49 / 50
第三部
結婚式、その後に1
しおりを挟む教会で式を挙げた後、一同はロイド伯爵家の屋敷に戻り、庭園に設けられたガーデンパーティに向かった。天気も良く、国の北側ということもあって夏であっても正装でも暑くないロイド伯爵家だからこそ出来るガーデンパーティである。リオ達は一度部屋で休んでから全員が会場に到着した知らせを聞いて会場入りしたので、会場に着くと新郎新婦以外のすべての参加者が揃っていた。ぐるりと見回してもモーグ子爵夫人はいなかったので、結婚式が終わった後パーティを辞して騎士団の付き添いの元、既に王都へと向かったのだろう。
グラスを渡されてすぐに、お色直しをした新郎新婦が会場に現れて口上を述べた。レイモンドはさらりと騒動に触れはしたが、それを厄落としととらえ、全体の笑いを誘い、そして、パーティは始まったのであった。
「騒がせてしまって申し訳ございませんでした」
主賓であるリオ達の元へ新郎新婦は真っ先に向かってきた。そして最初に頭を下げたのは新婦のシェリーであった。
「シェリー姉様は何も悪くありませんよ。お顔をあげてください。お式中に何事もなくて本当によかったです。ハラハラするより始まる前に事が済んだので、心置きなくお二人をお祝いすることが出来ました。セシリア様もシェリー姉様とお話したくて待っていたんですよ」
せっかく綺麗なドレスを着て晴れの日なのだ。前を向いて幸せであってほしい。そんな思いを込めてリオが告げてようやくシェリーが顔をあげてくれた。
「リオ様……ありがとうございます……!!」
「シェリーお姉様!! この度は本当におめでとうございます。無事この佳き日を迎えられて本当によかったですわ。教会でのウエディングドレスのお姉様、本当に素敵でしたわ……!! モーリスに無理を言ってついてきた甲斐がございました」
「……ありがとう、セシリア!! 本当にどうなることかと思ったけど、無事結婚式が出来て本当によかったわ……」
シェリーの顔に笑顔が戻り、セシリアと話し始めたのを確認して、いろいろと話しているレイモンドたちへと向き直る。
「レイモンド兄様、ご結婚おめでとうございます」
「リオ、本当にありがとうな。あの場を収めてくれて。パトリックがご機嫌で報告してくれたよ」
「始まる前に全部終わって本当によかったです。誰も傷つかず、良くない人たちは捕まりましたし」
「レイモンド様にも見せたかったですよ、リオ様の雄姿」
教会での正装に更に飾りをつけた華やかな服を着たレイモンドはフレドリックの言葉に残念そうに眉を下げる。
「そればかりは残念だった。――皆さん、どうぞパーティを楽しんでほしい。うちの者たちがこの日の為に頑張ったんだ」
後ろにいた侍従に促され、レイモンドは話足りないそぶりを見せながら他の客を待たせるわけにもいかず、名残惜し気にシェリーを連れて他の招待客へ向かっていった。まだ数日滞在する予定なので、ゆっくりと話す機会もあるだろう。
四人で伯爵家のガーデンパーティの食事を楽しんでいると新郎新婦と挨拶を終えた招待客がちらほらとフレドリックたちに挨拶に来た。最初の方はリオの存在を知っている上位貴族たちだったせいか、リオの顔を見て涙ぐんで手を握る高齢の者もいたし、リオの両親や亡きカレッジ子爵と懇意にしていた人たちが思い出を語ることも多かった。総じて賢い人たちばかりなので、皆一様に他人の空似であるリオに親しかった亡き夫妻や子爵の思い出を語るという体裁をとっていたのが見事であった。横にいたフレドリックもその巧みな大人たちの話術に苦笑していたくらいだ。そして、エスコートしているのがフレドリックだからか、そういう人たちはみんな最後にフレドリックにリオのことを頼むと声をかけていたのが印象的だった。まだリオが未成年だから、皆心配してくれるのだろう。
後半になるとリオの正体がわからないながらも騎士が護衛についているので無難な態度を取りつつ、フレドリックやモーリス、セシリアに挨拶していく人たちが多かった。流石にモーグ子爵親子の暴挙を見た後ではリオを貶める発言をする人たちはほぼいなかった。平民だからリオのことをいないことのように振舞う人たちは何人かいたけれど、いっそ話しかけられない方が楽なのでリオとしては全く問題なかった。そういう招待客の名前だけはミックがチェックしてくれていたのであとで王宮に上げるだけである。社交の場で平民だから無視するというのはこの国の貴族の振る舞いとしては失格である。なによりリオはフレドリックのパートナーとして来ているのだ。
しかし、挨拶をしに来る客も後半になると遠回しにリオのことを相応しくないように言ったり、自分の親類を勧めるような発言が増えてきていた。そんな中で、一番直接的に言ったのが、ロイド伯爵家の招待客の一人であった。
「いやぁ、フレドリック様が公爵家をお継ぎになるとは。どうですか? 王都のパーティでのパートナーに我が娘などは。どこぞの馬の骨よりは花の方がよっぽどいいかと」
リオを一瞥してからそんなことを言い始めた男にリオの後ろにいた騎士たちの空気が変わるのが分かった。今までの招待客が貴族的に遠回しだったので見逃されていたが、この言葉はかなり直接的で、貴族的にマナー違反な発言であった。それを聞いていたパートナー代わりの娘らしい女性の顔が怒りに染まったのが印象的だった。
護衛やリオのことを知っている上位貴族、そして何より近くで歓談していたロイド伯爵がピキリと動きを止めているのがわかる。この空気に気づかないなんてどれだけ空気が読めないんだろうとリオが考えていたら隣から低い声が発せられる。
「笑えない冗談はやめてもらおうか」
フレドリックの顔から笑みが消えていた。その言葉を合図に騎士の一人がリオの前へと出る。続けてフレドリックが言葉を重ねようとしたところで、ざわり、と人が動いた。
「……ドネリー伯爵。我が伯爵家の主賓の一人であり、ウォルターズ公爵令息の正式なパートナーであるリオ様に失礼な物言いはやめてもらおう」
招待客が開けた道を来たロイド伯爵が、真顔で迫る。ドネリー伯爵、と名前を聞いたが、はて、とリオが首を傾げていたら後ろにいたミックが周りに聞こえないように耳打ちで教えてくれた。
「ロイド伯爵領に隣接するドネリー伯爵領の当主です。貪欲な野心家で有名ですが、ロイド伯爵とは仲が良くなかったかと」
領地が隣り合っているから招待せざるをえなかったパターンなのだろう。リオも伯父様も苦労するなぁと事を見守る。当のドネリー伯爵が意味が解らないとばかりに眉をひそめていた。なんでわからないのだろう。
護衛が殺気立ち、ロイド伯爵が行動に出ようとした直前、バコーンと伯爵の頭を誰かが殴った。とても良い音がしたし、事を見守っていて静まり返っていた会場にとてもよく響いた。
隣にいた娘が持っていた扇子で父を殴ったのである。それを見たロイド伯爵も思わずぴたりと動きを止めた。
痛みに耐えかねて座り込んだ父親が抗議しようと顔をあげて固まる。娘がものすごい形相だったからである。
「父上、彼に近衛騎士が護衛についている意味をなぜ理解してくれないのですか」
静かに、けれども怒りを滲ませた声で娘が告げるとドネリー伯爵は目を見開いた。
「はっ!? ウォルターズ公爵家についていた護衛では!?」
「護衛についているのは王都の騎士団で護衛しているのはそちらのリオ様にです!! 王宮が護衛をつけるやんごとなきお方をどこの馬の骨などと……!!」
怒りが抑えられなかった娘がもう一度パコーンと伯爵を殴るのを、思わずロイド伯爵が止めていた。
「――これ以上父が失礼な真似をする前に失礼させていただきます。せっかくお招きいただいたのに申し訳ございません」
112
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
男前受け
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる