王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

こたつぬこ

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「エト、もういいわよ! 見てられないわ! やり返してもいいんだから!」

「アリゼの言うとおりです! これ以上は見てられません!」

 顔に向かってくる拳を避け二人を見ると、ぽろぽろと涙を流していた。
 怒りや悲しみよりも悔しいという感情に顔を染め、俺がなぜ黙って殴られているかを理解し我慢して見つめる。
 だが俺は首を振った。
 ここで手を出しては折角我慢した意味がなくなってしまうのだから。

 男たちは俺を地べたに這いつくばらせようと必死なのだろう。
 主君の前でその望みを十全に果たしたいという気持ち。
 にもかかわらず、俺のスペックが髙いことによりそれが叶わないためさらに熱を高めていく。

 当然痛い。俺は顔以外への攻撃は手でガードすらしていない。

「あーもう! お前ら、何やってんだよ! さっさとそのぐずが這いつくばるとこを見せてくれよ!」

「で、ですが……」

 ここに至ってようやくおかしいと思い始めたのか、二人の顔に不安が浮かぶ。
 当たり前といえば当たり前の話。
 俺は顔に向かって飛んで来る拳だけは、容易く避けるか受け止めているのだから。

「お前らの腰に刺さってる剣は飾りなのか!? サクッと足でも切ってやればいいんだよ!」

 流石にその言葉は聞き過ごせないのか、見物人からざわつきが溢れる。
 ピローヌは慌ててそれに訂正を入れた。

「あ、いや、切るのは駄目だ。だが、脅しくらいには使えるだろ!」

 ローゼンストーンの国法では人を殺めたり傷つけることは禁止されている。
 警邏隊という警察のような組織も存在しているし、無茶苦茶やれば当然捕まる。
 とはいえ日本のように厳しいものではない。剣を抜けば銃刀法違反になるといったことはないのだ。

 男たちが剣を抜き取ったところで、アリゼとエリーゼが俺の横に並んだ。

「これ以上は見過ごせませんわ! そこから一歩でも近付いたらぶっとばしますわよ!」

「ええ。これは街で絡んだというレベルを逸脱しています!」

 それでも男たちは俺たちに近付いてきた。
 窮鼠猫を噛む。追い詰められたネズミは何をしでかすか分からないし、二人が魔法を使うのも避けたかった。
 振り上げられる剣、二人から急速に膨らむ魔法の気配。
 俺はここまで我慢してきたことを歯噛みしながら、両手の掌に風属性の力を展開し、瞬時に剣を振り上げる男たちと距離を詰めた。

 男たちの腹に掌打を打ち込みながら、ゼロ距離で魔法を発動させる。
 着ていた鎧にひびが入り、男たちの身体に衝撃が伝わっていく。
 体が浮き上がり10メートル程吹き飛ぶと、倒れてピクリとも動かなくなった。

 俺の脳裏に、やり過ぎた、の文字が浮かぶ。
 けれどこうするのが最善だったとも感じていた。

 ピローヌがその光景を見て驚き、捨て台詞を残して一人逃げ去って行く。

「ば、化け物が! そのきもい容姿はそれを隠すために! お、おぼえてやがれよぉぉぉ!」

 何だか面倒なことになっていきそうな気がして、今度こそ本当にため息をついた。
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