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第5話 釣りと家族
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「よっ……っと……」
ユゼルが大岩をどかすと目的のぶつが目に入る。
「いるわいるわ、うぉー気持ちわるっ」
見たことのあるような虫や見たことのないような虫。
それを避けるように二本の棒でいじり、みみずのような虫を引っ張り出した。
みみず……に見えるが小さな牙のような物が生えている。
これが本当に餌になるのかどうか……そんなことを考えながらナイフで牙を切り落とし針先へとひっかけた。
「仕事仕事で釣りなんて子供の頃にして以来だな……っよっと」
池に糸を垂らしてみたが、当然簡単に釣れるはずがない。
ユゼルはしばらく揺らしたり移動したりしていたようだったが、それでもまったく釣れる気配はなかった。
そのためか一度釣竿を固定して火を起こすための道具を作ることにしたようだ。
日本にいるときサバイバルのやり方なんかで見た知識を引っ張り出して必要物を構築していく。
棒と先ほどの繊維の余りと燃えやすい綿のような素材。
『火起こし器』
原始的な火を火種を作る道具。大変手間がかかる。
「よしよし! 手間とか別に構わん……だが、燃やすものがいるな。ん、そうだ、さっきたくさん落ちていたドングリみたいな木の実を……」
木の実を集めて殻を割って中身を取り出して加工を行う。
本来ならばすり潰すための道具や絞るための道具などが必要になるはずだが、石だけで簡単にそれを行うことができるようだ。
『ココの実の胚珠油』
食用には出来ないが燃焼作用を高める。
食べれないことに少しがっかりした様子を見せていたが、狙い通り燃料になるということは分かった。
集めた落ち葉や細い枝に胚珠油をかけて準備完了したようだ。
額に汗しながら必死で火を起こす。
ゆっくりと黒煙が立ち上り綿(実は虫の繭なのだがユゼルはそれを知らない)にオレンジ色の光が輝く。
残念ながらこれでスキルを取得するようなことはなかったが、無事に火種を使用し焚火を作ることができたようだ。
ホッと一息ついていると、先ほど仕掛けていた釣り竿がぐぐっと動いているのが目に留まる。
「おおっ! きてる! ばらさないように……」
針には返しがついていないので油断すると引っかかっていた魚が抜けてしまう。
慎重に魚を取りこみ釣り上げると、それはマスのような見た目の魚だった。
陽光を銀色の鱗が集めて照り返す。
「おっしゃ!」
『釣りスキルを習得しました』
魚を用意していた串(加工済み)に刺し遠火に当てる。
と、だんだんと日が落ちかけていることに気付く。
上に登るどころかまだその道具に手をかけてすらいない。
本当はここで夜を過ごすのは嫌だったようだが、どうしようもないのでこの場で夜を過ごすことに決めたようだ。
辺りを見回してみても洞窟なんかはない。
グラディールにこの場所から動くなと言われたわけではなかったが、なぜかここから動きたくはなかった。
ならばなんとかするしかない。
青銅の短剣を握りしめると大木にそれを当てながら採集を試みる。
するとべリッと剥がれてくる木の皮。
疲れないし大きく削り取ることができるので非常に便利だと考えているようだ。
同じことを繰り返し落ちている枝も拾い集める。
『採集のスキルLvが3に上昇』
『採集のスキルLvが4に上昇』
こうして集まったのは大量の木の皮、長めの枝も大量に、そしておおきな緑の葉だ。
アイテムボックスに収納しているので持ち運びは楽。
切り立った崖までやってくるとそれらを全て取り出して加工を行った。
はっきり言ってお粗末だと言えるが、雨露くらいはしのげそうな場所が完成した。
天井と地面に葉っぱを敷いて完成のようだ。
『加工のスキルLvが5に上昇』
焼いていた魚からパチパチと脂が弾け、香ばしい匂いが食欲をそそったのかユゼルの腹の虫が鳴る。
いてもたってもいられなくなりできあがった焼き魚にかぶりつくと、単純で塩味もないながらそのうまさに涙がこぼれそうになった。
「うま……。なんだこれ、味が……って意味じゃない。苦労したからってことか」
はぐはぐと魚を咀嚼し辺りを見回すと小さく息をつく。
なんでこんなサバイバルやることになってるんだろうな、と。
「会社のやつらは……部長がいなくなって伸び伸びやってるかね」
ユゼルの両親は子供の頃に離婚してしまい、父方に妹が、母方にユゼルが引き取られシングルマザーとして育てられた。
順風満帆、だったらよかったのだが、母親はユゼルが大学卒業すると同時に男を作って出て行ってしまう。
苦労、本当に苦労の人生。
だから家族の事は基本的に頭には浮かばない。
ただ離れてしまった父親と妹のこと以外は。
「まー何年もあってないけどな。この前結婚するって電話で幸せそうに言ってたっけ……」
会ってはいないが仲が悪いわけじゃなかった。時々連絡を取り合うくらいの関係。
それは父親も同じ。もうすっかり老け込んでしまったようだが子供にとって離婚しようが何しようが親は親。
母親がいなくなって父親と妹のところに戻るという選択肢もあった。
だがそれは選ばなかった。
別に離れていたって縁が切れるわけじゃない。だから、自分の力で頑張ると決めてやってきていたのだ。
「それが、こんな感じになっちまうなんてな」
ゴロンと草の上に転がるとポツポツと星が見えた。
地球から見るものと変わらない星。ただ、月だけはどこを探しても見つけることはできない。知っている星座を見つけることもできない。
それを見て異世界に来てしまったんだなと改めて実感する。
ユゼルはアイテムボックスを開き森を歩いていた時に見つけたホロの実というものを取り出す。
『ホロの実』
食用可能。水分含有量が多く疲労回復効果を持つ。
喉が渇いたために水分補給ということのようだ。
「自由、自由ね。といっても自由すぎるかな。缶詰のような会社勤めよりこっちのほうがいいもんかね?」
誰が聞いているわけでもないが一人呟き自問自答。
「苦労には慣れてる。イージーモードっぽいし……頑張るか―」
ユゼルは起き上がってぐぐっと伸びをすると、先ほど作り上げた寝床に潜り込み夜を明かした。
ユゼルが大岩をどかすと目的のぶつが目に入る。
「いるわいるわ、うぉー気持ちわるっ」
見たことのあるような虫や見たことのないような虫。
それを避けるように二本の棒でいじり、みみずのような虫を引っ張り出した。
みみず……に見えるが小さな牙のような物が生えている。
これが本当に餌になるのかどうか……そんなことを考えながらナイフで牙を切り落とし針先へとひっかけた。
「仕事仕事で釣りなんて子供の頃にして以来だな……っよっと」
池に糸を垂らしてみたが、当然簡単に釣れるはずがない。
ユゼルはしばらく揺らしたり移動したりしていたようだったが、それでもまったく釣れる気配はなかった。
そのためか一度釣竿を固定して火を起こすための道具を作ることにしたようだ。
日本にいるときサバイバルのやり方なんかで見た知識を引っ張り出して必要物を構築していく。
棒と先ほどの繊維の余りと燃えやすい綿のような素材。
『火起こし器』
原始的な火を火種を作る道具。大変手間がかかる。
「よしよし! 手間とか別に構わん……だが、燃やすものがいるな。ん、そうだ、さっきたくさん落ちていたドングリみたいな木の実を……」
木の実を集めて殻を割って中身を取り出して加工を行う。
本来ならばすり潰すための道具や絞るための道具などが必要になるはずだが、石だけで簡単にそれを行うことができるようだ。
『ココの実の胚珠油』
食用には出来ないが燃焼作用を高める。
食べれないことに少しがっかりした様子を見せていたが、狙い通り燃料になるということは分かった。
集めた落ち葉や細い枝に胚珠油をかけて準備完了したようだ。
額に汗しながら必死で火を起こす。
ゆっくりと黒煙が立ち上り綿(実は虫の繭なのだがユゼルはそれを知らない)にオレンジ色の光が輝く。
残念ながらこれでスキルを取得するようなことはなかったが、無事に火種を使用し焚火を作ることができたようだ。
ホッと一息ついていると、先ほど仕掛けていた釣り竿がぐぐっと動いているのが目に留まる。
「おおっ! きてる! ばらさないように……」
針には返しがついていないので油断すると引っかかっていた魚が抜けてしまう。
慎重に魚を取りこみ釣り上げると、それはマスのような見た目の魚だった。
陽光を銀色の鱗が集めて照り返す。
「おっしゃ!」
『釣りスキルを習得しました』
魚を用意していた串(加工済み)に刺し遠火に当てる。
と、だんだんと日が落ちかけていることに気付く。
上に登るどころかまだその道具に手をかけてすらいない。
本当はここで夜を過ごすのは嫌だったようだが、どうしようもないのでこの場で夜を過ごすことに決めたようだ。
辺りを見回してみても洞窟なんかはない。
グラディールにこの場所から動くなと言われたわけではなかったが、なぜかここから動きたくはなかった。
ならばなんとかするしかない。
青銅の短剣を握りしめると大木にそれを当てながら採集を試みる。
するとべリッと剥がれてくる木の皮。
疲れないし大きく削り取ることができるので非常に便利だと考えているようだ。
同じことを繰り返し落ちている枝も拾い集める。
『採集のスキルLvが3に上昇』
『採集のスキルLvが4に上昇』
こうして集まったのは大量の木の皮、長めの枝も大量に、そしておおきな緑の葉だ。
アイテムボックスに収納しているので持ち運びは楽。
切り立った崖までやってくるとそれらを全て取り出して加工を行った。
はっきり言ってお粗末だと言えるが、雨露くらいはしのげそうな場所が完成した。
天井と地面に葉っぱを敷いて完成のようだ。
『加工のスキルLvが5に上昇』
焼いていた魚からパチパチと脂が弾け、香ばしい匂いが食欲をそそったのかユゼルの腹の虫が鳴る。
いてもたってもいられなくなりできあがった焼き魚にかぶりつくと、単純で塩味もないながらそのうまさに涙がこぼれそうになった。
「うま……。なんだこれ、味が……って意味じゃない。苦労したからってことか」
はぐはぐと魚を咀嚼し辺りを見回すと小さく息をつく。
なんでこんなサバイバルやることになってるんだろうな、と。
「会社のやつらは……部長がいなくなって伸び伸びやってるかね」
ユゼルの両親は子供の頃に離婚してしまい、父方に妹が、母方にユゼルが引き取られシングルマザーとして育てられた。
順風満帆、だったらよかったのだが、母親はユゼルが大学卒業すると同時に男を作って出て行ってしまう。
苦労、本当に苦労の人生。
だから家族の事は基本的に頭には浮かばない。
ただ離れてしまった父親と妹のこと以外は。
「まー何年もあってないけどな。この前結婚するって電話で幸せそうに言ってたっけ……」
会ってはいないが仲が悪いわけじゃなかった。時々連絡を取り合うくらいの関係。
それは父親も同じ。もうすっかり老け込んでしまったようだが子供にとって離婚しようが何しようが親は親。
母親がいなくなって父親と妹のところに戻るという選択肢もあった。
だがそれは選ばなかった。
別に離れていたって縁が切れるわけじゃない。だから、自分の力で頑張ると決めてやってきていたのだ。
「それが、こんな感じになっちまうなんてな」
ゴロンと草の上に転がるとポツポツと星が見えた。
地球から見るものと変わらない星。ただ、月だけはどこを探しても見つけることはできない。知っている星座を見つけることもできない。
それを見て異世界に来てしまったんだなと改めて実感する。
ユゼルはアイテムボックスを開き森を歩いていた時に見つけたホロの実というものを取り出す。
『ホロの実』
食用可能。水分含有量が多く疲労回復効果を持つ。
喉が渇いたために水分補給ということのようだ。
「自由、自由ね。といっても自由すぎるかな。缶詰のような会社勤めよりこっちのほうがいいもんかね?」
誰が聞いているわけでもないが一人呟き自問自答。
「苦労には慣れてる。イージーモードっぽいし……頑張るか―」
ユゼルは起き上がってぐぐっと伸びをすると、先ほど作り上げた寝床に潜り込み夜を明かした。
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