学科魔法士の迷宮冒険記(最終版)

九語 夢彦

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終章 決戦

終章-17:決死の時間稼ぎ、メイア 対 サラピネス

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 メイアが眷霊種魔獣を引き連れ、自分達の遥か上空で戦闘している様子を見て、勇子が拳を握る。
「くぅー……仕留められんかったか! メイア、無理したらあかんで。すぐ援護したるから待っとき! …… こらっ、 あんたらボケっとせんと、今のうちに魔獣減らさんかい!」
 展開について行けず、唖然とする前衛の魔法士達を勇子が叱る。すると魔法士達は思い出したように、後退した魔獣達へ攻撃を再開した。
「ま、待って! あの〔魔工士〕は【神の使徒】だったんですの?」
「だったらどうして、今まで後ろで控えていたんですかっ!」
 【ヴァルキリー】小隊の双子が数の多いゴブリンを倒しつつ、勇子に問う。
 勇子が鬱陶しそうに答えた。
「アホ抜かせ! 国家魔法士委員会に認められて、初めて【神の使徒】って公表されるんやろ! 公表されとらん時点で、【神の使徒】とちゃうことくらい気づけボケ! どりゃあっ!」
 勇子がツルメを3体ほど殴り飛ばし、言葉を続ける。
「メイアは確かに神霊魔法を使えるけど、【神の使徒】と認められるほど、完全にその力を制御できるわけやあらへん! 1人で眷霊種魔獣とまとも戦わせたら殺されるわ! できても時間稼ぎが精々や! せやから、ウチの小隊長がメイアへ力を貸すために、必死こいて頭を捻って、戦うための武器を作っとんねん!」
 勇子の発言を聞いて、双子は腑に落ちたように沈黙した。
 そして同時に気づく。せっかく神霊魔法を使える味方がいても、それがただの時間稼ぎしかできず、眷霊種魔獣を倒すことは夢のまた夢である、という現実に。
 失望の表情で戦意まで低下した様子の、【ヴァルキリー】小隊の双子を勇子が叱咤する。
「今ウチらがすべきことは、メイアが眷霊種魔獣の注意を引いてくれとる間に、魔獣をできる限り減らすことや! 気合い入れや! あんたらの小隊長も諦めんと戦っとるやろが!」
 勇子の発言を聞き、【ヴァルキリー】小隊の双子はハッとする。戦意を取り戻したのか、表情が引き締まった。
 前衛の魔法士達を鼓舞しつつ、魔獣達を攻撃する勇子は、一瞬だけ三葉市の上空を振り返り、黒い点のように見える【精霊本舗】に視線を送ってから、戦場へと駆け出した。
 一方、《四象精霊砲》を放った空太も、過度の魔力消費による青い顔で、周囲の魔法士達に発破をかけていた。
「くっ! メイアの攻撃でもダメか……皆、魔法攻撃を続行するよ! 聞きたいことは後で梢さんに聞いてくれ、今は魔獣を減らすことだけを考えよう!」
 メイアの神霊魔法に驚いていた様子の、後衛の魔法士達に、事情説明を上手く省略して攻撃を再開させた空太。
 その空太の横で、【ヴァルキリー】小隊の眼鏡少女が魔獣を攻撃しつつ問う。
「貫け、《地礫の槍》! 〔魔工士〕の彼女は……神霊魔法を使えたのですか?」
「そうだよ、……穿て、《旋風の矢》! ふう、魔法の制御が未熟だから【神の使徒】候補って扱いだけどね?」
「つまり、まともに戦えば眷霊種魔獣に負ける。だから温存していたのですね? 砕け、《水流の槌》」
「まあね。詳しくは梢さんに聞けばいいよ、戦い終わってからね! 貫け、《火炎の槍》!」
「いえ、もう結構ですわ。温存戦力が前に出た。勝てる目算が立ったから出たのか、それとも、温存が難しいほど追い詰められたから出たのか。どちらでしょうね」
 自問自答するように言う【ヴァルキリー】小隊の眼鏡少女へ、空太が苦笑して言う。
「どっちもだと思うよ? さあ、問答は終わりだ。さっさと魔獣を減らして、メイアの援護をしたいんだ。ここが街が生きるか死ぬかの分水嶺だからね」
 眼鏡少女は小さく首を振り、攻撃魔法を使うことに没頭した。
 空太も勇子と同じように、三葉市の遥か上空に退避する、黒い点と化した【精霊本舗】を祈るように一瞥して、攻撃魔法の展開に全力を注いだ。

 義勇魔法士部隊を率いる梢は、メイアを出したことで、戦局が僅かに好転しつつあることに気付いていた。
 迷宮の方から、軍や警察の防衛線を突破した魔獣達が次々に合流して来るが、魔法士達の討滅速度が勝っており、じわじわと魔獣の進攻を押し返している。
 眷霊種魔獣が次から次へと魔獣を空間転移させていたからこそ、劣勢に置かれていたのである。
 しかし、魔獣達との戦闘で優位に立ちつつあっても、上空を見上げると、メイアが眷霊種魔獣相手に逃げ回っている姿が見えた。
 追尾系神霊魔法弾で弾幕を作り、神霊結界魔法で身を守って、攻撃しては転移して逃げるを繰り返し、時間稼ぎを行うメイア。そのメイアをいたぶるように、眷霊種魔獣サラピネスは攻撃の手を増やして行った。
 戦闘経験に天と地ほどの差があるのだろう。サラピネスの動きが、徐々にメイアを捉え始める。
 空間転移したメイアの動きのクセを見切り、メイアが現れるであろう位置に神霊攻撃魔法を放つ。
 するとそこへメイアが転移してしまい、魔法攻撃を防いだ瞬間、目の前にサラピネスが転移して、メイアに神霊魔法力場を集束した拳を振るうのである。
「メイア! 穿て、《旋風の矢》!」
 梢が劣勢のメイアを援護しようと追尾系魔法弾を下から発射するが、狙って追尾しているに関わらず、魔法弾はサラピネスから外れてしまう。
 メイアの邪魔をせぬよう、梢が気を遣っているとはいえ、眷霊種魔獣の転移先に偶然魔法弾があった時でさえ、眷霊種魔獣はそこに魔法弾が来ることを最初から知っていたように、ひょいと身を躱して行くのである。
「くぅー……当たれってのよ、もう!」
「無駄ですよ。神霊魔法に対する研究報告が事実であれば、幾ら攻撃しても恐らく当たりません。見えているが違いますからね」
「どういうこと、ミツバ!」
 苛立つ梢が横に立つミツバに問うと、ミツバは上空の攻防を見つつ魔法機械を指揮して、口を開いた。
「《神降ろし》という魔法は、高次元精神生命体の力を持って、世界から逸脱する魔法。この次元・時空間から抜け出し、物理法則の適用を除外される領域に身を置く魔法だと、そう報告されています。この研究報告が事実だとすれば、この世界の、この時空間の外に出るということ。空間も、時間さえも認識できる領域に立つということです。早い話が、因果律を見ることができるのですよ」
「それって……もしかして!」
「ええ。〔占星術師〕学科の魔法士ほど先のことを予知することは難しいでしょうが、ごくごく短期的であれば、神霊魔法の使い手は未来が読めるということです。瞬間移動は確かに恐ろしい魔法、移動方法ですが、メイアさんがあの魔獣に転移先を見透かされているように、移動のクセを掴めば転移先を絞ることができます。姉さんもあの魔獣の移動先を読んで攻撃している筈。実際、幾つか当たる筈の攻撃がありました」
「でも、全部避けられてるわ。……あ! だから未来予知ね?」
「そうです。恐らく《神降ろし》の使用者には、通常の魔法攻撃がとても遅く見えているのでしょう。それゆえ、どこに、いつ、どういう軌道で、魔法弾が通過するのかが、見えている。因果の先が見えているのです。だから、普通だったら当たる筈の絶好機に放たれた魔法攻撃も、その場で躱せる。神霊魔法の使い手を倒すのに、神霊魔法の使い手を当てるのも道理。同じ領域、同じ時空間に身を置く者の方が、攻撃は当てやすく防御もしやすいですからね? 《戦神》を使った命彦さんが、眷霊種魔獣と戦えるのも……」
「魔力物質の外骨格で全身を覆うことで、疑似的に世界の外に出てるから。神霊魔法の使い手と同じ景色が見えているから、ということね?」
「ええ。この場に〔占星術師〕学科の魔法士がいれば、神霊魔法の使い手同士の戦闘のように、未来予測を未来予測で相殺し、因果律に干渉することでこちらも攻撃が可能ですが、軍の最重要機密であり、国の宝とも言うべき者達を戦場へ呼ぶことはできません。したがって、このままではメイアさんに勝機はありません」
「くっ! どうにかしてメイアの援護をしたいのに!」
「下手に手を出せば、メイアさんの邪魔をするだけです。勇子さんと空太さんにも、きっちり言い含めるべきでしょう」
「……分かったわ」
 梢が、〔採集士〕学科の魔法士達による思念伝達網を使い、勇子と空太に思念で注意すると、梢がうるさそうに頭を頭を押さえた。
 反論する勇子達の思念を説得しつつ、梢はとりあえず魔獣を減らそうと、部隊の指揮を続けた。

「はあ、はあ、はあ……くうっ!」
 上空で戦うメイアは瞬時にそれを察した。サラピネスと自分との実力差を。
 しかし、それでも攻撃し続け、逃げ続けた。自分が攻撃し続ける限り、サラピネスの攻撃は自分を狙う。
 100の攻撃のうち、80でもメイアの方に引き付けられれば、被害は減る。
 それゆえにメイアは戦い続けた。雷を、炎を、風を、重力を、あらゆる現象を魔法で再現し、攻撃を続ける。
 接近戦に持ち込まれた時は、魔力物質製の剣を作り、脳裏に命彦の動きを思い浮かべて果敢に応戦した。
「けりゃあっ!」
 自分でも夢かと思うほど、想像通りに体が動き、剣閃がサラピネスの打撃を捌く。 
『どこかでみた動きをする』
「それはどうも! はあっ!」
 剣閃でサラピネスを弾き飛ばし、神霊攻撃魔法の撃ち合いに持って行く。  
 どうにか今は凌げているが、メイアはひしひしと感じていた。手加減されていることを。
『良い動きだ。そら、これはどうだ!』
 サラピネスは終始ご機嫌で笑っており、神霊攻撃魔法で作り出した、戦槌の如き下降気流をメイアに叩き付けた。
「こんのおっ!」
 下で戦う魔法士達を気にしたメイアは、ゴオッと迫る空気の壁を、神霊結界魔法で必死に受け止め、地面へ叩き落とされるのをギリギリで堪えて、下降気流を打ち破ると同時に、水平に走る雷撃を放った。
 サラピネスが雷撃を叩き落し、メイアに迫る。
 サラピネスは少しずつ攻撃の手をきつくした。メイアの実力を計りつつ、いたぶり、弱らせるように攻撃する。
 時折、下から自分を目がけて攻撃魔法が飛んで来るが、歯牙にもかけず、メイアと対峙するサラピネス。
 その表情は、その場にいる者全てを嘲笑うようであり、また純真無垢に楽しそうでもあり、そして、子供が地を這う虫を突いて遊んでいるようでもあった。
 メイアは、そのサラピネスへ果敢に挑む。
 瞬間移動で突然眼前に出現したサラピネスの拳を、剣で受けると同時に自分も瞬間移動して、頭上に移動すると、即座に魔法弾の雨を降らせる。
 虫扱いで良かった。手加減されてて良かった。メイアの狙いは時間稼ぎである。
 サラピネスが遊ぶほど、メイアには戦闘情報が蓄積され、対応策が練れる。命彦が現れるまで時間が稼げた。
 しかし、終わりは気まぐれに訪れる。
 メイアの魔法弾を弾き落としつつ、突然サラピネスが連続で瞬間移動した。
 右へ左へ移動した後、メイアの背後に出現したサラピネス。
 自分の背後に出現するサラピネスの動きを読んでいたメイアが、魔力物質製の剣を振り返り様に振るうも空を切り、虚撃フェイントであることに気付いたメイアが、咄嗟に瞬間移動で右へ飛んだ。
 それが命取りであった。転移先を読まれ、待ち構えていたサラピネスの拳がメイアの顔へと迫る。
『ハハハハ! 喰らえいっ!』
 咄嗟に剣で防御するメイアだが、打撃の重みは凄まじく、魔力物質製の剣は砕けて、メイアは地上へ叩き落された。
 メイアが地面に叩き付けられる寸前に見たのは、サラピネスの拳であった。
 メイアが地面を落ちる前に地表へ転移していたサラピネスが、メイアへ神霊魔法力場を集束した拳を振る。
 咄嗟に展開したメイアの神霊結界魔法を叩き割るように、サラピネスの拳がメイアの胴体を突き上げた。
「ぐはあっ!」
 神霊魔法力場を展開している上から、恐ろしい衝撃が全身へと走り、一瞬意識が飛びかける。
 上空へ突き上げられたメイアの首と胴体を、先回りで空間転移していたサラピネスの3本の腕が捕まえた。 
『そろそろ逃げ回るのも終わりにせよ、小娘』
 万力のようにメイアの身体を、サラピネスのおおきく太過ぎる手が締め上げる。
「うあああぁぁぁーっ!」
 メイアの苦痛の叫びが上空に木霊した。
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