、右方へとズラした命彦。
身体をずらしつつ、盾の突撃を紙一重で避けて、足捌きの遠心力と腰の重心をのせた渾身の峰打ちを、角持ち少女へ叩き込んだのである。
仮面兜のせいで視野が狭められてる上、走っている横合いから、すれ違い様に奇襲を受けた形であり、さすがの全身甲冑も僅かに凹んだ。
ただ、角持ち少女自体は無傷であり、すぐさま反転して攻勢に出ようとする。
しかし、軽装俊敏である命彦の方が、攻撃速度が僅かに速かった。
たたらを踏んだ角持ち少女が、命彦のいる左側へ身体ごと振り返った瞬間、仮面兜の側面、それも耳がある位置を狙って、命彦の斬撃が襲いかかる。
「でぇいっ!」
「くおっ!」
驚きの反射神経で両手剣を滑り込ませ、太刀の斬撃を受け止めて、角持ち少女の気が一瞬緩んだその時であった。
角持ち少女の顔面に衝撃が走り、仮面兜が顔面に激しくぶつかる。
「がぁっ!」
体勢不十分でも太刀の斬撃を見事に受け止めた、角持ち少女の両手剣。
その両手剣を押し込んでいた太刀が、刃と刃の接点を基点に一瞬でクルリと回り、命彦の両手で持つ柄頭が、思い切り仮面兜に下から上へ抉るように突き込まれたのである。
体重差があるとはいえ、姿勢が崩れている時に痛打を浴び、仮面兜が圧迫される。
顔面の痛みを堪えつつ、角持ち少女がお返しとばかりに、右足を後ろに半歩出して押された上半身を戻し、崩れた体勢を起こしつつ、両手剣を振り下ろした。
すでに後退していた命彦だが、両手剣の届く間合いにまだおり、角持ち少女は受け止められても太刀ごと命彦をへし折るつもりで、両手剣を振るう右腕に力を込めた。
「おあああーっ!」
しかし、ヅィーンという軽い手ごたえがあるだけで、両手剣の斬撃は受け流され、地面を穿つだけであった。
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俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
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弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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